- 山崎望 (編) [2015] 『奇妙なナショナリズムの時代――排外主義に抗して』岩波書店.
編者である山崎望先生より,ご恵送たまわりました.ありがとうございます.
本書は,ヘイトスピーチデモを前にした編者の「何か大きく異なるものが眼前に現れている、という衝撃」をもとに,「従来のナショナリズムにはない何かが「ある」、もしくは「欠けている」」,新たな形態としての「奇妙なナショナリズム」を,政治学者・社会学者が多角的に分析した論文集となっています(「おわりに」より).
山崎先生は序論,8章および「おわりに」を執筆されています.また,研究会などでたびたびお世話になっている清原悠さんが2章を執筆されています.
- 目次
- 序論 奇妙なナショナリズム?(山崎望) [1]
- 第1章 ネット右翼とは何か(伊藤昌亮) [29]
- 第2章 歴史修正主義の台頭と排外主義の連接――読売新聞における「歴史認識」言説の検討(清原悠) [69]
- 第3章 社会運動の変容と新たな「戦略」――カウンター運動の可能性(富永京子) [113]
- 第4章 欧州における右翼ポピュリスト政党の台頭(古賀光生) [139]
- 第5章 制度化されたナショナリズム――オーストリア多文化主義の新自由主義的転回(塩原良和) [165]
- 第6章 ナショナリズム批判と立場性――「マジョリティとして」と「日本人として」の狭間で(明戸隆浩) [197]
- 第7章 日本の保守主義――その思想と系譜(五野井郁夫) [233]
- 第8章 「奇妙なナショナリズム」と民主主義――「政治的なもの」の変容(山崎望) [277]
- おわりに(山崎望) [305]
序論では,既存のナショナリズムの類型が整理された上で,本書の分析対象となる現代ナショナリズムの「奇妙さ」が複数提示されています.とりわけ,「少数派ではなく、マジョリティこそがむしろ様々な層における「被害者」(もしくは潜在的な被害者)」としての自己定義をするようになっているという指摘(12頁)には,大変興味をそそられるところです.
また8章では,奇妙なナショナリズムへの対応にあたっての困難を乗り越える可能性が「民主主義の複線化」という視角から示されており,強く共感するとともに,同じくデモクラシー理論を研究する者として取り組むべき課題を再認識させて頂くことができました.
まだ全部を読めているわけではないのですが,理論と現実,思想と運動,過去と現在,日本と海外,さまざまな面からナショナリズムの変容が検証されているという意味で,繰り返し参照されるべき重要な一冊かと思います.じっくりと味読させて頂きます.