火星上空の巨大な「雲」の画像が公開

高さ200km以上、10日間以上続いた謎の噴煙の正体は?

2015.02.19
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火星の南半球で発見された噴煙(右側の写真の黄色い円で囲まれた部分。左側はその拡大写真)は、10時間かけて湧き上がり、1週間以上留まっていた。火星でこれほど高い位置まで到達した噴煙が観測されたのは初めて。(ILLUSTRATION COURTESY GRUPO CIENCIAS PLANETARIAS (GCP) - UPV/EHU)

 スペイン、バスク大学の天文学者アグスティン・サンチェス=ラベガ氏は、天文仲間とともに「Nature」誌に記事を発表し、「火星の超高層大気で起こりうる現象として、今のところ私たちの持っている常識では説明できません」とコメントした。

 コロラド大学ボルダー校のブルース・ジャコスキー氏は、「複数の観測者が目撃しているので、本物である可能性は高いでしょう」と話す。ジャコスキー氏は今回の研究には参加していないが、現在火星を周回する火星探査機MAVENの研究チームを主導している。

 2012年3月と4月に、噴煙を最初に発見したのは、ペンシルバニア州ウェストチェスター在住の弁理士ウェイン・イェシュケ氏。月惑星研究会(ALPO)の会員でもあるイェシュケ氏は、オーストラリアの仲間数人に画像を送って意見を求めた。かすかに見える薄い光は、自分のカメラのセンサーに何らかの乱れが発生したためと言う可能性もある。

 しかし、オーストラリアの天文家たちも独自に観測したところ、同じように薄くぼやけた部分を発見した。フランスのアマチュアたちにも見てもらったが、結果はやはり同じだった。そこで、サンチェス=ラベガ氏も参加しているメーリング・リストにメッセージを送信した。

 熟練したアマチュアが、宇宙で起こる様々な現象をプロよりも先に発見することは珍しくない。超新星や彗星をいち早く発見したアマチュアもいる。2009年には、オーストラリアのアンソニー・ウェスレー氏が、彗星が木星へ衝突する瞬間を目撃した。

 また、サンチェス=ラベガ氏によれば、アマチュアは以前にも一度火星で噴煙が現れるのを発見したことがあるという。人工衛星や地上の大型天体望遠鏡も、何度もその光景を捉えている。しかし、今回の現象が他と大きく違うのは、その高度である。これまで目撃されてきた噴煙はどれも、塵や氷の粒で構成され、地表から100キロ以上も上昇したことはなかった。

 しかし、今回の雲はその2倍以上の高度に達し、消滅までに10日もかかった。「それほど高い位置まで何かの粒子が上昇するというのはちょっと考えられません。もしそうだったとしても、ここまで高いと風が強いため雲はすぐに消散してしまうはずです」と、ジャコスキー氏は言う。

 サンチェス=ラベガ氏とその共著者(イェシュケ氏と他3人のアマチュア、数人の専門家を含む)も「Nature」誌の中で、「塵説」は根拠を示すのが難しいと認めている。その他の理由として考えられるのは、地球で言うところの北極圏の光、つまりオーロラのようなものではないかという説だ。しかし、火星のオーロラが地球から観測できるほど明るいとは信じがたい。噴煙はすでに消えてしまっているので、今となっては調査のしようもない。

 天文家たちは、もう一度同じ現象が起こってくれないかと願っている。「今後も、天体望遠鏡や衛星を使って観測を続けるしかないですね。アマチュアは数が多く、地球上の様々な場所に住んでいます。彼らはとにかく熱心ですから、これからも重要な役割を果たしてくれると思います」と、サンチェス=ラベガ氏は期待する。

 実際、すでに同じ現象が起こった可能性はわずかながらある。火星の大気を近距離から観測するミッションを負うMAVENは、すでに昨年9月から5カ月間調査を続けているが、そのデータ分析が全て完了したわけではない。この間に地球上のアマチュアからは見えない場所で噴煙が再び発生し、MAVENが運良くそれを捉えていたとすればどうだろう。ジャコスキー氏は、MAVENの未分析のデータから何かが出てくる可能性は否定できないとしている。

文=Michael D. Lemonick/訳=ルーバー荒井ハンナ

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