焦点:ロシア人もウクライナ人も亡命希望、メキシコ経由で米国へ

[4日 ロイター] - メキシコを目指すロシア人、ウクライナ人が増えつつある。そこでスクラップ同然の車を買い、国境を越えて米国に入り、亡命を申請する。
ロシアのウクライナ侵攻によって100万人以上が母国からの逃避を余儀なくされている状況で、こういったケースはさらに増えそうだ。
米国税関国境警備局(CBP)のデータによれば、2021年10月から今年1月までの4カ月だけで、国境管理官が対応したロシア人は約6400人。21年度(―9月30日)の年間約4100人をすでに超えている。ウクライナ人も同様に急増しており、21年10月以降1月末までに1000人強が拘束された。前年度は、通年で680人ほどだった。
CBPの統計では、22年度の最初の数カ月間に米国国境で拘束されたのは67万人であり、こうしたロシア人、ウクライナ人の移民はごく一部を占めるにすぎない。
足止めされた人々の大部分はメキシコおよび中米諸国の出身で、すぐに国外退去となった。だが、ロシア人とウクライナ人についてはほぼ全員が亡命審査中の滞在を許可されており、こうした新規入国者の支援を目的とした国境周辺の保護施設で目立ち始めている。
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6月以降、サンディエゴの保護施設に収容された人々の国籍別上位3カ国には常にロシアの名があった。非営利組織(NPO)、弁護士、地域リーダーの提携組織であるサンディエゴ・ラピッド・レスポンス・ネットワークが公表したデータだ。前の週には、ウクライナも第3位に入った。
CBPのデータには、ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日以前に到着した移民しかカウントされていない。だが、匿名を条件に取材に応じた現役の国境管理官と元管理官は、両国間の戦闘激化により、亡命希望者の数も激増する可能性があると語った。
ロシアが「特殊軍事作戦」と称して戦車、歩兵部隊、ミサイルによる猛攻撃を加える中、ウクライナからはすでに100万人を超える人々が出国した。大半は近隣の欧州諸国に向かったが、これほどの規模とペースで集団脱出が進めば、受け入れる欧州諸国には多大な負担がかかり、一部はさらに遠隔地へと押し出される可能性が高い。
<国境に殺到するロシア・ウクライナ移民>
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ロシアのプーチン大統領は、戦争に反対する抗議参加者を拘束し、独立系報道機関を閉鎖することにより、国内反体制派に圧力をかけている。西側諸国による強力な経済制裁はすでにロシア国民に打撃を与えており、出国への圧力はさらに高まっている。
ウクライナとロシアの移民希望者は、亡命申請のためにメキシコ経由で米国南部国境を目指す方法について、ソーシャルメディア上でノウハウを共有している。
ロシアの反体制派であるドミトリー・ズバレフ氏は、昨年その長旅を決行した。人権派弁護士であるズバレフ氏は、以前、大統領選挙に出馬した野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の選挙運動を支援した。ナワリヌイ氏は現在獄中にあり、彼の組織がロシア当局によって「過激派」と認定されたことを受け、反体制派に対する弾圧強化を恐れたズバレフ氏は国外に逃れた。
ズバレフ氏が語ったその足取りはこうだ。2021年6月にメキシコ・カンクン行きの航空機に乗ってモスクワを離れ、その後、米国国境のティファナへと飛ぶ。そこで他の移民11人と共にミニバンに乗り込んだ。米国との国境を越えた直後に亡命を求め、釈放されて亡命申請の手続きを進めている。現在コネチカット州で暮らすズバレフ氏は、多くのロシア人が後に続くだろうと予想している。
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「抑圧はますます強まっており、戦争反対を叫ぶために街頭に出た人々はとても酷い扱いを受けている」とズバレフ氏は語った。「国内の悲惨な状況から逃れるため、難民という道を選ぼうとする人は増えるのではないか」
ズバレフ氏の件についてロシア政府にコメントを求めたが、今のところ回答は得られていない。
駐米ロシア大使館はメールによる声明の中で、サンディエゴ付近のメキシコ国境でロシア国籍と称する人々が「拘留」されていると表現。「非常に懸念を抱いている」として、被拘留者の身元を確認するために米国務省に連絡を取ったという。
同省にコメントを求めたが、今のところ回答は得られていない。
米国のバイデン大統領と政権高官らは、ウクライナ人だけでなく、街頭で侵攻への抗議活動を行ったロシア人についても強く支持すると述べている。
とはいえ、バイデン政権は今のところ、難民危機に関しては欧州に主役の座を譲っており、難民の大部分は欧州諸国を目指すと予想している。
米政権は3日、1日の時点で米国に滞在している数万人のウクライナ人を対象に、強制送還免除と就労を暫定的に認めたと発表した。
2日に開催された連邦議会での公聴会で、コレア下院議員(カリフォルニア州、民主党)は、ほぼ1カ月前にサンディエゴとティファナに挟まれた通関手続地サン・イーサイドロを訪問した際、車で到着するロシア人とウクライナ人の移民の数に驚いたと語った。
国境管理官は停止を命じられた20台の車をコレア議員に示し、どの車もウクライナ人とロシア人の移民でいっぱいだったと語ったという。
コレア下院議員は言った。「この問題は終わらないだろう」
<亡命のノウハウ、SNSでシェア>
パンデミック下で採用された「タイトル42」と呼ばれる政策により、米・メキシコ国境を越える移民の大半は、亡命申請の機会を与えられることなく速やかに退去させられる。
正規の歩道を使って通関手続地を徒歩で通過しようとする人々は、通常、米国の土を踏む前に追い返される。だが、車が停止を命じられるケースは、それよりも少ない。
そのため、メキシコで安い車を購入し、国境を越えて米国で亡命を申請しようとする移民が現れているという。かつて米国境警備隊主任を務めたロドニー・スコット氏は「国境線を一気に越えてしまおうという方法だ」と話す。
CBPは12月、18人のロシア人移民が2台の車で、サン・イーサイドロの通関手続地に突っ込んできたと発表した。この際、職員が発射した銃弾が1台に命中し、2台は互いに衝突。移民2人が頭部に軽傷を負ったと述べている。この日の発表では、同じ時にロシア国籍の8人が乗った別の車が1台、米国内に入ったという。
メキシコ経由で米国への入国に成功したと主張する移民らは、現在ロシア語のユーチューブ、あるいはセキュリティ保護の高い「テレグラム」といったアプリ上のプライベートグループチャットで、亡命希望者にノウハウを紹介している。
こうしたSNS上では、ルートの説明、車の調達を支援してくれる人物の連絡先や電話番号が共有されている。ロイターが確認したテレグラム内のロシア語グループでの最近のやりとりでは、チャットに参加したメンバーが、「支援者」は車を提供の代価として1人あたり少なくとも1500ドルを要求すると語っていた。別のメンバーは、ウクライナ国籍の母親のため、同乗できる車を見つけようとしていた。
通関手続地以外で国境を越えようとするロシア人、ウクライナ人もいる。1月22日早朝、米アリゾナ州ユマ付近で、双子の女の赤ん坊と男の子を連れた若いウクライナ人カップルが米国の国境管理官のもとに出頭し、亡命を求める様子をロイターのカメラマンが目撃している。
ワシントンの移民政策研究所に所属する専門家のジェシカ・ボルター氏は、米国における移民審査においてロシア人とウクライナ人の亡命申請が承認される比率が比較的高いと指摘。後に続く亡命希望者の関心を呼んでいるかもしれないという。
2022年度の政府のデータによれば、亡命を申請していたロシア人の約4分の3、ウクライナ人の半数が最終的に裁判所の審査で亡命を認められている。ただし米国の移民制度では申請が積み上がっているため、処理には数年かかる可能性がある。
メキシコ経由ルートが魅力的な理由は他にもある、とボルター氏は言う。米国の観光ビザの取得条件は厳格だが、ロシア人やウクライナ人が観光ビザで空路メキシコに入り、米国国境を目指すことは比較的容易なのだ。
メキシコのロペスオブラドール大統領は2月28日、同国はウクライナ難民の支援に注力するとし、「私たちが国境を閉じることはない」と述べた。
<国内に留まるリスク、「大きすぎる」>
ロシアの反体制派であるズバレフ氏は2017年、ナバルヌイ氏のウラジオストク市における選挙運動本部で副責任者を務めていたという。ズバレフ氏が欧州人権裁判所に提出した訴状によると、この年、同国の治安当局者がズバレフ氏のアパートの家宅捜索を行ったという。
ズバレフ氏はあるインタビューで、昨年、ナワリヌイ氏による活動がロシア政府に「過激派」と指定されたことで、「足がガクガク震えた。次の展開は分かっていた」と語った。「私自身に危険が及ぶリスクがあまりにも大きくなるのは時間の問題だった」
ズバレフ氏より先にメキシコ経由で米国に渡った仲間の活動家ら数人が、どのようなルートを使ったか教えてくれたという。同氏はメキシコ到着後、カンクンのホテルで数日間休養してから国境に赴き、米国への入国をめざす他のロシア人らと合流した。
ズバレフ氏は、車の入手経緯については語ろうとはしなかった。ただ、ティファナでロシア人相手に車の入手を手配している仲介業者からロイターが話を聞いたところ、「ロシア人は他国からの移民とは違う。(資金や援助者などの)リソースがある」という。
米国への亡命を希望したズバレフ氏は、15人ほどの他の移民とともに殺風景な国境施設の監房に53時間勾留された。
コネチカット州にたどりついたズバレフ氏は、昔取った杵柄(きねづか)である工学の知識を利用して光ファイバーケーブルを扱う事業を始め、亡命申請が承認されるのを待っているところだ。
(Dasha Afanasieva記者、Ted Hesson記者、Kristina Cooke記者、翻訳:エァクレーレン)

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