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関東大震災100年

1923年9月1日に発生し、10万人を超える犠牲者を出した関東大震災。100年後を生きる私たちが学べることは。

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息をのむ虐殺の場面 関東大震災絵巻 「悲劇を直視」精神つなぐ 東京・新宿、高麗博物館で公開

関東大震災発生時の様子が描かれた絵巻の一部。朝鮮人の可能性がある人たちが襲われ、血を流している=東京都新宿区で2023年7月3日、幾島健太郎撮影
関東大震災発生時の様子が描かれた絵巻の一部。朝鮮人の可能性がある人たちが襲われ、血を流している=東京都新宿区で2023年7月3日、幾島健太郎撮影

 突然襲った激震に人々が逃げまどい、もうもうと火炎が立ち上る中、残虐な行為を繰り広げている――。関東大震災の朝鮮人虐殺の様子が描かれたと思われる希少な絵巻物が、発生から100年の節目に東京都新宿区の高麗博物館で公開されている。生々しい絵が、私たちに問いかけるものは何だろう。

 絵巻物を見つけたのは専修大元教授で、高麗博物館前館長の新井勝紘さん。日本近代史・自由民権運動を専門としている。国立歴史民俗博物館に助教授として勤めていた当時、関東大震災の展示に関わって以来、朝鮮人虐殺を描いた絵画の収集・研究を続けている。「今になってまさか、こんな資料が見つかるとは」と驚きを語る。

 大学を退職後も、ネットオークションで古い資料を探すのが日課だった。一昨年2月、いつものようにパソコンを開くと、「関東大震災絵巻1・2 大正15年 肉筆 淇谷(きこく)」という作品が出品されているのを見つけた。すぐさま参加し、9万7000円で競り落とした。

 数日後、送られてきた絵巻物は2巻。縦はいずれも36センチ、横は1巻が14メートル、2巻が18メートル。一人でそっと開き、眺め始めた。絵は時系列に沿って描かれている。初めは平穏な住宅街の昼時の風景。その後、激震が襲い、家々が倒壊し電柱が傾いていく。逃げようとする人で道路が混雑し、火災があちらこちらで発生する。やがて、絵の一帯が猛火と黒煙で覆い尽くされ、船で川に逃れようとする人や川に落とされる人、竜巻のような火炎の下でもがき苦しむ人が描かれている。

 ここまでも痛ましい光景ばかりだったが、新井さんが仰天したのは、その先にあった虐殺に見える場面だ。関東大震災を描いた絵は多いが、虐殺の描写は極めて限られているからだ。

 1923年9月1日にマグニチュード7・9の地震が発生。「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」などのデマが広がり、各地で多数の朝鮮人や中国人らが自警団や警察に殺された。デマの拡散には時の内務省も関わった。政府の中央防災会議は2009年に公表した報告書で、虐殺の犠牲者は震災死者約10万5000人の「1~数%」と推計している。

 絵巻には、青い服を着た裸足の人物があおむけに倒れ、棒を持った軍人らしき人物に足蹴(あしげ)にされている。…

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