甲子園トライアウトにファン1万2000人の異常人気。ショー化への是非。
プロ野球の12球団合同トライアウトの12日、甲子園球場で65人の戦力外選手が参加して行われた。入場無料で見学が可能だったため、ファンが殺到。開門予定が早められ、開放された内野スタンドは、約1万2000人のファンでパンパンに埋まった。年配のオールドファンから若い女性まで、年齢層や男女比も様々で、地元阪神のファンだけでなく、応援する各チームのユニホームを着ているファンも目立った。 投手がカウント1-1から打者3人に投げるシート打撃方式でトライアウトは進んだが、バックスクリーンにはマウンドに上がった投手と対戦する打者の名前が掲示され、場内アナウンスもされたためその度に大きな歓声と拍手が起き、ひとつひとつのプレーに熱い声援が送られた。 もちろんトライアウトでの1万2000人の観客動員は過去最高。東西2箇所で2度開催されていたトライアウトは昨年から一発開催となり、ここ3年間は静岡の草薙球場で行われていたが、今年から開催球場も再び12球団の持ち回りの球場に戻された。 選手会の森忠仁事務局長の説明によると「雨天となった場合の施設や、プロ野球の環境に近い常設マウンドでプレーさせてあげたい」との理由で、NPBの球団が持つ球場での開催に戻されたが、「静岡市からの要望があれば、来年以降はNPB側とも話をしてまた検討したい」という。 昨年も草薙に約5200人ものファンが集まったが、戦力外の選手を追いかけるテレビ番組がきっかけとなって、トライアウトへのファンの関心は年々高まっている。人生の崖っぷちに立たされ、現役続行への執念を見せる“純な生き様”への共感と、今回は、鶴直人、岩本輝、柴田講平ら、1軍でも活躍したことのある阪神の選手が5人も参加したことも、異常人気に拍車をかけたのだろう。 その鶴は、「応援してもらえて幸せだと噛み締めながら投げた」と言う。前ヤクルトの新垣渚投手も「こんなに多くのファンに声援をもらえるとは思わなかった。感謝したい」と語っていた。前ロッテの青松慶侑・捕手、内野手も、「たくさんの人に応援してもらい、久しぶりに、凄く楽しく野球ができました」と言う。 多くの選手にとって野球人生の存続をかけた最後の勝負の舞台をスタンドを埋める満員のファンが後押ししてくれるのは、心強かったようだ。 選手の中には、このトライアウトを「自らの引退試合」と位置づけて家族を呼び寄せて最後の勇姿を見せる選手も少なくない。トライアウトに参加するような戦力外選手には正式な引退試合などは用意されていないため、引退を決めて臨んだ選手にとっては、満員のファンに見守られるトライアウトは、思い出に残る最高の“引退試合”の舞台となったのだろう。 だが一方で、異常人気の末、ショー化しつつあるトライアウトに違和感を抱く関係者も少なくない。ある球団の幹部は、「これだけのファンが集まってまるでショー化しているトライアウトは、本来の趣旨から離れているのではないか」と疑問を口にしていた。