ボストン美術館の和服試着イベント、「人種差別だ」と抗議され中止に [着物]
7月10日(金)
なぜ「和服の試着イベント」が、なぜ「人種差別」「帝国主義」になるのか、さっぱり解らない。
いったい、どういう人が抗議してるのだろう?
↑ 和服の試着イベントの様子。
打掛の再現は、まずまずよくできていると思う。
↑ モデルをスケッチする人たち。モデルの脇に抗議する人が立っている。
↑ 抗議している人たちは容貌からアジア系の女性に見える。
エミコヤマさんという在米の日本人論客の方がTwitterで、
「簡単に説明しきれるものではないけれど、まずは『自分にはわからないけれど、アメリカにいるアジア人にとっては切実な問題なのだ』と理解してください。その上で、どうしても理解したければ「文化的盗用」あたりから自分で調べてください」
と述べている。
なぜ、アメリカ人が和服を着て、モネの「ラ・ジャポネーズ」のコスプレをすることが「文化的盗用」になるのか、さっぱりわからない。
アメリカで日本の民族衣装を着ることに、そんなに反発・批判があるのだろうか?
だったら、私もうアメリカには行けないなぁ(行く予定もないけど)。
ボストン美術館所蔵のクロード・モネの「ラ・ジャポネーズ」は、風景画家と知られるモネとしては珍しい人物画の大作。
日本の衣装をまとったモネ夫人カミーユをモデルにした作品で、1876年春の「第2回印象派展」に出品された。
着物文化論の立場からすると、描かれた着物は典型的な花魁の打掛で、模様のほとんどは刺繍で縫い取り。
絵柄の人物の部分には厚く綿を入れて模様が浮き出させ立体感をつけている。
おそらく幕末~明治初期のもので、開国後、比較的早い時期の流出品だと思われる。
ポースも、花魁の「見栄を切る」姿に近い(反りが甘いが)。
背景の団扇を使った壁面装飾は、花街・色街では今でもよく見られるやり方。
全体として、当時(1860~70年代?)の日本の花街の習俗を再現し(モデル以外)、それを写実的に描写した作品だと思う。
この時代の花魁の打掛の実物は、国内ではほとんど遺ってなく、「日本きもの文化美術館」の収蔵品など、おそらく10点以下だと思う。
その点でも、モネの「ラ・ジャポネーズ」は貴重な資料になる。
↑ 「日本きもの文化美術館」所蔵の松に鳳凰の柄の打掛。
鳳凰の首のところで花魁の頭が来る。
京・島原遊廓の太夫(最上級の花魁)が着用したもの。
江戸末期~明治初期のものと思われる。
全体として、当時(1860~70年代?)の日本の花街の習俗を再現し(モデル以外)、それを写実的に描写した作品だと思う。
【追記(15時)】
もうちょっと、考えてみた。
たしかに、植民地帝国主義の時代の欧米人がアジアの習俗を見る目は、蔑視・差別的で、文化誤解に満ちている。
日本の着物に対するイメージにも相当な誤解があるし、歌劇「マダムバタフライ」の舞台など、ちょっとその着方はひどいなぁと思うこともしばしばある。
しかし、モネの「ラ・ジャポネーズ」のようなジャポニズムの作品は、文化誤解をはらみつつも、極東の島国の、未知の、そして西欧の美的価値観とは異なる文化に接した驚きであり、芸術家的な好奇と憧憬が基本にあると思う。
だから、そのことを知っている多くの日本人は「う~んちょっと違うんだけどなぁ」と思いながらも、抗議して中止させるという行動に出る人は稀だろう。
「こうした方が本当に近くなりますよ」くらいのことは言いたくなるが。
ただ、在米のアジア系の人たちの中には、植民地帝国主義の時代のオリエンタリズムやジャポニズム作品をコスプレという形で現代に再現することに強い憤りをもつ人がいるということが、今回の「事件」でよくわかった。
着物を愛し、民族衣装としてのプライドを持っている日本人の1人として、アメリカの人たちが和装文化に触れる機会が奪われるのは、とても哀しいことだが、アメリカはそもそも民族衣装を尊重する文化に乏しい国だし、仕方がない一面もあると思う。
【追記(18時)】
いろいろ情報を集めてみたところ、どうも、オリエンタリズムに基づいて描かれた白人女性が着物を着ている絵の前で、現代の白人が着物を着るイベントを美術館が主催したことが、帝国主義的な白人による他文化の搾取(文化的盗用)を想起させ、再生産するものだ、というのが抗議している人たちの主張のようだ。
ただ、それはあくまで建前で、やはり「日本叩き」の一環なのではないか?という疑いがぬぐえない。
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ボストン美術館の和服試着イベント、「人種差別だ」と抗議され中止に―中国メディア
米紙ボストン・グローブは7日、ボストン美術館で催されていた「和服の試着イベント」が「人種差別だ」と抗議に遭い、中止になったと報じた。8日付で環球網が伝えた。
イベントは、和服を着た来場者が、印象派を代表するフランスの画家、モネの作品「ラ・ジャポネーズ」の前で写真を撮ることができるというもの。和服の細やかな刺繍や生地の感触に触れてもらい、来場者との「相互体験」を図るという趣旨だったが、美術館側は7日に声明を出し、「一部来場者の気分を害してしまった」と謝罪した。
「人種差別」「帝国主義」などと書かれたプラカードを掲げた市民らが同美術館内で抗議した。そのため、現在は毎週水曜日の晩に和服を展示するのみで、試着はできないようになっている。イベントは同美術館の巡回展「ルッキング・イースト(Looking East)」の一環で、試着用に用意された和服は日本での開催の際に、NHKが作品の和服をイメージして作ったものだという。
(編集翻訳 小豆沢紀子)
「FOCUS-ASIA.COM」2015年 7月9日(木)17時32分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150709-00000037-xinhua-cn
なぜ「和服の試着イベント」が、なぜ「人種差別」「帝国主義」になるのか、さっぱり解らない。
いったい、どういう人が抗議してるのだろう?
↑ 和服の試着イベントの様子。
打掛の再現は、まずまずよくできていると思う。
↑ モデルをスケッチする人たち。モデルの脇に抗議する人が立っている。
↑ 抗議している人たちは容貌からアジア系の女性に見える。
エミコヤマさんという在米の日本人論客の方がTwitterで、
「簡単に説明しきれるものではないけれど、まずは『自分にはわからないけれど、アメリカにいるアジア人にとっては切実な問題なのだ』と理解してください。その上で、どうしても理解したければ「文化的盗用」あたりから自分で調べてください」
と述べている。
なぜ、アメリカ人が和服を着て、モネの「ラ・ジャポネーズ」のコスプレをすることが「文化的盗用」になるのか、さっぱりわからない。
アメリカで日本の民族衣装を着ることに、そんなに反発・批判があるのだろうか?
だったら、私もうアメリカには行けないなぁ(行く予定もないけど)。
ボストン美術館所蔵のクロード・モネの「ラ・ジャポネーズ」は、風景画家と知られるモネとしては珍しい人物画の大作。
日本の衣装をまとったモネ夫人カミーユをモデルにした作品で、1876年春の「第2回印象派展」に出品された。
着物文化論の立場からすると、描かれた着物は典型的な花魁の打掛で、模様のほとんどは刺繍で縫い取り。
絵柄の人物の部分には厚く綿を入れて模様が浮き出させ立体感をつけている。
おそらく幕末~明治初期のもので、開国後、比較的早い時期の流出品だと思われる。
ポースも、花魁の「見栄を切る」姿に近い(反りが甘いが)。
背景の団扇を使った壁面装飾は、花街・色街では今でもよく見られるやり方。
全体として、当時(1860~70年代?)の日本の花街の習俗を再現し(モデル以外)、それを写実的に描写した作品だと思う。
この時代の花魁の打掛の実物は、国内ではほとんど遺ってなく、「日本きもの文化美術館」の収蔵品など、おそらく10点以下だと思う。
その点でも、モネの「ラ・ジャポネーズ」は貴重な資料になる。
↑ 「日本きもの文化美術館」所蔵の松に鳳凰の柄の打掛。
鳳凰の首のところで花魁の頭が来る。
京・島原遊廓の太夫(最上級の花魁)が着用したもの。
江戸末期~明治初期のものと思われる。
全体として、当時(1860~70年代?)の日本の花街の習俗を再現し(モデル以外)、それを写実的に描写した作品だと思う。
【追記(15時)】
もうちょっと、考えてみた。
たしかに、植民地帝国主義の時代の欧米人がアジアの習俗を見る目は、蔑視・差別的で、文化誤解に満ちている。
日本の着物に対するイメージにも相当な誤解があるし、歌劇「マダムバタフライ」の舞台など、ちょっとその着方はひどいなぁと思うこともしばしばある。
しかし、モネの「ラ・ジャポネーズ」のようなジャポニズムの作品は、文化誤解をはらみつつも、極東の島国の、未知の、そして西欧の美的価値観とは異なる文化に接した驚きであり、芸術家的な好奇と憧憬が基本にあると思う。
だから、そのことを知っている多くの日本人は「う~んちょっと違うんだけどなぁ」と思いながらも、抗議して中止させるという行動に出る人は稀だろう。
「こうした方が本当に近くなりますよ」くらいのことは言いたくなるが。
ただ、在米のアジア系の人たちの中には、植民地帝国主義の時代のオリエンタリズムやジャポニズム作品をコスプレという形で現代に再現することに強い憤りをもつ人がいるということが、今回の「事件」でよくわかった。
着物を愛し、民族衣装としてのプライドを持っている日本人の1人として、アメリカの人たちが和装文化に触れる機会が奪われるのは、とても哀しいことだが、アメリカはそもそも民族衣装を尊重する文化に乏しい国だし、仕方がない一面もあると思う。
【追記(18時)】
いろいろ情報を集めてみたところ、どうも、オリエンタリズムに基づいて描かれた白人女性が着物を着ている絵の前で、現代の白人が着物を着るイベントを美術館が主催したことが、帝国主義的な白人による他文化の搾取(文化的盗用)を想起させ、再生産するものだ、というのが抗議している人たちの主張のようだ。
ただ、それはあくまで建前で、やはり「日本叩き」の一環なのではないか?という疑いがぬぐえない。
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ボストン美術館の和服試着イベント、「人種差別だ」と抗議され中止に―中国メディア
米紙ボストン・グローブは7日、ボストン美術館で催されていた「和服の試着イベント」が「人種差別だ」と抗議に遭い、中止になったと報じた。8日付で環球網が伝えた。
イベントは、和服を着た来場者が、印象派を代表するフランスの画家、モネの作品「ラ・ジャポネーズ」の前で写真を撮ることができるというもの。和服の細やかな刺繍や生地の感触に触れてもらい、来場者との「相互体験」を図るという趣旨だったが、美術館側は7日に声明を出し、「一部来場者の気分を害してしまった」と謝罪した。
「人種差別」「帝国主義」などと書かれたプラカードを掲げた市民らが同美術館内で抗議した。そのため、現在は毎週水曜日の晩に和服を展示するのみで、試着はできないようになっている。イベントは同美術館の巡回展「ルッキング・イースト(Looking East)」の一環で、試着用に用意された和服は日本での開催の際に、NHKが作品の和服をイメージして作ったものだという。
(編集翻訳 小豆沢紀子)
「FOCUS-ASIA.COM」2015年 7月9日(木)17時32分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150709-00000037-xinhua-cn
2015-07-10 12:34
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「文化の盗用」では、cultural misappropriationで調べると理解しやすいかも。どちらかというと多民族国家における国内の問題なんですよね。
というわけで、日本叩きとかそういう文脈にはないです。
とはいえ、”彼ら”の問題に日本という他国を出汁に使うなというのは、非常によくわかります。
日本でも、ちびくろサンボの表現問題とかありました。あれも、最初に提起したのは海外の黒人団体ではなく、日本の市民団体だったりしましたね。
by tem (2015-07-11 00:16)
temさん、いらっしゃいま~せ。
「文化的盗用」という概念、そこに植民地帝国と植民地というものすごい権力関係がある場合、支配され搾取された側の言い分として理解できます。
ただ、モネの「ラ・ジャポネーズ」は、そういう関係とは遠いと思います。
19世紀後半における西欧と日本の文化的関係は、かなり相互的なもので、搾取・盗用というものとは違うと思うのです(そういう側面が皆無とは言いませんが)。
まあ、そこらへんが、アジア系アメリカ人と日本人である私の感覚の違いなのでしょうが。
by 三橋順子 (2015-07-11 03:19)
日本大使館が共催したらどうですかね。
by _nat (2015-07-11 13:08)
とおりすぎのものですが、コメントしてもよろしかったでしょうか?
衣服は、その国の歴史・文化・風土の反映です。言外に伝わるものがたくさんあり、衣服を通じた文化交流を行うならば、着てみることは大切なことだと思います。着てみないのは、お料理を写真だけでみて、おいしそうだといっているのに近いです。
他国に自国の文化を中途半端に真似られ、ときに虚飾がいりまじった表現がなされるのは嫌なことです。ハリウッド映画にでてくる日本の描写は故意にゆがめられているものがあります。米国でまがい物の日本料理を日本人のふりをして販売なさっているかたなどもよろしくないことでしょう。そうしたふるまいにまずアクションをおこしていただけたらと思います。
着物に袖をとおしてみることは、それらとはかなり状況がことなり、着付けもまったくできていないでしょうし、面白半分の方もいるでしょうが、それでも効果的な文化交流だとおもいます。
by 田中まり (2015-07-11 13:09)
アメリカ人が日本の着物を着るイベントが「帝国主義的文化の盗用」に当たるというのであれば、モネが自分の奥さんに着物を着せてそれを絵にした事や白人映画スターが着物姿でスクリーンに登場するのとかを問題とされなければいけないのに、そういう事が無いですね。
by Takeshi Yoshida (2015-07-11 17:34)
はじめまして。
ニュースを読んでも、誰が誰を差別しているという意味なのかわからず、???と思って検索していました。
おかげさまで、だいぶわかりました。
ありがとうございます。
by かよぱ (2015-07-12 13:59)
natさん、いらっしゃいま~せ。
>日本大使館が共催したらどうですかね。
きっと日本大使館前にも、抗議の人たちが立ったでしょう。
by 三橋順子 (2015-07-13 03:41)
田中まりさん、いらっしゃいま~せ。
コメント、ありがとうございました。
おっしゃる通りです。
日本の伝統的な衣文化を少しでも理解してもらおうと思ったら、着物に袖を通して、まとってもらうのがいちばん効果的な方法です。
そうした機会がひとつ失われ、今後も企画しにくくなったとしたら、着物愛好&研究者としてとても残念に思います。
by 三橋順子 (2015-07-13 03:43)
Takeshi Yoshida さん、いらっしゃいま~せ。
>モネが自分の奥さんに着物を着せてそれを絵にした事や白人映画スターが着物姿でスクリーンに登場するのとか
いえ、たぶん抗議した人たちは、それら全部NGと考えているように思います。
植民地帝国主義期のアジア圏の文化を、白人が利用したり干渉したりすること全部が批判の対象なのでしょう。。
by 三橋順子 (2015-07-13 03:49)
かよぱ さん、いらっしゃいま~せ。
私もまだよくわからない部分があるのですが、お役に立ったのなら、幸いです。
by 三橋順子 (2015-07-13 12:35)
ボストン美術館を探しててこの記事にあたりました。
少し遅いですがコメントします。この行動を文化とか日本伝統と西洋とか論じると本当の姿は見えません。
これは半島の人間。朝鮮人の日本たたきの一つです。日本が取り上げことに我慢のならない。国策ですから。アメリカの図書館で日本海の上に自分達の名前のシールをはった。あれと同じ。チョゴリを着ましょうなら文句言いません。
人種とか差別とか持ち出すのは彼らの常套。
日本にアメリカさんと行きましたが。いたるところでスペルの間違い。果ては奈良の国立博物館では説明を読んで英語になっとらん。
在米ですが。日本はこのようにしてあちこちで朝鮮・中国連合体にたたかれていることを認識されたし。利用してるんですけどね。三等国民です。
by 小川 一 (2016-01-13 23:31)
あるサイトで読んだのですが、こういうコメントがありました。
これが本当ならなんとも陰湿で嫌な気持ちなります。
Shinichi Hashiguchi
ボストン美術館の着物試着中止の理由は、ここで議論されているXXX理論やOOO論とはまったく関係がない。勿論、白人至上主義との関係もない。投稿者 Amber Ying 氏はたぶん中国系アメリカ人でしょう。
中国人の一部の自称知識層は日本人も文化も、中国より劣っている、物まねしていると見ている。それゆえに、日本文化が自国の文化をさておいて脚光をあびることに妬心を感じて抗議しているのではないだろうか。ジャポニズムの本音を知らないからだ。多くの中国系米人と接していると痛切にその底意を感じる。これは中国本土においてもっとひどい。
それはそれで良いとしても、しかし、米国で他国の文化のキャンペーンや紹介(の一部)を中止させる理由はない。(白人至上主義以外に)
by 百重 (2016-10-01 00:25)