これまで2回にわたり、線虫を使い尿1滴のにおいでがんの有無を判定する「線虫がん検査」の課題を検証してきた。がんの早期発見、早期治療のためのがん検診方法として、最も重要なのは、いかにがんがたくさん見つかるか(がんの発見率の高さ)ではなく、命に関わるがんを見つけてがん死亡を減らすか(がん死亡率の低下)だが、そもそも線虫がん検査のがん発見率は、商用化前に十分に検証されたのだろうか。運営会社は毎日新聞の取材に応じていないが、利用者向けにホームページ(HP)で公表している情報に基づき検証した。
HPには詳細な説明なし
がん患者を「がん」と判定する確率(感度):86.3% 健常者を「がんではない」と判定する確率(特異度):90.8%
運営会社のHPの「よくある質問」は線虫がん検査の感度、特異度をこう説明している。9割前後のこの数値を出されれば、ユーザー側はその精度に高い期待を抱くだろう。感度はがんを正しく「がん」と判定する割合、特異度はがんでないものを正しく「がんではない」と判定する割合を指す。感度が低いと、がんなのに「異常なし」と判定されてしまう偽陰性が増え、特異度が低いと、がんではないのに「がん」と判定されてしまう偽陽性が増える。大腸がんの便潜血検査のように一般的に使われているがん検診法では、検査で得られた値の中のある段階以上を陽性、それより下を陰性と分けるため、感度と特異度の関係は、どちらかを高くすると、一方が低くなってしまうトレードオフの関係にある。
線虫がん検査の感度、特異度の説明には、「日本がん予防学会(2019年6月)、日本人間ドック学会(2019年7月)、日本がん検診・診断学会(2019年8月)で共同研究機関が発表したデータを集計」というただし書きがある。3件の研究で報告されたデータに基づくという説明だが、その詳細は書かれていない。3カ所の病院で実施された研究を学会の抄録集などで確認した。いずれも運営会社のHPで「共同研究機関」に挙げられている施設だ。
病院Aでは、がん患者の尿検体29人分を調べた結果、陽性が28人だったとして感度96.6%を報告している。病院Bはがん患者の尿に加えて、健常者の尿も検査した。抄録によると、がん33人中29人陽性で感度87.9%。健常者109人中104人陰性で特異度95.4%だったという。病院Cも同じ研究方法だが、対象者数が大幅に増えた。がん患者221人中187人が陽性、健常者76人中63人が陰性で、感度…
この記事は有料記事です。
残り2650文字(全文3687文字)