所属する組織の不正を告発した人が報復を受けるようなことがあってはならない。勇気を出して声を上げた通報者を守る仕組みを強化したい。
消費者庁の検討会が、公益通報者保護法の見直しに向けた報告書をまとめた。政府は今年の通常国会で法改正を目指す。
三菱自動車のリコール隠しや雪印食品の牛肉産地偽装などが内部告発で発覚したのを受け、2006年に施行された。大企業などに通報窓口の設置を義務付け、担当者には通報内容について罰則付きの守秘義務を課している。
だが、実効性が疑問視されてきた。最大の問題は、通報者が十分に守られていないことだ。国連の作業部会も、日本政府に対策の強化を勧告している。
このため政府は、事業者が報復や不正隠しの意図で解雇などの懲戒処分をすれば、新たに刑事罰の対象とする方針だ。通報者を探したり、通報を妨げたりすることも、禁止行為として明記する。
また、懲戒処分が違法だとして通報者が訴訟を起こした場合は、通報との関連がないことを立証する責任を事業者側に負わせるルールも導入する。報復人事を抑止する効果が期待され、一歩前進ではある。
一方、見送られた対策もある。
報復としての配置転換は、刑事罰の対象には加えられなかった。異動が多い日本企業の慣行を考慮したためという。
だが、消費者庁の調査によると、通報を後悔した人が約2割おり、その半数近くが理由として人事異動や待遇面などで不利益な扱いを受けたことを挙げた。
通報目的ならば資料の収集・持ち出しを窃盗罪などに問わない免責規定の導入も、先送りされた。
しかし、通報者の保護より事業者の事情を優先するようでは、制度の信頼性は損なわれてしまう。
公益通報できるのは国民の生命や財産などを害する恐れがある違法行為に限られ、海外に比べ対象が狭い。報道機関など外部への通報には根拠の提示も必要だ。これらの要件は緩和されない。
公益通報が機能すれば、早い段階で不正が是正され、組織の健全性が保たれる。通報をためらわせない体制の整備が急がれる。