あなたは“センベロ”という言葉をご存じですか?聞き覚えのない方のために説明しますと、「千円でベロベロに酔える」ことを言います。センベロできる店は東京都内にも数多く、特に赤羽・上野・立石あたりが有名なスポットではないでしょうか。
しかし最近、新たに「アツい」センベロスポットが台頭してきました。それは、鶯谷!鶯谷といえば、センベロ好きから注目を浴びているディープスポットです。駅前に飲み屋が建ち並びながらも、その裏手には由緒正しき神社がポツリ。さらに、少し歩いてみれば文豪ゆかりの地も現れる……なんとも不思議な街なのです。
そこで今回はセンベロに似ている「パブ」文化があるイギリス人のアダムさんにご同行いただき、「孤独のグルメ」でも紹介された、今注目の鶯谷のセンベロ店を紹介したいと思います。
今回の鶯谷センベロ巡りに参加してくれる、イギリス出身のアダムさん。実は彼、日本のセンベロ店が大好きという稀有な外国人なんです。
東京都内のセンベロスポットのみならず、大阪にまで足を運ぶこともあるとか。「十三で酒屋の角打ちが好き」とまで言っていたので、そのセンベロ愛は本物でしょう。
あまりのハマりっぷりが話題になり、テレビ番組に出演したこともあるそうです。
鶯谷駅の北口に降り立ったアダムさん。鶯谷は駅前からしてちょっとディープな景観なのですが……ハッキリ言ってものすごく目立ってました!
しかし、当の本人は鶯谷に馴染みがあったせいか、独特な街並みにもまったく動じず。
「通っていた整骨院が鶯谷にあって何度か来たことはあるんだよ。でも、そんなに飲み歩いたりはしてないから、今日は楽しみだね」と余裕の笑顔。
そんじょそこらの日本人よりもセンベロにこだわりを持っているアダムさん。今回は、兼ねてより鶯谷に注目していた彼が、前々から気になっていたという厳選3店舗を巡ります!
一軒目のセンベロ店は、鶯谷駅北口から徒歩10秒!24時間営業の『信濃路』です。作家の西村賢太も通い詰める、「鶯谷のセンベロといえばココ!」と呼び声高いお店。さっそく中へ入ってみましょう。
カウンター席とテーブル席が混在する店内。実は反対側にもう1フロアあり、そちらはカウンター席のみで、こちら側よりさらにディープな雰囲気が漂っていました。
我々は取材ということで座敷テーブルを用意されたのですが、アダムさんは「反対側のカウンター席が渋い!あっちに座りたい!」と、さっそくのセンベロフェチっぷりを披露していました。
壁に張られているのは、圧倒されそうな「これでもか!」という量の食事メニュー。気になる料理を注文しつつ、さっそくセンベロ飲みをスタートさせちゃいましょう!
アダムさんが一杯目に選んだお酒は焼酎のお湯割り。かなり濃いめの焼酎をグビグビ吞みながら、センベロに対する愛を語ってくれました。
「正直言って、僕がセンベロ店を好きな理由の一つが『外国人があまりいない』ということなんだよね。昔は新宿のゴールデン街なんかも行ってたけど、今はもう外国人がいっぱいで全然行かなくなっちゃった。英語しか聞こえないし……」
東京屈指のサブカル系ディープスポットと言われるゴールデン街も、もはやアダムさんにとっては外国人がよく行く観光地という感覚のようです。
ここで、信濃路名物のハムカツやスナップエンドウなどおつまみが登場!どれもアダムさんの口に合ったようで、おいしそうに食べてました!そして話題は、アダムさんのお気に入りの呑みルートのことに。
「いつも友達とセンベロ巡りする時は、どこの街に呑みに行くかを決めて、昼の12時くらいからスタートしてるよ。最近は大森から蒲田あたりのお店をまわるルートが好き。びっくりするくらい安い居酒屋があるんだよね。もうベロベロで、足腰立たないくらいまで酔っぱらって電車移動することもあるけど、すごく楽しいよ」
アダムさんのセンベロ語りは止まらない!
「イギリスには、パブ・クロールっていう文化があるんだ。パブでちょっと飲んで、また別のパブへとハシゴする飲み方だね。僕はこれが大好きなんだけど、日本はちょっとそういう飲み方がしづらいよね。席のチャージとかあるじゃない?長時間いないと損するようなシステムになってるよね」
確かに、それは日本人でも気になるところ。アダムさん、焼酎のお代わりをオーダーしつつ、まだまだ語る!
「センベロの店は、お通しがないところが多い。だから、好きなものをちょっと頼んで、ちょっと飲んで、また別のお店に移動して……これを、繰り返せるから面白いんだよね。一番苦手なのは、表参道とかオシャレなスポットの居酒屋。どうせ飲むなら、やっぱりこういう信濃路みたいなラフな店がいいよ」
一軒目の信濃路を堪能したところで、次の店へと向かいました。
ちなみに、この時点で16時前です。空が抜けるように青いよ……。
二軒目のセンベロ店に到着!鶯谷駅南口にある『鳥椿 鶯谷朝顔通り店』です。ドラマ『孤独のグルメ』で取り上げられたこともある、鶯谷きっての人気店。
カウンター席と小さめのテーブル席のみのこじんまりとした店内。しかし、このレトロさがアダムさんのツボにも入ったようで「こういう雰囲気、イイね!」と気に入った様子。
鳥椿でのアダムさんの一杯目は、冷凍レモン角ハイボール。
凍らせたレモンを皮ごと擦り降ろしたシャリッシャリ感がポイントです。
「これはパンチが効いてるよ!お酒とのバランスもいいね!」
だいぶ酸っぱかったようですが、それもまた良しといったところでしょうか。
おつまみには、鳥椿名物のチューリップのから揚げをオーダー。
アダムさん、メニューを見ただけではチューリップが何なのか、わからなかったようで「チューリップってこういうこと!?こんなから揚げは初めて見たよ」とビックリ。
チューリップのから揚げを食べながら、アダムさんはイギリス人と日本人の呑み方の違いについて語り始めました。
「僕がお気に入りの店のひとつに、チケット制のセンベロ店があるんだ。みんなでお金を1,000円ずつプールして、どんどんそこから払ってくシステムはわかりやすくていいよね。ほら、日本人って呑む時も自分の分しかお金払わないじゃない?」
ちょっと予想外の視点からの話です!
「イギリス人のスタイルだと、みんなでパブで呑んでる時は、呑み終わった人が他の人の注文もとって支払うんだよ。そして、次に呑み終わった人がまた同じように他の人の注文をとって……っていう繰り返し。でも、日本ってそういう文化がないんだね。初めて日本のパブに行った時、僕はみんなの分を買っていったんだけど、ほかの誰も僕の分を買ってきてくれないから驚いたよ(笑)」
なるほど……。そういう意味では、海外の方ってお酒は「みんなで楽しむもの」って感覚があるのかもしれません。逆に言えば、日本人は「自分のことだけ」ということか(笑)
アダムさん、2杯目は鳥椿ではお馴染みらしい「チンチロリンハイボール」に挑戦。ゾロ目が出たら無料、偶数目が出たら半額、奇数目が出たら倍額になるゲームなのですが、果たして……。
あぁっ!奇数だー!倍額だーー!!
「うわぁ、これは詐欺じゃないの!?」と眉をしかめるアダムさんでしたが……
やってきたのは倍量のハイボールでした!これなら倍額でも納得、という表情のアダムさん。
「こういう遊び心は面白いね。でも、このサイズのジョッキは手が痛くなる……そして、このジョッキがどこで売ってるのか知りたい(笑)日本製なのに、すごいアメリカサイズ!」
滅多にお目にかからないサイズのジョッキに興味津々。
そして、筆者の頼んだサワーのシステムにも驚きを隠せなかったアダムさん。
「えっ……まさか、セルフ!?自分で入れていいの!?」
そう、鳥椿ではサワー類やお茶割りは焼酎を自分が好きなだけ入れることができるのです。
「すごいね!これ、てっぺんまで全部入れちゃいなよ!!」
アダムさん、それもうサワーの意味がなくなっちゃうんで……。
さらに追加オーダーしたアボカドメンチに、アダムさん大興奮!
「こんなメンチカツ見たことない!お店のオリジナルだよね?」
この新食感のメンチカツ、味の方も絶品とのこと。
「アボカドといえば、オシャレ食材だけど、この発想はなかったね!」
そして、こういう凝った料理が楽しめるのが、日本のセンベロ店の良さであるとも。
「イギリスやアメリカの安い店っていうのは、安いだけに味もメニューも超普通。フィッシュ&チップスみたいな簡単なものしかない。でも、日本のセンベロ店のメニューは、安いのに本当に面白い。このアボカドメンチだって、表参道で出せばものすごくオシャレになるじゃない?それを敢えて、こういう店で出してるっていうのが凄い」
気が付けば、すでに3杯目に突入していたアダムさん。鳥椿をすっかり気に入ったようで名残惜しそうでしたが、ついに最後の店へと向かいます!!
最後に訪れた店は、『ビストロ酒場 5感』。鶯谷駅南口の陸橋を渡ったところにある、小さな飲み屋地帯に位置するお店です。
これまでの店とは違い、ちょっと小洒落た雰囲気のある5感。
鶯谷でこのテイストの店を出していることがアダムさんには不思議だったらしく、店長さんに質問を投げかけていました。
「なんで、鶯谷でこんな店をやろうと思ったの?敢えてのビストロって、この街では珍しいよね」
店長の太田さん曰く、この店は以前はカレー屋で、2年前にビストロに業態変更をしたのだとか。アダムさん、それを聞いて「じゃあ、カレー美味しいんじゃない?食べてみたい!」と、さっそくオーダー。おつまみばかり食べていたので、主食が欲しくなった様子。
5感での一杯目は、大ジョッキハイボール。それにしてもアダムさん、かなりの量を飲んでるにも関わらず平然としています。鶯谷の店はどこも酒が濃いはずなんですけどね……。
「でも、この辺でお酒が濃くないなんて有り得ないでしょ。ローカルルールみたいなものだし。この店も、見た目はオシャレだけどかなり濃いめでイイね」
アダムさん、カレーを待つ間に小エビとトマトの熱々アヒージョを食していました。
本格的なビストロメニューですが、値段は500円と格安。おつまみの価格も100円から300円がメイン。オシャレ系とはいえまさにセンベロ店なのです。
やってきました、5感名物のゴロゴロ野菜カレー!見るからに濃厚でどっしりしたタイプのカレーですね。
アダムさん、瞬く間に食べ進めていきます。
「これはおいしい!濃いめのハードカレーだね!すごくお酒に合う味がする。滅多にないタイプだよ」と大絶賛。
さらに、メニューにタコライスを見つけて、これもオーダー。
「沖縄料理屋以外では見たことないよ!実は大好物なんだ」
こちらの味も大満足だったようです。
実は、こういうオシャレな居酒屋は、アダムさんのセンベロセンサーに引っかかるかどうか心配だったのですが、嬉しいリアクションですね。さらに、5感が訪日外国人にとって貴重なセンベロ店ではないかという持論も述べてくれました。
「この店、外国人がすごく入りやすい店だと思う。さっきの二店はやっぱりどうしてもディープな雰囲気があるから、センベロ初心者の外国人にとってはスタートとしては入りづらいかもしれないね。オシャレだけど安いこういう店は、外国人のセンベロの入口としていいんじゃないかな。鶯谷で最初に入るお店なら、ここをお勧めするね」
5感を出ると、もうとっぷり日が暮れていました。
鶯谷で3軒のセンベロ店をハシゴしたアダムさん。さすがにちょっと酔っぱらってるものの、だいぶ満喫していた様子。「また今度、友達といっしょに鶯谷巡りしてみるよ!」と、陽気な足取りで鶯谷を後にしていました。
東京都随一のディープスポットと言われていた鶯谷は、今やセンベロ好きの外国人も大納得の呑みスポットとなっています。どの観光地とも似てない、独特のムードを持つ鶯谷。海外からお友達が遊びに来た時は、ぜひ案内してあげてくださいね!
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信濃路
- 住所 1-7-4, Negishi, Taito-ku, Tokyo, 110-0003, Japan
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鳥椿 鶯谷朝顔通り店
- 住所 1-1-15, Negishi, Taito-ku, Tokyo, 110-0003, Japan
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ビストロ酒場 5感
- 住所 1-3-20, Negishi, Taito-ku, Tokyo, 110-0003, Japan
1979年生まれの熟女ライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像技術者・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーとして活動を始める。好きな食べ物はプリン体を含む食べもの全般。卵の黄身だけは世の中で唯一食べられない。
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