パクリと言われる『パルワールド』が描いてしまった「ポケモンにないもの」

露悪的なだけじゃない、欲しかったものもある

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ポケットペアがリリースした『パルワールド』がとてつもない人気だ。発売4日で600万本を売り上げ、Steamの同時接続者数は184万人を越えた(執筆時にSteamChartsで確認)。なんとこれはSteam歴代2位の記録である。もはや日本で流行るのみならず、世界的なムーブメントになりつつある。

しかし、同時にこの作品に対する反発も目にする。本作はポケモンのような生き物「パル」を労働させたり、銃を持たせることができる。挙げ句の果てにはプレイヤーがパルを直接攻撃できてしまうのだ。嫌がる人がいて当然だろう。

そして、本作を受け入れ歓迎する人のなかには「ポケモンに求めていたものが『パルワールド』にはあった」という意見もある。確かに『パルワールド』は問題を抱えているのだが、同時に「ポケモンにないものを描けてしまった側面」も存在する。

とにかく進化しないポケモンと、そこを無理やり突破してしまった『パルワールド』

『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(2022)

まず「ポケットモンスター」のいまについて語ろう。シリーズ最新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』はオープンワールドになっているし、『Pokémon LEGENDS アルセウス』では主人公を襲ってくるポケモンを避けるなどのアクション要素が追加されている。

よってゲームとして進歩していなくはないのだが、その歩みはヤドンくらい遅い。オープンワールドを活かせているかというと微妙だし、バトルは結局のところコマンド選択式のレトロなRPGでありそれが根幹となっている。

ゲームがあまり進化しない一因として、ポケモンがキャラクターコンテンツとして世界的に大人気であることが考えられる。つまり新しいゲームに挑戦する必要があまりなく、多くの人がクリアできるゲームとして出しておいて、キャラクターとしての人気が確保できればよいからではないか。

『Pokémon LEGENDS アルセウス』(2022)

実際、キャラクターコンテンツとしてのポケモンは好調である。アニメやグッズも展開しており、ポケモンカードは転売の的で社会問題にすら発展している。各地にポケモンのマンホールがあり、テレビやサブスクサービスでドラマやスピンオフ作品も配信……と、成功の証拠は枚挙にいとまがない。もはやメインラインであるポケモンは、安定的にゲームを発売することばかりにこだわっているとすら考えられる。

しかし、ビデオゲームにおいては技術の進歩が重要だ。そもそも初代となる『ポケットモンスター 赤・緑』が大きなブームになったのも、RPGに通信要素を持ち込んだ先進性にある。

ただひとりでRPGを遊ぶのではなく、ポケモンを交換・対戦できるようになりプレイヤー同士の交流がはじまる。いわば、ひとり用RPGにコミュニケーションを持ち込んだからこそポケモンは流行ったわけである。しかし、いまのポケモンのゲームデザインは前述のように停滞気味なわけだ(売れてはいるが)。

プレイヤーによるが、拠点を整えればパルたちは真っ当な労働環境で働くことができる。『パルワールド』(2024)

一方、『パルワールド』はどうだろうか? 本作は「ポケモンのパクリ」と言われるものの、むしろゲームシステムの基礎はオープンワールド・サバイバルゲーム『ARK: Survival Evolved』をベースにしており、そこに自動化要素などを加えている。

確かに、ボール(厳密にはスフィア)でパルを捕まえたりバトルさせるという部分はポケモンそっくりな作りだが、捕獲もバトルも完全リアルタイムである。人間とパルの協力攻撃もある。捕まえたパルは拠点で働かせることができるし、戦闘以外のモーションもきちんと作り込まれている。捕まえたモンスターの行き場がバトル以外にもきちんと用意されているのだ。

実は、ポケモンにも近い構想があるにはあった。一部の作品には、ポケモンに仕事させる「ポケジョブ」や、ポケモンたちが島でのんびり過ごす「ポケリゾート」という遊びが存在する。しかしこれらはおまけ程度のものであり、通信対戦のための育成の補助でしかないうえに、ポケモンが自律的に動き回る行為がゲームシステムにきちんと組み込まれているわけではなかった。

拠点で働くパルたちを眺めるのはなぜ楽しいのか? それは「仲間となった生き物と共生する」という体験がポケモンに求められていたものなのに今までほとんどできていなかったから、というのがひとつの要因だろう。いわば、「ゲームとして進化していないポケモン」という問題点を突破してしまったのが真似ている側の『パルワールド』なのだ。

ポケモンはパートナーなのか採集する昆虫なのか問題

『パルワールド』(2024)

とはいえ、それでもパルを強制労働させるのはかわいそうだし、ロケットランチャーの弾にしたり、無理やり合成するのはひどい、という意見はわかる。ただ、この点においても『パルワールド』がポケモンの一歩先を行っていると言えなくもない。

そもそもの話、ポケモンはもともと昆虫採集のゲームである。しかし実際は哺乳類のようなポケモンも多数出ており、「ポケモンは人間のパートナーなのか、それとも採集する昆虫なのか」という矛盾を孕んでいる状況なわけだ。

映画『名探偵ピカチュウ』では、その「昆虫採集の呪縛」から解き放たれる第一歩が描かれていた。しかし、ゲーム本編ではそれに続くことはなかったし、なんなら『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』ではむしろ従順で道具のようなポケモンたちが描写されてしまう有様だった。

『パルワールド』はこのあたり愚直で、パルは人間が搾取してもよい生き物のように描かれている。これは確かにひどいものの、重要な指摘になりうる。そもそも現実世界の人間は家畜を飼ったりペットと過ごしており、それは結局のところわれわれの都合のいいように生き物を使っているのと同義なのだから。

『Pokémon LEGENDS アルセウス』(2022)

そして、ポケモンはこのあたりを極めて曖昧にする。なぜならば、ポケモンを巡る倫理の問題を描いてしまえば、全世界・全世代に向けたキャラクターコンテンツとして問題視される結論が出かねないからだ。かといって、ポケモンが人間のパートナーであると同時に採集する昆虫であるという矛盾は消えはしないのである。

『パルワールド』を肯定する人がいる理由の一つには、この矛盾を強引に解消してしまったからだと考えられる。ポケモンでも結局、プレイヤーはブリーダーのように大量のポケモンを生み出して、理想個体でなければ野生に逃がすようなことをする。あるいはインターネット上にポケモンを預けて塩漬けにするのだ。そういう現実があるのに、ポケモンのゲームはそれとは向き合わない。が、『パルワールド』はプレイヤーの邪悪な心を思いっきり肯定してしまう。

「昆虫採集ゲームであると同時に、捕まえる存在に対して最大限倫理的に振る舞わねばならない」という矛盾と対峙するのは、ポケモンがいずれやらねばならないことであった。しかし『パルワールド』は無理やりにこれを紐解いてしまったのである。タブーをおかすという意味で問題視されると同時に、気持ちよさを感じる人がいるのもおかしくはない。

『パルワールド』は話題性の先にあるものを見せてくれるか

『パルワールド』(2024)画像はSteamより

こう書くと、「じゃあお前は『パルワールド』を肯定するのか」などと言われそうだが、そういう前のめりな姿勢はヤフコメでもやめたほうがいい。

私も『パルワールド』をしばらく遊んだが、この作品は本当にまだ基礎しかできていない。アーリーアクセスなのだから当然だが、骨組みしかできていないような状況なのだ。

重要なのはこのあとだ。模倣は人間の根底である。ポケモンや『ARK: Survival Evolved』を真似ること自体は(アセットの盗用などがなければ)問題はない。そして、そこから自分たちのオリジナリティを出せればもっと多くのプレイヤーに認められるだろう。

現状の『パルワールド』はまだその領域に達していない。ポケモンっぽいだとか『ARK: Survival Evolved』っぽいという話題ばかりなのである。その話題先行型の状況からなるべく早く抜けられれば、賛否両論を抱える本作に対するまなざしも変わってくるはずだ。

もし『パルワールド』がポケモンの抱えている矛盾を越え、パルならではの楽しさやかわいらしさ、あるいは厳しさを描写できたのならば、それは非常に意義のあるゲームになるだろう。だが、完成できず悪趣味なポケモンパロディに終わるのであれば、それは期待外れのゲームだと言わざるを得ない。

繰り返すが、模倣は誰もがすることである。模倣したあとどうなるかが大事なのだ。『パルワールド』は話題性を越えた先で自分の力を見せなければならないのである。ポケモンもまた、インディーゲームが越えられない高い壁を見せつけてくれなければならない。

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パルワールド

Pocket Pair Inc. | 2024年1月19日
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