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“宇宙インターネット”を加速する。JAXAとNECが光衛星間通信で世界初の成果

“宇宙インターネット”を加速する。JAXAとNECが光衛星間通信で世界初の成果

低軌道衛星用の光ターミナル

光衛星間通信システム「LUCAS」で衛星と地上を高速・大容量かつ広範囲でつなぐ―。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とNECは、低軌道を周回するレーダー型観測衛星「だいち4号」と、静止軌道上の「光データ中継衛星」との間で、波長1・5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)帯の光通信による超大容量伝送を行い、静止衛星経由で“ミッション(特定の目的を持った)データ”を地上局に伝送することに成功した。世界初の成果であり、宇宙光通信の利用に新たな道を開いた。(編集委員・斉藤実)

「静止軌道衛星―低軌道衛星間を波長1・5マイクロメートル帯の毎秒1・8ギガビット(ギガは10億)伝送でつなぐことで、北極海の海氷の様子から欧州の都市部、熱帯雨林の自然保護区までを10メートル分解能の鮮明な画像でほぼリアルタイムに伝送できた」。JAXA第一宇宙技術部門JDRSプロジェクトチーム山川史郎プロジェクトマネージャーは23日、都内で会見し、実証プロジェクトの要点について語った。

JAXA第一宇宙技術部門JDRSプロジェクトチーム山川プロジェクトマネージャー

LUCASはJAXAが開発・運用する光衛星間通信システム。NECはLUCAS全体のシステム設計と、LUCASの主要素である光データ中継衛星用と地球観測衛星用の双方の光通信ターミナル機器を開発した。

だいち4号と静止軌道上の光データ中継衛星の間には約4万キロメートルの距離があり、高速に移動する相手衛星を捕捉し、通信を行うには精密な光学系と制御技術が求められる。

具体的には、光データ中継衛星が毎秒約3・1キロメートル、地球観測衛星(だいち4号)が同約7・6キロメートルでそれぞれ移動する中で、相手衛星へ向けて、500メートル程度にしか広がらないレーザー光を正確に照射し続けるため、レーザー光の高出力光増幅技術とレーザ光を相手衛星へ指向させる捕捉・追尾技術が必要。

今回は周回する地球観測衛星(だいち4号)から見て、利用可能な地上局がない領域においても、中継衛星を利用することで、大量の観測データの即時的なダウンリンクを実現。広大な領域における観測データを一度の通信で地上に送ることに成功した。

NECの三好弘晃フェローは「波長1・5マイクロメートル帯、5000キロメートルを超える衛星間通信技術には当社が脈々と築いてきた光ファイバー通信技術が生かされている。欧米で進む次世代の衛星コンスレテレーションでも標準となる技術でもあり、“インターネットの宇宙化”で新しい社会価値を提供する」と、宇宙空間での光通信の意義と今後の広がりについて語った。

日刊工業新聞 2025年01月24日