立岩真也『良い死』
![良い死 良い死](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51C7tH2oVcL._SL160_.jpg)
- 作者: 立岩真也
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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2008年10月19日日経新聞掲載
この本のタイトルは「良い死」というのであるが、中身を読んでみても、良い死に方とはかくかくしかじかである、とは書いていない。そのかわりに、死にゆく人間をケアしたり、その死を早めたりする行為を考えていくときに、誰もが肝に銘じておかねばならないことが書かれている。
立岩は、安楽死や尊厳死を認める法律を作ることに反対する。そのように言うと、「自分で自分の死に際を決める権利を奪おうとするのか」と反論されるかもしれないが、立岩はそういうことを言いたいのではない。「生きたいなら生きられるという条件」がきちんと整えられてから、死ぬのもよしというふうにするべきだ、と主張するのである。だが、いまの日本社会で、そのような条件が整えられているとは考えにくい。
人は、自分はもう充分に生きた、残される人たちに迷惑をかけたくないと思って、みずからの生を絶とうと思うことがある。その思いそれ自体は否定される必要はない。それを認め、その心意気を賞賛しながらも、「あなたはそんなことはしなくてよい、それはあなたにはさせない」と応じていく道筋があるのではないかと立岩は言う。この細い通路にこそ、安楽死や尊厳死の強制へと傾斜する社会の流れを解体させる希望がある。
もちろん、末期医療をめぐっては、人手が足りないとか、お金が足りないといった壁が立ちはだかっていると言われる。だが立岩に言わせれば、それは実は幻想なのであって、お金の使い方はいくらでも工夫できるし、人手はむしろ余裕があると考えたほうがよい。死にゆく人々を支えるためのリソースそのものは、意外にも、裕福である。
だが、実際のケアの現場を見てみれば、お金が足りないし、人手もないという惨憺たる状況がある。ということは、高齢者や障害者を支えるための社会のシステム全体が、どこかおかしいということになる。本書は、それを考えるための絶好の研究書である。著者のゆったりとした文体にいらだつことなく、じっくりと読み進めれば、必ず何かが得られるだろう。
評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)
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