木走日記

場末の時事評論

鳩山さん、今はあなたと握手はできない

 7月3日金曜日、降ったりやんだりという曇天の梅雨空の下、東京は永田町の参議院議員会館の中に私はおりました。

 以前から約束の打ち合わせのために民主党参議院議員政策秘書氏と会館の食堂でランチをとっておりました。

 誤解なきよう先に補足しておきますと、不肖・木走は別に民主党関係者でも党員でもなんでもありません、私は本業のほうの私のIT会社で何人かの政治家のHP(ホームページ)を制作・運用しておりまして、運用している政治家の政党は民主党以外も混在しておりますが、つまり純粋にビジネスであります、この日のランチ・ミーティングも選挙へ向けてHPをリニューアルしたいという先方の要望で実現していました。

 ただ、ご存知の読者のみなさまもいらっしゃると思いますが、この政策秘書氏とは仕事抜きでもつきあいがあり、私が当ブログで民主党に関する情報を扱うときの情報源として彼の話をしばしば紹介してきたのであります。

 持参した企画書をもとに彼の最終的な意見を加えリニューアルの最終案ができあがり、まあ仕事の話をひとしきり終えたところで、私はコーヒーを口にしながら、今日、どうしても彼に直接聞きたかった話題を取り出しました。

 「ところで、代表の献金疑惑についてなんだが・・・」

 そこまで私が口のすると彼は口元に人差し指をたてながら、

 「場所をかえよう」

 と、暗にその話題はここではまずいと私にしめしたので、私たちは議員会館を出て、周辺を歩きながら会話することにいたしました。

 さいわい雨はかろうじてやんでいました。

 この日は東京都議選の告示日であり、午後一時頃ですが、この時間には永田町には政治家や秘書は彼のような留守番組をおいてはほとんどいません、みんな応援に駆けつけているのでしょう、会館の周辺も警備に当たる警官以外のひとかげはわずかでした。

木走「鳩山氏が明らかにした虚偽記載の内容は、90人分の名義で193件に上り、金額は4年間で2100万円を超える。彼は「普通預金を任せていた秘書の独断で行った」という不十分な説明で済ませようとしているが、国民が納得できる説明はなされていないと思うがどうか」
秘書氏「説明責任はさらに果たす必要があると思うが代表の説明に矛盾はないと思う、そもそも代表はお金に困っていないし、汚い手段を用いて金策する必要などないのだから」
木走「責任をとって辞任した公設秘書を含めて、鳩山代表の秘書グループのことについて教えてほしい、そもそも秘書仲間として面識はあったのか」
秘書氏「もちろん親しくさせていただいていた。そもそも代表の事務所には公設・私設併せて18人の秘書が働いていたが、辞職された第一秘書のK氏は、民主党秘書会の代表でもある政策秘書のH氏に次ぐナンバー2の立場だったと思う、代表の秘書として20年の経歴を持つ立派な人物だ。当然あつく信頼されて通帳もあずかっていたのだと思う」
木走「故人も含めた90人分の名義を借りて、しかもばらばらな入金日でばらばらな入金額を毎年・毎年、処理するのは途方もない事務作業だと考えるが、献金手段は当然「振り込み」だよね。だとすればATMを使ったのか」
秘書氏「さあ、どうだろう。5千円以下の小口はキャッシュもあるけどね、まあ今回は「振り込み」だろうね」
木走「振り込みだったら常識的に窓口ではなくATMによるよね、窓口で本人確認などできやしないんだから、かってに名義借りちゃってるんだから。しかしATMを使って名義を入力しながら振り込んだとしても、これだけの膨大な口数だ、とても第一秘書のK氏の「独断で行った」などあり得ないのではないか」
秘書氏「まあ部下の秘書に手伝いをさせたというレベルでは分業していた可能性はある。代表の「普通預金を任せていた秘書の独断で行った」という発言は、事務所として組織的に行ったわけではないという意味だろう」
木走「鳩山氏の報告によれば、第一秘書のK氏には鳩山個人名義の通帳(1000万円)を渡していたとある、今回の金額は4年間で2100万円を超えるとするなら、1000万では足らないよね、当然金額の補充を繰り返したのだと思うが、それは誰がどこからしたのか」
秘書氏「当然、鳩山氏本人が他の氏の資金から調達したんだろう、くどいようだが彼は資産家だからお金を裏金など汚い手段で集金する必要はまったくないんだから」
木走「とにかくその秘書の預かっていたとされる鳩山氏個人の通帳の記帳履歴を過去4年間に渡り洗い出せば、今回の虚偽記載の内容つまり90人分の名義で193件2100万円が、確かに鳩山氏個人の通帳から出ていたことの裏取りはできるよね。また、その通帳の金額の補填が過去どういう名義人から入金されたのか、その履歴もとれる。鳩山氏はやましいことがないのならば、今回利用されていたとされる個人通帳の記帳履歴を公開すべきではないのか」
秘書氏「必要があればそうするだろう。しかしまるで君は犯罪集団のようなイメージで鳩山事務所を疑っているようだが、私が知る限り、代表の事務所スタッフは素晴らしい人物ばかりの集まりだよ、この国のためになんとか政権交代を実現しよう、そのために鳩山由紀夫が代表として存分に戦えるように真摯にみんな働いているんだ。誰とは言わないが他の事務所とは雰囲気からして違う」
木走「君の立場から仲間を守りたい気持ちはよく理解する。でも窮鼠猫をかむ状態の自民党はこの問題をなりふり構わず攻めてくるだろう、来週にも国会で証人喚問しようという動きもある。うやむやにできる問題ではないのだから、鳩山氏に汚点がないのならなおさらここは徹底的な情報公開するしかないのではないか」
秘書氏「このタイミングでこのような問題が次々発覚すること自体、ある種の民主党狙い撃ちのような胡散臭さを感じてしまう。事実解明するのは当然だが、解明するその過程であることないこと民主を批判しボディブローのように民主支持率を下げていく、そんな狡猾な狙いにわざわざ代表を巻き込むわけにはいかない」
木走「この問題は今日告示の東京都議選にも影響するのではないのか」
秘書氏「確かに悪材料だが、今回の政権交代への民意の思いは強い、大きな潮流が逆転するようなことはないと判断している」

 20分足らずの会話でしたが、忙しい中、聞きづらい内容にも懇切に説明していただいた政策秘書氏には感謝して、私は永田町をあとにしました。

 別れ際、彼はこう付け加えました。

 「とにかく鳩山代表は汚いことはしていないと確信している。予定では今日夕刻6時頃に練馬駅前で代表が応援演説するはずだから、君の事務所のちかくだろ、是非直接彼の熱い弁を聞いてみてほしい」

 ふう、なんと今日、我が練馬に鳩山代表が来るのか、私は複雑な気持ちになりました。

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 第一秘書のK氏にすべての責任を押しつける鳩山氏の説明に納得できる国民は、一部のコアな民主党支持者以外いないでしょう。

 政策秘書の力説した「彼は資産家だからお金を裏金など汚い手段で集金する必要はまったくない」のは認めますが、だから架空記載が許されるわけではまったくないわけで、私が強く疑念に思うのは、その第一秘書のK氏が管理していたという個人通帳が使用されていたならばなぜその過去の記帳履歴を明らかにしないのか、これは極めて単純なことですが、記帳履歴を明らかにしない(できない)のは、これまでに鳩山氏が釈明した内容と過去の記帳履歴の内容に何らかの矛盾が存在するからではないのか、という可能性です。

 このたびの鳩山代表の個人献金疑惑、「ある種の民主党狙い撃ちのような胡散臭さ」(政策秘書氏)は私も感じるところでありますが、火のないところに煙は決してたたないのであり、自民党の二階氏や与謝野氏の疑惑を追及するという泥仕合を国会で演じても、民主党のためにはなりませんでしょう。

 仮に本当に政権交代が実現した暁には、野に下った自民党中心に、民主党の個々の国会議員のカネに関するチェックはこんなレベルではすまないでしょう、また、企業献金を廃止するなどときれい事を公約にかかげていますが、私の入手している情報では、自民党以上に企業献金に依存している議員が少なからずいるわけです、ある幹部議員など毎年億近くの総額の8割以上が企業献金であります。
   
 この問題にこだわると、民主支持派からは「利敵行為」と認定されそうですが、私が主張したいのは党派関係なく「悪いことは悪い」という一点だけです。

 なぜ自民ではなく民主の疑惑ばかり扱うのかと言われれば、そもそも自民など批判するには値しない、自民は一度下野して権力を失い、その権力を官僚とともに悪用してきた利権も失い、権力あるがために存在してきた利権政治家ども・魑魅魍魎達を一掃すべきであると考えています。

 健全な保守政党の再生は、この国に絶対必要だと私は考えていますが、そのためにはそのぐらいの荒療治が必要なのです。

 だからこそそのためにも政権交代の流れを確実にするためにも、鳩山氏は堂々と自身の疑惑を払拭するよう徹底説明の責任があると思うのです。

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 夕刻6時前、私は自分の事務所を出て練馬駅前に行きました。

 練馬駅南口の小さな広場では、民主党選挙カーが止めてあり、その周辺を、小雨の中、数百人の市民が集まっていました。

 選挙カーの上ではまだ若い民主党都議会議員候補が演説をしております。

 やがて鳩山代表が雛壇に上り、市民達に手を振ってマイクを握ると、大きな拍手が起こります。

 曇天の小雨の夕刻です、報道カメラのフラッシュがやまぬ中、鳩山氏は演説を始めました。

 約10分間ほどの演説の冒頭で、氏は痛烈な麻生発言の批判をしました。

 「麻生首相は本日、『政権交代と景気後退。同じ「コウタイ」でも意味は違う。政権交代したら景気後退しちゃう』という発言をしたそうですが、冗談じゃない、景気後退してしまったから政権交代が必要なんでしょ、誰が景気後退させてしまったのですか、みなさん、麻生自民党政権自身です」

 聴衆からは拍手と「そのとおり」のかけ声がかけられます。

 「税金の私物化し続けてきた自民党・官僚政治。格差の拡大を放置し続けてきた自民党・官僚政治。医療・介護・年金を壊し続けてきた自民党・官僚政治。

 もう、都民の生活は限界です、火ぶたは東京から・・・

 王手を掛ける首都決戦、あなたの決意が東京、そして日本を変えるのです。

 東京から政権交代です。」

 演説の途中、雨足が強くなってきましたが、聴衆が減る様子はありませんでした、また壇上の鳩山氏は関係者が後ろから差し出した傘をそれに気づくと傘をたたむよう目配せしておりました。

 雨の中傘もささずに集まっている聴衆に対する彼なりの配慮でありましょう。

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 雨中の演説となってしまいましたが、直接聞きまして迫力は十分ありました。

 「冗談じゃない、景気後退してしまったから政権交代が必要なんでしょ」、「都民の生活は限界です、火ぶたは東京から」、彼がキメセリフを言うたびに聴衆からは「そうだ」のかけ声や大拍手であります。

 正直、熱気を感じましたし、少し感動を覚えました。

 演説が終わると鳩山氏は候補者とともに雛壇をおりると、聴衆に握手を始めました。

 一人一人握手しながら「民主党をよろしく」「XX候補をよろしく」と声を掛け、聴衆からは「自民をやっつけて」とか「がんばってください」とか激励の言葉が飛んでいました。

 やがて私の前に鳩山氏は来ました。

 時間にして一秒もなかったでしょう、握手の手をださない私との間にちょっと気まずい空気が流れました。

 しかし、鳩山氏は何事もなかったようにすぐに私の隣の人と握手をし、笑顔で激励にこたえていくのでした。

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 鳩山さん、今はあなたと握手はできません、ごめんなさい。



(木走まさみず)