「ベックの分配法則に基づく“一般化圏の製造工場”」に対する補足事項/追加事項をこの記事に書きます。$`
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`$
内容:
ドクトリン
ここでは、「ドクトリン〈doctrine〉」という言葉を拡大解釈して、「構造物達の構造的集まり」という意味で使います。「構造的集まり」とは、集合に構造が載ったものです。典型的ドクトリンは、圏達の2-圏 $`\mbf{CAT}`$ です -- “大きい圏という構造物”達が集まって“とても大きい2-圏という構造的集まり”を形成しています。構造物が単なる集合で、構造的集まりが“集合達の集合”であるケースも除外していません。例えば、$`|\mbf{Set}|`$ も(広義の)ドクトリンです。
モナドの一般論
「最近のモナド論の概観と注意事項 1/2 // モナド論を分類すれば」において、モナド論(モナドの一般論)を分類しています。その分類基準は:
- 局所 vs. 大域
- 形式 vs. 非形式
さらに分類基準を追加しましょう。
- 2-圏ベース vs. 二重圏ベース
- 0-圏的、1-圏的、2-圏的、二重圏的
2-圏ベースのモナド論〈2-category-based monad theory〉は、モナド達が居る場所は2-圏だとするモナド論です。形式モナド論〈formal monad theory | formal theory of monads〉は、伝統的に2-圏ベースです。しかし最近、モナド達が居る場所は二重圏だとするモナド論が台頭しています。これが二重圏ベースのモナド論〈double category-based monad theory〉です。
背景となる2-圏なり二重圏を固定して、その対象をひとつ選びます、$`X`$ としましょう。対象 $`X`$ をルート対象〈基礎対象〉とするモナド達のドクトリンを $`\mrm{Mnd}(X)`$ と書きます。$`\mrm{Mnd}(X)`$ をどのようなドクトリンと捉えるかでモナド論を分類できます。
- 0-圏的モナド論〈0-categorical monad theory〉 : $`\mrm{Mnd}(X)`$ は、モナド達の集合だと捉える。
- 1-圏的モナド論〈1-categorical monad theory〉 : $`\mrm{Mnd}(X)`$ は、モナドを対象とする1-圏だと捉える。
- 2-圏的モナド論〈2-categorical monad theory〉 : $`\mrm{Mnd}(X)`$ は、モナドを対象とする2-圏だと捉える。
- 二重圏的モナド論〈double-categorical monad theory〉 : $`\mrm{Mnd}(X)`$ は、モナドを対象とする二重圏だと捉える。
固定した(しかし任意の) $`X`$ に対する $`\mrm{Mnd}(X)`$ を調べるのが局所モナド論〈local monad theory〉です。それに対して、$`X`$ を動かしてすべてのモナド達を相手にするのが大域モナド論〈global monad theory〉です。
公理的・形式的に進めるスタイルは形式モナド論〈formal monad theory | formal theory of monads〉、概念的事物に対する直感に依拠するなら非形式モナド論〈informal monad theory〉です。
2-圏ベースの1-圏的局所モナド論
「ベックの分配法則に基づく“一般化圏の製造工場”」では、半形式的な2-圏ベースの2-圏的大域モナド論を想定しています。が、ここでは少しグレードダウンして、半形式的な2-圏ベースの1-圏的局所モナド論を考えます。当座は、そこらへんから始めるのが適切かと思うので。
つまり、当座の我々のモナド論は:
- 半形式的 : ある程度は形式化するが、形式化にこだわるわけではない。
- 2-圏ベース : モナドは2-圏内に居ると考える。
- 1-圏的 : モナド達のドクトリンは1-圏だと考える。モナドとモナド射までを扱う。
- 局所 : ひとつのルート対象〈基礎対象〉を固定して考える。すべてのモナド達を同時に考えることはしない。
ただし、2-圏的大域モナド論に移行するより前に二重圏ベースに乗り換える必要がありそうです。2-圏ベースでは、圏類似代数系〈一般化圏〉のあいだの関手類似対応がうまく定式化できないし、相対モナドも扱えませんから。
$`\cat{K}`$ はベース(背景)とする2-圏だとして、$`X\in |\cat{K}|`$ とします。対象 $`X`$ 上のモナド〈$`X`$ をルート対象とするモナド〉達の1-圏は
$`\quad {_1\mrm{Mnd}_{\cat{K}} }(X)`$
と書きます。$`\cat{K}`$ が了解されていれば $`{_1\mrm{Mnd} }(X)`$ と略記してかまいません。1-圏であることも周知なら $`\mrm{Mnd}(X)`$ でかまいません。
上記の略記規則のもとで、例えば $`\mrm{Mnd}(\mbf{Set})`$ は集合圏上のモナド達の1-圏です。
$`\quad \mrm{Mnd}(\mbf{Set} ) = {_1\mrm{Mnd} }_{\mbf{CAT}}( \mbf{Set} )`$
$`\mrm{Mnd}(X)`$ は、“ルート対象を固定しないすべてのモナド達”に言及せずに直接的に定義できます。その定義は:
$`\quad \mrm{Mnd}(X) := \mrm{Mon}( (\mrm{End}_{\cat{K}}(X), *, \mrm{id}_X) )
`$
ここで:
- $`\mrm{End}_{\cat{K}}(X)`$ は、2-圏 $`\cat{K}`$ のエンド1-圏。これはホム1-圏の特別なもの; $`\mrm{End}_{\cat{K}}(X) := \cat{K}(X, X)`$
- $`*`$ は、2-圏 $`\cat{K}`$ の横結合
- $`\mrm{id}_X`$ は、対象 $`X`$ の恒等1-射
- $`(\mrm{End}_{\cat{K}}(X), *, \mrm{id}_X)`$ は、横結合をモノイド積とするモノイド圏
- $`\mrm{Mon}(\hyp)`$ は、モノイド圏内のモノイド対象〈内部モノイド〉達からなる1-圏
ルート対象〈基礎対象〉を固定すれば、モナドはモノイドとして定義できます。この場合、モナド射〈monad morphism〉はモノイド射〈monoid morphism〉です。
ベックの分配系からモナド達の1-圏
集合圏上のベックの分配系達の集まりを1-圏または2-圏に仕立てることは出来るでしょうから、ベックの分配系達のドクトリンを $`\mbf{BeckDist}`$ とします。$`\mbf{BeckDist}`$ がいかなるドクトリンであるかは気にしないで、対象(つまりベックの分配系)達の集合 $`|\mbf{BeckDist}|`$ に注目します。
「ベックの分配法則に基づく“一般化圏の製造工場”」で述べた構成法で、ベックの分配系から(P, S)-スパンを1-射とする2-圏(対象は集合)を構成できます。これは、次のように書けます。
$`\quad (P, S, \delta)\in |\mbf{BeckDist}| \mapsto \mrm{SPAN}( (P, S, \delta)) \in |2\mbf{CAT}| \In \mbb{SET}\\
\text{i.e. }\\
\quad \mrm{SPAN} : |\mbf{BeckDist}| \to |2\mbf{CAT}| \In \mbb{SET}
`$
ここで $`2\mbf{CAT}`$ は、大きい2-圏達の3-圏です。$`2\mbf{CAT}`$ の対象である2-圏は、ホム圏が小さいことを要求しません。実際、スパンの圏のホム圏は小さくないです。$`\mbb{SET}`$ は、とても大きい集合〈very large set〉を対象とする集合圏(それ自体はとてもとても大きい1-圏)です。サイズが大きくなる集合圏の系列は次のような文字種/フォントで表す(そういう約束)とします。
$`\quad \mbf{Set}, \mbf{SET}, \mbb{SET}`$
ベックの分配系 $`(P, S, \delta)`$ から作られる $`\mrm{SPAN}( (P, S, \delta))`$ は2-圏であり、その対象は集合です。対象達の集合もホム圏も大きい集合/大きい圏ですが、ホム圏のホムセットは小さいです(ホム圏は局所小な大きい圏)。サイズの考慮が面倒なら、サイズをあまり気にしなくてもいいですけどね。
2-圏 $`\mrm{SPAN}( (P, S, \delta))`$ とその対象 $`X`$ に対して、モナドの一般論から、モナド達の1-圏を作れます。
$`\quad \mrm{Mnd}(X) = {_1 \mrm{Mnd} }_{ \mrm{SPAN} ( (P, S, \delta) ) } (X)`$
上記の右辺は鬱陶しいし、左辺は情報が少なすぎます。ベックの分配系 $`(P, S, \delta)`$ から作られる、“$`X`$ 上のモナド達の1-圏”は $`\mrm{Mnd}_{(P, S, \delta)}(X)`$ と書くことにします。
製造工場のメカニズム
製造工場は、ベックの分配系を原材料〈入力〉として、スパンの2-圏〈出力〉を作り出せます。さらに次の工程として、スパンの2-圏とその対象〈2つの入力〉から、モナド達の1-圏〈出力〉を作り出せます。モナド達の1-圏 $`\mrm{Mnd}_{(P, S, \delta)}(X)`$ は、集合 $`X`$ を色(あるいは対象)達の集合とする一般化圏〈圏類似代数系〉達の1-圏だと解釈できます。
例えば、$`\mrm{Mnd}_{(\mrm{List}, \mrm{Id}, \iota)}(X)`$ は、集合 $`X`$ を色達の集合とする複圏〈色付きオペラッド〉達の1-圏です。色達の集合を固定しているので、複圏のあいだの一般的な複関手は出てきません。この事例はいずれ詳しく述べます。
“一般化圏の製造工場”は抽象度が高い工場で、製造〈出力〉されるものは、ひとつの一般化圏〈圏類似代数系〉ではなくて、一般化圏達が作る1-圏や2-圏です。出力が一般化圏達のドクトリンなのです。一般化圏達のドクトリンに所属するひとつの一般化圏を構成するのはまた別な話になります。
$`\mrm{Mnd}_{(\mrm{List}, \mrm{Id}, \iota)}(\mbf{1})`$ のように完全に具体化しても、これはまだモナド達の圏です。個々のモナド(この場合はモノクロ・オペラッド)を記述したり調べるのは、さらに別な作業が必要です。
製造工場は、$`\mrm{SPAN}(\hyp)`$ 、$`\mrm{End}(\hyp)`$ 、$`\mrm{Mon}(\hyp)`$ などの構成法(いわば製造機械)を組み合わせています。製造工場のメカニズムを理解するには、それぞれの構成法の入力と出力をハッキリと把握する必要があります。