2024年の「紅白」に心温まった理由…目の前の「あなた」に届けるNHKの制作姿勢は視聴者にどう届いたか
大みそかの風物詩、「第75回NHK紅白歌合戦」が終了した。芸能記者となってから15年目の紅白取材。放送中はNHK局内で、原稿執筆に明け暮れているのでどうしても片手間になってしまう。ゆっくり視聴者として見られるのは年が明けた元日。4時間強の生放送を見直したが、総じて胸が温かくなるような紅白であった。 【写真】紅白の橋本環奈 ネックレスの値段がケタ違い 個人的に受け取ったのは「誰も取りこぼさない」という制作側の強い意思だった。単にターゲット層を広くキャスティングした、ということではない。年齢も性別も出自も、置かれている環境も悩みも違う視聴者に、どこかのポイントでは必ず刺さるような演出になっていた。23年のテーマは「ボーダレス」、24年のテーマは「あなたへの歌」。掲げている精神性は突き詰めれば共通しているが、24年の紅白は、23年よりさらに目の前の「あなた」と「わたし」に届く番組作りを意識しているのではないかと感じた。 具体的な演出を挙げていくとキリがないが、盛り上がりの最高潮を作ったのはやはり初出場の「B’z」。事前収録と思われる「イルミネーション」の披露を終え、2人がホールに向けて歩き出すと、空気が変化するのを肌で感じた。18年の松任谷由実、21年の藤井風でも、ホールにサプライズ登場する演出はあったが、B’zの衝撃、ワクワク度はそれを上回るものだった。「LOVE PHANTOM」の長めのイントロがあんなに効果的に作用するとは…。「ultra soul」ではやっぱり叫びたくなる。間違いなく、テレビの前の「わたし」には届いた。 圧巻のダンスパフォーマンスが見たい「あなた」も、41年ぶりブランクのTHE ALFEEの生歌、ギターテクにしびれた「あなた」も、ドミノやけん玉の演出にハラハラしたい「あなた」も。そして能登半島地震をはじめとした災害、世界中で起こっている紛争に心を痛めている「あなた」も、どこかで生きづらさを抱えている「あなた」にも。実体を持って、心をノックするような歌唱がたくさんあった。楽曲が直前に変更になった星野源が、「ばらばら」の歌詞を「あなたは本物 わたしも本物」に変えたのも自分のことのように胸にしみた。 白組のトリを取った福山雅治が、歌唱前に発したことばが真理だと感じた。「作詞作曲をするときはいつも、ただひとり、その人への歌という思いで作っています。歌は、聴いた人が『これは自分の歌だ』と感じてくれたときが初めて届いたと言えると思っています」 11月の紅白出場者発表会見。翌日の紙面のトップを飾ったのは「STARTO社アーティスト、2年連続出場者ゼロ」だった。魅力的な出演者がたくさんラインアップしているのに「紅白に出ない」ことに着目して原稿を構成していく。アーティストを置き去りにしてしまっていることに複雑な思いがあった。そんななかで放送された今回の紅白。「誰が出るか」ではなく「何を届けるか」。放送100年を控え、ラジオやテレビは「あなたとわたしのメディア」だと改めて認識できた。 平均視聴率は2日午後に発表される。視聴形態が移りゆくなかで、一概に数字だけでは判断できないが、大きな指標のひとつではある。「あなたとわたしの紅白」が、どのように視聴者に届いたのか注目したい。(放送担当キャップ・宮路美穂)
報知新聞社