はにかんだ笑顔は満点!
【130話】
久しぶりに中学時代の友達のタキタから連絡がった。
俺はタキタに会うため待ち合わせの駅に向かった。
待ち合わせ場所に行くとタキタ、リンちゃん、マドカちゃんがいた。
「あれ!?リンちゃんとマドカちゃんも一緒?」
「いや~、たまたま二人と会って一緒に遊ぼうかって!108も問題ないよね?」
白々しいタキタだが、まぁ問題ないし騙されたふりをしよう。
「108くんの髪型ヤンキーぽいね!?」
リンちゃんが早速のツッコミを入れていた。
そう、オレは最近アイパーからアイロンパーマにイメチェンをしたのだ。
アイパーは失敗したけど、アイロンパーマの完成度はまずまず。
高校に入学してからつるむ連中が変わったせいか、俺の身なりも変わっていた。
・・・
俺たちは喫茶店でメシを食いながら、思い出話に花を咲かせていた。
「まさか、タキタとリンちゃんが付き合うとは思わなかったよ」
「まぁ、五度目の正直かな。リンは108のことが好きだったし、特に五度目は告るか迷ったけど、告って良かったぜ!」
タキタは照れながら、リンちゃんの思いを語った。
「私は108君に三度も振られたし、待っていても一向に返事はないし、そんな中、五度回の告白で気持ちが揺らいじゃった。でも、今でも108くんのことは好きです。友達としてだけどね!」
何だか、少し悔しい気待ちになった。
タキタはいい奴だし、めでたいことだと思うけど。
どこかで、まだオレのことを好きだと思っていてもらいたかった。
友達として好きってことは、オレが逆に振られた感じにも思えた。
・・・
「オレはこれからリンとデートすることになったから、108、マドカちゃんをよろしく!」
「おい!?そんな話聞いてないぞ!!」
「108君、マドカは可愛いから今がチャンスだぞ!」
二人は、強引にマドカちゃんを押し付け喫茶店を出て行った。
わかり易さがかえって緊張を増した。
マドカちゃんの顔がまともに見れない。
・・・
「108くん、高校生活は楽しい?」
緊張を割って話し掛けてくれたのはマドカちゃんだった。
オレは新しくできた友達の話やサッカー部に入部した話などをした。
引かれるのが嫌だったので、話半分程度で。
「へ~とっても楽しそうだね!ところで108くんって今彼女さんはいるの?」
少しは想像していたが、早速切り込んできた。
「最近、別れちゃって。今はアローン状態だよ。マドカちゃんは?」
「私も知っての通り、アローンだよ。好きな人はいるけど・・・」
マドカちゃんは、顔を赤らめ下を向いてしまった。
もちろん、まどかちゃんは可愛いし、良い子だと思うけど。
好きか嫌いかで言ったら好きな方だし、いろんなことが頭の中をよぎる。
そうだ!高校生活は自分に正直生きようと決めたんだ!
・・・
「マドカちゃんが好きな人って誰なの?」
オレはストレートに聞いてみた。
十中八九オレだと思っていたが、違ったら滑稽だ。
・・・
「108くんが知ってる人だよ。リンとタキタ君の友達かな」
これで、99%オレだと確信した!
「それじゃ、アローンどうし付き合っちゃう!?」
・・・
何だこの間は。
「あ、ごめんなさい。トイレに行ってくる」
マドカちゃんはうつ向いたままトイレに行ってしました。
直後、オレはなんて軽いノリだったと反省した。
これじゃ、まるで遊び人のセリフだ。
それとも、オレの大きな勘違いで別の奴が好きなのか?
共通の友達だと、ケンジ、パチオ、クワタ、シンジがいる。
パチオとシンジはマドカちゃんと顔見知り程度だから、でも高校に入ってから仲良くなったのかも。
いや待ってよ、ケンジはユウコちゃんがいるし、クワタが怪しいぞ!?
オレは勝手な妄想をしていた。
それにしても、マドカちゃん遅いな。
心配したオレはトイレをノックしてみた。
「マドカちゃん、大丈夫?」
トイレの中から、すぐに返答があった。
「うん。大丈夫だよ!」
あれ!?いつもの明るいマドカちゃんの声だ。
しばらくするとマドカちゃんは戻って来た。
「ゴメンね。嬉しくて泣いちゃったから、化粧直ししてたの」
嬉しいってことはOKなのか!?
「108くん、こちらこそよろしくお願いします!」
マドカちゃんのはにかんだ笑顔は満点だった。
To BE CONTINUED🔜
静寂の夜に響くサイレン~カキヤマ家の運命の夜
【129話】
静寂な夜、遠くからサイレンの音が鳴り響いていた。
それは、カキヤマ家の運命を変える夜の始まりだった。
カキヤマ家は、普通の家庭とは少し違っていた。
母はいつも息子たちの行動に頭を悩ませていた。
息子たちは家で暴れまわり、近所迷惑になることもしばしば。
特に息子の友達であるガンちゃんとダイスケは、地域でも有名な不良だった。
何度注意しても聞かない彼らに、母は困り果てていた。
その夜、母はついに警察に助けを求めた。
「息子達が家で暴れているので今すぐに来てください! はい。何度注意しても聞きません。はい。近所迷惑になるのでお願いします。はい。息子の友達ですが、すごい不良です。はい。よろしくお願いします!」
俺は部屋に戻り、カキヤマ母が警察か誰かを呼んだ可能性があると伝えた。
「マジかよ! あのクソ婆ァ!! ぶっ○してやる!」とカキヤマは叫び、木刀を持って立ち上がるが、フラフラしている。
ガンちゃんとダイスケも我関せずという感じで飲み続けている。
ただの脅しの親子喧嘩の可能性が大だが、酔っ払っているので最悪の結末も考えられる。
俺はカキヤマの腕を引っ張り、止めた。
「何するんだよ! 俺達の親睦会を妨げる奴は誰だろうと許せねぇ~」と言ってることがチグハグしているカキヤマは完全に酔っている。
「まぁ、先ずは一杯呑んで落ち着こう!」
「そうだそうだ! マブダチの酒が呑めねぇって言うのか? カキヤマぁ!」
「ナイスホローだダイスケ」と俺は心の中で叫んだ!
そして、ダイスケがカキヤマのグラスに焼酎を注ぐが、酔っているのでグラスから焼酎が零れる。
俺達は再び乾杯をし、その酒を飲み干す。
酔った俺たちは母親の呼んだ人のことをすっかり忘れて飲み続けているが、一瞬で我にかえる。
どこからともなくサイレンが聞こえる。
サイレン音は少しずつカキヤマ家に近づいてくる。
「ヤベー! 察だ逃げるぞー!!」
フラフラの俺達はバイクで逃走した。
警察には間一髪捕まらなかったが、カキヤマは後日警察署に呼び出され厳重注意を与えられた。
カキヤマが俺達のことかばってくれたのでお咎めはなかった。
酒を飲むと狂暴化する奴を俺は初めて目の当たりにした。
その夜の出来事は、俺たちにとって忘れられない教訓となった。
友情の絆、家族の絆、そして社会のルール。
全てが一夜にして交錯する中で、俺たちは何かを学んだのかもしれない。
カキヤマの母は、息子たちが更生することを願っていた。
そして、俺たちもまた、そんな母の願いを心の片隅に感じながら、少しずつ大人になっていくのだった。
あの夜のことを思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
青春の一ページとして、オレたちの心に深く刻まれている。
カキヤマ、ガンちゃん、ダイスケ、そして俺。
あの夜の出来事が、俺たちの人生にとってどれほど大きな意味を持っていたのかを、今ではよくわかる。
そして、オレたちはそれぞれの道を歩みながらも、あの夜の絆を忘れることはないだろう。
サッカー部のシメ会が終わったとダイスケに聞いた。
「タケヨシは本当にいい奴だ」と、俺はダイスケに説得し、とうとう3人で部活に出ることになった。
最初は気まずそうだったが、二人はすぐに打ち解け、笑顔で話すようになった。
練習に出て二週間が経った頃、ミニゲームが行われた。
二、三年生対一年生の対決だった。
俺はガタイが良いことを理由にディフェンスに回されたが、試合が始まるとすぐに二、三年生のレベルが低いことに気づいた。
小学生時代の同級生の方が上手いくらいで、中学時代に野球部だった俺から見ても技術がとても低かった。
後半からミッドフィルダーを任された俺は、その動きでチームを活性化させた。
次の日からは二、三年生に混じって一軍で練習するようになった。
一年生から選ばれたのは、俺とスザキ・ケンタの二人だけだった。
俺は小学時代の貯金だけで高一からレギュラーに選ばれたが、周囲のレベルの低さにやる気が起きなかった。
そんな日々が続く中、復帰後三週間でレギュラーに定着した俺は、試合だけ出るようになっていた。
試合前の一週間だけ練習に参加し、試合に出る。
次第に練習の回数が減り、週三、週二、週一と減っていった。
そして、ついに部長と副部長に呼び出された。
「108の実力は認めるけど、このままじゃ周りに示しがつかない。真面目に練習に出て試合に出るか、練習に出ないのであれば試合には出せない!」
彼らの言葉は正論だった。
試合に出ることは少しは嬉しいが、チームメートのレベルが低すぎてディフェンスの俺たちの負担が多く、あまり楽しくなかった。
試合は勝つから楽しいし、チームメートでも相手チームでも、自分より上手い人がいるから頑張り甲斐や倒し甲斐がある。
しかし、監督は素人だし、部長も副部長も俺より下手だし、チームメートとして認められるのはスザキ・ケンタとタケヨシくらいだった。
そのタケヨシは今や幽霊部員。
この頃の俺のモチベーションはゼロに近かった。
適当に相槌を打ち、俺は部室を去った。
その夜、部室を出た俺は、夕暮れのグラウンドに立ち尽くしていた。
風が頬を撫でる。
思い出すのは、小学生時代の楽しかったサッカーの記憶だ。
あの頃は、ただボールを蹴るだけで楽しかった。
今は何かが違う。
「ダイスケ…」俺は呟いた。
彼は俺の隣に立っていた。
彼も同じように夕焼けを見つめていた。
「何だよ、108ちゃん。こんなところで何してんだ?」
「いや、ちょっと考え事してたんだ」
「タケヨシのことか?」
「まあ、そうだな。あいつ、どうしてるんだ?」
「最近は全然来てないな。でも、お前が来てくれたおかげで少しはやる気出てきたよ」
To BE CONTINUED🔜
青春の夜~友情と涙の乾杯
【128話】
俺はガンちゃんの単車の後ろに乗り、カキヤマの家がある最寄り駅で待ち合わせした。
駅に降り立つと、カキヤマの原チャリが目に入った。
黒の『ホンダ・タクト』で、シートが狭くて二人乗りは厳しそうだ。
ダイスケは少し不安そうにカキヤマの原チャの後ろに乗り込んだ。
途中、コンビニに寄り道しビールとおつまみを買った。
カキヤマの家は平屋建ての古びたアパートで、見るからに年月が経っている感じがした。
玄関に向かうとカキヤマが手招きして、「こっちだ」と窓から入れるように案内してくれた。
部屋に入ると、6畳ほどの空間に炬燵が置かれていた。
俺たちはまずビールで乾杯した。
「この時間、親はいないの?」俺は尋ねた。
カキヤマは笑いながら答えた。
「7時ごろにババァが仕事から帰ってくるよ。オヤジは単身赴任だからほとんど帰ってこねぇし、楽にしてくれ!」
「カキヤマは兄弟いないの?」
「俺は一人っ子だよ」
「そうか、彼女はいるの?」
「いねーよ! お前等はいるの?」
「ガンちゃんはいるけど、俺はいねぇーよ。ダイスケは?」
ダイスケは冗談を言うように笑いながら答えた。
「俺は右手が恋人よ!」
みんなが笑う中、ガンちゃんが口を開いた。
「右手が恋人って悲しいなぁ~」
「そー言うガンちゃんは、彼女とはどーなの?」
俺が尋ねると、ガンちゃんは照れ臭そうに答えた。
「俺は見た目通りのピュアな男だから、S〇Xはまだだよ」
その瞬間、みんなの笑い声が部屋中に響き渡った。
マリコちゃんにはこのまま純白でいてほしいというガンちゃんの言葉に、俺たちはさらに大笑いした。
息をつく間もなく、俺たちは過去の思い出や未来の夢について語り合った。
カキヤマの部屋は古びていたけれど、その空間には友情の温かさが満ちていた。
ビールの泡が消えても、俺たちの笑顔と友情は消えることなく、夜は更けていった。
俺たちは、バイクや女の話で盛り上がっていた。
部屋は煙草の煙で霞み、笑い声が絶えなかった。
そのとき、「ドンドンドンドン」と扉を叩く音が響いた。
カキヤマが面倒くさそうにドアを開けると、そこには彼の母親が立っていた。
彼女の表情は疲れており、心配が顔に出ていた。
「もう遅いから、そろそろ終わりにしなさい!」
時計を見ると、もう8時を過ぎていた。
母親が言うのももっともだ。
俺たちは飲酒に喫煙、さらに見た目もまるで『ビーバップハイスクール』の登場人物みたいだった。
「うるせーんだよ! ババァ!!」
カキヤマが吠えて扉を閉めた。
母親にも、近所にも迷惑をかけていることに気づき、そろそろ帰ろうと俺は席を立った。
しかし、カキヤマが俺を引き止めた。
「108ちゃん、あと一杯だけ飲もうぜ!」
ガンちゃんとダイスケを見ると、彼らも帰る気はなく、飲み続けていた。
俺は一旦座り、あと一杯だけ付き合うことにした。
4時間も飲み続けているオレたちは相当酔っていた。
酔った勢いで、カキヤマは親父の話をし始めた。
彼の親父は女癖が悪く、愛人がいるらしい。
そのせいで、カキヤマと母親は家を追い出され、このアパートにもう5年も住んでいるという。
「いつか親父を○そうと思ってるけど、生活費として毎月10万円をババァの口座に振り込んでるから、○しちゃったらババァが生活できないだろ…」
カキヤマの目から涙が零れ落ちた。
その姿に、俺たちは言葉を失った。
「俺も母子家庭だから大変なのはわかるが、親父を○しちゃったらお前と母親の人生が終わるぞ!」
ダイスケが真剣な顔で言った。
ガンちゃんは拳を握りしめ、「○さなくてもボコボコに殴っちゃえば良くねぇか!? 何だったら俺も加勢するぜ!」と熱く語った。
「ガンちゃん、それってオヤジ狩りだよ。お前も補導されるし、学校にバレたら退学になるぞ!」
俺はもっともなツッコミを入れた。
カキヤマは深く息をつき、「お前らの気持ちは嬉しいけど、俺の問題だから。ゴメン、テンション落ちるようなことを言っちゃって」と謝った。
「おし! 飲みなおすぞ!!」
俺たちは再びどんちゃん騒ぎを始めた。
何度もドアの外からカキヤマの母親の声がうっすらと聞こえたが、音楽をガンガンにかけていたので、あまり気にせず飲み続けていた。
酔いが回り、ション弁に行きたくなった俺は、部屋の鍵を開けて廊下に出た。
用を足して部屋に戻ろうとすると、奥の部屋からカキヤマの母親が誰かと話す声が聞こえた。
俺は好奇心に駆られ、声のする部屋のガラス窓を少しだけ横にスライドさせ、中を覗き込んだ。
そこには、カキヤマの母親と見知らぬ男が話している姿があった。
彼の顔は険しく、何か深刻な話をしているようだった。
俺は息を潜め、その場を離れた。
戻ると、カキヤマが心配そうにオレを見た。
「大丈夫か、108ちゃん?」
「うん、ただのトイレだよ」と笑顔で返したが、心の中ではカキヤマの母親の話が気になっていた。
一体、何があったのだろうか。
俺たちの青春は、バイクや女だけでなく、家族や未来に対する不安も抱えていた。
それでも、俺たちはその瞬間を全力で生きていた。
To BE CONTINUED🔜
マリコの笑顔が輝く理由
【127話】
マリコの清楚な雰囲気が一際目立っていた。
「見た目とか特徴とはどんな感じですか!?」と、マリコが尋ねた。
俺は内心で笑いを堪えながら答えた。
「見た目はモロ貴女ですが、口が裂けても言えねぇ」
彼女の目が少し大きく開いた。
「マリコと同じ清楚系だってよ!」
「私が清楚系!? そんなことないよ~」と、彼女は笑顔で返す。
その笑顔はまるで初夏の太陽のように眩しかった。
そーだろうね、当校と比べたら貴女の学校の生徒は皆清楚系だよね。
俺は心の中で思ったが、口には出さなかった。
「そーだなぁ、マリコちゃんと同じくらいの髪の長さだったかも」と、俺は適当なことを言ってみた。
マリコの髪は肩までの長さで、風に揺れる姿が印象的だ。
「同級生はショートヘアーだから、やっぱり先輩ですね!? …ただ私も入部したばかりで先輩とあまり話したことないから…」と、マリコが困ったように言った。
「だったら、大丈夫だよ。自分で声を掛けてみるよ。マリコちゃん、ありがとう!」
俺は彼女の不安を和らげようと努めた。
「協力できなくってごめんなさい」と、彼女は申し訳なさそうに言った。
でも、同級生がショートヘアーで良かった。
なんとか誤魔化せたみたいだ。
「じゃあ、私は授業があるから先に行くね!」
彼女はそう言って去って行った。
その後ろ姿はどこか切なげで、俺の心に小さな穴を開けた。
それにしても、世の中には不思議なことがあるもんだ。
ガンちゃんとマリコちゃんのカップルは、日本七不思議にしてもおかしくない。
二人の関係は、まるで絵に描いたような青春の一コマだった。
「ガンちゃん、とりあえず一服するか!?」
俺は緊張感から解き放たれ、煙草を吸いたくなった。
「それじゃ、星山商店に行くか!?」と、ガンちゃんが提案した。
星山商店は、高校から徒歩3分の駄菓子屋で、煙草が吸える貴重な場所だ。
いつ行っても、誰かが煙草を吸っている憩いの場だった。
俺たちは飲み物を買って、奥の喫煙スペースに向かった。
店内は意外と広く、奥の庭スペースに椅子が10席ほど置いてあった。
あれ!? 朝一から二人もいるぞ!?
サッカー部のダイスケとカキヤマだった。
「なぁ~に、お前たちもサボりか!」
ガンちゃんは二人に話し掛けた。
「学校じゃ吸えねぇからなぁ~。ところで、ガンちゃんはサッカー部は辞めたの?」と、ダイスケが尋ねた。
「あぁ、ノリでやろう思ったけど、オレにはスポーツは向いてねぇな。最近地元の暴走族に入ったし」と、ガンちゃんは答えた。
「へ~!? ガンちゃんは確か〇〇中出身だからチームは〇〇天使だよね! オレ、〇〇連合なんだけど知ってる?」と、カキヤマが興味津々に聞いた。
「おぉっ! 知ってるよ隣町の族だからなぁ。カキヤマだっけか!? 単車は何乗ってるの?」
ガンちゃんの目が輝いていた。
「オレはまだ無免小僧だから原チャに乗ってるよ! でも免許が取れたら『GS400』に乗るつもりよ!」と、カキヤマが自慢げに言った。
ガンちゃんとカキヤマは、単車の話で盛り上がっていた。
その姿を見ながら、俺はこの青春の一瞬一瞬が、いつか懐かしく思い出される宝物になるだろうと感じた。
青春は一瞬の煌めきだが、その輝きは永遠に心に残るものだ。
放課後の校庭に立つと、懐かしい風が吹き抜けた。
若干の緊張感が漂う中、俺はタケヨシの中学時代の因縁男のダイスケと再会する。
彼の悪そうな目つきは、以前あった時のままだった。
「ダイスケだよな!? 部活は行ってるの?」と俺が声をかけると、「行くわけねぇじゃん! 108ちゃんは?」と返ってくる。
その瞬間、俺は彼との距離が一気に縮まるのを感じた。
「だよな。オレもシメ会が終わったら出るつもりだけど、ダイスケは?」と問いかけると、「オレも出るよ。サッカーは好きだし。
…ところで108ちゃんはタケヨシと仲良いの!?」とダイスケが尋ねてきた。
「まぁ、たまに遊んでるけど。二人は仲悪そうだね?」
「いや~。中坊の時にタケヨシの中学とオレの中学のサッカー部で乱闘があってよ。あいつの顔面ボコボコに蹴りまくってやったよ!」
ダイスケの話によると、その乱闘は練習試合の時に北中のタケヨシとダイキがガンをつけてきたのが原因だった。
話の流れから、ヤンキー数が多い東中が勝ったのだろう。
最初にガンを飛ばして手を出したのはタケヨシ達だったが、ダウンしている相手に容赦なくタコ殴りするダイスケもやり過ぎだと思った。
「108ちゃん、今日は暇してる!?」
突然、カキヤマが話しかけてきた。
「まぁ、放課後だったら暇だけど何で!?」
「俺ん家に遊びに来ねーか? ガンちゃんも来るってよ!? ダイスケも来るよな?」
「おう! 108ちゃんも行こうぜ! カキヤマの家には酒も大量にあるぞ!」
やることもないし、放課後オレたちはカキヤマの家に遊びに行くことにした。
カキヤマの家に着くと、部屋には既に数人が集まっていた。
酒が並び、笑い声が響く中、俺はどこか不安な気持ちを抱えながらも、その場に溶け込んでいった。
「108ちゃん、こっち来て飲もうぜ!」とダイスケが声をかけてきた。
「いいよ、でもほどほどにしとけよ」と俺は笑いながら返した。
時間が経つにつれて、俺はタケヨシとの因縁を思い出し、心の中で葛藤が生じていた。
ダイスケの暴力的な一面を知りながらも、彼を友人として受け入れるべきかどうか迷っていた。
しかし、その一方で、ダイスケの背後にある複雑な感情や過去の出来事を理解しようとする自分もいた。
To BE CONTINUED🔜
ドキドキの駅待ち合わせ~15分早い朝の奇跡
【126話】
俺とガンちゃんは、いつもより15分も早く駅で待ち合わせをした。
今日はいつもと違う、特別な予感がしたからだ。
5分前に駅に着いて、ガンちゃんを待っていると、あの子がオレの前を通り過ぎた。
彼女の姿を見た瞬間、胸がドキッと高鳴った。
清楚でありながらも、どこか神秘的なオーラを纏った彼女は、一瞬で改札の中へと吸い込まれていった。
「今がチャンス!」と心の中で叫んだ。
彼女は一人だったし、追いかけて呼び止めようかと一瞬迷ったが、駅のホームで告白する勇気はなかった。
やっぱり、ガンちゃんが来るまで待って、橋渡しをしてもらうのが利口だと思った。
そして、5分後にガンちゃんと無事に合流した。
「108、とりあえず一服するべ!」とガンちゃんが言った。
「そんなことより、清楚系弓士が5分前にオレの前を通り過ぎたぞ!」
オレは興奮気味に答えた。
「マジか!? それで声掛けなかったのか?」
ガンちゃんは驚いた様子で聞いた。
「一瞬だったからな~」
オレは肩をすくめた。
「そうか! オンナとは8:15に〇〇駅の改札口で待ち合わせだから、一服する時間はまだあるぞ!」
ガンちゃんは時計を見ながら言った。
俺たちは駐輪場の階段下で一服してから、7:58の電車に乗った。
工業高校の最寄り駅までは3駅で約17分。
この時間帯の電車は混み合っている。
始発から28駅目なので、座れたら奇跡だ。
車内に乗り込むと、髪型が派手な奴が話しかけてきた。
「二人は機械科の108くんとガンちゃんだよね!? オレは〇〇科のカンダ・ショウ。よろしくね!」
爽やかな彼は、ウインクをしながら挨拶をしてきた。
ベビーフェイスで整った顔は、とてもモテそうだ。
髪は肩まで伸びていて、女子みたいにヘアゴムで髪をまとめている。
髪色は、ピンクとグリーンのメッシュが入っている。
ビジュアル系のバンドマンのような雰囲気だ。
「ショウくん、よろしく! 俺のことは108ちゃんって呼んでよ!」
俺は笑顔で返した。
「OK! じゃあ、オレのことはカンチャンって呼んでよ!」
ショウくんも笑顔で答えた。
その時、後ろから声が聞こえた。
「ショウくん、おはよう! 今日も一緒に学校に行こうね~」
「うん! 一緒にいこー! エリナちゃん、アキコちゃん、マホちゃん!」
ショウくんは嬉しそうに答えた。
「それじゃ、108ちゃん、ガンちゃん、またね~」
女子たちは明るく手を振りながら去っていった。
「あの3人組って二年の女子だべ!?」
ガンちゃんが驚いた声を上げた。
確かに同高の貴重な女子。
うちの高校には約50人の女子がいる。
一学年約10人から30人ほど。
うちらの同期は15人。
その中で一人は、同郷のレイコちゃん。
二年は20人でキレイな先輩も3人いる。
その3人がカンチャンに声を掛けた『エリナ、アキコ、マホ』だった。
「ありゃー3人とカンチャンやってるべ!?」
ガンちゃんが羨ましそうに言った。
「そりゃわからんけど、あいつは相当モテるキャラだよな~」
俺は肩をすくめながらも、どこか羨ましさを感じていた。
心の奥底で、あの子への想いがますます強くなっていくのを感じた。
果たして、俺の恋はどうなるのだろうか。
ガンちゃんと一緒にいることで、少しでも彼女に近づける日が来ることを祈りながら、電車は次の駅へと向かっていた。
俺の心はドキドキと高鳴り、頭の中はある一人の女子のことでいっぱいだった。
彼女は清楚系弓士、弓道部に所属する美しい少女。
は彼女に告白しようと決意していたが、その一歩を踏み出すのが怖かった。
「で、108は、清楚系弓士に彼氏がいなかったらコクるの!?」
友人のガンちゃんが問いかける。
「もちろん、いなければチャンスだけど、怖さも強い」
俺はため息をつきながら答える。
「ふふん、何が怖いんだよ?」
ガンちゃんは軽く笑う。
「一つ、振られるのが怖い。同じ電車、隣の学校、噂になるのが怖い」
俺は真剣な表情で続ける。
「二つ、最近何を思ったかアイパーにしてしまったので、告白するにはハードルが高い」
ガンちゃんは驚きの表情を見せる。
「アイパーかよ! でも、清楚系弓士はきっと爽やか系ボーイが好みなんだろう」
「そうだな。コクるにしても、髪型を爽やかに変えてからにしよう」
俺決意を新たにする。
「今日じゃないけど、近々面と向かってコクるよ!」
最寄り駅に着くと、俺とガンちゃんは改札口に向かう。
相変わらずスローモーションのように感じる時間。
生徒全員に抜かれ、二人は最後に改札を出る。
「えっ!? まじか!? そんなことってある!?」
俺は驚きの声を上げる。
「おう! 待ったか!? マリコ!」
ガンちゃんが声をかける。
改札口を出た先にいたのは、清楚系弓士だった。
俺は困惑した。
ガンちゃんの彼女は清楚系弓士!?
それとも清楚系弓士はガンちゃんの友達!?
この二人は似合っていない。
アイパーのオレが言うのも何だが、不似合いカップル日本一だと思う。
「ガンちゃん、おはよう!」
清楚系弓士はガンちゃんに笑顔で挨拶をした。
そして俺を見て軽くお辞儀をした。
戸惑いながらも俺も清楚系弓士に会釈をした。
「マリコ。昨日話した108」
ガンちゃんが清楚系弓士に俺を紹介した。
「はじめまして。108です」
名前を言うのがやっとだ。
「108くんって、うちの高校でも有名人だよ!」
清楚系弓士は驚いたように言った。
その瞬間、俺の心は一瞬止まったように感じた。
彼女の澄んだ瞳が彼を見つめ、その笑顔が眩しかった。
俺はどう答えればいいのか分からなかった。
俺のターゲットは君ですって言える訳がない。
何て答えればいいのだ!?
でも、さっきマリコちゃんを追いかけなくて良かったよ~。
ナンパ(コクった)相手が友達の彼女って笑えない。
「そうそう、電車通学の一年生弓道部の女子は二人しかいないから、先輩の可能性もありますよね!?」
マリコちゃんが話を続ける。
俺は心の中で決意を新たにした。
To BE CONTINUED🔜
部活の闇~サッカー部とラグビー部のシメ会の実態
【125話】
サッカー部のシメ会が二週間続くという話を聞いたとき、俺とタケヨシは即座に部活を休むことを決めた。
正直、そこまで続くシメ会は想像を絶するものだったが、それはまだ序章に過ぎなかった。
工業で一番過酷なシメ会はラグビー部にあるという噂が広まっていたのだ。
ラグビー部のシメ会は、なんと1ヶ月間、ほぼ毎日続くというものだった。
その壮絶さは、俺の想像をはるかに超えていた。
新入部員たちは体育館の倉庫の壁側に、パンツ一丁で正座をさせられる。
正確に言うと、壁に向かって正座させられるため、先輩たちの姿は一切見えない。
その視界のない恐怖が、彼らの心をじわじわと蝕んでいくのだ。
「おい、新人。壁に向かって正座だ」
先輩の厳しい声が響くと、新入部員たちは震える声で答えた。
「はい、先輩…」
その言葉に従い、彼らは不安と恐怖に包まれながら壁に向かう。
十数メートル離れたところにラグビーボールがセットされ、二三年生が次々とボールを蹴り込む。
正面を向いていれば、ボールの軌道が見えて心の準備もできるが、背中を向けている彼らにはいつボールが飛んでくるか全く分からない。
その恐怖は計り知れないものだった。
「いつ来るんだ…次のボールは…」
一年生たちは恐怖に怯えながら、次のボールの到来を待つ。
その不安に押しつぶされそうな彼らの心をさらに苦しめるのは、二三年生のキックが県内最強クラスであるという事実だ。
中には日本代表選手もいる。
その怪物たちのキックを1ヶ月間も浴び続けなければならないのだ。
最初の一週間で三分の一が辞め、二週間後には半分が辞めてしまうという。
「もう無理だ…俺、辞める…」
「俺もだ…これ以上は耐えられない…」
そうつぶやく一年生たちの声には、絶望と諦めが混じっていた。
しかし、中にはシメ会を一部免除されるラッキーマンもいる。
卒業生に兄貴がいる者は、シメ会が緩く期間も二週間で済むというのだ。
ジュンジの兄貴はラグビー部の中心選手で喧嘩も最強だったので、ジュンジは緩いシメ会だったらしい。
「ジュンジ、お前の兄貴がいて助かったな」
「まあな。でも、ヒロシは毎日ボコボコにされてる。生意気だからな…」
ヒロシはその生意気な性格が災いし、毎日ボコボコにされていた。
あちこち傷だらけで、彼のキツさが見て取れた。
キレた先輩も何人かいて、バックドロップなどのプロレス技をかけられる。
そのまま病院送りになる一年生も絶えないという。
「ヒロシ、大丈夫か?」
「こんなの耐えられるわけないだろ…」
彼の声には、悲痛な叫びが込められていた。
そんな怖い話を聞くと、俺はラグビー部に入らなくて良かったと心の底から思った。
しかし、それでも彼らの姿には敬意を抱かずにはいられなかった。
過酷な試練を乗り越え、強くなっていく彼らの姿は、俺にとっても大きな刺激となったのだ。
今日は部活をサボって、ガンちゃんと一緒に下校することにした。
二人きりで帰るのは初めてだ。夕暮れの街はオレンジ色に染まり、涼しい風が心地よく吹いていた。
そんな雰囲気の中、自然と会話が弾む。
「108は彼女いるの?」と、ガンちゃんが不意に聞いてきた。
「この間、別れたばっかだよ!」
俺は少し照れくさそうに答えた。
その瞬間、心の奥底にまだ残る別れの痛みがチクリと刺さる。
「ガンちゃんは?」と逆に聞き返すと、彼はにやりと笑った。
「オレは三週間前に出来たよ!」
「マジか!? きっかけは?」
俺の驚きは隠しきれない。
ガンちゃんの恋愛話なんて聞いたことがなかった。
「駅で見かけて告ったらOKしてくれたよ!」と、ガンちゃんは自信満々に答える。
「やるねー!」と感心しながらも、内心ではその行動力に驚かされる。
入学早々のアタック成功率が高いってコトが真実味を帯びてきた。
チンピラ度数ナンバーワンのガンちゃんの彼女は、きっと女子校の激ヤンなんだろうな、と勝手に想像してしまう。
近所の女子高は、この辺では有名なヤンキー高校だ。
同中からは、イクエが通っている。
もちろん、中学時代もヤンキーだった。
「実はオレも気になっている女子がいてさぁ~」と、俺は思い切って告白する。
「いいじゃんか! どこの高校よ!?」
ガンちゃんの目が輝く。
「○○高校の一年だと思う。二三回見かけただけだから、名前は分からないけど、遅刻しなければ、8:15着の電車に乗ってるよ!」と、俺は少し恥ずかしそうに答える。
「じゃあ、明日告っちゃえよ!」と、ガンちゃんは無邪気に提案する。
「おいおい、いきなりかよ!? ココロの準備が必要だよ」と、俺は焦りを隠せない。
「そんなこと言ってると、すぐに彼氏が出来ちゃうぞ! もう既にいるかもな!?」と、彼はニヤリと笑う。
「いいや! あの清楚な女子に彼氏はいないはず!」
俺は自信満々に返す。
内心では、自分の希望的観測に過ぎないことを理解していたが、その気持ちをどうしても押さえきれなかった。
「清楚系なの? ヤンキーナンナが好きだと思ってたよ!」と、ガンちゃんは意外そうな顔をする。
「そのまま返すよ! ガンちゃんの彼女はもちろんゲキヤンだろ?」
俺は少しからかうように言った。
「ちげーよ! 俺の彼女は黒髪だし、ピアスも空けてねーし、制服も標準ブレザーだし、弓道を愛する清楚系だよ!」
ガンちゃんは真剣な表情で答える。
えぇっ!?
弓道を愛する清楚系って、もしかして。
俺の心は一瞬でざわつく。
あの清楚なお嬢様がチンピラに振り向く筈がない。
それこそ、月とスッポンだ。
「マジか!? ガンちゃんと清楚系じゃ釣り合わねーな!」
俺は半ば冗談で言ったが、ガンちゃんは少しムッとしたようだ。
「そりゃ言いすぎだろ! ところで、駅で見かける子は、どんな特徴のオンナなの?」と、彼は真剣に聞いてくる。
「奇遇なんだけど、オレが気になる子も弓道部だよ。ガンちゃんの彼女の友達かもよ?」と、俺は少し期待を込めて答える。
「マジか!? そしたら明日聞いてみるわ! 何だったら108の代理でオレから伝えようか、そのオンナに?」と、彼は親切に提案してくれる。
「いいよ! 自分から告るから!」
俺は決意を固めた。
明日の朝が、待ち遠しくもあり、少し怖くもあった。
ガンちゃんと話していると、何故か未来が少しだけ明るく見える気がした。
「108、頑張れよ。オレも応援してるからさ!」
ガンちゃんのその言葉が心に響き、俺は力強く頷いた。
「ありがとう、ガンちゃん」
明日の朝、俺は彼女に告白する決意を固めた。
その瞬間、心の中で小さな炎が燃え始めた。
それは、恋に向かう希望と不安が入り混じった、複雑な感情の炎だった。
だが、その炎が俺を前に進める力となっていることは間違いなかった。
「よし、行くぞ!」
俺は心の中で叫びながら、夜空に浮かぶ星たちに誓った。
その夜、俺の心は未来への期待と不安でいっぱいだったが、同時に確かな希望に満ちていた。
To BE CONTINUED🔜
心のポケベルが鳴り止む夜
【124話】
俺は自信を失いかけていた。
まるで何か大切なものを握りしめていながら、それがすり抜けていくような感覚だった。
カオリの本当の気持ちを知りたいけれど、聞くのが怖かった。
心の中でその問いがぐるぐると渦巻いて、胸が締め付けられるようだった。
「とりあえず、フォアローゼスで乾杯しよ!」
俺は勢いよく言った。
こんなに気を紛らわすのが目的だとは、彼女には悟られたくなかった。
水と氷を買い忘れたので、ストレート飲みだ。
グラスに注がれた琥珀色の液体を見つめながら、俺は一気にそれを喉に流し込んだ。
むしゃくしゃして、オレはフォアローゼスを一気飲みする。
俺の声は、どこか遠くから響いてくるように感じた。
「あれ!? カラダの中が熱くなってきたぞ!」
口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。
「すごーい! でも、一気飲みして大丈夫?」
カオリの声が少し心配そうに響く。
彼女の優しさに触れるたび、俺の心の中の問いはますます強くなった。
「大丈夫! カオリも一気飲みしてみろよ! カラダが熱くなるぜ!」
酒が回って気が強くなったのか、カオリに対して命令口調になってる気がする。
それでも、彼女は少し微笑んでグラスを持ち上げた。
時間が経つにつれて、俺たちはフォアローゼスを一時間足らずで空にしてしまった。
酔いが回ってきて、心の中の問いがますます大きくなっていく。
「カオリ、おまえろれつが回ってないぞぉ~」
言葉がうまく出てこない俺に、カオリは笑顔で答えた。
「108もへんらぞぉ~」
彼女の笑顔は、ぼやけた視界の中で揺れている。
酔いが回った頭で、俺は目の前がぼやけ、カオリの笑顔がふわふわと漂っているように見えた。
その笑顔は、俺が知りたい答えを隠しているかのようだった。
彼女の心の中を覗き込む勇気がない自分が、ますます情けなく感じる。
「カオリ...」
俺はつぶやいた。
その声は自分でも驚くほどかすれていた。
「どうしたの、108?」
彼女は優しく問いかけた。
その瞬間、俺の心の中の氷が少しだけ溶けた気がした。
「カオリ、俺...」
何かを言おうとしたけれど、言葉が出てこなかった。
彼女の目を見ると、そこには答えを知る勇気が必要だった。
「108、大丈夫だよ」
カオリの声が優しく響いた。
俺は酔った勢いで、心の奥底にしまっていた問いをついに口にしてしまった。
「カオリはまだアイツのこと好きなんだろ!?」
心臓がドキドキと高鳴り、何かが壊れそうな予感がした。
カオリの返事を待つ数秒が、永遠のように感じられた。
しかし、彼女は一拍半ほど置いてから、静かに答えてくれた。
「付き合ってる時は好きだったけど、今は大嫌いだよ。...な~に、もしかして、嫉妬しているの?」
その言葉が耳に届いた瞬間、俺は少しだけホッとしている自分に気づいた。
カオリの言葉は、まるで冷たい水が熱くなった体を冷やしてくれるかのようだった。
「気にしてねーよ! カオリがオレのことを好きなのは知ってるし、オレがカオリのことを好きだってことカオリは知ってるよな?」
「うん! 知ってるよ~カオリと108は両想いだねぇ~」
カオリの言葉は、まるで温かな光が暗闇を照らすように、俺の心の中の不安を吹き飛ばした。
不安がなくなった瞬間、ものスゴくカオリが欲しくなった。
酔いとともに高まる感情の波に身を任せ、俺は勢いまかせにカオリに抱きついた。
二人とも酔っているせいか、いつもより大胆だった。
何だろうこの感覚!?
心と体が深海に吸い込まれるような。
俺もカオリもトランス状態に入っているみたいで。
カオリの体温が伝わってきて、その温もりが俺をさらに熱くさせる。
カオリの髪の香りが鼻をくすぐり、俺の心をさらに揺さぶる。
カオリも同じように感じているのか、俺の背中に回した手が強くなった。
「108、あたし、ずっとあなたのことが好きだった…」
カオリの囁きが耳元に届いた瞬間、俺の胸がドキドキと高鳴り、カオリへの愛情が溢れ出した。
俺はカオリの顔を見つめ、彼女の瞳に映る自分を確認した。
「オレもだよ、カオリ。お前がいなきゃダメなんだ…」
二人の間に流れる時間が止まったかのように感じた。
酔いのせいか、全てがゆっくりと、そして鮮明に見えた。
その瞬間、俺たちはお互いの存在を強く感じ、そして求め合った。
「カオリ…」
「108…」
互いの名前を呼び合い、二人は深いキスを交わした。
酔いが回る中で、二人の心と体が一つになる感覚があった。
まるで、長い間探し求めていたピースがぴったりと嵌るように。
カオリの体温、彼女の笑顔、その全てが俺の心に深く刻まれた。
彼女がそばにいる限り、俺はもう二度と自信を失うことはないだろう。
カオリがそばにいる限り、俺たちはどんな困難も乗り越えられると信じていた。
この日、俺たちはお互いの愛を確かめ合い、そして新たな絆を築いた。
カオリの温もり、その優しさ、その愛情。
そのすべてが俺の心に深く染み込んだ。そして俺は、カオリと一緒にいる限り、もう何も怖くないと思った。
「カオリ、これからもずっと一緒にいような」
「もちろん、108。あなたと一緒なら、どこへでも」
カオリのその一言で、俺たちの未来が明るく照らされたように感じた。
俺は彼女の手をしっかりと握りしめ、これからもずっと、二人で一緒に歩んでいく決意を新たにした。
俺の心は嵐のように揺れ動いていた。
カオリの名前を叫んだその瞬間、深い感情が胸に溢れた。
何故なら、カオリは俺の全てだった。
彼女の笑顔、彼女の声、その全てが俺の世界を彩っていた。
「カオリ!」と叫んだ俺の声は、夜の静寂を切り裂いた。
その声には、抑えきれない感情が込められていた。
「好きだよ! 大好きだよ!! ...シンペイくん」
その瞬間、時間が止まった。
カオリの言葉が俺の耳に届いた時、心臓が一瞬止まったかのような感覚に襲われた。
彼女が俺の名前を呼んだ、その言葉が信じられなかった。
「!? 今、カオリは何て言った?」
耳垢が詰まっているのかと一瞬思ったが、酔った頭で彼女の言葉を繰り返し思い返してみる。
空耳じゃない、確かに「シンペイくん」と言ったのだ。
驚きと混乱が俺を襲い、酔いが急速に冷めていくのを感じた。
「急にどーしたの!?」と問いかけると、カオリは自分の発言に気づいていない様子だった。
その無垢な表情に、俺の心はさらに揺れた。
「ごめん、急に体調が悪くなったからトイレに行ってくる」と言って、俺はその場を離れた。
カオリはまだトランス状態だったが、俺のことを気遣ってくれた。
「大丈夫!? 飲み過ぎちゃったよね。背中さすろうか?」
「大丈夫だから、すぐに戻るから」と言って、俺は浴室に向かった。
湯の温かさが心地よく、カオリの発言を何度も思い返す。
酔いは完全に覚め、頭はクリアになっていた。
確かに彼女は「シンペイくん」と言ったのだ。
浴室の湯船に浸かりながら、俺の心はますます重くなっていった。
彼女の無意識の一言が、俺の心を深く傷つけた。
カオリとの過去の思い出が次々と頭を駆け巡り、その一つ一つが今では痛みとなって感じられた。
湯船から出てベッドに戻ると、カオリは大きなイビキをかいて寝ていた。
その寝顔を見た瞬間、俺の心は一気に冷めた。
彼女が俺の名前を間違えたこと、その事実が俺の心に深い傷を残した。
「もう、カオリとは一緒に居たくない」と心の中で呟いた。
彼女の寝顔は無邪気で、何も知らない子供のようだったが、その無垢さが逆に俺の心を突き刺した。
俺は静かにベッドから離れ、カオリを残してホテルを後にした。
夜風が冷たく、街の明かりがぼんやりと揺れて見えた。
俺の心も同じように揺れていた。
カオリとの思い出が走馬灯のように頭を駆け巡り、涙がこぼれ落ちた。
「さようなら、カオリ」と心の中で呟きながら、俺は一人静かに夜の街を歩き続けた。
カオリのことを忘れるためには、もっと遠くへ行かなければならないと感じた。
彼女のことを想い続ける限り、俺は前に進めないのだから。
歩き続ける中で、俺の心は徐々に冷えていった。
だが、カオリとの日々が消えることはなかった。
彼女の笑顔、その笑い声、共に過ごした瞬間一つ一つが、俺の中に深く刻まれていた。
だからこそ、俺はこれから新たな道を見つけなければならなかった。
自分自身を見つけ、再び立ち上がるために。
カオリとの別れが辛かったが、それは俺にとって必要なステップだった。
自分を再び見つけるための、新たな旅の始まりだった。
カオリを愛し、そしてその愛を手放すことで、俺はもっと強くなれると信じていた。
その夜、ポケベルが何度も鳴り響いた。
しかし、オレはもう二度とそのポケベルを手に取ることはなかった。
それは、オレの心が既に決断を下していたからだ。
カオリからの連絡を永遠に拒絶するという決断を。
数週間が経ったある日、カオリから家に電話があった。
しかし、オレは居留守を使って電話に出なかった。
その行動は、オレの心の中で何かが終わったことを示していた。
オレの恋は、ここで終わったのだ。
はじめての彼女に裏切られ、二人目の彼女にも裏切られた。
オレは女性のことが分からなくなっていた。
大きなショックから、女性不信になりそうになったが、そこでふと思い直した。
「これからは、自分に正直に生きよう!」
そう、それが、高校生から始まるオレのスタイルになった。
もう、女性を信じない。
本能のまま生きていこうと決めた瞬間、オレの心は軽くなったように感じた。
雨が降る夜、オレは一人、窓の外を眺めていた。
雨粒が窓ガラスを滑り落ちる様子は、まるでオレの心の中を流れる感情のようだった。
過ぎ去った恋、裏切り、そして新たな決断。それら全てがオレを今の自分にしていた。
「本能のままに生きる。それが、真の自由だ!」
オレはそう呟いた。
その言葉には、これまでの苦悩や迷いを乗り越えた後の解放感が込められていた。
もう誰かの期待に応えるために生きるのではなく、自分自身のために生きる。
その決意が、オレを新たな未来へと導いていく。
夜空を見上げると、雲間から星がちらりと覗いていた。
その星の光は、まるで俺の心の中にある希望の光のようだった。
今はまだ小さな光かもしれないが、それでも俺はその光を信じて歩き出す。
本能のままに、自分自身の道を切り開いていく。
それが、裏切られた経験から学んだ、俺の人生の新たなスタイルだった。
その夜のことを、オレは鮮明に覚えている。
ポケベルの鳴る音が、まるでオレの心の叫びのように感じられた。
カオリからのメッセージは、きっと何か重要なことを伝えたかったのだろう。
しかし、オレはもう彼女の言葉に耳を傾けるつもりはなかった。
翌朝、目が覚めると、オレの心には一つの確信があった。
カオリとの関係を断ち切ることが、俺にとっての新たなスタートだった。
彼女との思い出は美しいものも多かったが、その裏にある裏切りの痛みが、全てを台無しにしていた。
To BE CONTINUED🔜