テーマ「出会い」専用原稿用紙4枚
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題『息子の不在』
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登場人物
野崎榮(35)高村興信所・所員
庭瀬不二子(65)依頼人代理
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○高村興信所・相談室
庭瀬不二子(65)が椅子にかけている。そこへ別室から野崎榮(35)が入って来る。
野崎「本日はありがとうございます。ご予約の方ですか?」
庭瀬「いえ、でも代理なんです」
野崎「失礼ですが、どなたさまのですか?」
不二子、恥をかかされたかのように顔をしかめる。
庭瀬「息子の庭瀬清彦のです」
野崎「それでご相談は?」
庭瀬「息子には嫁がおりましたが、10年もまえに子供を連れて家もでまして、それ以来会えておりません。一方的に離婚届をだされ、行方知れずです。わたしも息子も孫の顔だけはとおもっております。探して頂きたいのです」
野崎「養育費はどうなっていますか?」
庭瀬「10年まえ、息子を孫に会わせる条件として一括払いしましたが、当時としても法外な金額だったとおもいます」
野崎「息子さんが来られないはどういった理由ですか?」
庭瀬「清彦は、もう4年ものあいだ癌で苦しんでいます。時間がないんです」
野崎、書類に相談内容を書き込んでいく。
野崎「相談料は結構です。手付金として10万円、調査料として、見積もって25万です。近日中に元配偶者の写真などの資料をご提供ください。息子さんのほうには高村がお電話差し上げますが──」
庭瀬「(遮って)いいえ、もう一度息子と話してみます」
不二子、慌ただしくでていく。
野崎、無表情で不二子の坐っていた椅子を見る。
書類を持って立ちあがり、相談室をでる。