センバツの組み合わせ抽選会、初戦で花巻東(岩手)との対戦が決まったとき市和歌山の米田天翼投手(3年)は笑みを浮かべた。後日、理由を尋ねた。「注目されているチームとやりたかったから」、そして「怖さよりも楽しみの方が大きい」とも。既に高校通算本塁打数50本超、佐々木麟太郎選手(2年)ら強力打線を誇る花巻東に立ち向かうエースに頼もしさを感じた。
初戦の立ち上がり、ストライクが入らず投球の安定しない米田投手だったが、佐々木選手との対決では無安打に抑えて2三振を奪い、仕事をさせなかった。同じく注目だった4番・田代旭主将(3年)も、最終打席で適時打を許したが2奪三振。苦しい場面でも球を置きにいかず、中軸を力でねじ伏せる姿には気迫がみなぎっていた。
一方、5得点を挙げた攻撃では、きっちりと犠打を決められたのが大きかった。何度も市和歌山のグラウンドに足を運んだが、犠打練習の際の緊張感には圧倒された。ベンチ入りメンバー18人全員が成功するまで、終わらない。失敗したら、自分で決めたペナルティーを実行して最初からやり直し。犠打練習だけで3時間以上を費やすこともあった。
全員が長打を打て、大量点が狙えるチームではない。一球にこだわり、1点を積み重ねていく。三回は熊本和真選手(2年)の絶妙なバントが内野安打となり、続く松村祥吾主将(3年)も犠打を決めて好機を広げた。六回には森大輔選手(3年)も成功させ、共に得点に結び付いた。熊本選手の内野安打を含め、この試合の犠打は全てファーストストライクで決めた。指導者からの厳しい声も飛ぶ練習を間近に見るたび「めげずに頑張ってほしい」と心の中でつぶやいていただけに、大舞台で発揮された成果には心を動かされた。
昨秋の東北王者を破ると、2回戦では関東王者の明秀日立(茨城)には劇的なサヨナラ勝ちを収めた。しかし準々決勝では今センバツを制した大阪桐蔭に0―17で大敗した。
このような試合では緊張の糸が切れ、ミスが多くなりがちだ。そんな中、失策は一つのみ。熊本選手や森選手のファインプレー、代打・小川舜弦選手(3年)の一塁へのヘッドスライディング、追い込まれてからの岡久魁里選手(3年)の粘り――。誰もが2回戦の死闘からの連日の戦いで疲労していたと思うが、点差が開いても王者に全員で戦い抜いた。
試合後、「ここまで来られるとは思ってもみなかった」と半田真一監督は振り返り、「この悔しさを糧に夏、ここに戻ってこられるよう、一からやり直してくる」と続けた。2年連続でセンバツに出場し、強豪校を連破。小園健太投手(DeNA)―松川虎生捕手(ロッテ)を擁した昨年を上回る「2勝」を手にした。「小園・松川が抜けて弱なった言わさんぞ」で始まった今チームが周りの期待以上の結果を残し、「自信」と「もっとやらなければ」の思いを共に味わった甲子園。今後、市和歌山がどんな成長を見せてくれるかが楽しみだ。【橋本陵汰】
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