「会議やプレゼンで積極的に発言できるようになりたい」「発言に自信を持てるようになりたい」。そんな悩みを抱えるビジネスパーソンへ、発言力を高めるためのコツやノウハウについて、企業を対象としたビジネススキル研修を手がける株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表の高田貴久さんに話を伺いました。
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ビジネスの場で求められる「発言力」の重要性
会議の場でうまく発言ができなかったり、プレゼンテーションで場を盛り上げられなかったり…。自分の発言力のなさに悩むビジネスパーソンは少なくないでしょう。そもそも、ビジネスの場において、「発言力」を持つことはどんなメリットをもたらすのでしょうか。
短期的には、以下のような視点が挙げられます。
- 会議や商談の場で相手を納得させられる
- セミナーなどのプレゼンテーションで聴衆者を惹きこむ
- 職場での人間関係に良い効果をもたらすことがある
さらに中長期的に見ていくと、発言力があることで「周りから頼りにされる」ようになり、あの人に任せたいという信頼感から「よい仕事が舞い込む」ようになっていきます。仕事で成果を出すとさらに周りから頼りにされるという「好循環」が生まれ、ひいては「自己成長」に大きくつながっていくでしょう。
私も今でこそ、プレゼンテーションスキルに関する講演をさせていただくなど、“発言力”を高めるコツやノウハウについてお話する機会が多々あります。しかし駆け出しのコンサルタントだった頃は、積極的に発言できるスキルを全く持っていませんでした。
会議に参加してもお客様から目を見てもらえず、意見を求められることすらなく、“スルーされている”状況でした。若手だったので仕方がないかなと思っていたら、上司から「何も発言しないのなら、この場にいないのと同じだよ」と言われてしまったこともあります。
そこで、なんとか機会を見計らって発言をし始めたのですが、「今はその話をしているのではない」「もう少し端的に話せないかな」などと言われてしまう始末…。場にそぐわない話をしてしまったり、しゃべりすぎてしまったりと、まったくうまくいきませんでした。
上司に相談すると「適切なことを、適切なだけ、話せばいいんだよ」とアドバイスをもらいましたが、その“適切”が分からないから苦労しているんじゃないかとショックを受けたことを覚えています。
その後、さまざまな経験を経てビジネスの場における“適切”を捉えられるようになり、今に至ります。今回はそうした経験をもとに、ビジネスの場に則した適切な発言力を鍛えるコツやノウハウを、皆様にお伝えしたいと思っています。
会議で発言力を高めるための方法
会議で発言力を高めるために大切なポイントは、「論点を把握すること」と「会議設計を理解すること」です。では、それぞれの理解を深めるにはどうすればいいのかを考えていきましょう。
相手を知る
論点を把握するための大前提として、相手を知ることは欠かせません。「適切な内容を適切な分量だけ話す」には、相手にとっての適切とは何かを知る必要があります。
例えば、会議に出ているメンバーは、どの部署のどんな役割を担っている人で、会議で話される内容についてどこまで詳しく知っているのか。そうした情報が分からなければ、相手がすでに知っている内容を長々と説明してしまったり、逆に説明をすっ飛ばして相手から不親切に思われてしまったりするでしょう。
初対面のお客様との会議や商談の場であれば、事前にネットニュースなどで情報を仕入れておいたり、企業情報を読み込んだりなどの下調べも大切です。しっかり調べて会うだけで、必要以上に緊張することなく発言しやすくなるはずです。
複数の論点を準備する
発言力を高めるには、論理的に話す力が大事だと思われがちです。もちろん、論理立てて伝えることで分かりやすさは増しますが、相手が関心を持っていないこと、聞いてもいないことをいくら論理的に話しても、その中身は届きません。
大事なのは、相手が何を求めているか、何を知りたいかについて複数の論点を事前に洗い出しておき、相手の反応を見ながら、どの論点について話をすべきかを柔軟に取捨選択していくことです。
会議の目的を理解する
会議の目的が分かっていなければ、発言量をいくら増やしても、適切な内容になりません。会議に参加する前には、「今日の会議では、何をどこまで決めるのか」を理解しておく必要があります。
会議の目的には、「報告」「議論」「承認」の大きく3つがあります。例えば、会議のテーマが“社員合宿”だとします。
目的が「報告」であれば、「〇月◯日に社員合宿を行います。場所と内容はこれから考えます。」となります。目的が「議論」ならば、「社員合宿を、どこで、どんな内容でやるのがいいのか、アイデアを出し合っていきたい」となります。目的が「承認」であれば、「今日は、前回上がった場所・内容の候補から、具体的なプログラムを確定させたい」となります。
「報告」の会議は聞くだけでよく、議論したり決めたりする必要はありません。「議論」の会議は決める必要はありませんが、しっかりと関係者で話を尽くす必要があり、「承認」の会議は、情報が不足していようが時間がなかろうが、きちんと決めきる必要があります。
自分が参加する会議は、3つのうちどこに該当するのかを把握することで、発言内容はより的確になっていくはずです。
会議のイン・アウトを準備する
仕事において、「準備が大切」とよく言われます。会議の発言力を高める上でも「段取り八分」、すなわち段取りの良し悪しで結果は大きく異なります。今日の会議では何をゴールにどこまで話すか、段取りをきちんと整えることは欠かせません。
段取りを立てる上でおすすめなのは「イン・アウト」を決めておくことです。会議や商談などの場で、「何を持っていき(イン)、何を持って帰るのか(アウト)」を決めていれば、何の準備もなく“丸腰”で会議に出たり、お客様先に向かったりすることはなくなるでしょう。
例えば営業先への訪問で、「お客様の困りごとや課題を聞いてくる」のか、「発注いただけるかどうかの結論を聞いてくる」のか、アウトをどこに設定するかによって、インとして何を持って行くかは大きく変わってきます。
セミナーなど大人数を前にした場でも同じです。セミナーの成果を「自社のブランドイメージの向上」とするのなら、しっかりと時間をかけて自社の強みをアピールするようなプレゼン資料の準備が必要でしょう。また、「多くの方と交流する」を成果とするなら、会社説明のプレゼン内容は短くしてコミュニケーションの機会が多くとれるような場を準備するでしょう。
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プレゼンテーションで発言力を高めるために
プレゼンテーションの目的は、納得させ、相手に行動してもらうことにあります。ただ、プレゼンを聞く相手が、その内容に興味を持ってくれているとは限りません。
聞く準備ができていない人へプレゼンしなければいけないシーンでは、ビジネスにおいては日常茶飯事。では、どのようにアプローチをするといいのでしょう。
興味を引き、議論で巻き込む
「講演やセミナーを頼まれて行ったけれど、参加者はあまり関心がなさそう」「人に紹介されて新規顧客先に営業に行ったけれど、担当者に購入意欲はまったくなさそう」など、いかにも“相手から受け入れられていない”状況に遭遇する。そんな経験をしたビジネスパーソンは少なくないと思います。
私も、自社サービスを売り込むために営業に行ったものの、まったく聞く耳を持たれない経験を何度もしてきました。
そんな状況では、プレゼンで納得・行動させる前に、まずは「興味を引く」ことが大切です。興味を引くためには、まず以下のような準備を行いましょう。
- 相手のことを調べる過程で、自分と相手との接点を探っておく
- 相手が持っている課題感、困りごとなどの仮説を複数立てておく
相手の反応を見ながらボールを投げていくことが大事です。そして、少し関心を持ってくれたら、相手に質問を投げかけて意見を引き出し、「議論に巻き込んで」いくのです。
相手が答えられるオープンクエスチョンを投げる
相手に質問をするときは、例えば「どんなサービスを利用したいですか?」といったような、話が広がりやすいオープンクエスチョンを投げ、徐々に焦点を絞っていきます。オープンクエスチョンとは、英語の5W1H(何が、いつ、どこで、誰が、なぜ、どうして)で答えられるような質問を指します。
最初から、「当社の◯◯というサービスの導入に興味はありますか?」といったような、YES/NOで答えるクローズドクエスチョンを投げてしまうと、会話が深まらず、相手の思いや真意を引き出すことができません。どんな質問をしていくかも、準備段階でシミュレーションしておくことが大切です。
ビジネスの場で発言力を高めたい若手ビジネスパーソンへ
発言力の乏しかったコンサルタント時代に、私が上司から言われて大事にしている考え方があります。それが、「クライアント・インターフェース(顧客接点)を取れ」ということです。
顧客接点を増やすためには、お客様との連絡係や調整係といった、地味で面倒くさい役回りに自ら買って出ることが大切です。社内プロジェクトであれば、事務局の仕事を積極的に買って出ると良いでしょう。
これらは雑用的な小さな仕事だと思うかもしれませんが、丁寧に進めていれば頼られるようになり、人脈が広がり、社内外のさまざまな情報が入ってくるようになります。信頼してくれるお客様や仲間ができることで自信が生まれ、ゆくゆくは、発言力が増すことにつながるのです。
発言力がつかないと悩んでいる方は、一見遠回りに見える、そんなやり方で仕事の幅を広げていくのもいいかもしれません。
株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
グローバルCEO・代表取締役社長 高田 貴久(たかだ・たかひさ)氏
東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業、シンガポール国立大学Executive MBA修了。戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトルでプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当に携わる。マブチモーターで社長付・事業基盤改革推進本部長補佐として、改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にプレセナ・ストラテジック・パートナーズを設立。トヨタ自動車、イオン、パナソニックなど多くのリーディングカンパニーでの人材育成を手掛けている。著書に『ロジカル・プレゼンテーション』『問題解決―あらゆる課題を突破するビジネスパーソン必須の仕事術』がある。
▶プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 公式サイト