エレベーター側面の「車椅子用」ボタンって、位置が低いだけじゃなくて、押したときの動作が違うって知ってましたか? 今日のお話は、「その動作をすると何が起きるか」をわかりやすく示そうよという、UXの話です。
エレベータ側面のボタンは車椅子の人用? それ以外の人は押しちゃダメなの?
エレベータの行き先階ボタンって、だいたい前面の扉のそばにありますよね。でも、エレベータによっては、それとは別に、かごの側面などにボタンが別途設置されていることがあります。
こちらのほうは、だいたい低い位置にあって、さらに車椅子のアイコンなどがあることから、車椅子の人が押しやすいように設置されているものだと想像がつきます。
では、このボタンと前面のボタンの違いは、低い位置からでも押しやすいかどうかだけなのでしょうか?
実際には、側面のボタンを押すと、扉の開放時間が長くなるのです。日本エレベーター協会のFAQにも、次のように書かれています。
Q. 車いす専用ボタンと、一般用ボタンでは、何が違うのですか?
A. 車いす用ボタンの場合は扉の開放時間が長く設定されています。
なるほど。車椅子の人のほうがエレベーターから完全に降りるのに時間がかかるでしょうから、それだけ扉が長く開いたままになるというのは、理にかなっていますね。
でも、よく見ると、あるエレベータにはこんな注意書きがありました――「車椅子利用時以外のボタン押し禁止」――これは、どういうことでしょうか?
おそらく、こちらのボタンで行き先階を指定すると扉の開放時間が長くなり、結果として全体のエレベータ運行に影響があるからでしょう。
「どうせ閉じるボタンを押すから関係ない」と思うかもしれません。でも、あなたがエレベータから降りる最後の人で、あとにだれも乗ってこない場合、自然に閉まるまで扉は開きっぱなしですよね。
もしかしたら、あなたが「エレベータ来ないな、遅いな」とイライラしているとき、実はだれかが車椅子用のボタンで行き先階を押して目的の階で降りたあと、扉が開いたままになっているかもしれないのです。
あまり周知されていないこの挙動、ちゃんと伝えるほうがいいのでは?
さて、ここから、この記事の本題です。
この事実って、あまり知られていないと思いませんか?
いろんなところで、エレベータ側面のボタンを押す人をたくさん見ます。
知り合いだったら「そのボタン押すと遅くなるからね」と伝えるのですが、だいたい「え? そうなの? 知らなかった」という反応です。
それもそうですよね。だって、だれも伝えようとしていないんですから。
身近なエレベータの注意書きを再掲してみますね。
ここでは「車椅子の人以外は押すな」とは書いていますが、その理由が書かれていません(ほかのところでは、「扉の開閉が遅くなる」と書かれているのを見た記憶があります)。
では、この注意書きが次のように書かれていたら、どうでしょうか。
このボタンを押すと扉の開放時間が長くなります。
エレベータの円滑な運行のために、車椅子をご利用の方や付き添いの方以外は、前面のボタンをご利用ください
これなら、ほとんどの人が「なるほど」と理解して、不必要に車椅子用のボタンを押す人は、ほとんどなくなるのではないでしょうか。
メッセージの伝え方ひとつで、受け手の行動はがらっと変わる
これって、エレベータだけの話じゃないんですよね。Webでも広告でもなんでも、「どう伝えるか」によって、こちらの意図したように相手が動いてくれるかどうかが、がらっと変わるものです。
たとえば、次のようなことって、あまりちゃんと説明しないものなんですよね。
- なぜパスワードに半角英数と記号を混ぜて8文字以上にしなきゃいけないのか
- なぜ先に進むのにユーザー登録が必要なのか
- そのリンクをクリックするとユーザーにどんな良いことがあるのか
ほかにも、たとえばセミナーでちょっと濃い内容を解説するときに、こんな風に説明することもあります。
これから解説する内容に、みなさん今は興味を持たないかもしれません。自分の仕事ではないと感じるかもしれません。
でもこれは、実務を進めていけば必ずほとんどの人がぶつかる問題なのです。ですから、いま知っておけば近い将来に必ず得をしますよ!
それだけで、聞こうという意識になる人が増えてくれますよね(それでもダメな場合も多いですが)。
情報の伝え方って、難しいものです。単に文字を並べればいいわけじゃないんです。
相手が何を知っていて何を知らないか。伝えないのと伝えるのとで何が変わるか。その伝え方に触れて相手はどう感じるか。相手にとって良い行動を促すのに効果的な伝え方は何か。さまざまなことをユーザー目線で考えて、適切に伝えられるようになりたいものですね。