移民大国フランスの苦悩 高まる移民制限論

Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・フランスで移民に関する議論が活発化。
・マヨット島では出産を目的として外国人が不法入国してくる。
・移民の受け入れはある程度選抜することが必要。
2024年の12月に与党連合の一角を占める中道政党の党首のフランソワ・バイル氏が首相となり、新たな内閣が発足しようやく予算案が成立したフランスだが、現在は、移民に関する議論が活発化している。
ヨーロッパでは、移民・難民問題で転換点を迎えており、フランスを含むいくつかの国では、移民に対して強硬な態度をとる極右政党が勢力を伸ばしつつある。その理由はさまざまではあるが、やはり移民を由来とする住人や在留資格のない外国人による犯罪、テロが増加し、不安に思う国民が増えていることや、フランス国民が住むところに困っているのにもかかわらず難民申請者には無償で住居が提供されるといった、不公平感からくる怒りなどだ。
にもかかわらず2015年から始まった難民危機は、収まるどころかまた増加し始めている。EU全体で2023年の難民申請が2022年度比で18%増えて約114万人となった。これは、シリア情勢の悪化で100万人を超えた2015〜16年時点よりも多い人数だ。今ではあれだけ寛容だったドイツでさえも、厳格な出入国管理や送還の促進に舵を切り始め、フランスでも同様に移民に関する問題について議論が広がり、入国や送還に対する規則が厳格化している。
■ 出生地主義の問題に発展したマヨット島問題
インド洋に浮かぶマヨット島は、人口わずか31万人、フランス101県のうち最も貧しい県だ。もともとフランス領コモロ諸島に属していたこの小さな島は、コモロ連合として独立した他の島々と異なる。住民投票した結果フランスに残ることが決まり、2011年に正式にフランスの海外県になった。そんなマヨット島では数年前から出生率が急上昇している。理由は、フランスではなくなった近隣のコモロ諸島が近いため妊婦がボートで子供を産みにやってくるからだ。フランスでは外国籍の両親から生まれた子供でも出生地がフランス国内であればフランス国籍を取得できるため 、マヨット島で出産することを目的として外国人が不法に入国してくる。
すでに2018年にマヨット島にのみ条件が追加されており、外国籍の両親は、子供の出生時に少なくとも3カ月間連続でフランスに滞在していなければ国籍取得は認められなくなったが、それでもマヨット島に子供を産みにくる人は絶えない。なんと2022年にマヨットで生まれた子供1万730人のうち実に44%が両親とも外国籍の子供だったという。
しかも子供がいる家族は退去命令が出にくいため、子供を産んでそのまま在留資格も持たずにマヨット島 にとどまり、この島で生まれて成長した子供たちがどんどんフランス国籍を取得していくのだ。この結果、不法に入国・滞在する外国人が増加したうえ、スラム街が形成されマヨット島の治安も悪化し、マヨット島の住民はデモで安全を訴えてきた。
これらの問題を解決するには、フランスで生まれた子どもにフランス国籍を自動的に与える 「出生地主義」を違う規則に変えることである。しかし、101県のうちの1県だけが 出生地主義をやめることもできない。なぜなら、「フランス全土は一つである」というフランス憲法を覆すものになるからだ。そこで、ジェラルド・ダルマナン司法大臣はマヨット島の状況を打破するためにも、出生地主義自体を廃止するため憲法を改正するべきだと求めている。またこの発言を受けバイル首相も、「何をもってフランス人というのか」を考えるための国民的議論を呼び掛けた。 しかしながら、出生地主義に関する問題は大きな問題であるため、長期にわたって議論を続けていくこととなる。とりあえずのところ現時点では、マヨット島にのみ追加されている3カ月間連続でフランスに滞在していなければ国籍取得はできないという条件を3年間滞在が条件と変更された。

▲写真 マヨットの首都 出典:Insularis/GettyImages
■ 国外退去命令がでても受け入れ国から拒否される問題
在留資格のない外国人や犯罪を犯して国外退去命令が出された外国人を、自国に送還することも決してたやすいことではない。
59歳のアルジェリア男性がTikTokに物議を醸す動画を投稿したため、モンペリエで当局に逮捕された結果国外退去命令がくだされた。しかし、1月9日にアルジェリアに飛行機で移送されたもののアルジェリアが入国を拒否。同日夜にフランスに送還されたのだ。アルジェリア外務省によれば、フランス側が逮捕したあと裁判も行われず国外追放したのは不当な行為であるからとしている。
ブリュノ・ルタイヨ内務大臣はアルジェリアとモロッコにフランスからの送還者の受け入れを増やすよう求めている。この2国は特に受け入れを拒否してきた国だからだ。
フランスの極右政党、国民連合(RN)の指導者マリーヌ・ルペン氏は、アルジェリアに対してより強い姿勢を取るべきで、送還者の受け入れを拒む国々に対するドナルド・トランプ米大統領の強硬姿勢をみならうべきだと見解を示した。ヨーロッパ ではトランプ氏の人気は高くないものの、長年にわたる移民問題に対して強硬な意見が強まっており、かつては考えられなかったトランプ氏の主張に共感する有権者が増えている。
■ 国外追放された人物が、婚姻でフランスに滞在する権利を持てる問題
国外退去命令がでても、婚姻で滞在権利を得ようとする事例もある。そこで、ルタイヨ内務大臣は、滞在許可書が非正規の状況にある人々との結婚を禁止することに賛成している。
問題となっているのは、国外追放令を受けたアルジェリア人が、フランス国籍を持つ女性と結婚しようとしたため市長が拒否したが、その市長が告訴されたことだ。フランスでは、結婚を拒否できるのは検察だけとしているのが告訴された理由だ。警察に「好ましくない人物として知られていた」この23歳の 国外追放令を受けたアルジェリア男性は、すでにアルジェリアに送還され現在も戻ってきていない。しかし、もしこの時に婚姻を認めていたら間違いなくフランスに住む権利を要求してきていただろう。
このためルタイヨ内務大臣は、在留資格のない外国人との婚姻を拒否した市長を支持することを表明し、配偶者の一方が非正規の状況にある場合に「結婚を禁止する」ことを目的とした法律の制定を求めた。ダルマナン司法大臣は、市長が「結婚に反対」できるよう法律を「変更」したいと述べた。
■ 本当に移民は国を豊かにするのか?
移民を受け入れることは多くの利益があることも知られているが、上記のように多くの問題も含んでいることが理解できる。そこで疑問に思うのが、「本当に移民は国を豊かにするのか?」ということだ。
その問いには、最近発表された移民・人口統計観測所(OID)の報告書が興味深い。この報告書によれば、移民の受け入れはある程度選抜することが必要だということが読み取れる。その理由は移民を由来とする住民の高い失業率である。この報告書では移民政策を変更することで、フランスは年間70億ユーロを節約できる可能性があるとされている。
移民を由来とする住民の失業率がどれだけ高いかといえば、フランス全体平均の約2倍だ。フランス全体の失業率は6.5%だが、移民系住民だけを見れば失業率は11.2%なのだ。
また、この失業率は、出身国によって大きな格差があることがわかっている。
アフリカからの移民の失業率は13.6%
ヨーロッパからの移民の失業率は7.3%
しかも、移民2世になればこの状況が改善されるわけではなく、格差は縮まるどころか出身国によっては広がるのだ。
アフリカからの移民の子孫の失業率:15%
ヨーロッパからの移民の子孫の失業率:5.8%
内務省によれば、2018年に居住許可を取得した移民の約30%は中等教育を受けていない。小学校では、アフリカからの移民の両親のもとに生まれた男児の40%が小学校で少なくとも1学年留年しているのに対し、非移民の両親のもとに生まれた子どもの場合は16%で格差が大きいことがよくわかる。
また、少子化が広がるフランスで、労働してくれる人材と言われている移民だが、INSEEによると、2022年に到着した非ヨーロッパ系移民の71%は2023年の初め時点でまだ就職していないことが分かっている。
この結果から、フランス社会に溶け込み必要な労働できる人材であれば国を豊かにするのに貢献するが、フランス社会についていけない人材が多ければ国と国民の負担の方が大きくなる。このあたりの調整が必要になるということだ。
■ フランスの滞在許可書を得るのに語学能力証明が必要に
社会に溶け込み生活していくには、なによりもその国の語学力レベルが重要になる。その点については、フランスはすでに2024年に出され今年試行予定の新移民法で厳格化されている。この新法では、短期の滞在許可書申請時にすでに中学校レベルの語学能力の証明を必要とし、国籍取得時に証明すべき語学能力レベルが高くなった。
現時点では滞在許可書を取得するには、フランス語の習得に努めるという誓約書に署名すれば許可される。それが新法では、滞在許可書を取得する時点でフランスの中学生レベル(11〜15歳)の語学力の証明が義務付けられたのだ。また、フランス国籍の取得にはDELF B1レベルの語学テストが必要だったが、今後はより高いレベルの語学力が求められるようになった。
具体的に必要になる語学レベルは下記となる
・2~4年間の居住許可証を取得するには、中学校レベル(DELF A2レベル)
・10年間のカードを取得するには、高校レベル(DELF B1レベル)
・フランス国籍の場合は、大学レベル(DELF B2レベル)
DELF B2レベルは、語学だけではなく高校卒業程度の知識力も必要となってくるため、自国で教育を受けてこなかった外国人にとってはかなりハードルが高いことが問題になっている。しかし、優秀な人材のみに国籍を与えるという意味では効果が高いともいえるかもしれない。
■ 受け入れ可能な移民の許容範囲を超えたフランス
フランスは、19世紀から積極的に移民を受け入れているヨーロッパ随一の移民大国だ。しかしながら、国民に占める割合が増加することにより多くの問題が出てきた。それがルタイヨ内務大臣が訴えるこの言葉だ。
「移民問題は、第一に数の問題です。すべては割合の問題です。ピレネーやヴァンデの村では、家族が1つ増えたくらいでは問題になりません。でも30家族増えたら大混乱です。今日、私たちはもはや移民の流れをコントロールできません。」
また、「初回滞在許可書の申請件数と、亡命申請の数が合計して年間50万件をこえる入国は多すぎる。」と内務大臣は述べ、「移民問題は入国者数を減らし、出国者数を早める能力の問題だ。」とした。そして「何よりも優先して解決すべきことは入国者数だ。」と主張した。
すでに受け入れ可能な移民の許容範囲を超えて消化しきれなくなったフランスでは、今後ますます国民の不満も大きくなっていくと思われる。しかしながら、移民については、エマニュエル・マクロン大統領は国民投票は視野に入れていない。フランス人の68%が移民に関する国民投票に賛成と回答しているが、国民投票で何か決められるほど単純な問題ではないことは間違いない。
関連リンク
・「何をもってフランス人か」 仏首相、移民めぐる国民的議論呼び掛け
・マヨットの土地法: 新しい法案には何が含まれていますか? – 公立上院
・土地法:ジェラルド・ダーマーニンは、フランス国籍の取得は「自動的に行われるべきではない」と信じている
・ブルーノ・レタイロー、異常な状況にある者との結婚禁止に賛成
・移民: ブルーノ・ルタイロー氏 は「年間 50 万件の入国は多すぎる」と見積もる
・調査:フランス人の10人中7人近くが移民に関する国民投票に賛成
トップ写真:シラク元仏大統領マヨット島訪問時の様子(2001年)出典:Jacques Langevin/Sygma/Sygma via Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。
