2024年、ライバルとのバトルを戦い抜き、チャンピオンに輝いたライダーたちは、今シーズンをどう振り返るのか。チャンピオンインタビュー第4弾では、IA1クラスで2連覇を果たした#1ジェイ・ウィルソン(YAMAHA FACTORY INNOVATION TEAM/ヤマハ YZ450FM)に話を聞いた

ジェイ・ウィルソンが全日本モトクロス選手権に初めて出場したのは、2021年の最終戦だった。IA2クラスにスポット参戦をすると全ヒートで優勝を獲得。翌2022年から拠点を日本に移し、ヤマハのファクトリーライダーとしてIA2クラスに全戦出場を始めた。開幕戦から無敗の15連勝を果たしてIA2チャンピオンに輝くと、2023年には450ccマシンに乗り換えてIA1クラスに参戦。そこでも全23ヒート中22勝を果たす強さでチャンピオンを獲得した。そして、2024年はウィルソンにとってフル参戦3年目。IA1クラスでの2連覇を目標にシーズンに挑んだ。

日本人ライダーを寄せ付けず、ほとんどのレースをスタートから独走状態に持ち込んで優勝する彼は、IAクラスにおいて絶対的王者として一目置かれ、2024年も同じように勝ち続けると思われた。しかし、2019/2020年IA2クラスチャンピオンでありオーストラリア選手権で活躍を続ける#41横山遥希(HONDA DREAM RACING LG/ホンダ CRF450R)と、2023年IA2クラスチャンピオンの#33ビクトル・アロンソ(AutoBrothers GASGAS JAPAN/GASGAS MC450F)など新たなライバルの登場により、勢力図が大きく変動した。

これまでにないバトルの展開、優勝することの難しさ、多くのプレッシャーを抱えた彼はどのようにして2連覇を果たしたのだろうか。

3年目、勝利へのプレッシャーが重くのしかかる

JMX Promotion(以下:編):チャンピオン獲得おめでとうございます! 2024年は日本に来て3年目ということで、まずはこの3年間をどのように振り返りますか?

ジェイ・ウィルソン(以下:ウィルソン):そうですね、1年目は何もかもが新鮮で刺激的でした。日本という新しい土地に拠点を移してのレース参戦は、生活環境が変わったのでたくさんのサポートを受けながら過ごしました。

2年目は250ccから450ccに乗り換えてIA1クラスに挑みました。IA1チャンピオンは私の個人的な目標でもあり、そこに挑むことができるのは嬉しかったです。ただ、新しいマシンとクラスに適応しなければならなくて、自分にとってチャレンジの年でもありました。

そして3年目は、レースにも日本での生活にも慣れたのですが、ディフェンディングチャンピオンとしてどんな結果を求められているのかを感じ、それがプレッシャーにもなりました。その上、他のライダーたちのレベルは1年目から格段に上がっているし、横山選手が日本に戻ってきたことでそのレベルの基準はさらに上がっていました。その中でチャンピオンを獲るのは簡単ではなくて、色々な困難にぶつかって、乗り越えた一年だったと思います。

編:”困難”という言葉があったように、特に2024年はジェイさんにとって苦しい時間が多いように見えました。シーズンを終えて、この1年間をどのように振り返りますか?

ウィルソン:全日本モトクロス選手権にフル参戦を始めて3年目になるけど、これまでで一番優勝するのが難しいシーズンでした。

編:シーズンを通して、どんな困難にぶつかったのでしょうか?

ウィルソン:私が直面した壁のひとつは、勝利への期待でした。1年目も2年目も連勝してチャンピオンになったため、多くの人が私が日本で優勝するのは簡単なことだと思っているように感じます。もちろんそう思ってもらえていることは嬉しいのですが、私にとっては決して簡単なことではなくて、3年目にしてこれまで示してきた結果や、連勝・優勝への期待がプレッシャーになっていました。

編:1年間インタビューをしてきた中でも、チャンピオンや全勝というプレッシャーは人一倍感じているように感じました。

ウィルソン:開幕戦で勝ち、また次のレースで勝つと、その次もずっと勝ち続けなければならないというプレッシャーがどんどん大きくなっていきました。このプレッシャーに対して、2年目まではマインドセットやルーティンを整えることで上手くこなしていたのですが、2024年はそのマインドコントロールにかなり苦労しました。焦ったり、疲れたり、メンタル面が崩れてしまうことがありました。

大きなクラッシュをした北海道大会で意識が変わる

編:特に今年は他のライダーとの競り合いが多かったように見えました。その影響も大きかったのでしょうか。

ウィルソン:そうですね。ライバルたちとのバトルによって、自分のコンフォートゾーンから押し出された感覚はありました。プロライダーとしては、自分が落ち着いて走れる状況ではない時でも、自分をコントロールして走ることが必要なのですが、私はその状況に対する準備が十分にできていなかったのだと思います。

編:後半戦にかけては、不調から脱したような、どこか振り切れたように見えましたが、何かきっかけはあったのでしょうか?

ウィルソン:第5戦の北海道大会で激しい転倒をしました。そこで、ただ目の前の勝利を追いかけていくことも大事だけど、チャンピオンシップを戦略的に進めることの重要性も痛感しました。あの転倒は、個々のレースでの勝利よりもシーズン全体や私の役割を優先するように、という警鐘だったと思います。

編:具体的にはどういうことでしょうか?

ウィルソン:私はライダーとしての活動はもちろんですが、マシンテストや若手ライダーの指導など他にも責任が多く、これらの役割を全うすることと自分のレース目標に向けた行動のバランスを取る必要がありました。北海道で転倒するまでは勝つことを重視し、優勝して自分の速さを示すという気持ちで動いていました。もちろん常にレースでは優勝を目指しますし、その気持ちは変わりません。しかし、北海道大会を終えてから、ただ一目散に勝利に向かって走るのではなく、自分の役割を大切にすることも必要だと気づきました。

編:なるほど。勝ちたいという気持ちだけで動くと、必ずしも良い結果を生むわけではないのですね。

ウィルソン:はい。あの北海道での転倒は、2024シーズンにおいて非常に大きな転換点だったと思います。

編:意識の変化があった北海道大会の後、3ヶ月ほどのインターバルがあり、第6戦を迎えるという流れでした。インターバル期間中はどのように過ごされていたのでしょうか?

ウィルソン:夏のインターバルではアメリカへトレーニングにいきました。インターバル明けの3戦では、結果として上手く示すことができなかったけれど、自分自身アメリカトレーニングでかなり成長して、第6戦を迎えることがすごく楽しみでした。ただ、この調子をキープして勝ちたいという欲が出る反面、チャンピオンシップをどのように進めていくかも考えながら過ごしていました。

編:後半戦はチャンピオン争いがさらに加熱していくタイミングでもありますが、プレッシャーはさらに重く感じたのでしょうか?

ウィルソン:北海道大会後からシーズン終盤にかけて、プレッシャーとうまく付き合っていけるようになった思います。レースで勝ちたいという気持ちと、じゃあどうすれば勝てるのか、チャンピオンシップをどのようにコントロールするかということに関しても頭を使う必要がありましたが、 序盤でランキング2位とのポイント差を大きくつけていたことが安心材料になって、よかったと思います。

編:第7戦では下田丈選手がスポット参戦をして、ジェイさんも攻めた走りでバトルを繰り広げていましたね。

ウィルソン:下田選手と走ることを楽しみにしていたし、一緒に走ってアタックして、良いレースができたと思います。ただ、自分にとってはチャンピオン決定がかかったラウンドでもあったので、リスクを犯してまでも勝ちを取りに行くか、チャンピオンを獲得するために無茶はしないようにするかなど、気持ちのバランスを上手くコントロールしていました。プレッシャーによるメンタルの崩れや転倒など様々な困難がありましたが、結果、第7戦でチャンピオンを獲ることができて本当によかったと思います。

「もう空っぽだった」。全ての力を使い果たして迎えた最終戦

編:最終戦にはTeam HRCからフェルッチョ・ザンキがIA1クラスにスポット参戦をしました。チャンピオンを獲得して迎えた最終戦、海外ライダーの参戦、どのような気持ちだったのでしょうか?

ウィルソン:正直、私自身最終戦を迎えるまでにかなりのエネルギーを使っていました。第7戦の後は、チャンピオンを獲得したことによって「勝たなきゃ」というプレッシャーから開放されて安堵しました。最終戦を迎えた時はもう自分にエネルギーは残っていなくて、空っぽの状態でした。この状態でザンキ選手の参戦があったから、タイミング的には自分にとってかなりチャレンジングでしたね。

編:なるほど。最終戦は体力もメンタルも極限な状態だったのですね。

ウィルソン:チームもメカニックも自分も、みんな私に期待していました。ただ、バイクと同じで燃料がないと前に進めない。自分の燃料タンクは空っぽ状態でした。

編:優勝やチャンピオン獲得に向けたプレッシャーがどれほど重かったか感じられます。

ウィルソン:レースでの勝利は目に見えるけど、そこにかかるプレッシャーは見えてこないものです。このプレッシャーに直面するというのは、自分に対してもチームに対しても大きな期待が寄せられているからなので、ありがたいです。ただ、今年はそのプレッシャーを乗り越えるために、自分の燃料を使い果たしてしまいました。

編:1年間インタビューをしてきた中で度々「学び」や「自分を高める」という言葉を使っていた印象で、逆境を糧に変えて進んできた一年のように思えました。力を使い果たしてまでも目指したチャンピオンという座は、ジェイさんにとってどんな意味があるのでしょうか?

ウィルソン:私にとってチャンピオンとは、ただ勝つだけでなく、このスポーツにおける模範になることだと考えています。チャンピオンである以上、チームやスポンサー、そして全日本モトクロス選手権そのものを代表する責任がある。私は若いライダーたちの模範となるよう努力しているし、次の世代にもチャンピオンとしての役割や自分が今年経験したプレッシャーへの対応などを伝えていきたいと思います。

編:最後に、2024シーズンを一言で表すなら何でしょうか?

ウィルソン:思い返すと「挑戦」という言葉をよく使っていたと思います。しかし、私は「感謝」とも表現したいです。2024年を通して、私は自分自身を見つめ直し、たくさんのことを学びました。シーズン通して自己成長できたことは、最も重要なことですし、この状況を自覚している限りは長いキャリアを送ることができると思います。

また、レースだけでなく、言語に対しても、日本語でのスピーチなど、まだ流暢ではないけれど挑戦していました。YouTubeやSNSなどでは、私が困難に直面した様子などもオープンにして、その多くをファンに見せることを心がけていました。

さらに、2024年はチームマネジメントやライダーの育成を行うことも挑戦のひとつでした。チーム員のそうや(IA2ライダー中島漱也)はチャンピオンを獲得、浅井(IA2ライダー浅井亮太)と田中(IA2ライダー⽥中淳也)はまだリザルトにばらつきがあるものの、トップ争いを繰り広げる大きな可能性と成長を見せました。それぞれのライダーが個人の課題に直面しながらも、大きな進歩を示した一年になったと思います。

編:マシン開発やライダー育成など、ライダーとして以外の役割もこなす姿は印象的でした。2025年に向けては、どんなプランを考えているのでしょうか?

ウィルソン:2025年についてまだ詳細は言えませんが、ヤマハレーシングチームや若手育成の取り組みについて、近々楽しみな発表があるので続報にご期待ください!

編:楽しみにしています!ありがとうございました!

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