焦点:米アップルの威光に陰り、通信キャリアへの影響力低下も
[サンフランシスコ 28日 ロイター] 米アップルの株価は23日の第1・四半期(2012年10─12月)決算発表以降に大幅な下落を演じているが、投資家にとってさらに重要な意味を持つのは、より広範な同社の影響力低下かもしれない。
スマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」やタブレット端末「iPad(アイパッド)」、パソコンの「Mac(マック)」など同社の製品は、依然として他社から追いかけられる存在であることに変わりはない。しかし、スマホ市場でアップルの優位性が一部失われつつある兆候も出ており、そのことは、部品メーカーや通信キャリアへの同社の影響力が弱まる可能性を示唆している。
通信キャリアや部品メーカーの幹部からは最近、少なくとも何らかの勢力バランスの変化を見込んでいることを示すコメントが出ている。
米携帯電話事業者4位のTモバイルUSAは、向こう3カ月以内にiPhoneの販売を開始するが、それとほぼ同時にスマホの販売補助金を停止する。もし他の通信キャリアも端末販売奨励金の中止に動けば、アップルにとっては逆風となる可能性がある。
米国の通信会社の多くは、顧客と2年契約を結ぶ見返りに端末価格を割り引くという端末補助金制度を採用している。もしiPhoneの端末価格を顧客が全額負担するようになれば、ユーザーはより安価なスマホに流れるかもしれない。
ベライゾン・コミュニケーションズのフラン・シャモ最高財務責任者(CFO)は、端末メーカーとの交渉で通信キャリア側が以前より優位に立っているかとの質問に対し、アップル、アンドロイド、ウィンドウズ、ブラックベリーという4つの強力な選択肢があることは、より競争力のある価格設定につながると回答。「(携帯端末向け)基本ソフト(OS)が多ければ多いほど、より良い競争になる」と述べた。同社は米携帯1位ベライゾン・ワイヤレスを傘下に持つ。
<利益率の低下>
iPhoneの2012年10─12月期の販売台数は過去最高の4800万台だったが、調査会社ABIリサーチによれば、市場シェアは今年中に22%でピークを迎え、利益率の低い廉価版iPhoneを出さない限り、アップル愛好家のリピート需要への依存度が高まってくる。
その一方で、同社にとって最大のライバルとなった韓国サムスン電子<005930.KS>は、幅広い端末ラインナップ攻勢でスマホ最大手の座をアップルから奪った。
アップルの競合他社だけでなく、顧客や部品サプライヤーまでがアップルの影響力低下を嗅ぎ取り、価格交渉で厳しい姿勢を取るようになれば、同社の粗利益率には一段と圧力がかかる可能性がある。10─12月期の粗利益率は38.6%で、前年同期の44.7%から低下した。
確かに、過去10年のアップルの躍進は目覚ましく、衰え知らずだったiPhoneの販売台数の伸びは、通信キャリアや部品メーカーとの価格交渉で圧倒的な支配力を同社にもたらしてきた。
しかし、先週発表された四半期決算は市場予想を下回り、株価は14%以上急落。このことは、アップルが現実の世界に戻り、より普通の会社に変化しつつあることを印象づけた。
圧倒的販売台数と市場での主導権を背景に、価格交渉で強気姿勢を貫いてきたアップル。これまで不利な交渉を余儀なくされてきた通信キャリアや部品メーカーも、アップルの影響力低下は歓迎するだろう。
携帯通信キャリアはアップルなしで生きていくことはできないが、サムスンなど競合メーカーが市場シェアを奪い続けていけば、同社との交渉で余裕も生まれると専門家は指摘する。
<時代遅れ>
端末販売補助金は、iPhoneの成功の大きな原動力となり、アップルの業績の押し上げ要因でもあった。アナリストの推計によると、iPhoneの販売補助金は1台当たり約400ドル。他のスマホでは1台につき250─300ドルだという。。
しかし、それも変わりつつあるかもしれない。TモバイルUSAはアップルとの契約内容は開示していないが、ジョン・レジャー最高経営責任者(CEO)によれば、スプリント・ネクステルがアップルと交わした向こう4年で総額155億ドル支払うという条件ほど大きな負担ではないという。
米国で最初にiPhoneの取り扱いを開始したAT&Tのランドール・スティーブンソンCEOも、TモバイルUSAの姿勢を歓迎。販売補助金廃止は「われわれが何度も考えてきたことだ」とし、「今後も注視していく」と述べた。
ベライゾンのマクアダムCEOもロイターの取材に対し、TモバイルUSAの戦略は「非常に興味深い」と評価した上で、顧客側にiPhoneの端末代金を全額負担する準備があるかどうかについては懐疑的な見方を示した。
しかし、仮に端末販売補助金廃止の動きが広がれば、消費者は端末の価格面を重視するようになる可能性がある。
調査会社IDCによると、2012年第4・四半期の世界スマホ市場は、サムスンがシェア29%で首位となった。サムスンが前年同期の22.5%からシェアを伸ばしたのとは対照的に、アップルは前年同期の23%から21.8%となり、2位に甘んじた。
アップルが40%前後と言う高い利益率を確保できていた理由の1つは、半導体メーカーなどの部品メーカーから安い調達価格を引き出す力があったからに他ならない。
しかし、米国市場での競争激化や、急成長する中国市場ではスマホ販売台数で6位と比較的弱い立場にあることを考えれば、その力を維持するのは簡単ではないだろう。
部品メーカーの株価はこれまで、アップルに製品が採用されるか否かに大きく左右されてきた。半導体メーカーの米オーディエンスは、アップルとの取引を追い風に昨年株式上場を果たしたが、アップルが同社製品の採用を中止したの受けて株価が急落した。ただ、オーディエンスにとって最大の顧客は現在サムスンとなり、株価も回復基調にある。
ある半導体メーカーの幹部は、アップルへの業績依存度が低くなる日を展望している。この幹部によると、アップルとの取引は、莫大な販売数量が保証される一方、ぎりぎりのコストを要求されて利益確保が難しい「両刃の剣」だという。
部品メーカーの中にはもちろん、3Dモーションセンサーの米インベンセンスなど、アップル以外のスマホとタブレット端末で稼ぐ会社もある。同社が23日発表した四半期決算は、米グーグルの「ネクサス7」やサムスンの「ギャラクシーS3」、米アマゾンの「キンドル・ファイア」といった人気のアンドロイド系端末に製品が採用されたのが寄与し、前年同期比58%増益となった。
インベンセンスもアップルとの取引を狙っているだろうが、アップル抜きでもスマホやタブレットの市場ではキーサプライヤーになっている。
<カルト的な人気>
スマホ販売台数がサムスンより少ないとはいえ、アップルが依然として巨大なプレーヤーであることに変わりはない。また多くの消費者の間では、アップルのカルト的な人気は揺らいでいない。
昨年の9月以降でアップルの株式時価総額は2300億ドル以上が吹き飛んだ格好だが、それでもiPhoneは昨年10─12月に306億6000万ドルを売り上げている。これは同時期のマイクロソフトの売上高を43%上回る数字だ。
成長が鈍化しているとはいえ、アップルが明るい未来を持つ非常に成功した会社であり、今後も画期的な商品を生み出す可能性は十分あるとみる向きは多い。
モリス・キャピタル・アドバイザーズのファンドマネジャー、ジョセフ・ドイル氏は「アップルは次に何を繰り出して業界を一変させるだろうか。もしそれができなければひどい投資になってしまうだろうか。そうではない。むしろ、その他大勢と一緒になるに近い」と語っている。
(原文執筆:Poornima Gupta and Noel Randewich、翻訳:宮井伸明、編集:本田ももこ)
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