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産業計画会議の勧告に対する運輸省の見解

提供:Wikisource


 産業計画会議が新東京国際空港の建設の問題をとりあげ、今回これに関する勧告を発表されたことは、この問題の重要性を認識されたものとして深く敬意を表するものである。この勧告は、種々興味ある意見を含んでいるが、次の基本的な点、すなわち、

(1)新国際空港は、首都東京の必要とする空港であるから、可能な限り東京に近い所に建設すべきであること。
(2)新国際空港は、可能な限り大規模なものとすること。
(3)新国際空港の供用開始の時期は、諸般の情勢からできるだけ早期とすること。

において、我々と意見が一致していることは同慶の至りである。

 しかしながら、候補地に関する勧告の内容を仔細に検討してみると、次に述べるようにいくつかの点においてわれわれの同意できない議論が見受けられる。

(1)東京湾内を候補地として想定した場合、都心との距離を短縮するためには東京湾横断堤の建設が不可欠の前提となるが、横断堤建設は未だ構想の域を出でず 、その実現は予断を許さない。従って、これを前提として新空港計画を樹立することは少なくとも新空港の完成時期を大巾に遅らすことになるので賛同し難い。
(2)新空港の建設は、供用開始までに4年間あれば完成するという前提のもとに、昭和39年末あるいは昭和40年上期までに候補地を決定すればよいとしているが、このようなタイム・スケジュールは、非現実的でとうてい実現不可能であるといわざるを得ない。
(3)東京東部内陸地域の気象状況が極めて悪いと述べられているが、これは気象庁予報部の見解と異なっており独断的な見解である。
(4)東京湾内に候補地を選ぶために、航空管制上支障があれば羽田空港を廃止すべしと主張しているが、これは誠に無謀な見解である。航空管制上一つの空港の処理能力には限界があるので将来の空港旅客の大規模な需要をまかなうためには、東京周辺に二つ以上の空港が是非とも必要である。このことは、諸外国の主要都市の実例を見れば明らかである。今、仮に大規模な新空港を建設したとしても、その空港のみによっては将来の需要をまかなえないことが明白であるにも関わらず、羽田空港を廃止しようとすることは、非常識な意見といわざるを得ない。
 現在の羽田空港は都心から極めて近く、施設もすでに完備されており、国内線用空港として得難い貴重な存在である。これをいかに他の用途に転用するとしても大きな国家的損失となることは必定である。
(5)羽田空港の廃止後もう一つの空港が必要であれば、米軍の厚木飛行場を東京の国内線用空港とすることを提案しているが、これは航空常識から見て適切な見解とは言い難い。厚木、立川、横田、入間川の軍用飛行場群は、互に至近距離に行って、同一方向の滑走路を有しており、一つの飛行場のごとく運用されているのが実態であって、厚木飛行場のみを切り離して民間航空の飛行場に転用しても、効率的運用は不可能であり、かつ危険である。また、短距離旅客の多い国内線専用空港を都心より40キロメートル以上も離れた距離にわざわざ移すというのは、本勧告の前提の趣旨と矛盾している。

この著作物は、日本国の著作権法第10条1項ないし3項により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。(なお、この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により、発行当時においても、著作権の目的となっていませんでした。)


この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。