立食パーティー完全攻略マニュアル。専門家に学ぶ「初対面の人とスムーズに会話する技術」

藤田尚弓さんトップ画像


さまざまな職種のビジネスパーソンにとって、初対面の人と親睦を深めるコミュニケーションスキルは重要です。ただ、商談やミーティングと違って明確な目的がない、例えば立食パーティーのような場で「どう振る舞っていいか分からない」「初対面の人と何を話せばいいか分からない」と感じる人も多いのではないでしょうか。

立食パーティーという場を“攻略”して、コミュニケーションスキルを鍛えるにはどうすればよいのでしょうか?

そこで今回は、数多くのビジネスパーソンのコミュニケーションに関する悩みを解決してきたコミュニケーションのプロ・藤田尚弓さんに、立食パーティーでの「立ち回り方」を教えていただきました。

藤田尚弓さんプロフィールカット
藤田尚弓さん。応用心理士。コミュニケーションコンサルタント。株式会社アップウェブ代表取締役。全国初の防犯専従職として警察署に勤務し、防犯関連のコミュニケーションデザインを担当した後、銀座のクラブ、民間企業を経て、現在に至る。All About 話し方・伝え方ガイド。日本社会心理学会、日本応用心理学会所属。著書に『いい人間関係は「敬語のくずし方」で決まる』(2021年、青春出版社)など。

立食パーティーはなぜ「居心地が悪い」のか

──コミュニケーションの専門家にこんなことを言うのもふさわしくないのかもしれませんが、立食パーティーって「居心地が悪く」ないですか? 自分はあの空間がちょっと苦手で……。

藤田尚弓さん(以下、藤田):分かります。立食パーティーって自分から能動的に動かないとコミュニケーションが取れない場なんですよね。もちろん有名人なら待っていても話しかけてもらえますが、そうでなければ自分から話しかけにいく必要がある。この「どう動くかが自分に委ねられていること」に、皆さん不安や居心地の悪さを感じてしまうのだと思います。

──たしかに……。

藤田:そもそも私自身、以前は会話に苦手意識を抱いていました。話すのが嫌だから、名刺の裏面に「自分がどんなことでお役に立てるか」を箇条書きにして、名刺交換の時に渡していたほどです。そこから会話が弾むこともあるし、「裏表のある女なんです」みたいな冗談も言えますし(笑)。

藤田尚弓さんインタビューカット

──(笑)。でも、藤田さんがコミュニケーションに苦手意識を抱いていたとは……意外でした。

藤田:そこからいろいろな職業を経験したり、コミュニケーションの研究を重ねたりするなかで、苦手意識を克服できましたから。

実はコミュニケーションって、統計的に見ると得意だと感じている人より苦手だと感じている人のほうが多いんですよ。だから、たとえ立食パーティーの場でも気後れする必要はありません。だって他の参加者もまた気まずさを感じているんですから。

──仲間はたくさんいるぞ、と。なんだか自信が出てきました。

知らない間に「話しづらい」と思われているかも? 非言語コミュニケーションの大切さ

──ここからは立食パーティーで活用できるコミュニケーションテクニックを掘り下げていきます。読者の皆さんが実践しやすいよう、時系列で「話しかける前」「話しかける瞬間」「会話中」「話し終える瞬間」の4つに区分けして紹介します。まずは「話しかける前」から。どんなことを意識すればよいでしょう?

藤田:まずは相手に話してもいい人だと思ってもらうことが大事です。そのためにも非言語コミュニケーションを意識してみてください。具体的には、仕草や姿勢など。例えば、下を向いていたり、スマホに目を落としていたりする人に話しかけようと思いますか?

──思いませんね。

藤田:思いませんよね。むしろ話したくないのかな、と思う人が多いはずです。立食パーティーの場ではありませんが、私も居酒屋やバーなどで一人で飲みたい時は、本やスマホを見ることが多いです。要は「今話したくない」というサインを周りに出しているわけですね。

──でも、立食パーティーだとスマホを見ないと手持ち無沙汰になってしまうというか……。

藤田:目を上げて、会場を見渡して、目が合った人ににっこり微笑んでみるのはいかがでしょうか。微笑むのが気恥ずかしい場合は軽く会釈してみるとか。これが「今話したいですよ」というサインにもなるので、そこから会話に発展するかもしれません。

また、姿勢を良くすることで、ある程度不安も払拭できます。姿勢を改善することが心身の健康につながる、という研究結果もあるほどです。

──姿勢が良くて微笑みを絶やさない人、話しやすそうですね。では、「話しかける瞬間」はどんなことに気を付けるとよいでしょうか? 知らない人に話しかけるのって結構ハードル高いですよね。

藤田:「こうやって話しかける」というテンプレを決めておくと安心できるかもしれません。テンプレは天気や服装など話の端緒になる「きっかけワード」と「目が合ったら話しかける」などの「きっかけアクション」です。

──テンプレ化すると能動的に動けそうですね。

藤田:話しかける際に一番の障壁になるのは「話しかけようかな、どうしようかな」という心理的な葛藤です。ケースバイケースではありますが、テンプレを決めておくと迷わず動ける確率は上がると思いますよ。

──なるほど、納得感があります。でも、うまく話しかけられたとしても、そこから会話を続けるのはなかなか難しいように思います。「会話中」にはどんなことを意識すればよいでしょう?

藤田:まずは先ほどもお伝えした非言語コミュニケーションですね。会話中は表情や声のトーンを特に意識するとよいでしょう。ぶすっとした顔、不貞腐れたような顔をしていないか、口角が下がっていないか。聞こえやすい声量で喋っているか。

人間って意識しないと口角がどんどん下がってくるんです。特に30代や40代になってくると加齢で筋肉も衰えるため、若い頃に比べてどうしても口角が下がりやすくなります。口角が下がると、自分はその気がなくても、相手からは不機嫌そうに見えてしまうので注意が必要です。

藤田尚弓さんインタビューカット
口角はつねに「上げる」ことを意識

──最近はオンライン会議で話している最中の自分の顔が見えるようになって「こんなに不機嫌そうだったっけ?」と驚いた人も多いのではないかと思います。

藤田:そうですね。欲を言うと微笑みをキープしたいところですが、少なくとも不機嫌そうに見えないレベルを目指していただければいいかなと思います。

コミュニケーションで言語と非言語が一致していない時、私たちは非言語の方を本当だと思います。例えば「すみません」と謝りながら不貞腐れた顔をしているような場合、相手は不貞腐れた顔が「その人の本心」だと判断するわけです。

ですので、立食パーティーでも表情や姿勢などには気を付けたいですね。

──自分の知らない内に「話しづらい人」「話したくない人」と思われてしまわないよう気を付けたいですね……。

クリエイティブ1

「質問攻め」になっていないか? 相手から気持ちよく話を引き出す質問術

──会話の内容そのものについてはいかがでしょうか? まずは質問を通じて相手のことを深掘りしていく必要がありますよね。

藤田:実は質問って結構技術が必要で。あまり上手でない人は、まるで“取り調べ”のように相手を質問攻めしてしまっていることがあります。

と言いつつも、お互い何を話せばいいか困ることも多いと思いますので、まずは相手が「はい」か「いいえ」で答えられるクローズド・クエスチョンから入るといいでしょう。「今日は迷わず来られましたか」とか。会話自体は「はい、来られました」などで終わってしまうのですが、最初はそれで大丈夫です。クローズド・クエスチョンをひとつふたつ重ねたら、今度は「はい」や「いいえ」では答えられないオープン・クエスチョンに移ります。例えば、「これまで参加したパーティーで、何が一番楽しかったですか?」のような。

ここからは話が具体的になるので、質問攻めにせずとも話題を広げていきやすいです。クローズド・クエスチョンで相手に話す準備をさせてあげて、オープン・クエスチョンで深い会話に入っていく、というイメージですね。

──「会話の準備運動」としてクローズド・クエスチョンを活用するイメージでしょうか。

藤田:そんな感じですね! 会話が軌道に乗ったら、うなずいたり、笑ったり、驚いたりとリアクションを入れながら、気になった話題を深掘りしながら、相手の話を傾聴すると、会話がどんどん続いていくと思います。

──質問攻め以外にもよくない質問のスタイルってあるのでしょうか?

藤田:「どこに住んでいるんですか?」のように具体的過ぎて答えづらかったり、「どのお店によく行っているんですか?」のように「値踏みされているのか……?」と不安にさせたりする質問はあまり良くないですね。

そこでぜひ意識いただきたいのが、「質問をぼかす」ことです。

──ぼかす?

藤田:「どこに」ではなく「どのあたりに」、「どのお店に」ではなく「どんなジャンルのお店に」という感じに。すると、相手も「渋谷区です」とか「フレンチです」みたいに答えやすくなりますよね。大前提として、現住所や「結婚しているか独身か」のようなデリケートな話題は相手が話すまで触れないのも大事なことかもしれません。

──なるほど! その方法なら“取り調べ”にならず、雑談として話を広げられそうです。ただ、そうして会話を続けても、ふとしたときに沈黙が訪れるタイミングはあるかもしれません。その時、どう対処すればいいのでしょうか。

藤田:話題の観点では、天気や会場の雰囲気、窓から見える景色やその日の大きなニュースなど「相手と自分が共有している体験」を意識して話すと盛り上がりを取り戻せるように思います。

あとは、当たり障りのないテーマを事前にストックしておいて、沈黙が訪れたらサッと切り替える、という手法も有効かもしれません。例えば「冬の思い出」や「スマホにまつわる失敗談」とか。ここも「相手と自分が共有している体験」を意識できるとよさそうですね。

クリエイティブ2

「飲み物を取ってきます」はNG? 相手に好印象を残す「会話の切り上げ方」

──話し方の面で気を付けておくべきことはあるでしょうか。初対面の人には礼儀正しくすべきだと思いますが、かしこまった感じで話し続けると、相手との距離が縮まらないような気もして……。

藤田:はい、「敬語の崩し方」も大切なポイントですね。タイミングとしては、雑談やプライベートな話題で盛り上がった時がチャンスです。そこで、「拝見します」を「見ます」のように言い換えるなど、漢字の熟語を減らすことを意識するといいかもしれません。ただ、頬杖をつくなど、姿勢まで崩してしまうと失礼な印象になるので、良い姿勢は最後までキープしましょう。

──たしかに、コミュニケーションが上手な人は敬語を自然に崩している気がします。藤田さんのやり方なら、無理にタメ口で話さなくてもフランクさが出せそうですね。最後に、「話し終える瞬間」のノウハウについても伺いたいのですが、どうでしょうか。会話が盛り上がっている時に切り上げるのって案外難しいですよね。自分から会話を打ち切ってもいいのか、どう打ち切れば失礼がないのか……などいろいろと悩んでしまいます。

藤田:ありがちなのは「飲み物を取ってきます」と言ってその場を離れるやり方ですが、あまりおすすめしません。人によっては「私との会話より飲み物を優先するのかな」と感じるかもしれませんから。

逆に、きちんと挨拶してその場を離れたほうが誠実さが伝わるでしょうね。例えば、「ちょっと他の人にも挨拶してきますね」のように。その際、「お話できて楽しかったです」とか「またお話しましょう」と一言を添えるとより良い印象を残せるはずです。

──言われてみればそうですね。でも気恥ずかしくてつい「飲み物を……」と口実を作ってしまうんですよね。

藤田:気持ちは分かりますし、私も以前はよく言っていました(笑)。でも、「終わり良ければすべて良し」の精神で、最後もしっかりと挨拶しましょう。

クリエイティブ3

職場の「挨拶+1」でコミュニケーション力を鍛えよう

──ここまで会話のテクニックについてご紹介いただきましたが、持ち物や服装、身に着けるもの、という観点で何か工夫できることはあるのでしょうか?

藤田:私は最近、パーティーには中森明菜さんの曲『DESIRE -情熱-』を意識した着物とブーツというファッションで出席しています。さらに胸のところに黒猫のブローチを付けて、帽子をかぶり、ちょっと変わったデザインのバッグを持っていくんです。あと、ワインエキスパートの資格を持っているので、資格を取得するともらえるぶどうの形のバッジを胸に付けたり。そうすると、必ずそれらをネタに話しかけられますね。「普段からお着物なんですか?」とか「猫がお好きなんですか?」とか「ワインがお好きなんですか?」とか。

藤田尚弓さん提供画像
パーティーでいつも着用するという衣装(藤田さん提供)
藤田尚弓さん持ち物カット
バイオリンをモチーフにした藤田さんのバッグ

分かりやすい持ち物を持っている人、目立つ服を着ている人って、「話のきっかけを作ってくれている」「認識しやすくしてくれている」と他の参加者への思いやりにもなるんですよ。

──そうした「パーティー用の持ち物」を普段から意識して集めておくのも大切かもしれませんね。事前準備として、その他にできることはありますか?

藤田:職場で「挨拶+1」を意識してコミュニケーションをとってみてはいかがでしょうか。「おはようございます」「お疲れさまです」のような挨拶に一言付け加えるんです。「お疲れさまです。今日は忙しかったですね」とか。コミュニケーション能力が鍛えられます。

それに、相手が自分に抱く印象ってとても曖昧なので、逆にそういうちょっとした雑談が交わされていないと何事もネガティブに受け取られる可能性があってもったいないです。「やらかした時に許してもらいやすい人」になるためにも(笑)、「挨拶+1」で職場の人間関係を良くしましょう。

──そういうコミュニケーションができる人って仕事もできる印象がありますね。

藤田:そうですね。対人コミュニケーションにおいては、自分ではなく、周囲に意識を向けることが大切です。意識を自分にばかり向けてしまうと、過度に人からの評価を気にしてしまい、緊張したり不安が強くなったりします。自分が周りにどう見られているんだろう、ではなく、周りを見る。例えば、一人でいる人を見かけたら、「話しかけられたら嫌かも」ではなく「話しかけたら喜んでもらえるかも」くらいに思えるといいかもしれませんね。

ここまで読んだ人なら分かっていただけるかと思いますが、コミュニケーションはセンスではなく技術です。立食パーティーや交流会などの場を活用して、どんどん上達させていきましょう。

クリエイティブ4


ハイキャリア層にはコミュニケーション巧者も少なくありません。コミュニケーション能力を鍛えながら、あなたもキャリアアップしてみませんか? マイナビ転職には「給与アップ」を実現する求人が数多く掲載されています。ぜひチェックしてみてください。

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取材・文:山田井ユウキ
写真:小野奈那子
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

※記事の一部内容について、1月14日(火)19:00ごろ適切な内容に修正しました。ご指摘ありがとうございました。

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