クリスマスリース
クリスマスリース(英語: Christmas Wreath)は、クリスマス時期に家庭の戸口に飾られるリース(輪状の装飾品)。主にセイヨウヒイラギやモミなどの常緑樹の葉、松かさ、ベル、リボンなどで輪状の装飾を作り、戸口(扉)に飾るもの[1]。
概要
[編集]植物の蔓を環状に編んで土台とし、常緑樹であるセイヨウヒイラギ[* 1]、マツ、モミ[1]、ゲッケイジュ[2][3]、セイヨウキヅタ[2]、スギなどでの葉で覆い[4]、輪の形にして飾る[3]。輪の飾りの上部には、セイヨウヒイラギの赤い実やベル、赤いリボン、木の実、松かさなどを飾る[1][3]。他に鈴、花、クリスマスボール[5]、ブドウやリンゴを飾ることもある[2][4]。中にはハート型のものもある[3]。
生花[* 2]やプリザーブドフラワーでアレンジすることもある。きらきらと光る素材の他、ドライフルーツなどの自然素材を装飾に施すことも人気である[4]。ドライフラワーや木の実で美しく飾った物も見られる[3][6]。珍しいところとしては、パッチワークを用いたり、パスタに色を塗って作った物[6]、乾電池式のLEDライトで光る物などもある[5]。
クリスマスリースの製作は一般家庭でも、クリスマス前の楽しみなイベントの一つになっている[4]。クリスマス気分を盛り上げると共に、インテリアとしても活躍している[4][7]。
かつては北アメリカでよく見られた風習だが、後にはイギリスでも見られるようになっている。これは、アメリカ映画の影響と考えられている[8]。
由来
[編集]クリスマスリースの由来は諸説あるが、一般的には古代ローマ時代からとされており[8][9]、以下の説が唱えられている。
- 古代ローマでは12月31日から1月4日までを新年の祝賀とし、様々な贈り物を交換する風習があり、本来は常緑樹の枝を贈っていた。1年を通じてみずみずしい緑の枝を贈る行為に、相手の健康を願う思いを込めたものであり、贈り物に付加価値をつけるため、枝を折り曲げて輪状にすることが流行した。こうした願いを込めた物を贈られたことを示すため、新年の家内健康の祈願を兼ねて、ローマ人たちが貰った輪を家の戸口に飾ったことが由来[8]。
- 古代ローマ時代には収穫祭の装飾にセイヨウヒイラギが用いられており[10][11]、セイヨウヒイラギ(English holly)がクリスマスの聖(holy)の意と結びつき、その日をこの木で飾ることになった[10]。
- リースは本来、祭事や結婚式などの特別な行事の装飾であり、4世紀の頃にローマ皇帝がキリスト教を国教としたことから、キリスト教徒にローマの風習が広まり、リースを飾るという文化とキリスト教の文化が混ざり、クリスマスでもリースが飾られるようになった[4][7]。
なお、クリスマスのグッズとしての歴史は比較的浅く、クリスマス専用のリースが飾られるようになったのは、19世紀の初め頃とも言われている[6]。
意味
[編集]クリスマスリースを玄関に飾るのは、魔除け[10][12]、豊作祈願[9][12]、新たな年と平安と繁栄祈願の飾りと言われている[3][12]。「輪」は永遠を意味し[13]、永遠に続く神の愛を象徴[14]、永遠の幸福への願い[7]、新年の幸福の祈願を意味するともいう[13]。
リースに使われる様々な素材にも、その一つ一つに願いが込められている[15]。セイヨウヒイラギは、冬季にも緑の葉と赤い実をつけることから不死の象徴と考えられ、これを飾る家は守られ、住人には幸運と長寿がもたらされると考えられている[16]。その特徴的な鋭利な葉は、魔女や悪魔、悪霊を刺して撃退するとも考えられ[16]、魔除けを意味する[3]。この葉はキリスト教においては、磔刑にされたイエス・キリストの茨の冠を現すとされ[16][17]、イエスの受難を意味しているといわれている[1][9]。赤い実は、茨が皮膚を貫いたときに珠となって落ちたイエスの血[16]、即ち死に至る愛[1][17]、または赤い涙と考えられている[9]。
モミ、セイヨウヒイラギ、スギなどの常緑樹の葉は、殺菌効果や抗菌作用を持つとされ[7]、殺菌効果のあるモミを使うことで、無病息災の願いが込められているとも言われている[4]。特にマツは常緑樹として、不滅性、不老長寿、豊穣多産の象徴として、古来よりめでたい木とされていた[18]。古代オリエントでは、マツに変じたアッチスという豊穣神が崇拝されていたことから、マツの枝と松かさは豊穣多産の象徴として、各国で飾り物となっている[3]。また、これらの常緑樹は常に緑色の葉を茂らせることから、豊作物の繁栄を意味し[4]、魔除けをも意味している[15]。
リースについている飾りの松かさやブドウ、リンゴなども、豊作物の繁栄を意味しており[4][13]、その年の豊作に感謝すると共に、翌年の豊作を祈願するために使われる[9]。ブドウはイエスの象徴、リンゴは神への供え物との説もある[9]。ベルも音が鳴ることから、魔除けの効果を持つと考えられている[3][19]。
色とりどりのリースがあるが、その色にも意味がある。緑は永遠の命[12]、永遠の愛[9]、農作物の成長[3]、赤はイエスの血や涙[7][9]、愛[7][12]、太陽の炎と生命力[3]、白は純潔[9]、純粋な心、雪[7][9]、金と銀は希望や富など[7][9]といわれる。常緑樹の緑、赤い実、雪の白はいわゆるクリスマスカラーと呼ばれる3色であり[9]、セイヨウヒイラギの葉の緑と実の赤は12月の色でもある[10]。
時期
[編集]クリスマスリースを飾る時期は、ヨーロッパなどでは、クリスマスの4週間前(11月30日に一番近い日曜日)から1月6日の「イエスが神の子として人間の前に現れた日」(公現日[6])までという説[1]、2月2日の聖燭祭までという説がある[4][9]。
このクリスマスの4週間前の時期を「アドベント」(待降節[3])と呼び、イエスの降誕を待ち望む期間を意味しており[9]、これに関連してアドベントリースというリースもある[4]。
日本では一般的には、12月に入ってから飾られる。1月には正月のしめ飾りを飾ることもあり、クリスマスが終わった後には外すことが多い[4]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f “クリスマスリース”. 時事用語事典. 集英社 (2010年11月). 2019年12月24日閲覧。
- ^ a b c d クリスマスおもしろ事典刊行委員会編 2003, pp. 89–98
- ^ a b c d e f g h i j k l 遠藤 & 大塚 1989, pp. 145–146
- ^ a b c d e f g h i j k l 高橋和世 (2018年11月20日). “なぜクリスマスにリースを飾るの?”. 一般社団法人Flower Works Japan. 2019年12月24日閲覧。
- ^ a b “クリスマス気分を盛り上げるデコレーションアイテム5選”. ハフポスト日本語版 (2019年12月18日). 2019年12月24日閲覧。
- ^ a b c d e クリスマスおもしろ事典刊行委員会編 2003, pp. 82–83
- ^ a b c d e f g h Rie (2019年10月11日). “クリスマスリースの手作りにチャレンジ! 作り方と飾る意味”. mamagirl. ソニー・ミュージックエンタテインメント. 2019年12月24日閲覧。
- ^ a b c モリス 1994, pp. 78–79
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 彩賀美保 (2016年12月12日). “今年はクリスマスリースの意味を感じながら飾ってみませんか?”. 家事・節約コラム. ニフティ不動産. 2019年12月24日閲覧。
- ^ a b c d 日本社編 1996, p. 165
- ^ 樋口清之『樋口清之の雑学おもしろ歳時記』三笠書房〈知的生きかた文庫〉、1988年5月、210-211頁。ISBN 978-4-8379-0234-8。
- ^ a b c d e 平井 2015, p. 129
- ^ a b c 新谷監修 2013, p. 176
- ^ 「ハーブで癒やしTime 香るクリスマスリース」『茨城新聞』茨城新聞社、2013年12月15日、日曜版、3面。
- ^ a b 原田真理子「家庭園芸 クリスマスを彩るリース」『日本海新聞』新日本海新聞社、2014年12月13日、朝刊、13面。
- ^ a b c d モリス 1994, pp. 151–152
- ^ a b 遠藤 & 大塚 1989, pp. 131–132
- ^ 遠藤 & 大塚 1989, p. 129.
- ^ クリスマスおもしろ事典刊行委員会編 2003, p. 85.
参考文献
[編集]- 遠藤紀勝、大塚光子『クリスマス小事典』社会思想社〈現代教養文庫〉、1989年11月30日。ISBN 978-4-390-11317-5。
- 平井かずみ『ブーケとリース』主婦の友社、2015年6月20日。ISBN 978-4-07-296785-0。
- デズモンド・モリス『クリスマス・ウォッチング』屋代通子訳、扶桑社、1994年11月20日(原著1992年11月19日)。ISBN 978-4-594-01578-7。
- 『絵でつづるやさしい暮らし歳時記 暦でみる日本のしきたりと年中行事』新谷尚紀監修、日本文芸社、2013年11月25日。ISBN 978-4-537-21154-2。
- クリスマスおもしろ事典刊行委員会 編『クリスマスおもしろ事典』日本キリスト教団出版局、2003年10月25日。ISBN 978-4-8184-0508-0。
- 日本社 編『つい誰かに話したくなる雑学の本』講談社〈講談社+α文庫〉、1996年8月20日(原著1981-6)。ISBN 978-4-06-256156-3。