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末梢血塗抹検査

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
末梢血塗抹検査
医学的診断
血液塗抹標本。左は無染色、右はライト・ギムザ染色
類義語 末梢血液像(鏡検法)
目的 血液細胞の形態や数の異常を検出する。

末梢血塗抹検査(まっしょうけつとまつけんさ、英語: examination of peripheral blood smear, blood smear)とは、血液をスライドガラスに塗抹、染色して顕微鏡で観察する検査である。

概要

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健常成人の末梢血塗抹像。赤血球・白血球・血小板がみられる。

末梢血塗抹検査は、血液細胞の形態や数の異常を検出する目的で行われる。

静脈等から採取した末梢血[※ 1]スライドガラス上に薄く広げ(塗抹)乾燥後、染色される。

染色には、通常、ロマノフスキー染色の変法(メイ・グリュンワルド・ギムザ染色ライト・ギムザ染色、など)が用いられる(稀に特殊染色が行なわれることがある[※ 2][1][2])。なお、本項で記載する血液細胞の色は、染色した状態の色であることに留意されたい。

塗抹および染色の工程は、大規模施設では機械化されているが、最終的には、臨床検査技師が顕微鏡で観察(鏡検)し、また、100 - 200個の白血球を目視で分類する必要がある。 診断に直結する重要な情報が得られる一方で、人手を要する検査である。

血液細胞の細胞数算定や細胞分類には、近年は自動血球計数装置[※ 3]をまず最初に使用するのが通常であり、機械算定で異常が検出された場合や、血液疾患などを背景にもつ患者の場合は、必要に応じ、末梢血塗抹検査が追加される[3][4]

類義語として、「末梢血液像」があるが、こちらは機械法と鏡検法を合わせて意味することが多い。 「末梢血液像(鏡検法)」は、医療保険診療報酬を算定する際の名称である。 [5]

白血球分類

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白血球は、鏡検では、通常、下表の6分画に分類して報告される。基準値は、各施設が独自に設定していることが多いが、ここでは、日本臨床衛生検査技師会日本検査血液学会の提唱する共用基準範囲[6]を示す。

白血球分画 基準値(%)
[下限値 - (メジアン) - 上限値]
00写真00 特徴[7]
好中球桿状核球 0.5 -( 2.0)- 6.5 桿状核球 好中球は赤血球の2倍程度の大きさ(10 - 15 μm程度)で、淡褐色の細胞質に橙褐色の微細な顆粒が多数ある。桿状核球では、核は棒状でくびれがある。
好中球分葉核球 38.0 -(57.0)- 74.0 分葉核球 上記好中球の特徴は共通。核が2 - 4に分葉している。
リンパ球 16.5 -(32.0)- 49.5 リンパ球 径6 - 15 μm程度。核は円形ないし腎形。細胞質は淡青色で、アズール顆粒[※ 4]を少数認めることがある。
単球 2.0 -(5.0)- 10.0 単球 径13 - 21 μm程度。最も大きい白血球。灰色がかった青色の細胞質が豊富。微細な顆粒が細胞質に多数見られる。核は円形から腎臓形で、核の幅は広く、複雑にくびれている。
好酸球 0.0 -(2.0)- 8.5 好酸球 径13 - 21 μm程度。好中球よりやや大きい。淡褐色の細胞質には大きな橙赤色の顆粒がある。
好塩基球 0.0 -(1.0)- 2.5 好塩基球 径10 - 16 μm程度。淡褐色の細胞質には大きな暗青紫色の顆粒がある。

上記6分類以外の細胞が認められる場合は、追加して報告される。上記以外の血液細胞(前骨髄球後骨髄球異型リンパ球赤芽球巨核球、など)の末梢血出現は、数にもよるが、通常は異常と考えられる。骨髄芽球、腫瘍細胞、病原体[※ 5]は少数でも認められたら異常である。

桿状核球と分葉核球の分類

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桿状核球とは、狭義には好中球、広義には多形核白血球[※ 6]の核が分葉していないもの、分葉核球は、核が分葉したものを意味する。

末梢血塗抹検査では、好中球桿状核球分葉核球を分別して計数する。 桿状核球と分葉核球の鑑別は一般に普及している自動血球計数装置では不可能[※ 7]であり、鏡検(目視分類)を要する[6]

白血球分画と疾患の関係

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白血球分画 増加する病態 減少する病態
好中球:桿状核球桿状核球と分葉核球分葉核球
リンパ球
リンパ球
単球
単球

単球減少は、一般的には診断的意義は低いが、有毛細胞白血病の所見として知られる。

好酸球
好酸球

好酸球減少の診断的意義は乏しい。

好塩基球
好塩基球

好塩基球減少の診断的意義は乏しい。

[5][3][2][7]

白血球(顆粒球)の異常

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左方移動

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慢性骨髄性白血病、白血球増多と左方移動がみられる。

桿状核球の相対的増加を左方移動[※ 10]と呼ぶ (通常、白血球中の桿状核球の割合が15 %以上を左方移動とみなす。)

好中球をはじめとする多形核白血球は、成熟に従い、核が分葉する。従って、核が分葉していない桿状核球の増加は、通常、成熟白血球の消費が亢進するとともに白血球の産生が細菌感染などの刺激により増大して血中の幼弱な白血球の比率が増大していることを意味する。 著しい例では、後骨髄球骨髄球も末梢血にみられることがある。 左方移動は、重症の細菌感染症の存在を示唆し、診断上、重要である[8]

なお、慢性骨髄性白血病でも幼弱な好中球の前駆細胞が末梢血に出現するため、血液像は左方移動を呈する。[7]

核の低分葉

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ペルゲル・フェット核異常:鼻眼鏡型の核

先天的に好中球の核分葉が減少するペルゲル・フェット(Pelger-Huet)核異常という病態(通常は無症状)が知られている。正常の分葉核球の核は3前後(2から5)に分葉しているが、ペルゲル・フェット核異常では亜鈴ないし鼻眼鏡型の2葉の核が大半である[※ 11]。 後天的にも、骨髄異形成症候群タキサン系抗癌剤投与に類似の分葉異常が認められ、偽ペルゲル・フェット核異常と呼ばれる[9]骨髄異形成症候群にみられた場合は、急性白血病転化のリスクが大とされる[10]

核の過分葉

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ビタミンB12欠乏でみられた好中球核過分葉

好中球で、5分葉以上の核の増加、ないし6分葉以上の核がみられたら過分葉という。ビタミンB12欠乏症などの巨赤芽球性貧血骨髄異形成症候群、抗腫瘍薬投与、などで見られる[9]

中毒性顆粒

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肺炎患者の好中球(分葉核球)にみられた中毒性顆粒

中毒性顆粒とは、好中球細胞質の青紫色に染まる粗大な顆粒であり、幼若なアズール顆粒の残存と考えられる。 重症感染症、G-CSF投与、など、好中球が急速に動員される病態でみられる。好中球の中毒性変化[※ 12]の一つである[9]

デーレ小体

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デーレ小体と空胞をもつ好中球

デーレ小体(()Döhle bodies)とは、 好中球の細胞質にみられる青染する斑点状の封入体である。細胞質の成熟が遅れてリボソームが蓄積したものとされる。 猩紅熱、重症感染症化学療法、などでみられ、好中球の中毒性変化[※ 12]の一つである[9]が、健常人でも観察されることがある。

空胞変性

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左の好中球には空胞変性がみられる

好中球の細胞質にみられる空胞である。通常、貪食作用を反映し、重症感染症(特に敗血症)でよくみられる。好中球の中毒性変化[※ 12]の一つであり[9]、中毒性顆粒とともにみられることがよくある。なお、好中球の空胞は感染症(中毒性変化)以外にも、急性アルコール中毒や放射線被曝でもみられることがある。[9]

英語版のToxic vacuolationも参照。

ジョルダンス異常

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白血球内の空胞(ジョルダンス異常)。中性脂質蓄積症の一つであるドルフマン・シャナリン症候群患者。

ジョルダンス(Jordans)異常とは、末梢血塗抹標本で顆粒球の細胞質に空胞が多発しているように見える所見であり、その実体は脂肪滴である。先天性の中性脂質蓄積症英語版[※ 13][11]の所見。

ジョルダンス(G.H.Jordans)が1953年に報告したのでジョルダンス異常英語版(Jordans' anomaly)と呼ばれるが、しばしば、ジョルダン異常(Jordan’s anomaly)とも表記される。

低顆粒好中球

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骨髄異形成症候群でみられた低顆粒好中球、偽ペルゲル・ヒュエット核異常を伴う。

好中球細胞質の中性好性顆粒の産生障害で、細胞質が白く抜けて透明感が増す。 白血病骨髄異形成症候群で見られることがある。[10]

芽球の出現

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末梢血塗抹でみられた骨髄芽球
アウエル小体を持つ骨髄芽球

末梢血中の骨髄芽球リンパ芽球は血液の腫瘍性疾患を示唆する。骨髄芽球は、急性・慢性の白血病、骨髄異形成症候群、骨髄繊維症、などでみられる[※ 14] リンパ芽球は急性リンパ性白血病でみられる[※ 15]

アウエル小体

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アウエル小体(()Auer rod、Auer body)[とは、骨髄芽球または前骨髄球の細胞質にみられることがある、赤紫・線状ないし紡錘状の封入体であり、アズール顆粒由来と考えられている。急性骨髄性白血病(AML)、なかでも急性前骨髄球性白血病(APL)を示唆するが、骨髄異形成症候群慢性骨髄単球性白血病などでもアウエル小体が見られる場合がある[12]

リンパ球の異常

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異型リンパ球(反応性リンパ球)

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異型リンパ球。核は分葉状。

大型で細胞質の広く好塩基性(青色)が強いリンパ球。核小体、アズール顆粒、空胞、が見られることがある。 免疫系の刺激を反映する反応性の変化であり、腫瘍性ではない[9]

分葉リンパ球

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マントル細胞リンパ腫のフラワー細胞

核が花びら状に分葉したリンパ球(フラワーセル)は、典型的には、成人T細胞白血病(ATL)にみられる[13][※ 16]

異常リンパ球

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悪性リンパ腫患者の末梢血中のリンパ腫細胞

異常リンパ球とは腫瘍性の形態変化を示すリンパ球であり、急性リンパ性白血病悪性リンパ腫などで末梢血中に腫瘍細胞が出現した状態である。良性の反応性の変化である異型リンパ球と混同してはならない。異常リンパ球は、細胞質に比し核が大きい、核形が不整、核小体が明瞭、などの特徴により異型リンパ球と鑑別される。

核影

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核影(スマッジ細胞)

核影(グンプレヒトの核影、スマッジ細胞ともいう。()smudge cells、basket cells、Gumprecht shadows) とは、末梢血塗抹標本を作成する際に白血球(特にリンパ球)が崩壊して生じた染みのような像を意味し、人工産物である [※ 17] [14] [15]

健常人でも少数は認められうるが、 慢性リンパ性白血病(CLL)では多数の核影がみられ、また、核影が多いほど予後がよいと報告されている [※ 18]。 その他、リンパ性白血病伝染性単核球症などでもみられることがある [15] [16] [17]

赤血球の異常

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正常赤血球は、直径7-8 μm、円形で中央が明るく見える(中央淡明)。 以下に述べる形態異常[3]は、原虫を除き、健常人でも少数はみられることがあり、異常と判断するには、出現頻度をも考慮する必要がある[5]

赤血球の大きさ・大小不同・色素量・多染性

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鉄欠乏性貧血。小球性低色素性赤血球と赤血球の大小不同。
ピンクの正常赤血球に混じって、青みがかった色に染まる多染性赤血球がみられる
大きさ

赤血球径が6 μmより小さいものを小赤血球、9.5 μmより大きいものを大赤血球とする。 ただし、赤血球の大きさの異常の検出は、塗抹鏡検検査でも定性的には可能であるが、臨床現場では、自動血球計数装置[※ 3]で定量的に計測される平均赤血球容積(MCV)が主に用いられる。

小赤血球がみられる(MCVが低値をとる)貧血は小球性貧血(()microcytic anemia)とよばれ、ヘモグロビン合成障害によるもので、後述の低色素性貧血と同じ病態であり、大部分は鉄欠乏性貧血であり、その他、鉄芽球性貧血サラセミア、慢性疾患に伴う貧血、などがある[18][19]

大赤血球がみられる(MCVが高値をとる)貧血は大球性貧血(()macrocytic anemia)とよばれ、代表的なものに、巨赤芽球性貧血ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症、など、DNA合成障害)、および、肝障害にともなう貧血がある [18]

大小不同

赤血球の大小不同(()anisocytosis)は、鉄欠乏性貧血巨赤芽球性貧血でよくみられる [※ 19] [20]。 また、輸血後や骨髄異形成症候群では、大きさが違う二群の赤血球が併存(二相性)することがある[20]

色素量

赤血球のヘモグロビン(血色素)量が正常なものを正色素性、ヘモグロビン量が低下している(淡い色に染まる)ものを低色素性とよぶ。 目安としては、赤血球の中央の淡明部(()central pallor)が赤血球直径の1/3を超えたものは低色素性である[20]。 定量的には、自動血球計数装置で算出される平均赤血球血色素量(MCH)があるが、 ヘモグロビン量は赤血球容積と同じ動きをするので、臨床的には、もっぱら、平均赤血球容積(MCV)が使用される。 [20][18][19]

多染性

成熟した赤血球は酸性色素のエオシンでピンクに染まるが、幼弱な赤血球は、さらに、塩基性色素(メチレンブルーアズール色素)にも染まって青みがかって見え、これを多染性(()polychromasia)とよぶ。多染性赤血球(網赤血球と同じものである)が多数出現している場合は、赤血球形成の亢進(溶血性貧血、慢性出血、または急性出血回復期、など)、または、髄外造血が考えられる[20]。 なお、幼弱な赤血球の定量には、自動血球計数装置または視算による網赤血球数が用いられる。

上記各項目に関連する疾患・病態の詳細は貧血、および、文献[19][18][21]を参照されたい。

連銭形成

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連銭形成

連銭形成(()rouleaux formation)とは、赤血球が銭に紐を通したごとく広い面で互いに連なって見える状態である。高ガンマグロブリン血症(多発性骨髄腫マクログロブリン血症)や高フィブリノーゲン血症(感染症膠原病など)など血液粘度の亢進した状態で見られる(健常人でも塗抹の厚い部分でみられることがある)[20]

赤血球凝集

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寒冷凝集素による赤血球凝集

赤血球凝集(()Red blood cell agglutination)では、赤血球が、連銭形成とは異なり、ブドウ状の集塊を形成している。寒冷凝集素症(IgM自己抗体による)や自己免疫性溶血性貧血で見られる [20]赤血球凝集も参照。

楕円赤血球

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遺伝性楕円赤血球症

楕円赤血球(()elliptocyte)とは、楕円形(ないし、卵円形、棒状)を呈する赤血球である。遺伝性楕円赤血球症[※ 20]が典型だが、巨赤芽球性貧血鉄欠乏性貧血、化学療法後、アルコール過飲による大球性貧血、などで二次的に出現することがある[20]楕円赤血球英語版も参照。

球状赤血球

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球状赤血球:中央の淡明部が消失

球状赤血球(()spherocyte)とは、膜透過性異常のため赤血球にナトリウムが蓄積し中凹みがなくなった状態である。塗抹標本では、赤血球は小型で中央の淡明部が消失している。 免疫介在性溶血性貧血遺伝性球状赤血球症でみられる[20]

有口赤血球

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有口赤血球

有口赤血球(()stomatocyte)とは、中央淡明が長方形になり、口のように見える赤血球である(口唇赤血球ともいう)。 遺伝性有口赤血球症、アルコール過飲、血液型物質異常(Rh null 症候群)、などでみられる[20][18]遺伝性有口赤血球症英語版も参照。

破砕赤血球

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破砕赤血球(TTP)

破砕赤血球(分裂赤血球、断片化赤血球、()schistocyte、fragmented erythrocyte)とは、 ヘルメット型、三角形、などに断片化した赤血球であり、中央淡明もしばしば消失している。 血管内にフィブリン血栓や血小板血栓が形成され、そこを通過する赤血球が分断されるため生成するとされる。

原因には、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血栓性微小血管障害(TMA)、など、重篤な病態が含まれる。その他、行軍ヘモグロビン尿症、心臓の人工弁などでもみられる。[20] 破砕赤血球英語版も参照。

涙滴赤血球

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涙滴赤血球

涙滴赤血球(()teardrop cell、dacrocyte)とは、一方向が涙滴状に尖った赤血球である。非特異的な変化であるが、骨髄線維症、癌の骨髄転移、サラセミアなど髄外造血が盛んな病態で見られ、線維の間を赤血球が通過する際の変形とされる。[20] 涙滴赤血球英語版も参照。

鎌状赤血球

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鎌状赤血球

鎌状赤血球(かまじょうせっけっきゅう、()sickle cell)とは、 異常ヘモグロビン(HbS)が赤血球内で凝集するため、赤血球が三日月状、ないし、舟状に変形したものである。遺伝性の溶血性貧血である鎌状赤血球症でみられる。

有棘赤血球

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有棘赤血球
ウニ状赤血球

有棘赤血球(()acanthocyte、spur cell)赤血球表面に多数の棘状の突起がある状態である。

突起の分布・長さ・太さが揃っていて先端が鋭く尖っているものをウニ状赤血球(()echinocyte、burr cell)、突起が不揃いなものを有棘赤血球として区別することがあるが、鏡検では厳密に区別することは難しい[22][18][20]

有棘赤血球は、重篤な肝疾患、脾臓機能低下、βリポ蛋白欠損、血清脂質低下、神経有棘赤血球症、などでみられる[20]有棘赤血球英語版も参照。

ウニ状赤血球は、ATP産生障害を伴う溶血性貧血(ピルビン酸キナーゼ欠損症英語版など)、腎不全輸血後、リン欠乏症、熱傷、などでみられる[20]ウニ状赤血球英語版も参照。

標的赤血球

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標的赤血球

標的赤血球(()target cell、codocyte)とは、赤血球の中央の淡明部に赤く染まる部分が生じて射的の的のように見える赤血球で、表面積に比べ体積が小さくなり膜が過剰となった場合に出現する。

サラセミア鉄欠乏性貧血鉄芽球性貧血、異常ヘモグロビン症(ヘモグロビンC、ヘモグロビンSC)、肝疾患、閉塞性黄疸、などでみられる。 [23][20] 標的赤血球英語版も参照。

有核赤血球

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有核赤血球

ヒトを含む哺乳類では、末梢血中の赤血球をもたない。骨髄赤芽球は核を失ってから網赤血球として末梢血に移行し、成熟赤血球となる。 末梢血の赤血球が核をもっている(すなわち、赤芽球が末梢血に出現している)場合は、有核赤血球(()nucleated red blood cell、NRBC)とよばれる。

末梢血中の有核赤血球は、出生直後は正常でも少数みられるが、その後は、骨髄障害(悪性腫瘍の骨髄転移、骨髄異形成症候群白血病鉛中毒、重篤な全身状態、など)、髄外造血骨髄線維症、悪性腫瘍の骨髄転移など)、脾臓摘出後、急激な赤血球形成亢進(大量出血からの回復期など)、などの病態で出現する。

なお、有核赤血球とともに白血球系の幼若細胞が出現する場合は、白赤芽球症(()leukoerythroblastosis)とよばれ、髄外造血などでみられる。 [7] [24]

ハウエル・ジョリー小体

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ハウエル・ジョリー小体

ハウエル・ジョリー小体(()Howell-Jolly body)は赤血球内の暗青色から紫色の封入体である。類円形で、単独で存在し赤血球直径の10-20%前後と、比較的大きい。核の遺残物とされる。

脾臓摘出後、DNA合成障害(ビタミンB12欠乏症などの巨赤芽球性貧血、化学療法後)、 骨髄異形成症候群、などでみられる[20][5]

パッペンハイマー小体

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パッペンハイマー小体(右は鉄染色)

パッペンハイマー小体(()Pappenheimer body)は、赤血球の周辺に分布する小さな青から紫色の封入体で、通常、複数個みられる。鉄染色で染まる鉄顆粒であり、不溶性の非ヘム鉄の沈着により生じる。

脾臓摘出後、鉄芽球性貧血巨赤芽球性貧血骨髄異形成症候群鉛中毒ヘモグロビン異常症、各種の鉄過剰症、などでみられる [7][20][25]

ハインツ小体

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ハインツ小体(猫、ハインツ小体染色)

ハインツ小体(()Heinz body)は、赤血球の周縁部の小さな類円形の封入体で、ロマノフスキー染色では染まらず透明だが強く光を屈折する(ハインツ小体染色では染め出すことが可能である)。

ヘモグロビンが変性したものであり、不安定ヘモグロビン症、脾臓摘出後、メトヘモグロビン血症、等においてみられる。 [※ 21] [7][20]

好塩基斑点

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好塩基性斑点赤血球

好塩基斑点(好塩基性斑点、()basophilic stippling, punctate basophilia)は、赤血球の細胞質全体に分布する、多数の、塩基性の色素(メチレンブルーなど)で青く染まる顆粒である。リボソーム、ないし、リボソームのRNAが凝集したものと考えられている。

鉛中毒の所見として有名であるが、サラセミア鎌状赤血球症などのヘモグロビン異常症、巨赤芽球性貧血骨髄異形成症候群ピリミジン-5'-ヌクレオチダーゼ欠損症、など、さまざまな疾患で出現しうる。なお、鉛中毒などの場合は粗大な好塩基斑点であるが、微細なものは網赤血球が増加する病態や健常人でもみられることがある[26][20][7]

カボット環

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カボット環

カボット環(()Cabot rings)赤血球内の赤から紫色の環状または8の字状構造物。細胞分裂の際の紡錘糸に由来するとされる。稀な所見である。

ビタミンB12欠乏、 鉛中毒骨髄異形成症候群、その他、赤血球形成の障害をきたす病態でみられる[27][7]

原虫

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三日熱マラリア原虫
バベシア原虫

マラリアの確定診断は、末梢血塗抹標本で赤血球内のマラリア原虫を確認することが基本である[28]

バベシア症のバベシア原虫も赤血球内に寄生して、マラリアと鑑別を要する場合がある[29]

血小板の形態異常

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赤血球と血小板

正常の血小板は淡青色の細胞質中にアズール顆粒がみられる。[7] 赤血球より小さく、2〜4 μm程度の大きさである。 (巨核球で産生された直後の血小板は大きく、老化につれて小さくなる。) 4 μmを越えると大型血小板、赤血球の大きさ(8 μm)を越えると巨大血小板とされる[30]

なお、血小板の数的異常の評価は、通常、自動血球計数装置[※ 3]を用いる。数的異常については、血小板血小板減少症を参照されたい。

大型血小板・巨大血小板

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巨大血小板

先天性疾患では、ベルナール・スリエ症候群メイ・ヘグリン異常症英語版灰色血小板症候群英語版[※ 22]、など、多数の疾患が知られている。巨大血小板症英語版も参照されたい[31]

後天性疾患では、骨髄での血小板産生が亢進する病態(特発性血小板減少性紫斑病、大量出血後、骨髄抑制回復期、など)、や骨髄異形成症候群などでみられる。 [7]

なお、巨大血小板は、自動血球計数装置では赤血球と誤認されることがあるので、塗抹標本での確認を要する場合がある[2]

微小血小板

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WAS遺伝子異常による原発性免疫不全症のウィスコット・アルドリッチ症候群英語版、および、 その軽症型のX連鎖血小板減少症は、小型の血小板と血小板減少が特徴的である [31][32]。(画像は文献[32]を参照されたい。)

血小板凝集

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血小板凝集
血小板衛星現象。白血球のまわりに血小板が付着している。
検体凝固により血小板とフィブリンの集塊がみられる。

末梢血塗抹標本上で血小板が凝集していたら、通常、検査の過程で生じた人工産物[※ 17] と考えられる。

よくみられるのは、採血管の抗凝固剤であるEDTAによるEDTA依存血小板凝集症である。 血小板が凝集するため、自動血球計数装置[※ 3]では血小板数が誤って低く算定される(偽性血小板減少症とよばれる)。 鏡検により血小板の凝集を認めるので、真の血小板減少症と鑑別可能である。ヘパリン等、EDTA以外の抗凝固剤を用いると血小板数が正しく算定されることが多い。誤診の原因となりうるので注意を要するが、特に病的意義はない。[5][33]

同じく、EDTAにより、白血球の周囲に血小板が付着することもあり、血小板衛星現象と呼ばれる。稀な偽性血小板減少症の原因である[33]

その他、採血や検体取り扱いの手技が不良で検体が凝固することによっても血小板凝集がおこりうる。この場合は鏡検でフィブリンも認められる。

脚注

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  1. ^ 末梢血とは末梢静脈など血管の中を流れる血液であり、「造血器官である骨髄の血液ではない」という意味で使用される。骨髄から穿刺や生検で採取した血液には、末梢血にはみられない幼若な血液細胞などが多々含まれ、骨髄塗抹標本検査(骨髄像)が行なわれる。
  2. ^ 白血病などの血液疾患では、異常細胞の細胞系統の鑑別のため、ペルオキシダーゼ染色(骨髄系細胞とリンパ系細胞の鑑別)、エステラーゼ染色(好中球単球の鑑別)、などの特殊染色が行なわれることもあるが、近年は細胞表面マーカー検査や遺伝子検査染色体検査が主流である。
  3. ^ a b c d 自動血球計数装置(自動血球算定装置、自動血球分析装置ともいう)は、主にコールターカウンターの原理を利用して、血液細胞の分類・計数を行う検査装置である。
  4. ^ アズール顆粒(アズール好性顆粒)とは、染色液のアズール色素で染まり紫褐色から紫赤色を呈する顆粒である。詳細はアズール顆粒を参照されたい。
  5. ^ 末梢血塗抹検査で発見しうる病原体としては、マラリア原虫バベシア原虫トリパノソーマ原虫フィラリア、などがある。また、重篤な敗血症では、白血球に貪食された細菌がみられることがある。
  6. ^ 多形核白血球(polymorphonuclear leukocytes。多核球、顆粒球とよばれることもある)とは、細胞質内に特異顆粒を持つ白血球であり、主に好中球をさすが、他に、好酸球好塩基球も含まれる。ただし、好酸球や好塩基球は数が少なく、顆粒のため核の形状が判別しにくい場合も多いため、桿状核球と分葉核球の区別は、通常は、好中球についてのみ行なわれる。
  7. ^ 画像認識により桿状核球と分葉核球を識別可能な血液像自動分析装置は市販されているが、現時点では広く普及しておらず、また、人間の鏡検を完全に不要とするレベルには達していない。
  8. ^ 偽性好中球減少症とは、好中球の体内分布の異常で、辺縁プールの増大により末梢血好中球数が少ないが、免疫能は正常である。
  9. ^ アジソン病では相対的な好中球減少、好酸球増多、リンパ球増多がみられる。
  10. ^ 血液細胞の分化は、通常、左から右へ分化が進む形で記載するため、未分化な細胞が増えることは、左にずれると表現することになる。
  11. ^ ほとんどのペルゲル・フェット核異常ヘテロ接合型であるが、まれなホモ接合型では好中球の殆どが分葉をしめさない。
  12. ^ a b c 好中球の中毒性変化とは、感染症炎症ストレス顆粒球コロニー刺激因子、などにより好中球の産生が増加する場合にみられることがある、好中球の形態的変化を意味し、中毒性顆粒デーレ小体、細胞質の空胞が含まれる。左方移動好中球増多を伴うことが多い。
  13. ^ 中性脂質蓄積症(neutral lipid storage disease、NLSD)には、魚鱗癬を伴うNLSD-I(CGI-58遺伝子の変異。ドルフマン・シャナリン症候群)と、ミオパチーを伴うNLSD-M(ATGL遺伝子の異常)がある。
  14. ^ 骨髄抑制の回復期(特にG-CSF投与時)にも一過性に骨髄芽球が出現することがある。
  15. ^ リンパ芽球はリンパ球の前駆細胞であるが、ときに、抗原刺激で巨大化したリンパ球をリンパ芽球と呼ぶことがあり、注意を要する。
  16. ^ ATLを発症していないHTLV-1無症候キャリヤの末梢血にもフラワーセルがみられることがある。
  17. ^ a b 人工産物(アーチファクト)とは、自然の状態では存在せず、観察の目的で人間が介入したことにより新たに生じたもの、という意味である。
  18. ^ 予後の悪い慢性リンパ性白血病(CLL)症例では、腫瘍細胞の細胞骨格蛋白であるビメンチンが多くて細胞が壊れにくいためである
  19. ^ 自動血球計数装置においても、赤血球の大小不同を、RDW(red cell distribution width、 赤血球分布幅)として定量的に報告できるものがある
  20. ^ 遺伝性楕円赤血球症では卵円形+棒状の赤血球が多数みられるが、通常、溶血や貧血はなく、臨床的に問題にはならない。
  21. ^ 獣医学領域ではハインツ小体はタマネギ中毒の所見の一つである。
  22. ^ 灰色血小板症候群においては血小板のα顆粒の産生が障害されているため、末梢血塗抹標本ではアズール顆粒に乏しい淡い色の血小板がみられる。画像は米国血液学会イメージバンク:Gray Platelet Syndromeを参照されたい。

出典

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外部リンク

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関連項目

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