ティラノサウルスはこんな顔だった、最新報告

人の指先より鋭い触覚の可能性も、謎の化石が新種と判明

2017.04.04
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
新種ダスプレトサウルス・ホルネリの外皮の想像図。顔面骨に残った跡の分布から再現した。(ILLUSTRATION COURTESY DINO PULERÀ)
新種ダスプレトサウルス・ホルネリの外皮の想像図。顔面骨に残った跡の分布から再現した。(ILLUSTRATION COURTESY DINO PULERÀ)
[画像のクリックで拡大表示]

 ティラノサウルス科の恐竜の顔が、これまでにない精度で再現された。状態の良い7500万年前の化石から、古生物学者たちが作り上げたものだ。研究成果は3月30日に科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。

 この頭骨化石は、ダスプレトサウルス・ホルネリ(Daspletosaurus horneri)と命名された新種だ。白亜紀後期に、現在の米モンタナ州北部からカナダ、アルバータ州南部にまたがる地域を闊歩していた。研究者たちは骨に残った痕跡から、その顔は平らなうろこで覆われ、現生のワニの一種であるクロコダイルのように、極めて敏感な触覚を備えていただろうと話す。(参考記事:「ワニのアゴは人間の指先より敏感」

 米ノースイースト・オハイオ医科大学の解剖学者兼神経生物学者、トービン・ヒエロニムス氏は、「私たち人間はみな顔に軟組織があるので、軟組織を通じて伝わってくる感覚を受け取っています」と話す。「その代わりに、鳥やトカゲの感覚器は骨の真上にあり、皮膚も薄いので、顔面の感覚は非常に鋭敏です」

 ダスプレトサウルス・ホルネリも同様だとすれば、この恐竜やその近縁である巨大な肉食恐竜、ティラノサウルス・レックスなども、クロコダイルによく似た振る舞いをした可能性がある。(参考記事:「T・レックスのメニュー拝見、ときには共食いも」

 例えば、ティラノサウルス科の敏感な顔面は、獲物を扱うのに役立ったかもしれない。水に浮かぶクロコダイルは、真っ暗でも近くにいる動物の位置を特定し、仕留められる。これは、とても鋭い触覚を備えた感覚器が全身に並んでいるためだ。小さなできもののようなこの感覚器は「外皮感覚器(ISO:Integumentary Sensory Organ)」と呼ばれている。(参考記事:「Tレックスは頭がいいから最強に?新種化石が示唆」

 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の博士研究員で、ワニ類の皮膚を詳しく調べてきたダンカン・リーチ氏は、この器官は触覚以外も感知でき、さまざまな場面で重宝すると話す。例えば、クロコダイルはこれらの感覚器が並ぶ鼻先を泥に突っ込んで、最適な温度の産卵場所を探すという。

「興味深いことに、ISOはクロコダイルがあごを使って行う独自の繊細な動作にも一役買っているようです。例えば、孵化する卵を割るときなどです」とリーチ氏。(参考記事:「新種のT・レックスはピノキオの口先」

ワニと鏡写しのようによく似ている

 皮膚の下にある組織を、死んでから数千万年後に骨だけを元に再現できるのは驚きかもしれない。だが生きている骨は、まったく変化しない静的なものではない。筋肉、神経、血管に絶えず物理的な刺激を与えられ、栄養を供給されながら日々新たに作られている。(参考記事:「世界初、恐竜のしっぽが琥珀の中に見つかる」

 そのため、化石となった骨には、組織ごとに異なる刻印が表面にも残される。これが古生物学者にとって、はるか昔に骨を覆っていた構造のヒントとなる。

「骨は動的な組織です」と話すのは、米カーセッジ大学の古生物学者で、今回の研究で復元のリーダーとなったトーマス・カー氏だ。「恐竜も例外ではありません」(参考記事:「貴重な恐竜化石をぶった切る」

 骨から軟組織を正確に推定するため、カー氏らの研究チームは、骨に残ったさまざまな跡とその上の軟組織の構造を現生の動物と比べる必要があった。幸い、そうした分析の大部分は、2009年にヒエロニムス氏が主導した角竜の研究で既に行われていた。(参考記事:「角竜プロトケラトプスのえり飾りは求愛のため、新説」

「ヒエロニムス氏らは実に困難な研究をやり遂げていました」とカー氏は語る。「今や、古典です」

 ヒエロニムス氏の研究結果と、さらに、現生のワニと鳥類の頭骨をそろえたカー氏らは、このティラノサウルス科の恐竜の頭骨にある軟組織の跡が、アリゲーターやクロコダイルと鏡写しのようによく似ていることを突き止めた。(参考記事:「アリゲーターとクロコダイルの見分け方は?」

 これらのワニでも今回調べた恐竜でも、鋭敏な触覚に接続するのに必要な神経と血管を通す穴が頭骨にたくさんある。カー氏らはこうした共通点から、ティラノサウルス科の顔も平たくて大きなうろこに覆われ、もしかしたらISOも並んでいたかもしれないと考えている。

 ワニの研究者であるリーチ氏も、カー氏が示す根拠に説得力を感じながらも、ISOの可能性についてはまだ証拠として弱いとみている。

 リーチ氏はEメールで、「仮にこの恐竜の顔を覆っていた外皮の皮膚痕化石が見つかり、ワニ類のISOに特徴的なドーム形の小さな突起がはっきりあれば、彼らの説にとって、パズルの最後の1ピースが見つかったといえるかもしれません」とコメントした。(参考記事:「恐竜の脳の化石を初めて発見、知能はワニ程度か」

次ページ:発見から四半世紀後の快挙

おすすめ関連書籍

新説・恐竜  塗り替えられたその姿と生態

分析技術の進歩で新発見相次ぐ、 古生物研究の最前線! 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:1,540円(税込)

おすすめ関連書籍

LIFE ON OUR PLANET 地球生命大全史

Netflixが空前のスケールで描く「私たちの地球の生命 (LIFE ON OUR PLANET)」を200枚以上のビジュアルとともに完全書籍化!〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:3,960円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加