短篇小説
旅路は美しく、旅人は善良だというのに *9 れもんの若い木々 *39 愛についてのみじかく、そして淡いなにか *53 ディック・フランシスを読んだことがない *58 家出娘 *69 ひと殺し *71 からっぽの札入れとからっぽのお喋り *80 インターネットと詩人た…
’11年から’19年までの短篇をまとめた。表題作と『光りに焼かれつづける-』は当時、群馬の詩人・澤あづさ氏が評価・賞賛してくださり、じぶんとしてはようやく文体を見つけたという気分だった。それからも作品を寡作ながらつくっていたものの、PCが故障して…
ベルが耳をつん裂くようにけたたましく十秒ほど鳴って、止まる。 サミュエル・ベケット『しあわせな日々』 * 照明器具 入出庫作業 在庫整理 ピッキング 派遣からの正社員登用アリ──求人広告 * かれにとっていまいましい月曜日の、早い時間というのにもかか…
文藝を短歌に一本化するために、最初で最後の長篇小説を完成させた。 以下のリンク先で全文立ち読み可能だ。一読してやって欲しい。それがわたしの小説への供養にもなる。次は最後の詩集だ。来年にはだすだろう。 長篇小説「裏庭日記/孤独のわけまえ」 www.…
いままで刊行した作品を以下にまとめます。一部無料のものや、試し読みができるのもありますので、気に入った方はどうか買ってやってください。 mitzho84.hatenablog.com mitzho84.hatenablog.com mitzho84.hatenablog.com mitzho84.hatenablog.com mitzho84…
* 森からぬけでる。するとぼくらはいつも腹をすかし、手持ちはまるでなかった。ちいさなさまよいを味わい、土埃をまきあげる。それは雨の日であってもおろそかにしない。廃屋のなかや水のない涸れた貯水槽のうえでたびたび誓ったことだった。ぼくらは未踏の…
万人の共通コードは好悪の感情のみである。好きだ、嫌いだ以上に説得力を持った言葉を私は知らない。とにかくものを伝える以前に不要なコードが多すぎる(1988、「ロッキング・オン」岩見吉朗) 茹で蛙の梅肉ソース和え 懐かしい映画をいくつか観た、「ゼイ…
ここ数年間ずっと温めてきた短篇集をようやくだせることになった。もちろんのこと、オンデマンドでだが。データを喪った作品をあたらしく書いたほかは、「新バーテンダーズ・マニュアル」、「みずから書き、みずから滅びるってこと。」、「マイクロフォーン…
('07年「おかまやろう」改作) * あわやぶちこまれそうになった。──どこに?──留置場ではない、救済所でもない、失業者相談窓口でもない。おれのけつの穴へ、銃口でもなければ、パイプでもバイブでもないもの。骨のない、やわらくなったり、かたくなったり…
夜は若かった。かれらはそうでもなかった。車を走らせながら女たちを見た。酒壜をかたむけ、声をあげる。やがてひとりの女を口説いて連れ込んだ。かの女はなにもいわなかった。そのとき、ガラスのわれる音がした。なにかを毀したらしい。でも、その3人は気づ…
初秋だった。北部の田舎からでて、金が尽きてしまい、更生センターで寝てた。「ブルックリン最終出口」を読みながら。そこでは夕方の5時から朝の8時まで泊めてくれる。駅のすぐそばにあって、建物は小さいけど、心地よい清潔さがあった。労務者たちかあるい…
八月のこと。ちいさな建屋の、自動車修理解体工場のまえ、うづたかくされたもののあいまをぬうようにしてかれは冷やされた緑の、その露をなめてる。とにかく舌が乾いた。うしろになにかが立ってる。ふるい冷蔵庫で、あけはなたれたとびらをむこうにふるい、…
○ カウンター席に座って、横の止まり木を見る。小さな紙切れが名札のように貼ってあった。たしか、こんなふうなことが書かれてあったとおもう。――ふたりの少年がやってきて、おれのことで妹をつかまえていった。だからでていく。すぐに戻る。酒は置いておい…