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多くの人が勘違いしている「仕組み」とは? 組織マネジャーが理解すべき用語解説

横山信弘経営コラムニスト
仕組みが多すぎる組織はうるさくなる(写真:アフロ)

■そもそも「仕組み」とは何か?

ビジネスにおける「仕組み」とは何か? どのようなものが仕組みであり、何のために仕組みが必要なのか。考えたことがあるだろうか?

仕組みの効用をよく理解しないまま作ったり、導入したりすると、不要な仕組みが多すぎて「うるさい組織」になっていく。

仕組みは便利なものだが、目的や機能によって使い分けなければならない。私は大きく分けて2種類あると考えている。

(1)意識しなくても実践される仕組み

(2)実践するために意識させる仕組み

たとえば残業を減らすための仕組みを考えてみたい。なかなか残業が減らない組織がある。そこで、

「毎日夜8時にはオフィスを出るように」

「これはルールだ。夜8時を過ぎたらパソコンをシャットダウンして」

社長がこのように口酸っぱく言いつづけた。それでも、なかなか実践されないのなら、仕組みを使うのだ。(1)のパターンであれば、夜8時にオフィスの電源が落ちる。パソコンが自動的にシャットダウンする。このような仕組みだ。

こういった仕組みは、強制度がとても高い。だから、

「電源が切れる前に、帰る準備をしなくちゃ」

と組織メンバーは考えを改めるだろう。逆算思考で仕事を進めようとするはずだ。いっぽうで、(2)のパターンだったらどうか? たとえば夜8時以降になっても退社しなかった日を「見える化」するのだ。

誰が、いつ、どの時間帯まで残っていたのか。エクセルなどの資料でまとめて定期的に開示する。こういった仕組みを使って上司とコミュニケーションを徹底することで、行動を改善させる。

「今週も月曜日と木曜日、夜9時まで仕事をしていたね。ちゃんと8時までに終えるように」

このような仕組みがなければ、月末になってから

「全然、改善されてないじゃないか」

と社長に叱られることになる。だから、タイプ(2)の仕組みは効果がある。

しかし当然、(1)と(2)で比べると、(2)を採用したほうが組織はうるさくなる。残業を減らそうと努力しないメンバーに対して、いちいち上司が対話しなければならないからだ。メンバーが言うとおりに従ってくれればいいが、

「夜8時までに仕事が終わらないときもありますよ」

だとか、

「B課のHさんなんて、夜10時過ぎて働いていても何も言われてませんよ」

等と不服を言われたら、とても面倒だ。Hさんの上司を呼んで、

「あなたの部下も、ちゃんと夜8時までに仕事を終わらせなければいけませんよ」

と言わなければならなくなるし、その上司からも

「うちの課には、うちの課の事情があるんですよ。口出ししないでもらいたい」

などと反論されたらどうしたらいいのか、となる。

「課によって業務量が違うのだから一律『夜8時まで』はおかしいのでは?」

「そもそも人が足りないことが問題だ」

「いや、離職率を抑制することが先決だと思う」

「B課の業務効率が悪いのは、スキルに差があるからだ」

などと、何が本質かわからない議論が溢れかえるきっかけにもなるだろう。タイプ(1)の仕組みを導入し、社長が「例外は認めない」と言っただけで、全員が主体的に改善したかもしれないのに。

■組織メンバーの主体性と仕組みとの関係

「静かな仕組み」を作るためには、

・強制力のある仕組み

・強制力のあるルール

の、どちらかが必要だ。夜8時にパソコンが自動的にシャットダウンするような仕組みは、仕組みそのものに強制力がある。

しかし「見える化」して行動改善を促す仕組みは、メンバーの主体性に依存する。仕組みそのものに強制力がない。主体的なメンバーが多ければいいが、そうでなければルールを作り、そのルール順守を強い姿勢で訴えなければならない。

したがって組合せは、こうだ。

・とても主体性が高いメンバー&意識付け

・そこそこ主体性が高いメンバー&強制力のない仕組み

・主体性にバラツキがあるメンバー&強制力のある仕組み

・主体性にバラツキがあるメンバー&強制力のない仕組み&強制力のあるルール

とても主体的なメンバーだけが揃っていれば、日ごろからの意識付けだけでいい。仕組みなどなくても、メンバー一人一人が気を付けて残業削減に取り組むだろう。

そこまでの主体性を発揮しなくても、責任感が強いメンバーがほとんどであれば、強制力のない仕組みでも機能する。メンバー全員が主体的に仕組みを利用し、行動改善に励むだろうから。

しかし、メンバーの主体性にバラツキがある場合は、強制力のある仕組みを作るべきだろう。もしそうでなければ、仕組みだけを作ってもほとんど使われない。だから強制力のあるルールが必要だ。

もしもルールを作っても強制力がないのなら、さらにルールを守らせるリーダー教育が必要だったり、メンバーの主体性やモチベーションを上げるための啓蒙活動をしなければならなくなる。つまりドンドン組織がうるさくなるのだ。

結局のところ「静かな仕組み」に必要なものは、主体性の高いメンバーなのだ。主体性の高いメンバーを採用し、メンバーの「あたりまえの基準」を下げないようにする努力がセットで存在しなければ機能しない。

■仕組み作りで考慮すべき2つのポイント

とはいえ、主体性の高いメンバーに意識だけさせておけば、すべてうまくいくかというと、そんなはずはない。

たとえばマラソンの練習をする際、現在どれぐらいの距離をどれぐらいのペースで走っているのか。リアルタイムで「見える」ような仕組みがあれば大変便利だ。ランニングウォッチを身につけて走るのと、そうでないのとではパフォーマンスも変わるはず。

だから仕組みは必要だ。しかし仕組みを作るなら、以下の2つは考慮すべきだろう。

(1)仕組みの数を必要最小限にする

(2)仕組みで「見える化」する項目を必要最小限にする

凝った仕組みを、たくさん作っても、ほとんどが運用されないだろう。形骸化するだけだ。「仕組み負債」を増やさないためにも、最初から不要な仕組みやルールは作らないことだ。

<参考となる動画>

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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