三菱商事・伊藤忠…大手商社7社中6社が当期増益、4-12月期の全容
大手商社7社の業績が底堅さをみせている。中国経済の不調に伴う資源安に圧迫されながらも、2024年4―12月期連結決算(国際会計基準)の当期利益は6社が前年同期比で増益。幅広い事業群で着実に収益機会を捉えたほか、成長分野へのシフトに向けた低採算事業の売却益や円安が支えとなった。各社は創出したキャッシュを投資に振り向けて、新たな事業モデルの構築を加速しつつある。(編集委員・田中明夫)

伊藤忠商事は鉄鉱石価格が下落した影響を受けたが、機械や化学品のほか企業のデジタル化需要を捉えた情報・金融などの分野が好調に推移。24年4―12月期当期利益は前年同期比10・6%増の6764億円で、83%は非資源分野が寄与した。
通期予想に対する進捗(しんちょく)率は77%と順調で、事業売却益など一過性要因による1000億円のプラス影響も支えに、25年3月期当期利益は過去最高の8800億円を目指す。成長投資は実行分を含め9500億円程度が意思決定済みで、1兆円を上限とする投資計画も順調に進んで利益貢献が順次始まっている。
三菱商事は国内の洋上風力発電開発3案件で、インフレや円安などに伴う建設コストの増加を受けて減損など522億円の損失を計上した。中西勝也社長は「計上資産の全損を含め最大限の損失を計上した」とし、事業性の再評価に伴う追加減損は「あったとしても限定的」と説明した。「再評価をしてゼロベースで検討し、結果を見極めたい」としている。
一方、25年3月期当期利益予想の9500億円は、欧州の送電事業の売却益の計上や銅事業の上振れなどを踏まえ据え置いた。原料炭市況の悪化を受けながらも、資産・事業リサイクル関連損益が24年4―12月期までで3129億円のプラスに寄与するなどして、過去3番目に高い当期利益を見込む。
豊田通商は当期利益の約2割を稼ぐアフリカ部門で前期好調だった自動車販売台数の反動減を受けるものの、利益率の高い車種の販売が好調だ。25年3月期当期利益予想の3500億円を据え置き、4期連続で過去最高の更新を見込む。
各社は円安の追い風もあってコロナ禍前に比べ当期利益が2倍前後に増加。創出したキャッシュを投資に振り向けて事業群の拡張に磨きをかける。双日は総額470億円を投じて病院や地下鉄などのインフラ開発を手がける豪州企業を6月までに買収し、既存の空調の省エネルギー設計・施工事業などと組み合わせる。「(案件組成から資産管理まで一貫して手がける)リーディングデベロッパー機能の獲得を通じ、多様で規模感のある利益創出や資産リサイクルを行う」(渋谷誠最高財務責任者〈CFO〉)とし、欧米やアジア新興国への展開も狙う。
三菱商事は24年に5億2000万ドル(780億円)を投じて参入した米国のデータセンター(DC)事業に、最大5億ドル(約770億円)の追加投資を決めた。また資本提携先のプリファードネットワークス(東京都千代田区)などと連携し、省電力性能に優れた同社製AI(人工知能)半導体をDCの計算基盤に活用する。AIによる新素材の探索手法「マテリアルズ・インフォマティクス」を使ったビジネスとの連携を含め、国内外でAIインフラ事業の拡充を狙う。
一方、事業売却など一過性の利益が業績に寄与した商社では26年3月期にその反動減があり得る。25年3月期に約1500億円の資産リサイクル益を見込む三井物産は「事業の効率化や再生、新事業の貢献で着実に基礎収益力は積み上がっている」(重田哲也CFO)とした上で、「常態化している資産リサイクルは26年3月期も一定規模見込める」(同)とする。
成長分野へのシフトに向けた事業の入れ替えを継続しつつ、新規事業や既存事業の強化で着実に利益を創出できるか。持続的な成長に向けて各社の戦略の実行力が試される。