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従軍慰安婦問題──何が問題なのか

 広義の狭義のと、安倍がこの問題についてロクに知らないのがよくわかる。手元に資料がないので大雑把になるが、従軍慰安婦問題の何が問題なのか、簡単に整理してみる。


 第一に、軍の行く先々に慰安所を開設することは日本軍が立案して業者を手配している、つまり、日本軍が完全にイニシアティブをとっているという点がある。日本軍にとって慰安婦は軍需物資であり、慰安所は兵站の一部だった。業者が軍の需要を見込んで慰安所開設を持ちかけた、という形のものではない。

 第二に、業者が慰安婦を徴用する際に、「兵隊の食事の煮炊きなどのお手伝いの仕事がある」などの嘘による勧誘、前借金や暴力的威圧などによる強要といった手段が多く用いられた点がある。多くの証言から、兵隊や官憲が直接行ったというケース(狭義の強制)は報告されておらず、軍の依頼を受けた業者が行った(広義の強制)のが一般的だった、ということになっている。ただ、いずれにせよ慰安婦たちの多くが意に反して集められたという点、意に反して集められた慰安婦の移動(輸送)等々に軍が便宜を払っており、てゆーか元々完全に軍の発案で進められていたことだからこうした徴用の実態を「知りませんでした」で通るわけもなく、日本軍・日本政府の責任は当然あったと考えられる。

 第三に、こうした意に反して連れてこられた多くの慰安婦たちが、その自発的意思に基づいて故郷に返される、ということもなく、しばしば長期に渡って奴隷的監禁状態に置かれたということ。慰安所の設営や管理の多くの面で軍が関与しており(慰安婦が逃げ出さないように警備するといったことも含む)、日本軍・日本政府の責任も当然あった。

 以上のことは、たとえば発見されている資料であるとか、元慰安婦や元日本兵たちの証言とも整合的であり、歴史学的には当面決着がついている。絶対覆らないとは言わないが、そのためには画期的な新史料の発見が必要。まぁ、ちょっとあり得ないけど。と同時に、政治的にも一応、決着がついた問題である。河野談話は、以上の内容をすべて認めているのだから。これをひっくり返すというのであれば、つまりは一国の外交上の公式見解として発表したものをひっくり返すのであれば、それ相応の新史料が持ち出されるのでなければならないが、もちろん、そんなものは存在しない。

 安倍がうわ言のように「狭義の強制はなかった」と繰り返しているのは、第二の論点に関わるもの。当初、吉田清治という人物が「自分が慰安婦狩りをやった」(=狭義の強制があった)と証言したが、後に秦郁彦が調査して嘘だったことが判明したという一件がある。ただし、この論点は、第二の論点=徴用に関わる論点の、そのまた一部でしかない。「徴用において日本軍・日本政府の責任はあったか」という問いならば、文句なしに「あった」となる。ただ、その徴用の仕方に違いがある、という、さらに派生的な話。繰り返しになるけれども、全体として日本軍・日本政府の関与と責任が否定できないという点において、日本の一部の歴史修正主義者以外は一致している。・・・その歴史修正主義者が政権トップとそのブレーンにうじゃうじゃいる、というのが末期的な状況なわけだけど。頼むから、これ以上「国益」を損なわないうちに退陣してほしい。