三井物産は“世界最大級”鉱山に出資…大手商社、鉄鉱石開発を活発化する狙い
経済成長と環境対応両立
大手商社が鉄鉱石の鉱山開発への投資を活発化している。三井物産が未開発鉄鉱床で世界最大級の豪州の鉄鉱石鉱山に出資するほか、双日はカナダで低炭素に寄与する高品位鉱の鉱山開発に参画する。足元では中国経済の失速で鉄鉱石市況が悪化しているが、インドなど新興国の旺盛な需要によって長期的に粗鋼消費量は拡大する見通し。経済成長と環境対応を両立させる資源供給を通じ、収益基盤の底上げを狙う。(編集委員・田中明夫)

三井物産は豪州の鉄鉱石鉱山ローズリッジの開発事業に53億4200万ドル(約8000億円)を投じて40%の権益を取得する。同鉱山の資源量は68億トンで、2030年までに生産開始を予定する。
三井物産の持ち分生産量は初期段階で年間約1600万トンを見込むほか、基礎営業キャッシュフロー(CF)は年間1000億円程度と25年3月期の同社全体の計画値の1割に相当する。さらに50年までにはそれぞれ同4000万トン以上、同2500億円程度への拡大を想定し、「長期的な収益基盤のさらなる強化・拡大につながる」(堀健一社長)とみる。
産出した鉄鉱石は50%の権益を持つ英豪資源大手リオ・ティントと連携し、日本を含むアジア圏に供給する。輸出までの工程では三井物産が参画する豪州の別の鉱山の鉄道や港湾などの既存インフラを生かせるため、開発コストを抑えられる。
中国経済の成長鈍化を背景に鉄鉱石価格が軟調に推移するが、今後はインドや東南アジアなど新興国のインフラ開発などが需要を支える見通し。英調査会社ウッドマッケンジーによると、50年の世界の粗鋼生産量は20年比約2割増の22億トン超に拡大する見込みだ。
また三井物産はローズリッジの中品位鉱の用途が低炭素製鉄に拡大すると想定する。現在はコークスを使わない鉄鉱石の還元手法「直接還元」にローズリッジの鉄鉱石は適さないが、流通量の多い中品位鉱の活用に向けて技術開発が進むことで「用途が既存の高炉向け以外にも広がり、需要拡大が見込まれる」(堀社長)。三井物産はオマーンで天然ガスや水素を活用した直接還元による鉄源供給事業も検討しており、低炭素の鉄鋼サプライチェーン(供給網)の拡充を狙う。
双日は日本製鉄とカナダ東部ニューファンドランド・ラブラドール州にあるキャミスティアチュセット鉄鉱山の開発に参画する。カナダ鉱山開発のチャンピオン・アイアンを加えた3社が25年6月までをめどに設立する共同出資会社を通じ、双日は19%、日本製鉄は30%の権益を取得。双日は9500万カナダドル(約98億円)を出資するほか、開発費のうち約800億円を負担するとみられる。
同鉱山の鉄鉱石は直接還元に使える高品位鉱で、年間生産量は900万トン、鉱山寿命は約25年を見込む。生産開始時期は開発調査を通じて今後詰める。双日は鉄鉱石の引き取り権を取得し、鉄スクラップを原料とする高級鋼材の生産に使う還元鉄向けなどの供給を計画する。
伊藤忠商事は約1200億円を投じてブラジルの鉄鉱石大手CSNミネラソンの株式10・74%を追加取得した。伊藤忠は08年からミネラソンに間接的に7・15%を出資していた。ミネラソンは高品位鉱を産出するブラジルのカサ・ジ・ペドラ鉱山を保有しており、伊藤忠は株式の追加取得を通じ、アラブ首長国連邦(UAE)で計画中の低炭素還元鉄の生産向けに鉄鉱石供給を推進する。
UAEでは現地鉄鋼大手エムスチールと共同で、高品位鉱や天然ガスを使った直接還元とその工程から排出される二酸化炭素(CO2)を油田に圧入するCO2―EOR(CO2を用いた原油の増進回収)に取り組む。27年以降に低炭素還元鉄の生産開始を見込み、将来的には水素を使った直接還元法によるCO2排出量の実質ゼロ化も視野に入れる。
鉄鉱石市場では新興国を中心とした需要増加に応える生産拡大と、製鉄に至る工程での低炭素化の両立が求められている。商社の産業ネットワークを生かし、海外資源大手との連携による大型案件の獲得やリスク低減、CO2の排出削減手法を効果的に組み合わせて、競争力のある供給網を構築できるかがカギとなりそうだ。