かしこ
かしこ
2025/08/25
露悪的な表現は多いけどいい漫画ですね
作者本人が収録作の一つ一つに丁寧なコメントを書いているので岡田索雲ファンにとってすごく読み応えのある短編集ではないでしょうか。その中でも表題作の「アンチマン」は群を抜いてインパクトがありますよね。この作品を読み込む為に、私もミソジニーについて調べたり、他の方が書かれた感想を読んだりしてみました。 ミソジニーとは女性軽視という意味です。主人公の溝口は道端で女性とぶつかったり、SNSで口論したり、卑猥な妄想をしたりする女性軽視のキャラが際立つように描かれていますが、男性らしさに囚われて苦しんでいるようにも見えます。SNSでの口論中の「女は戦えないから逃げるんだろ」という吐き捨てるようなセリフは、子供を捨てて父親からの暴力から逃げた母親と自分は違い、どんなに辛くても介護や社会的な重圧から逃げない、むしろ逃げられない、これは溝口自身も気づいてない本音ですよね。私が参考資料として読んだ本の中で「ミソジニーは男性にとっては女性軽視だけど女性にとっては自己嫌悪である」「女性から男性の自己嫌悪については見えていない」と書かれていて、アンチマンのテーマって男女それぞれにジェンダーバイアスがあることの社会の息苦しさなんじゃないかと思ったんです。戦隊ヒーローのジャスティスブレードから初の女性主人公が誕生した時に溝口の目が輝いたのは、ガラスの天井を壊したことへの憧れじゃないのかな。どんなに卑猥の妄想をしても実行することはなかったのに、父親への怒りが堪えきれず怒鳴ってしまったことがきっかけで起ってしまったことがこの漫画で一番悲しい。 露悪的な表現が多いけどアンチマンはいい漫画ですね。自分の解釈も自信はないけど、新作の「ザ・バックラッシャー」も面白く読めるかもしれないと思ってきました!
かしこ
かしこ
2025/08/17
SNSの繋がりが人智を超えた祈りになる
このキャリアで最新作が最高傑作ってすごくないですか?!これまで齋藤なずな先生の作品で個人的に一番好きだったのは「トラワレノヒト」でしたが、それよりも、ましてや去年SNSで大バズりした「遡る石」を超える傑作でしたね。 今はダムに沈んでしまった村の小学校に同時期に通っていた高齢男性2人が偶然に出会い、LINEのやり取りで繋がる物語。冒頭に描かれる松の木の実験、アメリカ在住歴が長かった男のピッグパーティーの思い出、メタセコイアと大杉のエピソード、全40ページの中に色んな要素が入っているのですが、2人が送り合ってるLINEのセリフが補足とリズムになり、それら全てを取りこぼさず最後まで読者を置いていきません。これぞ「漫画が上手い」ということです。LINEの送る側と送られる側の吹き出しの形がそのまま作中に反映されてるのも面白かった。 若者にとってのSNSは軽薄なもので繋がるのも離れるのも簡単ですが、この作品ではその繋がりを縁と捉えています。SNSはまさに細い糸のような縁なのかもしれません。切ってしまうのも大事にするのも自分次第ですが、2人の男にとっては樫の木にとっての菌糸と同じだとお互いが思い合える幸せな出会いでした。ラストは残された男の祈りが人知れず天に届いたと感じさせる神秘的なシーンでしたが、誰もそれに気づいてないのがいいですね。超現象が起きても目線はしっかりと現実を生きている人に向いているのが齋藤先生の作品らしくて流石だなと思いました。これからも最高傑作を更新して欲しいです!!
かしこ
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2025/05/12
いつ壊れてもおかしくない絆で共犯者になった風俗嬢たち
4人のピンサロ嬢が同じ店で働いていたボーイを殺しちゃうんですが、本当のところ男にトドメを刺したのは1人なのにお互いが罪をかばい合って共犯者になるという混沌とした話です。ただその絆というのも本名すら知らない者同士の脆いものというところがこの逃避行の今までにない面白みかもしれません。なぜ女達は団結するのかを考えるとやっぱり女として生きることの困難さを知ってしまったという共通点があるからかなと思いました。岡崎京子がpinkの後書きで「すべて仕事は売春である」と書いてましたが、それに気づいてしまった女の子は不幸かもしれないけどそうじゃない子が持っていない強さと賢さがあるんですよね。男を殺す理由になった真というキャラクターの存在も興味深いです。女だけど男のふりをして店でボーイとして働いているんですが、本心はどちらの性でもないのかもしれない。女しかいない共犯関係の中で一番の危険因子になりそう…。この逃避行は結末まで見逃せません!なかなか重ためなストーリーですがハトリアヤコさんの軽妙なタッチの絵柄が絶妙にマッチしていて読みやすくなってます。このコンビの組み合わせを思いついた人はセンスいいですね。
かしこ
かしこ
2025/01/14
漫画と映画を久しぶりに見返した!
2025年のお正月にNHK広島放送で映画「この世界の片隅に」が放送されたのは、今年で原爆投下から80年が経つからだそうです。この機会に私も久しぶりに漫画と映画をどちらも見返してみました。 やはり漫画と映画の一番の違いはリンさんの描き方ですよね。漫画では夫である周作さんとリンさんの関係について触れられていますが、映画ではありません。とくに時限爆弾によって晴美さんと右手を失ったすずさんが初めて周作さんと再会した時に、漫画ではリンさんの安否を気にしますが、映画ではそれがないので、いきなり「広島に帰りたい」という言葉を言い出したような印象になっていました。映画は子供のまま縁もゆかりもない土地にお嫁に来たすずさんが大人になる話に重点を置いているような気がします。それに比べると戦時下無月経症なので子供が出来ないとはっきり描いてある漫画はもっとリアルな女性の話ですよね。だから漫画の方が幼なじみの海兵さんと2人きりにさせた周作さんに対して、あんなに腹を立てたすずさんの気持ちがすんなり理解することが出来ました。個人的には男性達に対してだけではなく、当時の価値観で大事とされていた後継ぎを残せない自分に対しての悔しさもあるのかもしれないと思いました。けれどもあえて女性のリアルな部分を描きすぎない選択をしたのは、原作である漫画を十分に理解してるからこそなのは映画を見れば明らかです。 久しぶりに漫画と映画を見返してどちらも戦争が普通の人の生活も脅かすことを伝えているのはもちろん、すべてを一瞬で無いものにしてしまう核兵器の恐ろしさは動きのある映画だから強く感じた喪失がありました。そして漫画には「間違っていたら教えて下さい 今のうちに」と巻末に記載されていることに初めて気づきました。戦争を知らない私達が80年前の出来事を想像するのは難しいですが、だからこそ「この世界の片隅に」という物語があります。どんなに素晴らしい漫画でもより多くの人に長く読み続けてもらうのは大変なので映像化ほどの後押しはないです。これからも漫画と映画どちらも折に触れて見返したいと思います。
かしこ
かしこ
2024/11/19
最新話で綾瀬川が覚醒したぞ!!
最新話でついに!綾が覚醒をしましたね!エヴァで言うところの覚醒と同じ意味なので心配ではありますが、これから益々タイトル通りの「功罪」っぷりを発揮してくれることでしょう。 ということで単行本を読み返してみました。運動神経だけではなく、身体能力、そして頭脳と、スポーツをする為の全てに恵まれた小学5年生の綾瀬川。U12の日本代表でもエースに選ばれ、他の代表選手からも「俺の世代にはずっとコイツがいるんだ…」と恐れられる程の逸材っぷり。しかし綾瀬川の本心は只々みんなと楽しく野球がしたいだけ。そう、綾本人も自分の才能に傷ついているのです。でも誰もそれを知らない。いてもイガくらいかな? 私は野球に関して全くの無知なんですがそれでもハマるのは、これが「才能」の話だから。やはり圧倒的な才能は人を翻弄するんですよ!!恐ろしやです。 日本代表の並木監督があのまま綾の面倒を見てくれたらよかったけど、このまま足立フェニックスで限界まで投げ続けたらプロになる前に選手生命が絶たれそうで心配ですね。ストーリーの冒頭で何回か高校球児になった綾が出てくるけど「この試合で壊れてもいい…!」と言ってたのが気になる。それがどういう意味なのか。やけっぱちなんだろうか。今のところ理解者になりそうな人が大和しかいないけど、東京と大阪で距離もあるし、大和もプレイヤーになりたそうだし、どうなっちゃうんだろう…。 将来は大谷さんのようになってくれたらいいのにな〜と思うのも綾にとっては大きなお世話なんだよね。とにかくハッピーエンドであってくれ!!と願いながら読んでます。