ネコ科
ネコ科 | ||||||||||||||||||||||||
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保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||
ワシントン条約附属書II | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Felidae Fischer, 1817[2] | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
ネコ科[3][4][5] | ||||||||||||||||||||||||
下位分類群 | ||||||||||||||||||||||||
ネコ科(ネコか、Felidae)は、哺乳綱食肉目に分類される科。イエネコ、ヤマネコ、ライオン、トラ、ヒョウ、チーター、サーベルタイガーなどが含まれる。
形態
[編集]耳介は大型で漏斗状をしており、集音効果に優れている[4]。眼は大型で、立体視ができ色覚もある[4]。瞳孔は調節する筋肉が作用し、明るさの変化への順応が早い[4]。網膜の感覚細胞の後部に反射層(輝板、タペタム)があり、これにより光が感覚細胞を透過せず反射することで2回刺激され、暗所でも適応できる。暗所でネコの眼にわずかでも光が当たると光るのは、この輝板の反射による[4]。
歯列は門歯が上下6本、犬歯が上下2本、小臼歯が上顎6本・下顎4本、大臼歯が上下2本と、計30本の種が多い(オオヤマネコ類・マヌルネコなどは上顎の小臼歯が4本のため計28本)[4]。犬歯は大型で(ウンピョウで顕著)、獲物に噛みつき仕留めるのに適している[4][5]。食物を咀嚼する大臼歯が退化している代わりに、舌に鑢状の突起があり、食物を固定し引き裂いた後、舌で肉を削ぎ落とすことができる[4]。ヒョウ属では舌骨の基部を動かすことができ、これによって吠えることができる[4][5]。
多くの種で爪をさやに引っ込めることができ、速く走る、木に登る、獲物を捕らえる際など、必要な時にだけ爪を出す[5]。
分類
[編集]ネコ科は食肉目のネコ型亜目に属す。従来ニムラブス科もネコ科に含まれていたが、現在は独立した科とされている[6]。最古のネコ科は鮮新世前期~中新世前期のプロアイルルスであるが、現生のネコ科や剣歯虎は中新世前期のスーダエルルス(Pseudaelurus)の子孫である[6]。「サーベルタイガー」(剣歯虎)は名前に虎とつくものの、トラなどとは系統的に離れたマカイロドゥス亜科に属す。
系統
[編集]Piras et al. (2013) による絶滅分類群を含む分岐図[7]
ネコ科 |
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Felidae |
以下、Johnson et al. (2006)による現生種の分岐図[8]
ネコ科 |
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Felidae |
現生種の分類
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Li et al. (2016) より、核DNAを解析した現生種の系統図より(学名は出典に従う)[9]。 |
2006年に発表された分子系統推定から、以下の系統(順番はこの解析での分岐順)に分かれるという解析結果が得られている[2]。2016年に発表された分子系統解析でもこれらの系統は支持されたが、分岐順は異なる(Panthera lineageに次いでBay cat lineageではなくCaracal lineageが分岐したとされ、Bay cat lineageはLynx lineageに次いで分岐した系統という解析結果が得られている)[9]。
- Panthera lineage - ウンピョウ属、ヒョウ属
- Bay cat lineage - アジアゴールデンキャット属、マーブルキャット属
- Caracal lineage - アフリカゴールデンキャット + カラカル、サーバル属
- Ocelot lineage - オセロット属
- Lynx lineage - オオヤマネコ属
- Puma lineage - チーター属、ジャガランディ + ピューマ
- Leopard cat lineage - マヌルネコ、ベンガルヤマネコ属
- Domestic cat lineage - ネコ属
以下の現生種の分類・英名は、IUCN SSC Cat Specialist Group (2017) に従う[2]。和名は付記のないかぎり、川田ら (2018, 2021) に従う[3][10]。
- ネコ亜科 Felinae
- チーター属 Acinonyx
- カラカル属 Caracal
- Caracal aurata アフリカゴールデンキャット African golden cat(アフリカゴールデンキャット属Profelisとする説もあり)
- Caracal caracal カラカル Caracal
- アジアゴールデンキャット属 Catopuma(Pardofelis属に含める説もあり)
- Catopuma badia ボルネオヤマネコ Bay cat
- Catopuma temminckii アジアゴールデンキャット Asiatic golden cat
- ネコ属 Felis
- Felis bieti ハイイロネコ Chinese mountain cat(ヨーロッパヤマネコの亜種とする説もあり)
- Felis catus イエネコ Domestic cat
- Felis chaus ジャングルキャット Jungle cat
- Felis lybica リビアネコ[5] African wildcat(ヨーロッパヤマネコの亜種とする説もあり)
- Felis margarita スナネコ Sand cat
- Felis nigripes クロアシネコ Black-footed cat
- Felis silvestris ヨーロッパヤマネコ European wildcat
- ジャガランディ属 Herpailurus(ピューマ属に含める説もあり)
- Herpailurus yagouaroundi ジャガランディ Jaguarundi
- オセロット属 Leopardus
- Leopardus colocola コロコロ Pampas cat(パンタナルネコL. braccatusやパンパスネコL. pajerosを分割する説もある)
- Leopardus geoffroyi ジョフロワネコ Geffroy's cat
- Leopardus guigna コドコド Guiña, Kod-kod
- Leopardus guttulus ミナミジャガーネコ[11] Southern tigrina(L. tigrinusの南部個体群が分割。ヒガシジャガーネコL. emiliaeを分割する説もある[11])
- Leopardus jacobita アンデスネコ Andean mountain cat
- Leopardus pardalis オセロット Ocelot
- Leopardus tigrinus ジャガーネコ(キタジャガーネコ[11]) Northern tigrina, Oncilla(南部個体群がL. guttulusに分割)
- Leopardus wiedii マーゲイ Margay
- サーバル属 Leptailurus(カラカル属に含める説もあり)
- オオヤマネコ属 Lynx
- Lynx canadensis カナダオオヤマネコ Canada lynx
- Lynx lynx オオヤマネコ Eurasian lynx
- Lynx pardinus スペインオオヤマネコ Iberian lynx
- Lynx rufus ボブキャット Bobcat
- マヌルネコ属 Otocolobus
- Otocolobus manul マヌルネコ Pallas's cat
- マーブルキャット属 Pardofelis
- Pardofelis marmorata マーブルキャット Marbled cat
- ベンガルヤマネコ属 Prionailurus
- Prionailurus bengalensis ベンガルヤマネコ Leopard cat(亜種イリオモテヤマネコは亜種P. b. euptilurusのシノニムとする説もあり)
- Prionailurus javanensis ジャワヤマネコ[11] Sunda leopard cat(ベンガルヤマネコのスンダ列島・フィリピン個体群が分割)
- Prionailurus planiceps マライヤマネコ Flat-headed cat
- Prionailurus rubiginosus サビイロネコ Rusty-spotted cat
- Prionailurus viverrinus スナドリネコ Fishing cat
- ピューマ属 Puma
- ヒョウ亜科 Pantherinae
分類史
[編集]リンネの『自然の体系』でネコ属 (Felis) とされたものが7種(ライオン・トラ・ヒョウ・ジャガー・オセロット・イエネコ・オオヤマネコ)あり、これは現在の現生ネコ科の範囲におおよそ対応している。19世紀にジョン・エドワード・グレイやニコライ・セヴェルツォフらによって属が多数分割されたあと、1917年にレジナルド・インズ・ポコックがネコ亜科・ヒョウ亜科・チーター亜科の3亜科に分類したものが現在に続く現生ネコ科の下位分類の基本となっている[14]。亜科に関しては、分子系統解析などからチーター亜科の独立性が否定されているほか、化石種の分類体系との均衡から現生種を全てネコ亜科に含めヒョウ亜科を認めない場合もある[15]。属については20世紀中葉にジョージ・ゲイロード・シンプソンの影響で現生種が3属のみにまとめられたこともある[16]
分布
[編集]オーストラリア大陸・南極大陸・マダガスカルを除く[4]全ての大陸とほとんどの島。
生態
[編集]約4分の3以上の種が森林に生息する[4]。夜行性で森や茂みの中で生活する種が多い。主に単独で生活するが[4]、ライオンやチーターは血縁関係のある個体で群れを形成することもある[5]。
主に脊椎動物を食べるが、魚類、昆虫、果実を食べることもある[5]。肉のみを食料とする種も多く、ほとんどの地域で食物連鎖の頂点にいる。
主に2 - 3匹の幼獣を産む[5]。出産間隔は小型種では年に1 - 2回、大型種は2 - 3年に1回[5]。
人間との関係
[編集]毛皮目的の狩猟、家畜や人間を襲う害獣としての駆除などにより生息数が減少している種もいる[5]。
出典
[編集]- ^ I, II and III (valid from 22 June 2021)<https://cites.org/eng> [Accessed 17/07/2021]
- ^ a b c IUCN SSC Cat Specialist Group, "Species accounts," Cat News, Spacial Issue 11, 2017, Pages 11 - 75.
- ^ a b 川田伸一郎, 岩佐真宏, 福井大, 新宅勇太, 天野雅男, 下稲葉さやか, 樽創, 姉崎智子, 横畑泰志 「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1 - 53頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l Gillian Kerby 「ネコ科」今泉忠明訳『動物大百科 1 食肉類』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、35 - 36頁。
- ^ a b c d e f g h i j 成島悦雄 「ネコ科の分類」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、150 - 171頁。
- ^ a b c 冨田幸光『新版 絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄・岡本泰子イラスト、丸善出版、2011年、109頁。
- ^ Piras, P.; Maiorino, L.; Teresi, L.; Meloro, C.; Lucci, F.; Kotsakis, T.; Raia, P. (2013). “Bite of the Cats: Relationships between Functional Integration and Mechanical Performance as Revealed by Mandible Geometry”. Systematic Biology 62 (6): 878–900. doi:10.1093/sysbio/syt053. ISSN 1063-5157. PMID 23925509.
- ^ Johnson, W. E.; Eizirik, E.; Pecon-Slattery, J.; Murphy, W. J.; Antunes, A.; Teeling, E.; O'Brien, S. J. (2006). «The late miocene radiation of modern Felidae: a genetic assessment». Science 311 (5757): 73-77. PMID 16400146. doi:10.1126/science.1122277.
- ^ a b Gang Li, Brian W. Davis, Eduardo Eizirik, William J. Murphy, "Phylogenomic evidence for ancient hybridization in the genomes of living cats (Felidae)," Genome Research, Volume26, Issue 1, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2016, Pages 1 - 11.
- ^ 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・鈴木聡・押田龍夫・横畑泰志「世界哺乳類標準和名リスト2021年度版」日本哺乳類学会、2021年12月24日公開、2022年1月13日閲覧。
- ^ a b c d e 水口博也・秋山知伸 編著「ネコ科分類リスト」『世界で一番美しい野生ネコ図鑑』誠文堂新光社、155-157頁。
- ^ Valerie A. Buckley-Beason, Warren E. Johnson, Willliam G. Nash, Roscoe Stanyon, Joan C. Menninger, Carlos A. Driscoll, JoGayle Howard, Mitch Bush, John E. Page, Melody E. Roelke, Gary Stone, Paolo P. Martelli, Ci Wen, Lin Ling, Ratna K. Duraisingam, Phan V. Lam, Stephen J. O’Brien, "Molecular Evidence for Species-Level Distinctions in Clouded Leopards," Current Biology, Volume 16, Issue 23, 2006, Pages 2371 - 2376.
- ^ Andrew C. Kitchener, Mark A. Beaumont, Douglas Richardson, "Geographical Variation in the Clouded Leopard, Neofelis nebulosa, Reveals Two Species," Current Biology, Volume 16, Issue 23, 2006, Pages 2377 - 2383.
- ^ Pocock, R. I. (1917). “The Classification of existing Felidae”. Ann. Mag. N. Hist. Ser. 8 20: 329-350 .
- ^ Lars Werdelin (2013). “Family Felidae”. In Kingdon et al.. Mammals of Africa. 5. Bloomsbury. pp. 144-147
- ^ Simpson, G.G. (1945). “Felidae”. The principles of classification and a classification of mammals. Bulletin of the American Musium of Natural History. 85. pp. 230-232