事業の趣旨・目的等について

 テクノロジーが急速に進化する現代において、企業がDXを推進するためには、IT人材の確保が不可欠である。経済産業省の調査(2019)によれば、2030年にはIT人材が最大45万人不足すると推計されており、特に「高度IT人材」及び「先端IT人材」の需要が急速に高まっている。

 観光業界においても、IT人材の拡充は極めて重要である。観光を主要産業とする沖縄県においても、観光産業は活況を呈している一方で、観光客の特定スポットへの集中や滞在期間の短さ、観光人材及びレンタカーの不足が課題となっている。さらに、日本の宿泊業は世界的に見ても生産性が低いという課題を抱えている。

 そこで本事業では、沖縄県において、「観光学科」を「観光IT学科」へと転換し、今後求められる「観光IT人材」の育成を推進する。現在の多くの観光学科は「おもてなし人材」の育成を中心としており、沖縄県内には観光ITに特化した学科を有する専門学校・大学がない。 観光業界で今後期待されるのは、「データサイエンス」を応用して多様な価値を創造できるIT人材である。観光業界においても、人流データなどの分析から具体的な施策を展開できる人材が必要とされる。本事業を通して次世代の観光IT人材の育成を推進し、地方におけるIT人材の育成と観光業の発展に貢献する。

当該モデルが必要な背景について

IT人材不足と観光業における現状・課題

(1)IT人材不足

 テクノロジーが急速に進化する現代において、企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためには、IT人材の確保が不可欠である。経済産業省の調査(2019)によれば、 2030年にはIT人材が最大45万人不足すると推計されており、 特に「高度IT人材」及び「先端IT人材」の需要が急速に高まっている。 IT人材の確保状況に関する企業への調査では、「IT人材の数が不足している」と回答した企業は、95.1%(1001名以上)、90.0%(300~1000名)、 59.4%(300名以下)であった(独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」)。また、国内のIT技術者数の約6割が東京圏に集中しており(国勢調査2015)、デジタル人材の7割強がIT企業内に偏在している(IPA「IT人材白書2017」)。

IT人材必要なITスキル職種の例
従来型
IT人材
・既存のITツールを運用することができる
・要求された仕様を満たすプログラミングが
できる能力
SE
プログラマー 等
高度
IT人材
・ITツールを使えるだけでなく、別のサービス
などと結び付けて新しい商品やサービスを生
み出すなどの応用能力
ITアーキテクト
ITスペシャリスト 等
先端
IT人材
・AIやIoT・ビッグデータ・クラウドなどの最先端IT技術を扱える
・上記を運用する上で求められるセキュリティ対策に関する知識
AIエンジニア
データサイエンティスト等 

(2)観光需要の高まりによる問題

 観光業界においても、IT人材の拡充は極めて重要である。コロナ禍の終息に伴い、観光需要が回復しつつあり、人口減少が進む中で観光は地方活性化の切り札である。観光庁では、観光立国の実現に向け、地方部の観光地の魅力向上や受入環境整備を通じて地方誘客を拡大していく必要があるとしている(R5観光庁「観光立国推進基本計画」)。

 観光需要が高まっている中、観光業は様々な課題を抱えている。観光を主要産業とする沖縄県においても、観光産業は活況を呈している一方で、観光客の特定スポットへの集中や滞在期間の短さ、観光人材やレンタカー不足が課題となっている(2023年8月14日読売新聞オンライン)。さらに、日本の宿泊業は世界的に見ても生産性が低いという課題を抱えている(R4一般社団法人日本観光経営学会「観光マネジメント・レビュー観光業における労働生産性」)。企業が成長していく中で観光IT人材の採用・育成が必要となるが、観光関連企業において、「IT・デジタル化の対応が不足している理由」としては、「必要性が認識されていない」が44.7%、「知識、スキルのある人材が不足している」が44.3%となっており、規模の小さな事業者では、顧客データの活用、従業員間の情報共有などが遅れている(観光庁「令和4年版 観光白書(2022年6月10日)」)。

 そこで本事業では、沖縄県において、「観光学科」を「観光IT学科」へと転換し、今後求められる「観光IT人材」の育成を推進する。

2.観光IT人材育成の必要性

(1)観光IT人材に関する教育の現状

 本校における観光学科は「ブライダル・ホテル科」であり、全国の専門学校においても、現在の多くの観光学科は、「おもてなし人材」の育成を中心としている。また、沖縄県内では、観光ITに特化した学科を有する専門学校・大学がない。

 観光業界で今後期待されるのは、「データサイエンス」を応用して多様な価値を創造することができるIT人材である。人流データなどの分析から具体的な施策を展開し、課題解決や新たなビジネスを創造ができる人材が必要とされる。

(2)IT人材育成の教育の現状

 データサイエンスは、数学的思考やデータ分析等によりデータから新しい価値を見出すためのアプローチであり、様々な分野へ応用展開でき、観光はデータサイエンスの応用が期待できる分野の一つである。なお、文部科学省の給付型奨学金の学科分類によると、理工農系に分類されている。

 企業のIT人材が今後身につけるべき重要なスキルについてのアンケート調査によると、上位は「AI」、「データサイエンス」となっている(IPA「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)」)。2020年から3年間にかけ数学・情報科学や情報工学の学科が最も増えているが(R5旺文社 教育情報センター「日本の大学数」)、データサイエンティスト学科は関東や近畿地方に集中しており、地方の専門学校が少ない。また、教育を推進するにあたり、「教員不足」「新しいカリキュラムと既存のカリキュラムをどう整理していくか」が大きな課題として挙げられている(R5旺文社 教育情報センター「数理・データサイエンス・AI教育の高まりを探る」)。

3.本事業の取組ポイント

(1)観光に関連するデータ分析スキルに焦点を当てる

 観光データの分析や顧客行動の予測など、観光業界で特に重要なデータ分析スキルに焦点を当てる。また、実例・実課題を用いた演習、沖縄県の企業や行政と協力したPBL方式(問題解決型学習)の授業、インターンシップ実習により、現場に即したスキルを身につける。

(2)教員指導書及び学科転換に関するマニュアルを作成

 教員指導書及び学科転換に関する実務マニュアルを作成し、他の専門学校においても理系転換を検討する際の指針としてもらうことを目指す。観光分野だけでなく、他分野(美容・農業)においても参考にできるものとする。

(3)企業からのニーズが高い観光IT人材を育成し、学生にとっても魅力のあるプログラムを開発

 観光関連企業へのニーズ調査やKPI測定により、企業及び高校生等からのプログラム評価を測定することにより、社会ニーズの高い学科設置プログラムを開発する。

開発するモデルの概要

(1)観光の基礎を学び、データ活用方法を重点的に学べる
 観光業界で働くために必要とされる観光ビジネスや観光デザイン等の観光分野の基礎知識を学んだ後、データ活用方法を重点的に学ぶカリキュラムとする。演習では、観光データの分析や顧客行動の予測など、観光業界で特に重要なデータ分析スキルに焦点を当て、現場に即したスキルを身に付ける。

(2)ノーコードツールを使用したITスキルの習得
 ノーコードツールを使用したアプリ開発などのITスキル学習を取り入れる。キャンペーンへの対応や混雑を可視化するアプリ開発など、観光において直面する課題に対して、ITツールを使用して課題を解決するスキルを身に付ける。

(3)実践的な授業
 沖縄県の企業や行政と協力したPBL方式の授業やインターンシップ実習により、実践的スキルの習得を目指す。データ活用により課題解決に向けて提案することにより、学生及び企業の双方が、就職・採用後をイメージできる。

設置学科の基本情報

基本情報内容・目標等
設置学科観光データサイエンス科
目指すべき人材像・観光業界のビッグデータを活用して新たな
ビジネス価値を創出できる人材
・観光業界の現場で即戦力として活躍できる
ITスキルを持つ人材
・ノーコードツールを活用して実際の課題を解決できる人材
目指す
キャリア
観光関連企業のIT部門
データアナリスト、データサイエンティスト
ITサポートスタッフ
学科人数40人
総授業時数850時間程度×3年間

目指せる資格

現在の観光学科で目指す資格

  • 観光プランナー
  • 総合旅行業者取扱管理者
  • 国内旅行業務取扱管理者
  • ホテルビジネス検定  等

転換後の観光IT学科で目指す資格

観光データサイエンス・IT
観光プランナー・データサイエンティスト検定
・OSS-DB技術者認定試験
・統計検定
・NCPA認定ノーコードパスポート
・データ分析実務スキル検定
・G検定・E資格(AI関連)
・ビジネス数学検定     等