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利用者:位相空間を中和/sandbox

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利用者:位相空間を中和/sandbox/1

接続(せつぞく、: connection)とは、微分幾何学および微分位相幾何学の概念で、接ベクトルバンドルやより一般のベクトルバンドル微分概念を定義する演算子である。接続に定義される微分概念を共変微分という。

接続および共変微分の概念は元々リーマン多様体上のベクトル場の微分を定義するために導入されたもので、この接続をレヴィ=チヴィタ接続という。一般の接続概念はレヴィ=チヴィタ接続の満たす性質を自然に一般のベクトルバンドル拡張する事で得られる。

接続概念はクリストッフェル並びにレヴィ-チヴィタリッチによって導入された[1]

接続によって定まる重要な概念の一つとして平行がある。これは与えられたベクトル場の与えられた曲線に沿った共変微分が0になる、という趣旨の概念で、曲線に沿って平行なベクトル場X(あるいはより一般にベクトルバンドルの切断)により、曲線の起点PにおけるベクトルXPが曲線の終点曲線の起点QにおけるベクトルXQ平行移動されたとみなす。 これにより、(何ら構造が定義されていない)多様体では無関係なはずの点PにおけるベクトルXPと点QにおけるベクトルXQにおけるベクトルを「接続」して関係づけて考える事ができる。

接続によって定まるもう一つの重要概念として曲率があり、これはベクトルバンドルの「曲がり具合」を表している。特に接ベクトルバンドルの曲率は多様体それ自身の「曲がり具合」とみなせる。曲率概念は歴史的には3次元ユークリッド空間内の曲面に対して定義されたものだが、実は「外の空間」であるがなくても定義できる曲面に内在的な量である事が示されたので、これを一般のリーマン多様体(の接ベクトルバンドル)、さらには一般のベクトルバンドルに対して拡張したものである。多様体に内在的な量としてみなしたとき、曲率の幾何学的意味は、閉曲線に沿ってベクトルを一周平行移動したとき、もとのベクトルとどの程度ずれるかを測った量であるとみなせる。

接続概念はゲージ理論チャーン・ヴェイユ理論で用いられる。特にチャーン・ヴェイユ理論の特殊ケースとして、曲面に関する古典的なガウス・ボンネの定理一般の偶数次元多様体に拡張するのに役立つ。


レヴィ-チヴィタ接続

モチベーション

可微分多様体[注 1]M上の可微分な曲線を局所座標でと書くとき、の「1階微分」は、

により定義される(アインシュタインの縮約記法で表記)。これはMの部分多様体であり、可微分な写像

によってと書ける場合[注 2]における接線が

と書ける事からこのように定義したのであった。

ではの「2階微分」や「3階微分」をどのように定義すべきか。そのためにM上の滑らかな曲線を考え、ベクトル

であり、しかもM接バンドルTM上で可微分なものを考え(すなわちは曲線上定義された可微分なベクトル場)、の「微分」をどのように定義すべきかを考える。例えばが1階微分であれば、の微分は「2階微分」に相当し、が「2階微分」であればの微分は「3階微分」に相当する。


の「微分」を定義するため、の1階微分の場合と同様、Mの部分多様体の場合を考える。前述のようににおけるM内の曲面としての接平面と同一視できるが、このときの「微分」を

により定義する。ここで「」は(と同一視されている)MP(t)における接平面への射影である。


実は以下の定理で示すように、ユークリッド計量が誘導するM上のリーマン計量を用いた式で書け、Mへの埋め込み方に依存せず定義できる。よってMが任意のリーマン多様体の場合も、この式を用いて微分概念を定義できる。レヴィ-チヴィタ接続とはこのアイデアのもと定義されたリーマン多様体上の微分演算子であり、(レヴィ-チヴィタ接続から定まる)共変微分とは、レヴィチヴィタ接続による微分である。

定理 ―  nmnを自然数とし、上のm次元曲面

、where

を考え、この曲面ユークリッド計量から定まるリーマン計量を入れる。すなわち上の点における接平面

に成分表示が

となるリーマン計量をMに入れる。このとき、M上の可微分な曲線と、可微分なベクトルで各時刻tに対して、Mにおける接平面に属しているものとするとき、

が成立する(アインシュタインの縮約記法で表記)。ここでMにおける接平面への射影であり、

であり、の逆行列である。すなわちクロネッカーのデルタとするとき、である。

定義

以上の考察を踏まえ、レヴィ-チヴィタ接続を以下のように定義する:

定義 (レヴィ-チヴィタ接続、共変微分) ―  をリーマン多様体とし、M上の可微分なベクトル場の集合する。写像

をベクトル場に対し、Pの周りの局所座標を用いて以下のように定義し、レヴィ-チヴィタ接続: Levi-Civita connection)、リーマン接続: Riemannian connection)もしくはリーマン・レヴィ-チヴィタ接続: Riemann Levi-Civita connection)と呼ぶ[2][3][4][注 3]

ここでは局所座標表示であり、

であり、の逆行列である。すなわちクロネッカーのデルタとするとき、である。の事をクリストッフェル記号という。微分YY方向の(レヴィ-チヴィタ接続によって定まる)共変微分という。

レヴィ-チヴィタ接続の定義は局所座標の取り方に依存しているが、局所座標の取り方によらずwell-definedである事を示せる。


また定義式中のYX方向微分である事に注意すると、YMの全域で定義されていなくても、Xを点Pにおける接線として持つ曲線上定義されていれば、共変微分は定義可能である。この「曲線上の共変微分」を以下のように定義する。

定義 ―  リーマン多様体上の可微分な曲線と、上のTMの可微分な切断対し、

と定義し、の(レヴィ-チヴィタ接続によって定まる)曲線に沿った共変微分と呼ぶ。

共変微分の概念を2つ定義したが、ベクトル場Xの点を通る積分曲線とし、とすれば、

となる事が容易に示せるので、2つの共変微分の概念は(前者はM上のベクトル場を、後者はXに沿った曲線上のベクトル場を微分する除けば)同一である。

公理的特徴づけ

リーマン多様体上のレヴィ-チヴィタ接続は以下の性質を満たす:

定理 (レヴィ-チヴィタ接続の性質) ―  

  1. (関数に関する左線形性)
  2. (実数に関する右線形性) 
  3.  (ライプニッツ則)
  4. (捻れなし)
  5. (計量との両立)

ここでXYZM上の任意の可微分なベクトル場であり、fgM上定義された任意の実数値可微分関数であり、abは任意の実数であり、は点Pにおいてとなるベクトル場であり、fX方向微分であり、リー括弧英語版である。


実は上記の性質はレヴィ-チヴィタ接続を特徴づける:

定理 (レヴィ-チヴィタ接続の公理的特徴づけ) ―  M上の可微分なベクトル場の集合をとするとき、関数

で上記の5性質を満たすものはレヴィ-チヴィタ接続に限られる[5][6]

なお、上記の事実はリーマン計量の正定値や非退化性を仮定しなくても成り立つ事が知られている:

定理 ―  gを多様体M上定義された(正定値とも非退化性とも限らない)二次形式の可微分な場とする。このとき、レヴィ-チヴィタ接続の5性質を満たす接続が一意に存在する[7]

この事実は、非退化だが正定値ではないgが定義された擬リーマン多様体、およびそれを理論の基礎として用いる一般相対性理論で役立つ。 上記の定理で存在が保証された接続も「レヴィ-チヴィタ接続」と呼ぶが、特に断りがない限り、本項では単に「レヴィ-チヴィタ接続」といった場合は、リーマン計量の(すなわち非退化性かつ正定値な二次形式の)レヴィ-チヴィタ接続を指すものとする。


上述した特徴づけを使うと、レヴィ-チヴィタ接続の成分によらない具体的な表記を得る事ができる。

定理 ―  XYZをリーマン多様体M上の任意の可微分なベクトル場とするとき、以下が整理する[8]

ベクトルバンドルの接続

レヴィ-チヴィタ接続の概念を一般化したものとして、ベクトルバンドルに対する接続の概念がある。接続の概念はゲージ理論チャーン・ヴェイユ理論で重要な役割を果たす。本項では、議論の一般性を確保するために接続の概念を導入するが、あくまでレヴィ-チヴィタ接続やそこから誘導される接続を主軸として話を進める。

準備

接続の概念を定義するため、ベクトルバンドル関連の概念をいくつか定義する。

定義 (接続) ― を可微分多様体M上の可微分なベクトルバンドルとする。可微分な写像

for

を満たすものをE切断: section)という。Eの切断全体の集合をあるいは単にと表記する。

定義から分かるように、接バンドルTMの切断の概念は、Mのベクトル場の概念に一致する。よってM上のベクトル場全体の集合に一致する[9]

可微分多様体M上の可微分な2つのベクトルバンドルに対し、写像

を考える。

定義 ―  

for

を満たすとき、α-線形であるという[10]。また

for

を満たすとき、α-線形であるという[10]

定義 ― 任意の開集合および任意のに対し、

が成立するとき、α局所演算子: local operator)であるという[11]

また任意のおよび任意のに対し、

となるとき、α点演算子: point operator)であるという[11]

実は次が成立する:

定理 ― 以下の4つは同値である[12]。:

  1. α-線形である
  2. αは点演算子である
  3. あるバンドル写像が存在し、任意のに対し、
  4. Mの各点Pの元を対応させるテンソル場ηが存在し、

また次が成立する:

定義・定理 ― αが局所演算子であるとする。このときMの任意の開集合Uに対し、

for

を満たすものが一意に存在する[13]と書き、αUへの制限(: restriction)という[13]

定義

接続は前述したレヴィ-チヴィタ接続の公理的特徴づけの5つの性質のうち3つを使って定義される:

定義 (接続) ― を可微分多様体M上の可微分な実ベクトルバンドルとする(EMのいずれにもリーマン計量が入っているとは限らない)。 関数

で以下の性質を満たすものをE上のKoszul接続: Koszul connection[14][15]あるいは単に接続: connection)といい[16][17]を接続が定めるsX方向の共変微分という:

  1. Xに関して-線形
  2. sに関して-線形
  3.  (ライプニッツ則)

Mの接ベクトルバンドルTMの接続の事を特にアフィン接続: affine connection)という[18]

ここでXM上の任意のベクトル場であり、sEの任意の切断であり、fM上定義された任意の実数値可微分関数であり、は点Pにおいてとなるベクトル場であり、fX方向微分である。


明らかにレヴィ-チヴィタ接続はの場合の接続になっている。


Xに関して-線形であり、したがって点Pにおける値XPにおける値XPのみから決まる。この事に着目すると、接続を若干違った角度から定式化できる。これを見るため、Eに値を取る線形写像

と定義すると、余接ベクトル空間T*Mの定義から、

とみなせる。そこでMの各点Pを対応させる切断

を考える事ができる。よって接続は、Eの切断sの切断を対応させる写像

とみなせる。この事実を用いると、接続を以下のようにも定義できる:

定義 (接続の別定義) ― -線形写像

で以下の性質を満たすものをE上の接続: connection)という[19]

上記の2つの定義は同値であるが、後者はXを明示しない分数学的取り扱いが若干楽になる場合が多い。


ライプニッツ則を用いると、以下を示す事ができる:

定理 ― 接続sに関して局所演算子である。

成分表示

Mを局所座標とし、xを成分でとあらわし、さらにU上定義されたEの局所的な基底とする。接続sに関して局所演算子であったので、Uへの制限を考える事ができる。接続の2番目の定義に従って

where

と成分表示するとライプニッツ則より、以下のようにを成分で書き表す事ができる[20]

を局所的な基底に関する接続形式[20]: connection form)という。を並べてできる行列の事を接続行列: connection matrix)と呼ぶ場合もあるが[21]、紛れがなければこの行列も接続形式と呼ぶ[20]


さらにを成分で、

とすると、

であり、

とレヴィ-チヴィタ接続のときと同様の成分表示が得られる。を(局所座標と局所的な基底に関する)接続係数: connection coefficient[22]、あるいはレヴィ-チヴィタ接続の場合の名前を流用し、クリストッフェル記号という[23]

接続の誘導

本節では、あるベクトルバンドル上定義された接続から別のベクトルバンドル上の接続を定義する方法を述べる。その過程でレヴィ-チヴィタ接続のときにも議論した

  • 曲線に沿った共変微分
  • リーマン計量と接続の両立

に関しても述べる。

引き戻し

これまで同様M上の可微分なベクトルバンドルの接続とし、さらにを可微分多様体NからMへの可微分な写像とすると、fによるEの引き戻し(pullback bundle

を考える事ができる。


NMの局所座標で、となるものを選び、さらにU上のEの基底を選んで接続を接続形式を使って

と成分表示する。

定義 ― の接続をそのVへの制限

となるように定義し、fによる引き戻し: pull back)、fによって誘導された接続: induced connection)という[24]

がwell-definedな事の証明は省略する。接続係数を使えば、

である。


引き戻しの特殊な場合として、Nが線分の場合がある。この場合写像M上の曲線とみなせる。曲線に沿った切断sに対し、

を考える事ができる。を接続によって定まる曲線に沿った切断sの共変微分という。成分で書けば

となるので、レヴィ-チヴィタ接続の場合の曲線に沿った切断sの共変微分の概念の一般化になっている事がわかる。


直和・テンソル積への誘導

多様体M上の2つのベクトルバンドルE1E2があり、E1E2にはそれぞれ接続が定義されているとする。このとき、上に

for

により、接続が定義できる[25]。また上に

により、接続が定義できる[25]

双対バンドルの接続とリーマン計量

MのベクトルバンドルEに接続が定義されているとき、Eの双対バンドルをE*に以下の性質を満たす接続を定義できる[26][25]

ここでXM上の任意のベクトル場であり、sEの任意の切断であり、ωE*の任意の切断であり、Eの双対ベクトル空間E*の元とEの元との内積である。

Eにリーマン計量がg定義されている場合、EE*は自然に同一視でき、

が成立する事になるが、一般にはは異なる。情報幾何学の分野ではの事を双対接続: dual connection[27]という。

定義 (リーマン計量と両立する接続) ―  である場合、すなわち

が成立する場合、はリーマン計量g両立する(: compatible with g)といい、計量接続英語版: metric connection)であるという[28]

これは、

とも言いかえられる。


g上の双線形写像なので、gを自然にの元とみなす事ができる。

テンソル積および双対空間の接続の定義より、

である。これを接続とgの両立の定義と比較することで以下を得る:

定理 ―  gと両立する必要十分条件は、以下が成立する事である:

また簡単な計算から以下が従う:

定理 ―  上のEの局所的な基底で正規直交なものを取るとき、gと両立する必要十分条件は、の接続形式ωが以下を満たす事である:

ここで「」はω転置行列である。

複数の接続の関係

接続の定義から明らかに以下の性質を示すことができる:

定理 ― を多様体M上ののベクトルバンドルEの接続とする。このとき、

Eの接続である。

また、2つの接続

に対し、

とすると、Xs双方に関して-線形である事が示せ、したがって前に述べた定理からというバンドル写像だとみなせる。逆に接続とバンドル写像が与えられると、

E上の接続である事を確かめられる。まとめると、以下の定理が成り立つ:

定理 ― を多様体M上ののベクトルバンドルEの2つ接続とする。このとき、

はバンドル写像とみなせる。逆にバンドル写像E上の任意の接続に対し、

E上の接続である。

捻れテンソル

多様体M上のアフィン接続

に対し、以下のテンソルを定義する:

定義 (捻れテンソル) ―  

捩れテンソルという。

「捩れ」という名称に関してはLoring W. Tuによれば「を「捩れ」と呼ぶうまい理由は無いように見える」[29]


捻れテンソルの定義とレヴィ-チヴィタ接続の公理的特徴づけから明らかなように、レヴィ-チヴィタ接続とは、接バンドルの接続で、リーマン計量と両立し、しかも捻れテンソルが0になる接続のことである。

定理 ― 捻れテンソルは以下を満たす[30]

  • XY双方に関して-線形である。

ここでXYM上の任意の可微分なベクトル場である。


上述の定理と前に述べた定理から、以下の系が従う:

 ― 捻れテンソルはバンドル写像であるとみなせる。


接続を局所座標で

と書くとき、次が成立する:

定理 ― 捻れテンソルは以下を満たす[31]

が恒等的に0

よって捻れテンソルが恒等的に0になる接続、すなわち捻れなし: torsion-free)の接続の事を対称: symmetric)な接続ともいう[31]

またを任意の1-形式にとするとき、

である。ここでd外微分である。よって次が成立する:

定理 ― を多様体Mの接バンドルTM上の接続とするとき、

が捻れなし for

すなわちが捻れなしである事は、が外微分と「両立」する事と同値である。

平行移動とホロノミー群

平行移動

M上の可微分なベクトルバンドルの接続とし、M上の区分的に滑らかな曲線とし、s上のEの切断とする。すなわち各に対し、が定義でき、が可微分であり、しかもが任意のtに耐いて成立するものとする。

定義 ―  

が恒等的に成立するとき、切断sに沿って平行: parallel along )であるという[32]

Mがユークリッド空間でEがその接バンドルである場合、であれば、ベクトルの基点がtによって動くだけでその大きさも向きも一定である。すなわちに沿ってを「平行移動」して動かしている事になるので、一般のベクトルバンドルの場合にもである事を平行と呼ぶのである。

に沿った切断がいずれもに沿って平行であり、しかも時刻のときであれば、別の時刻でもである事を容易に示すことができる。よって写像

は切断の取り方によらずwell-definedである。

定義 ―   の曲線に沿った平行移動: parallel transportation along )という[32]

ユークリッド空間の場合と違い、どの曲線に沿って平行移動したかによって平行移動の結果が異なる事に注意されたい。すなわち曲線に沿った平行移動を、曲線に沿った平行移動をとするとき、たとえであってもであるとは限らない。この現象をホロノミー英語版: holonomy)という[33]


の定義より、からへの写像であるとみなせるが、この写像は以下を満たす:

定理 ―   は線形同型である[34]

よって平行移動により、(接続や計量が定義されていない)多様体Mでは本来無関係のはずのがつながって(connect)、の元との元を比較する事ができるようになる。接続(connection)という名称は、ここから来ている。


Eにリーマン計量gが定義されているときは以下が成立する事を容易に示せる:

定理 (平行移動による計量の保存) ― Eのリーマン計量gと両立するとき、任意のに対し、以下が成立する:

曲線上定義されたEの切断で、各時刻tに対してEPの基底の基底になっており、しかもに沿って平行なものをに沿った水平フレーム[訳語疑問点]: horizontal frame)という。

共変微分の特徴づけ

これまで共変微分の概念を用いる事で平行移動の概念を定義してきたが、逆に平行移動の概念を用いて共変微分を特徴づけることができる:

定理 (共変微分の平行移動による特徴づけ) ―  多様体M上の曲線MのベクトルバンドルEに沿った切断を考えるとき、に沿った平行移動をとすると、以下が成立する[35]

ここではベクトル空間における微分である。なお、tによらずに属するので、上の差や極限を考えることができる。


上記の定理を用いると、共変微分の成分表示に意味を持たせる事ができる。これをみるためMを局所座標とし、xを成分でとあらわし、さらにU上定義されたEの局所的な基底とすると、

であるので、これを共変微分の成分表示

と比較する事で、以下が結論付けられる:

定理 (接続形式の平行移動による特徴づけ) ― 曲線上の平行移動をとし、曲線状定義されたEの基底をとするとき、の行列表示は接続形式を使ってと書ける。

すなわち

の第一項、第二項はそれぞれ、ライプニッツ則に従って微分したときのsiの方の微分、eiの方の微分に対応していると解釈できる。

ホロノミー群

PMを固定するとき、Pから出てP自身へと戻る各閉曲線Cに沿った平行移動はEPからEP自身への線形同型写像を定めると、曲線の連結CC'に対しとなるし、Cの逆向きの曲線をとすると、となる事が容易に示せる。

よって

Pから出てP自身へと戻る閉曲線

とすると、EPの自己線形同型のなすの部分群をなす。PにおけるEに関するホロノミー群: holonomy group)という。なお、M弧状連結であればPによらずが同型である事を容易に示せるので、Pを略して単にとも書く。


また、

Pから出てP自身へと戻る閉曲線でM上0-ホモトープなもの

とすると、の部分群をなす。PにおけるEに関する制約ホロノミー群: restricted holonomy group)という。M弧状連結であればPによらずが同型である事も同様に示せるので、Pを略して単にとも書く。


定義から明らかなように、EP上の線形同型全体のなすリー群の部分群である。実は次が成立する事が知られている:

定理 ― の(とは限らない)部分リー群である[36]

またの(とは限らない)弧状連結なリー部分群である[37]

測地線

定義と性質

接バンドルTMにアフィン接続が定義されているとき、測地線の概念を以下のように定義する:

定義 (測地線) ― Mを多様体とし、TM上の接続とする。このときM上の曲線

が恒等的に成立する、という微分方程式を上における測地線方程式といい、測地線方程式を満たす曲線上の測地線: geodesic)という[38]

すなわち「二階微分」が常に0になる曲線を測地線と呼ぶのである。平行移動の定義から、測地線とはに沿って平行であると言い換える事もできる。

恒等的に同じ点を取る「曲線」は自明に測地線方程式を満たすが、これは通常の意味での曲線ではないので、以下このような「曲線」を測地線とは呼ばない事にする。


測地線の定義は曲線のパラメーターtに依存して定義されている事に注意されたい。が測地線であっても、パラメーターを別の変数uに変数変換して得られるは測地線になるとは限らない。実際、が測地線となるパラメーターは線形変換を除いて一意である:

定理 ― 曲線が測地線で、を(が決して0にならないような)変数変換を行って得られるも測地線である時、ある定数が存在し、

が成立する。

測地線の存在性と一意性

測地線方程式を成分で書くと、として

for

となる。ここでは接続係数である。この式は常微分方程式であり、常微分方程式は局所的な階の存在一意性が言えるので、次が成立する事になる:

定理 (測地線の局所的な存在一意性) ― 任意のと任意のに対し、あるが存在し、測地線

となるものが存在する[39]。しかもがいずれも上記の条件を満たす測地線であれば、上でPvP'vは一致する[39]

測地線の局所的な存在一意性が示されたので、以下の定義をする:

定義 (指数写像) ― 上記の定理で局所的な存在一意性が保証された測地線

と書く。上の指数写像: exponential map)という[40]

である事を容易に確かめられるので、指数写像はwell-definedである。

Hopf-Rinowの定理

上の定理で測地線の定義域全域に拡張できるとは限らない。M上のに関する任意の測地線の定義域が全域に拡張できるとき、測地線完備: geodesically complete[41]、あるいは単に完備: complete[42]であるという。


がリーマン多様体のレヴィ-チヴィタ接続の場合は、測地線が全域に拡張できるか否かに関して以下の定理が知られている。

定理 (Hopf-Rinowの定理英語版) ―  連結なリーマン多様体とし、M上のレヴィ-チヴィタ接続とする。このとき、以下の条件は互いに同値である[43][44]

  • gが定める距離に関し、距離空間として完備である。
  • は測地線完備である。
  • 全ての点に対し、TPMの全ての元vに対しを定義できる。
  • ある点に対し、TPMの全ての元vに対しを定義できる。
  • M上の任意の2PQに対し、PQの両方を通る(に関する)測地線が存在する。
  • gが定める距離に関し、Mの有界閉集合はコンパクトである。

Mがコンパクトであれば、M上の任意のリーマン計量gは必ず完備な距離を定めるので、Hopf-Rinowの定理からgが定めるレヴィ-チビタ接続に関してMが測地線完備な事が従う。

しかし一般の接続に対してはこのような事は成立するとは限らない。実際Mがコンパクトであっても、M上の擬リーマン計量が定めるレヴィ-チビタ接続は測地線完備になるとは限らず、反例としてクリフトン-ポールトーラス[訳語疑問点]が知られている。

正規座標

実は次の事実が知られている:

定理 ― を可微分多様体M上のアフィン接続とし、PMの点とする。このとき、TPMにおけるOの近傍Uが存在し、Uを多様体としてみたとき、が定める指数写像

は中への微分位相同型である[45][46]

よってとすると、VPの近傍で、

Pの周りの座標近傍とみなせる。この座標近傍をPの周りの正規座標英語版: normal coordinate)という[47]

同一の測地線を定めるアフィン接続

2つのアフィン接続 :M上の任意の曲線P(t)に対し、

を満たすとき、同一の測地線を定めるという。

とし、

とする。

このとき次が成立する事が知られている:

定理 (同一の測地線を定める条件) ― 以下の2つは同値である[48]

  1. は同一の測地線を定める
  2. が任意のベクトル場Xに対して成り立つ。
  3. が任意のベクトル場Xに対して成り立つ。

簡単な計算により

である事がわかるので、次の系が従う:

 ― である必要十分条件は、は同一の測地線を定め、しかもの捻れテンソルが同一な事である [48]

レヴィ-チヴィタ接続における測地線の特徴づけ

レヴィ-チヴィタ接続の場合は、全く違った角度から測地線の概念を特徴づける事ができる。

弧長の停留曲線

このことを示すため、いくつか記号を導入する。をリーマン多様体とし、上のレヴィ-チヴィタ接続とする。 Mの局所座標とする。以下、U上でのみ議論する。議論を簡単にするため、Uの部分集合と同一視する。


U上の滑らかな曲線を考え、この曲線の座標表示をとする。さらに を滑らかな写像でとなるものとし、に対して曲線

を考える。ここで和や定数倍はの元と見たときの和や定数倍である。

そして、

と定義し弧長積分

を考える。

定義 ―  を滑らかな曲線とする。を満たす任意の滑らかな写像に対し、

が成立するとき、曲線は弧長積分の停留曲線[49]もしくは(を曲線全体の空間上の「点」とみなし)停留点: critical point[50])という。

「停留曲線」は直観的には滑らかな曲線全体の空間での「微分」が0になるという事である。

変分法の一般論から次が成立する:

定理 ―  曲線が弧長積分の停留曲線である必要十分条件はが下記の方程式(弧長積分に関するオイラー・ラグランジュ方程式)を満たす事である[51][50]

for

曲線の弧長

によってをパラメトライズする事を弧長パラメーター表示という。実は次が成立する:

定理 ― 滑らかな曲線が弧長積分に関するオイラー・ラグランジュ方程式を満たす必要十分条件は、を弧長パラメーターに変換したが測地線方程式

を満たす事である[52]

エネルギーの停留曲線

上では測地線が

に対して停留曲線になる事を示したが、任意に非負定数mをfixするとき、エネルギー

から得られる

に対しても停留曲線は測地線になっている事が知られている。は物理学的には質点の運動エネルギーとみなせる。

しかもこの事実はgが正定値や非退化でなくても成立する:

定理 ―  gを多様体M上定義された(正定値でも非退化でもないかもしれない)二次形式の可微分な場とするとき、 の停留曲線はに関するオイラー・ラグランジュ方程式

for

を満たす[53]

定理 ― 上の定理と同じ条件下、gに対するレヴィ-チヴィタ接続をとすると、に関するオイラー・ラグランジュ方程式は変数tに関する測地線方程式

に一致する[53]

この事実は擬リーマン多様体を基礎に置く一般相対性理論では、運動エネルギーを最小にする曲線、すなわち自由落下曲線が測地線になる事を含意する[53]

曲線の曲率

リーマン多様体M上の曲線に対し、以下の定義をする。

定義 (曲線の曲率) ―  リーマン多様体M上の曲線の、弧長パラメータによる「二階微分」の長さ

Mにおける測地線曲率[訳語疑問点]: geodesic curvature[54])、あるいは単に曲率: curvature)という。

ここでである。

前述の定理から、明らかに次が従う:

定理 ―  曲線が測地線である必要十分条件は、その曲線の曲率が常に0の曲線である事である。

なお、弧長パラメータの定義よりが常に成り立つので、

である。よって次が従う:

定理 ―  は曲線の接線と直交する。


なおここで定義した「曲線の曲率」は次章で定義する「(接続が定義された)多様体の曲率」とは別概念であるので注意されたい。実際、

  • 「曲線の曲率」は曲線のみならず「外側の空間」Mがあって初めて定義されるものであるのに対し、次章で述べる「多様体の曲率」の定義にはこのような「外側の空間」は必要ない。
  • 「曲線の曲率」はあくまで曲線の接線方向の微分を考えているのに対し、「多様体の曲率」は2つの接ベクトルがあって初めて定義されるものであり、これら2つの接ベクトルが同一の場合は0になってしまう。

曲率

本節では接続が定義されたベクトルバンドル曲率をまず天下り的に定義し、その性質を見る。次に曲率の概念をホロノミーを使う事で特徴づける事により、曲率概念に対する空間に内在的な幾何学的解釈を与える。最後に共変外微分の概念を導入して共変外微分を使って曲率概念を特徴づける。

定義

曲率の概念を定義するため、モチベーションを述べる。 ベクトルバンドルの接続の局所座標と局所的なEの基底における成分表示

を考える。

がレヴィ-チヴィタ接続の場合、であれば、すなわちMが「平たい」空間であれば、クリストッフェル記号は全て0になる。

よって一般のベクトルバンドルの場合も、クリストッフェル記号が全て0になる局所座標と局所基底がとれればバンドルは「平たい」とみなす事にする。


この「平たい」バンドルとのズレを測るのが曲率である。ただしクリストッフェル記号は局所座標の取り方に依存しているため、クリストッフェル記号自身を用いるのではなく、別の方法で「平たい」バンドルとのズレを測る。

ズレを測るため、クリストッフェル記号が全て0であれば、

となる事に着目する。この事実から「平たい」バンドルに対しては、

が常に成立する事を示せる。そこで一般の接続に対し、

と定義すると、は「平たい」バンドルのときには恒等的にゼロになり、この意味においてはバンドルの「曲がり具合」を表している考えられる。

定義・定理 (曲率) ―  ベクトルバンドルの接続に対し、

for

とすると、RXYsに関して-線形である[55]

よって前述の定理からRは各点に対し、

を対応させるテンソル場とみなせる。

Rに関する曲率: curvature)もしくは曲率テンソル: curvature tensor)といい[55][注 4]RPに関する点Pにおける曲率: curvature)もしくは曲率テンソル: curvature tensor)という。

成分表示

Mの局所座標Eの局所的な基底を固定するとき、

と成分分解すると、

と表記できる。 2-形式

により定義すると、

が成立する。

を局所的な基底に関する曲率形式: curvature form[56])という。を並べてできる行列曲率行列: curvature matrix[56])という事もあるが、紛れがなければこの行列も曲率形式という[57]

性質

を同じ局所座標に関する接続形式すると以下が成立する:

定理 ―  

  • (カルタンの)第二構造方程式[58]: (Cartan's) second structural equation[59]
  • 一般化されたビアンキの第二恒等式: generalized second Bianchi identity[60]、ここで

ここで接続行列のウェッジ積は行列積の事である。も同様に定義する。 第二構造方程式は曲率の定義を成分で書く事で得られる。一般化されたビアンキの第二恒等式は第二構造方程式から従う。

なお、一般化されたビアンキの第二恒等式においてk=1の場合がビアンキの第二恒等式: second Bianchi identity)である[60]

アフィン接続の場合の性質

接続がアフィン接続

の場合、捻れテンソルを

と成分表示して得られる2-形式を並べてできる縦ベクトルを考える事ができる。

さらに局所的な基底の双対基底をとすると[注 5]、これらは1形式である。これらを並べた縦ベクトルをとする。

このとき、次が成立する:

定理 ― アフィン接続は次を満たす:

  • (カルタンの)第一構造方程式[62]: (Cartan's) first structural equation[63]
  • ビアンキの第一恒等式: first Bianchi identity[63]

レヴィ-チヴィタ接続の場合の性質

次の事実が知られている:

定理 ― レヴィ-チヴィタ接続は以下を満たす[64]


とすると,に値を取るテンソル場とみなす事ができる。リーマンの)曲率テンソル: (Riemann) curvature tensor[65][66]という。


がレヴィ-チヴィタ接続の場合はビアンキの第一および第二恒等式を成分に依存しない形で書く事ができる:

定理 ― レヴィ-チヴィタ接続は次を満たす:

  • ビアンキの第一恒等式[64]
  • ビアンキの第二恒等式[64]

ここでに値を取るテンソル場とみなしたときの共変微分である。

断面曲率、リッチ曲率、スカラー曲率

をリーマン多様体のレヴィ-チヴィタ接続とし、PMの点とし、とし、さらにの基底とする。

定義 ―  

  • を点Pにおけるに関する断面曲率: sectional curvature)という[67]
  • を点Pにおけるに関するリッチ曲率: Ricci curvature)という[68]
  • を点Pにおけるスカラー曲率: scalar curvature)という[68]

なお、書籍によっては本項のリッチ曲率、スカラー曲率をそれぞれ倍、倍したものをリッチ曲率、スカラー曲率と呼んでいるものもある[69]ので注意されたい。 また断面曲率はという記号で表記する文献も多いが、後述するガウス曲率と区別するため、本稿ではという表記を採用した。


定義から明らかなように、以下が成立する:

定理 ―  断面曲率はが貼る平面のみに依存する。すなわちTPM内の同一平面を貼れば以下が整理する:

定理 ―  リッチ曲率は線形写像

トレースに一致し[68]、スカラー曲率は、

を満たす線形写像ρのトレースに一致する[68]

よって特にリッチ曲率、スカラー曲率の定義は基底の取り方によらない[68]

実は断面曲率は曲率テンソルを特徴づける:

定理 ―  を計量ベクトル空間とし、

を各成分に対して線形な2つの写像とする。このとき、線形独立な任意のベクトルに対し、

であれば[注 6]RR'は同一の写像である[70]

定曲率空間

定義 (定曲率空間) ―  をリーマン多様体とする。あるが存在して、Mの任意の点PTPMの任意の独立なベクトルvwに対し、

が成立するとき、を曲率c定曲率空間という。

定曲率空間では曲率が下記のように書ける:

定理 (定曲率空間における曲率の形) ―  をリーマン多様体とし、とする。このときMが曲率cの定曲率空間である必要十分条件は、Mの任意の点PTPMの任意のベクトルXYZWに対し、

が成立する事である[71]

上記の定理より、必要ならリーマン計量g倍する事で、任意の定曲率空間は、曲率が01、もしくは-1の定曲率空間と「相似」である事がわかる。

曲率が01-1の定曲率空間については以下の事実が知られている:

定理 ―  曲率cm次元定曲率空間連結かつ単連結であり、しかも距離空間として完備であるとする。 このとき、次が成立する:

  • であれば、m次元ユークリッド空間とリーマン多様体として同型である。
  • であれば、m次元球面とリーマン多様体として同型である。
  • であれば、m次元双曲空間英語版とリーマン多様体として同型である。

よって被覆空間の一般論から以下の系が従う:

 ― 曲率が01、もしくは-1の連結かつ完備なm次元定曲率空間は、それぞれm次元ユークリッド空間、m次元球面、もしくはm次元双曲空間を普遍被覆空間に持つ。

ホロノミーによる曲率の特徴づけ

本節ではホロノミーを使うことで曲率概念を特徴づけ、これにより曲率概念を多様体に内在的な幾何学的な意味付けを与える。

をベクトルバンドルの接続とし、PMの点とし、T0Mの元とし、さらにEPの元とする。

本節の目標はをホロノミーを使って特徴づける事である。

そのためにいくつか記号を導入する。

で、

となるものを選び、上のベクトル場をに対し、

により定義し、に沿った平行移動を

とする。定義から

であるので、

である[注 7]。この曲線に沿った平行移動

を考える。ここでは曲線を連結してできる曲線(でで一周するようにパラメトライズしなおしたもの)である。

定理 (ホロノミーによる曲率の特徴づけ) ― 次が成立する[72][73]

すなわち、曲率は、

により特徴づけられる。よって直観的には曲率は(XYが可換になるように拡張した場合に)XYが定める平行移動の非可換度合いを表している。

共変外微分による曲率の特徴づけ

本節では共変外微分の概念を導入し、この概念を用いて曲率概念を特徴づける。

共変外微分

まず共変外微分の概念を導入する。

をベクトルバンドルとし、

Eの接続とし、

とする。

定義 (共変外微分) ―  

for

を満たすように定義し、共変外微分: covariant exterior differentiation)という[55]

共変外微分がwell-definedである事の証明は省略する。紛れがなければ添字のpを省略し、と書く。

共変外微分は以下を満たす:

定理 ―  

for

共変外微分は通常の外微分と違い、

なるとは限らない。しかし

となるので、に対してが分かれば一般のに対してが計算できる事になる。

曲率の特徴づけ

実はは曲率に一致する事が知られている:

定理 (共変外微分による曲率の特徴づけ) ― 任意のと任意のに対し、以下が成立する(リッチの恒等式: Ricci's identity))[55]

なお、すでに述べたように0になるとは限らないが、は必ず0になる事が知られており、この事実はビアンキの第二恒等式と同値である:

定理 ― 任意のに対し、以下が成立する(ビアンキの第二恒等式: Bianchi's identity))[74]

リーマン多様体の部分多様体における接続と曲率

本節ではリーマン多様体の部分多様体[注 8]

における接続とその曲率について議論する。本節の内容は古典的なガウスの曲面論英語版の成果を一般のリーマン多様体に拡張したものである。

射影と接続の関係

gが定める上のレヴィ-チヴィタ接続とする。またリーマン計量gMに制限することで、がリーマン多様体になるので、gが定めるM上のレヴィ-チヴィタ接続を考える事ができる。

一方、Mの部分多様体なので、のレヴィ-チヴィタ接続Mへの制限も考える事ができる。


実はこの2つは以下の関係を満たす:

定理 ―  XYM上のベクトル場とするとき、Mの任意の点Pに対し、以下が成立する[75]

ここでは、の元の接ベクトル空間TPMへの射影

である。

法接続

上ではの接続のMの接ベクトルバンドルTMへの射影を考えたが、同様にの接続のMの法ベクトルバンドルへの射影を考える事ができる。 Mの点Pに対し、

の元の法ベクトルバンドルへの射影とする。

定義 ―  XM上のベクトル場、ηを法ベクトルバンドルの切断とするとき、M法接続: normal connectionn)を以下のように定義する[76]

さらにYM上のベクトル場とするとき、

M法曲率: normal curvature[76])という。

第一、第二、第三基本形式、ワインガルテン写像

上述したように、M上のレヴィ-チヴィタ接続のレヴィ-チヴィタ接続TMへの射影であるので、両者の差 の法ベクトルバンドルへのの射影となる。 Mの点Pに対し、

をそれぞれの元の接ベクトル空間TPMへの射影、の元の法ベクトルバンドルへの射影とする。

定義 ―  

Mにおける第二基本形式: second fundamental form)という[77]

であったので、以下が成立する:

定理 ―  

  • ガウスの公式[78]: Gauss formula[79]):

第二基本形式は以下を満たす[77]

定理 ―  

  • XYに対して-線形。

また、M上の曲線、上のMに接するベクトル場とするとき、以下が成立する:

定理 ―  

  • 曲線に沿ったガウスの公式: Gauss formula along a curve

上ではの接続とMの接続の差を第二基本形式として定義したが、同様にの接続とMの法接続の差を考える事ができる。

定義 ―  XM上のベクトル場、ηを法ベクトルバンドルの切断とするとき、

型写像[80]: shape operator[81])もしくはワインガルテン写像[80]: Weingarten map[80])という[82]

XYM上のベクトル場、ηを法ベクトルバンドルの切断とすると、Yηは直交するので、

である。よって次が成立する:

定理 ―  

ワインガルテンの公式[83]: Weingarten Equation[84]

よって特にXηに関して-線形である[85]

埋め込みに対し、XYMの点Pにおける接ベクトル、ηPにおける法ベクトルとする。

定義 ― 

  • 第一基本形式という[86]
  • 第二基本形式という[86]
  • 第三基本形式という[86]

第二基本形式の定義が前述のものと異なるが、ワインガルテンの公式から

が成立するので、前述の第二基本形式の定義とは

という関係がある。このため紛れがなければのいずれも「第二基本形式」と呼ぶことにする。

曲率の関係式

前節と同様に記号を定義し、により定まるMの曲率をにより定まるの曲率をとする。

さらにXYZWM上のベクトル場とし、ηζMの法ベクトルバンドルの切断とし、

とする。このとき、次が成立する:

定理 ―  

  • ガウスの方程式[87]: Gauss equation[88]
  • コダッチの方程式: Codazzi's equation[89]
  • リッチの方程式: Ricci equation[76]

ここでBの切断とみたときの共変微分であり、

である。

ガウスの方程式はMの曲率が全空間の曲率と第二基本形式から決まる事を意味している。同様にリッチの方程式はMの法曲率がワインガルテン写像から決まる事を意味している。


またガウスの方程式からMの断面曲率

の断面曲率に関して以下の系が従う:

 ―  TPMの正規直交している2本のベクトルvwに関し、以下が成立する[90]

主曲率、ガウス曲率、平均曲率

埋め込み余次元1の場合、すなわちの場合、Mに対し古典的なガウス曲率と平均曲率を定義する事ができる。

今(余次元1とは限らない)Mの点Pにおける法ベクトル空間NPMから元ηをfixし、第二基本形式

を考えると、第二基本形式の性質からは実数値の対称二次形式である。よっては実数の範囲で回転行列により対角化可能である。

特にMが余次元1である場合、ηとして長さ1の法ベクトルを(±1倍を除いて)一つだけ選ぶ事ができる。

定義 (主曲率、ガウス曲率、平均曲率) ― が余次元1を点における(±1倍を除いて)唯一の長さ1の法ベクトルとし、対称二次形式

を回転行列で対角化した際の固有値をとし、を対応する長さ1の固有ベクトルとする。このとき、 各eiの事を点PにおけるM主方向: principal direction)といい[91]を主方向eiに関する主曲率: principal curvature[91]という。

さらに主曲率の第i基本対称式二項係数で割った

を点Pにおけるi平均曲率: i-th mean curvature)という[92]。特に、

を点PにおけるMガウス曲率: Gausian curvature[93]もしくはガウス・クロネッカー曲率: Gauss Kronecker curvature[91]といい

を点PにおけるM平均曲率: mean curvature)という[91]

なお、ガウス曲率の事を全曲率: total curvature)という事もあるが[94]、「全曲率」という言葉は測地線曲率の曲線全体に対する積分値を指す場合もあるので注意が必要である[94]

上記の定義についていくつか補足を述べる。第一に、単位法ベクトルηの向きを反転させると、主曲率の符号が反転してしまう。このためMが向き付け可能なときは、TM×ηの向きがの向きと一致するという規約を授けてηの向きを固定する事が多い。

第二に、は対称二次形式であるので、次が成立する:

定理 ―  (固有値が相異なれば)主方向は互いに直交する。

第三にワインガルテンの公式から

であるので、明らかに次が成立する:

定理 ―  主曲率および主方向はそれぞれワインガルテン写像の固有値・固有ベクトルに一致する。

よって特に次が成立する:

定理 ― i平均曲率はSη固有多項式

m-i次の項をで割った値に等しい。

またに誘導する写像を

とすると、固有多項式の一般論から以下が成立する:

定理 ― 

第五に、平均曲率に関しては、が余次元1でなくとも、を法ベクトル空間に値を取る二次形式とみなしたときのトレース(の1/n)として定義できる:

定義 ― をリーマン多様体とし、を(余次元1とは限らない)部分リーマン多様体とし、PMの点とする。このとき、 

PにおけるM平均曲率ベクトル: mean curvature vector)といい[95]HPにより定まる法ベクトルバンドルの切断H平均曲率ベクトル場: mean curvature vector field)という[96]。ここでの正規直交基底である。

平均曲率ベクトル場は極小曲面の特徴付けとして有用であり、閉多様体が極小曲面になる必要十分条件はM上の平均曲率ベクトル場が恒等的に0である事である事が知られている[96]

第三基本形式

よってワインガルテン写像Sηに関するケイリー・ハミルトンの定理から特に次が従う:

定理 ―  Mの二次元部分多様体であれば[注 9]Mの任意の点PPにおけるMの接ベクトルXYに対し、

が成立する[97]。ここでHPKPはそれぞれPにおけるMの平均曲率、ガウス曲率である。

主曲率の直観的な意味

Pにおける接ベクトルvに関し、曲線Pを通りvに接する(弧長パラメータsでパラメトライズされた)Mの測地線とすると、なので、 曲線に沿ったガウスの公式より、

であり、したがって

である。簡単な計算から測地線の微分が必ず法ベクトルになる事がわかるので、は測地線の曲率の大きさに符号をつけたものである。

以上のことから、主曲率とは(符号付きの)測地線の曲率の大きさの極値になっている値の事である。

Theorema Egregium

断面曲率と第二基本形式の関係主曲率の定義から、特に以下の系が成立する:

 (断面曲率と主曲率の関係) ―  埋め込みが余次元1の埋め込みで、が点における主方向でを対応する主曲率とする。このときijを満たす任意のi, j ∈{1,...,m}に対し、以下が成立する[98]

よってとくにが曲率c定曲率空間英語版、すなわち上の任意の点Pにおける任意の方向の断面曲率がcである空間の場合には、

が成立する。

実は上式の右辺はMに内在的な量である:

定理 (Theorema Egregiumの一般化) ― を曲率cの定曲率空間とし、をその余次元1の部分多様体とし、さらにPMの点とする。さらに線形写像

により定義する。

このとき、ρの固有値の集合は

に一致する[99]。ここでmMの次元であり、は点Pにおける主曲率である。

またに対応する主方向をとすると、に対応する固有ベクトルはである。

であったので、上記の定理は、有名なTheorema Egregiumの一般化になっている:

定理 (Theorema Egregium) ― の二次元部分多様体に対し、点Pにおけるガウス曲率は点Pにおける断面曲率と一致する[98]

Theorema Egregiumの一般化から以下の系が従う:

 (偶数次平均曲率の内在性、偶数次元のガウス曲率の内在性) ― 記号を前述の定理と同様に取るとき、におけるMの第r平均曲率はrが偶数ならMに内在的な量である。

よってとくににおけるMのガウス曲率KMの次元mが偶数ならMに内在的な量である。[99]

一方、奇数次元のガウス曲率はMに内在的な量ではない。実際ガウス曲率の定義Mの単位法線ηというMに外在的な量に依存しており、ηの向きを変えればの符号は全て反転してしまい、次元mが奇数である事からの符号も反転してしまう。

しかし次元mが奇数の場合であっても、符号を除いてガウス曲率は内在的な量となる事を前述のTheorema Egregiumの一般化から示すことができる:

 (符号を除いたガウス曲率の内在性) ― 記号を前述の定理と同様に取る。Mの次元mが奇数であっても、におけるMのガウス曲率Kは符号を除いて内在的な量である[99][注 10]

以上の事から、mが偶数の場合にはにおけるMのガウス曲率をリーマン曲率で具体的に書きあらわす事ができるが、この具体的な表記に関しては後述する。

ガウス写像

向き付可能なリーマン多様体Mをユークリッド空間に余次元1で埋め込んでいる場合、すなわちdimM=mの場合、ワインガルテン写像やガウス曲率を別の角度から定式化できる。

これまで同様ηMの単位法ベクトル場とすると、各点PMに対し、ベクトルηPは長さ1のベクトルなので、ηPを原点中心の単位球Smの元とみなす事ができる。このようにみなす事で定義できる写像

ガウス写像: Gauss map[100]: Gauss spherical mapping[91])という。

MPにおける接ベクトル空間の元TPMPにおける接平面と自然に同一視すると、任意のvTPMに対し、

である事から、においてTPMTG(P)Smと平行な超平面であるので、自然にTPMTG(P)Smを同一視する。このとき次が成立する:

定理 ―  ガウス写像が接ベクトル空間に誘導する写像

は、

を満たす[91]。ここではワインガルテン写像である。

さらにガウス写像はガウス曲率と以下の関係を満たす:

定理 ―  MSmの体積要素をそれぞれとするとき、ガウス写像が誘導する写像

は、

を満たす。ここでKPは点PにおけるMのガウス曲率である[100]

以上の事実から、Mコンパクトで縁がなければ、ド・ラームコホモロジーの一般論から、ガウス写像写像度

に等しい[101]。ここでは球面Smm次元体積である。

この事実を利用すると、偶数次元のMに対し以下の定理が結論付けられる。この定理はガウス・ボンネの定理の変種である。オリジナルのガウス・ボンネの定理との関係については後述する。

定理 ― コンパクトで縁がない向き付け可能なCm次元部分リーマン多様体とする。このとき、mが偶数であれば、

が成立する[101]。ここでKはガウス曲率であり、はガウス写像の写像度であり、は単位球面Smm次元体積であり[注 11]Mのオイラー標数である。

ガウス・ボンネの定理

前述したガウス・ボンネの定理の変種2次元のTheorema Egregiumを適用する事で、ガウス・ボンネの定理の変種における「ガウス曲率」を「断面曲率」に置き換えたものが成立する事がわかる:

 (内の曲面に対するガウス・ボンネの定理) ― コンパクトで縁がない向き付け可能なC級2次元部分リーマン多様体とする。このとき、

が成立する。ここでMのオイラー標数である。

なお、2次元リーマン多様体の場合、断面曲率は方向を明示せずとも一意に定まるため、上の系ではを単にと表した。

しかし上記のバージョンのガウス・ボンネの定理は

  • 2次元の場合にしか適用できない
  • ユークリッド空間の部分リーマン多様体にしか適用できない
  • 縁があるリーマン多様体に対しては適用できない

という制限を持つ。

そこで本章ではまず、2次元リーマン多様体に対して上記の2番目と3番目の制限を取ったガウス・ボンネの定理を導入する。

次に、ユークリッド空間上の偶数次元かつ余次元1のリーマン多様体のMに対し、前章で示したガウス曲率が内在的な量であるという事実をベースにガウス曲率をリーマン曲率を使って具体的に書きあらわす。

そして最後に上述した制限を取った一般のバージョンのガウス・ボンネの定理を導入する事にある。

2次元の場合

2次元の場合は、2次元の特殊性により、ユークリッド空間の部分リーマン多様体ではない場合のガウス・ボンネの定理も下記の定理を用いることで比較的容易に示す事ができる。

定理 (多角形に関するガウス・ボンネの定理[注 16]) ―  Mn個の頂点を持つ(向きづけられた)多角形にリーマン計量を入れたものとする[注 15]。このとき

が成立する[107]。ここでSecMの断面曲率であり、dVMの面積要素であり、∂MMの辺にMから定まる向きを入れたものであり、κ∂Mの曲率であり、dsは線素であり、εiは多角形Mi番目の頂点の外角の大きさである。

与えられた向き付け可能な曲面Mを三角形分割して上記の定理を適用する事により、ユークリッド空間の部分空間とは限らない、一般の2次元リーマン多様体に対し以下が成立する事がわかる:

定理 (曲面に対するガウス・ボンネの定理) ― Mを(の部分空間とは限らない)コンパクトで向き付け可能なC級2次元部分リーマン多様体で縁∂Mが区分的になめらかなものとする。 さらに∂Mがなめらかではない点とし、εiviにおける∂Mの外角とする。このとき、

が成立する[110]。上式の記号の意味に関しては多角形に関するガウス・ボンネの定理と同様である。


なお、下記の計算からわかるように、2次元の場合は、断面曲率と体積要素の積は接バンドルの正規直行座標系に対する曲率形式に等しい:

曲率形式が正規直行座標系に依存しない事を容易に示せるので、2次元のガウス・ボンネの定理におけるを曲率形式に置き換えても良い。

一般の偶数次元の場合

概要

本節ではまずに埋め込まれている余次元1かつ偶数次元のリーマン多様体Mに対し、Theorema Egregiumを拡張する。すなわち、Mのガウス曲率Kが、Mの内在的な量である曲率形式を用いて

Ωijの多項式)

という形でかける事を見る。この「Ωijの多項式」(に定数を乗じたもの)をオイラー形式という。

そして上式を前述したガウス曲率を使ったガウス・ボンネの定理を組み合わせる事で、に余次元1で埋め込まれている縁のない偶数次元コンパクトリーマン多様体に対して、多様体の内在的な量を用いたガウス・ボンネの定理、すなわち

を示す。

次にこの定理を(埋め込まれているとは限らない)一般の縁のない偶数次元コンパクトリーマン多様体に拡張する。そして最後にこの定理を縁がある場合に拡張する。

並行して我々は、奇数次元のMに関してはMのガウス曲率KMの内在的な量ではない事をみる。したがってガウス・ボンネの定理は(少なくとも上述したストーリーでは)奇数次元に対して一般化するはできない。

パッフィアン

オイラー形式を定義する「多項式」を記述するため、「パッフィアン」を定義する。これは後述するように行列式の平方根に相当する。

定理・定義 (パッフィアン) ―  mを正の偶数とし、Vm次元の向きづけられた実ベクトル空間とし、Vの正規直行基底でVの向きと同じ向きのものとし、歪対称二次形式

に対し、

となる実数が一意に存在する[注 17]。 しかもVと同じ向きの正規直交基底の取り方によらない。

αパッフィアン: Pfaffian)と呼ぶ。

上記の定理において、の存在一意性は1次元ベクトル空間な事から明らかに従う。Vと同じ向きの正規直交基底の取り方によらないことも、の定義がαの成分表示によらず、しかもがそのような基底の取り方によらない事から明らかに従う。


歪対称行列に対し、紛れがなければのパッフィアンの事をとも表記する。 定義から明らかに次が成立する。

定理 ―  任意の正則行列Bに対し、

が成立する。よって特に任意の直交行列Bに対し、

が成立する[111]

パッフィアンは具体的には以下のように書ける。

定理 (パッフィアンの具体的表記) ― m=2k次の歪対称行列に対し、以下が成立する[111]

.

ここで対称群であり、は置換σ符号である。

パッフィアンは行列式の平方根である:

定理 ― m=2k次の歪対称行列に対し、以下が成立する[111]

.

オイラー形式

次に我々はパッフィアンを使ってオイラー形式を定義する。

定義 (オイラー形式) ―  mを偶数とし、Mm次元リーマン多様体とし、を開集合におけるTMの正規直交基底とし、に関するMの曲率形式とする。このとき、

オイラー形式: Euler form)もしくはガウス・ボンネ被積分関数[訳語疑問点]: Gauss-Bonnet integrand)という[112][113][114][115]

上記の定義に関して2点補足する。1つ目の補足は「」という記号の意味についてである。「」はパッフィアンPf(A)の具体的表記において、行列AΩに置き換え、さらに積をウェッジ積に置き換えることで定義される。すなわち、

なお、添字の上下がPf(A)の具体的表記とは異なっているが、正規直交基底を考えているのでこれは問題にならない。またΩijは2-形式であるので、上述のウェッジ積はΩijの入れ替えに関して可換である。

2つ目はwell-definedに関する補足である。上述のオイラー形式は正規直交基底の取り方に依存しているが、パッフィアンの定義が正規直交基底の取り方によらなかった事から、オイラー形式の定義も正規直交基底の取り方によらずwell-definedである。よって特に、オイラー形式はMの全域で定義可能である。


正規直交基底の双対基底をとするとき、曲率形式の成分表示

を使うと、オイラー形式も下記のように成分表示できる:

定理 (オイラー形式の成分表示) ― 以下が成立する[116]

オイラー形式とガウス曲率の関係

本節では、偶数次元リーマン多様体Mが余次元1でユークリッド空間に埋め込まれているときは、ガウス曲率とオイラー形式は定数倍を除いて一致する事を見る:

定理 (ガウス曲率のオイラー形式による表記) ― mを偶数とし、m次元リーマン多様体Mの余次元1の埋め込みとする。このとき以下が成立する[117]

ここでMのオイラー形式であり、KMのガウス曲率であり、dVMの体積要素である。

奇数次元の場合

先に進む前に、Mの次元mが奇数の場合にはガウス曲率が内在的な量で書けるかどうかを見る。

実はmの偶奇にかかわらず、ガウス曲率Kの自乗はMの内在的な量で書ける[119]

定理 (ガウス曲率Kの自乗は内在的な量) ―  aa

主バンドルの接続

本章では、任意に与えられたリー群G主バンドルに対する接続の概念を定義し、その性質を述べる。

これにより、原理的には任意のリー群Gの主バンドルの接続を議論できる事になるが、研究が進んでいるのはG直交群回転群ユニタリ群等、一般線形群やその閉部分リー群の場合である。 これらはそれぞれ実ベクトルバンドル、計量の入った実ベクトルバンドル、複素ベクトルバンドル、複素計量の入った複素ベクトルバンドルに対応する。

こうした群の場合、主バンドルの接続からベクトルバンドルの接続が定義でき、逆にベクトルバンドルの接続から主バンドルの接続が定義できる事を本章で見る。主バンドルの接続を考える主目的はベクトルバンドルの接続を別の角度から捉え直す事にある。

定義に至る背景

定義

定義 ―  aaa


aaa

これまで共変微分の概念を用いる事で平行移動の概念を定義してきたが、逆に平行移動の概念を用いて共変微分を特徴づけることができる:

定理 (共変微分の平行移動による特徴づけ) ―  多様体M上の曲線MのベクトルバンドルEに沿った切断を考えるとき、に沿った平行移動をとすると、以下が成立する[120]

ここではベクトル空間における微分である。なお、tによらずに属するので、上の差や極限を考えることができる。


上記の定理を用いると、共変微分の成分表示に意味を持たせる事ができる。これをみるためMを局所座標とし、xを成分でとあらわし、さらにU上定義されたEの局所的な基底とすると、

であるので、これを共変微分の成分表示

と比較する事で、以下が結論付けられる:

定理 (接続形式の平行移動による特徴づけ) ― 曲線上の平行移動をとし、曲線状定義されたEの基底をとするとき、の行列表示は接続形式を使ってと書ける。

すなわち

の第一項、第二項はそれぞれ、ライプニッツ則に従って微分したときのsiの方の微分、eiの方の微分に対応していると解釈できる。

概要

テンソルに対する接続を考慮したもので、テンソルの共変成分の階数を一つ上げる微分演算を共変微分(covariant derivative)と呼ぶ[注 18]

共変微分は、テンソルの和の共変微分、積の共変微分に関して、普通の偏微分と全く同じ法則に従う。

共変微分と偏微分の表記方法

共変微分は大抵の場合、ナブラ と偏微分記号を用いて

と表記する[121] が、簡便記法としてナブラ記号と偏微分記号を落として、代わりにセミコロンとコロンを添字に補って共変微分と偏微分を表す、すなわち

というように表すことがよくある。

定義

M を可微分多様体 、M 上のある点における座標系を(xh) (1 ≦ hn)M 上滑らかなベクトル場の集合を とする。

ベクトル場に対する共変微分

M 上のベクトル場に対する共変微分 (covariant derivative) とは、写像

であって、次の四条件

  1.  (双線型性)
  2.  (ライプニッツ則)

を満たすものを言う。なお、共変微分は可微分多様体の接続 (connection) の条件とみなせることから、M 上のアフィン接続 (affine connection) とも呼ばれる。

双対ベクトル場(微分形式)に対する共変微分

M 上の双対ベクトル場(微分形式)を ω とする。ω に対するベクトル場 X による共変微分 をベクトル場の共変微分を用いて以下

のように定義する[122]

なお、二つのテンソル F, H のテンソル積 のベクトル場 X による共変微分について次の性質

が成り立つ。

接続係数と共変微分の局所表示

座標系 (xh) に関し、n3 個の C 関数 (1 ≦ i, j, kn)を

によって定義する。この関数の集まり を、共変微分 に関する接続係数 (connection coefficients) と呼ぶ。

ここで、ベクトル場

に対して、X による Y の共変微分 は共変微分の規則を用いて展開することで、

ただし、ここで

という表現、すなわち共変微分の局所表現を得る。

さらに、接続係数の定義と微分形式に対する共変微分の定義から

が導かれることから、双対基底と接続係数の関係

が得られる。したがって、微分形式

のベクトル場 X による共変微分の局所表現は、

となる。

リーマン多様体上で成り立つ性質

可微分多様体 M をリーマン多様体とする。すなわち、M の各点に基本計量テンソル が与えられており、接続の記号 クリストッフェル記号 であるとする。

リッチの補定理

基本計量テンソルの共変微分に関して、次の恒等式が成り立つ[123]

リッチの補定理)

リッチの公式

r 階共変テンソルを とする。このとき次のリッチの公式が成り立つ。

リッチの公式)

ただし、リーマン曲率テンソル

共変微分によるベクトル解析

勾配(gradient)

スカラー f の共変微分は f の方向微分に他ならない。そこで、1階共変ベクトルであるスカラー f の xj 方向の共変微分

をベクトル解析に倣い勾配(gradient)と呼ぶ。

発散(divergence)

反変ベクトルの発散

一つの反変ベクトル vk の xj 方向の共変微分 は1階共変、1階反変の混合テンソルであるが、これから作ったスカラー

を、反変ベクトル vk発散(divergence)と呼ぶ。

回転(rotation)

一つの共変ベクトル wi の xj 方向の共変微分 は2階共変テンソルから構成された

という2階共変テンソルを、wi回転(rotation)と呼ぶ[124]

ラプラシアン(Laplacian)

スカラー f から構成したスカラー

, 

をそれぞれ、ベルトラミの第一微分係数第二微分係数と呼ぶ。なお、第二微分係数について

とおいて、これを f のラプラシアン(Laplacian)と呼ぶこともある[123]

脚注

出典

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  29. ^ 原文"There does not seem to be a good reason for calling the torsion."。#Tu p.44.
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  119. ^ #Zhu p.5.
  120. ^ #Spivak p.251.
  121. ^ 1階共変テンソル wi の xj 方向の共変微分を例とする。
  122. ^ ここで、< , > は双対性を表す内積である。すなわち、<ω , Y> はスカラーである。ここで、この共変微分を取ると、ライプニッツ則が成り立つとして
    となって欲しい。
    しかしながら、微分形式に対する共変微分 は定義されていない。そこで、むしろ上式を微分形式に対する共変微分の定義とするわけである。
    なお、スカラー f に対する共変微分に関して、 であることから、
    となる。
  123. ^ a b 矢野(1971) p.204
  124. ^ 矢野(1971) pp.204-205

注釈

  1. ^ 本項では以下特に断りがない限り、写像はC級のものを考え、「滑らかな」「可微分」といった言葉も「C級」の意味で用いる。また本項で「多様体」といった場合は特に断りがない限り縁なしの多様体を意味するものとする。
  2. ^ これはMが1枚の局所座標のみで書ける事を意味する。の任意の部分多様体に対してこれが成立する訳では無いが、微分の定義は局所的なものなので、このように書けると仮定しても一般性を失わない。
  3. ^ なおこれらの文献では、後述する公理を満たすものをレヴィ-チヴィタ接続と呼び、この公理を満たすものがここに挙げた形で書ける事を「定理」としているが、公理を満たすものは一意なので、ここに挙げたものを定義としてもよい。
  4. ^ RはテンソルRPの場なので、Rを「曲率テンソル場」(curvature tensor field)と言った方が自然に見えるが、本項執筆者が調べた範囲では、「曲率テンソル場」と呼んでいる文献は少なかったので、本項では慣用に従い「曲率テンソル」と呼ぶことにした。
  5. ^ であればであるが、必ずしもでなくともよい[61]
  6. ^ 断面曲率との関係性を示すために両辺の分母を表記したが、両辺の分母は同一であるので、実際には分母は必要ない。
  7. ^ 一般にベクトル場Xの指数写像とYの指数写像が可換である必要十分条件はリー括弧0になる事である。
  8. ^ 本節では話を簡単にするためMの部分多様体の場合を議論するが、本節の議論は全て局所的なものなので、本設の議論は全てMにはめ込まれている場合に自然に拡張できる。
  9. ^ 定理の証明から明らかに、以外の一般の3次元リーマン多様体の場合も本定理は成り立つものと思われるが、一般のケースを書いた文献を発見できなかったので、ここではの場合のみを定理として記述した。
  10. ^ すなわちガウス曲率の自乗K2Mに内在的な量である。
  11. ^ 具体的には、m=2kとすると、
    である[102]超球の体積の項目も参照。
  12. ^ 文献によってこの写像度を指数の定義とするものと、ヘッシアンの符号数を指数の定義としてこれが写像度と一致するのを定理とするものがあるが、ここでは前者に従った。
  13. ^ そのようなXを作るには、ガウス写像隆起函数を用いて拡張してを作り、さらに一般の位置定理を用いてを摂動する事で非退化な零点のみを持つ写像を作れば良い。
  14. ^ マイヤー・ヴィートリス完全系列
    から証明できるが、NN'が三角形分割可能な事を認めれば、三角形分割とオイラー標数の関係から容易に証明できる。
  15. ^ すなわちMは円盤と位相同型であり、∂Mは区分的になめらかであり、∂Mがなめらかでない部分を多角形の頂点とみなす。∂Mは区分的になめらかなので、各頂点において右方微分と左方微分が定義でき、(定められたリーマン計量で角度を定義したとき)右方微分と左方微分のなす角を外角と定義する。
  16. ^ この多角形のバージョンのガウス・ボンネの定理をlocal Gauss-Bonnet Theorem、オイラー標数を使った一般のバージョンをglobal Gauss-Bonnet Theoremと呼んで区別するもの[108]や、多角形のバージョンをGauss-Bonnet Formula、一般のバージョンをGauss-Bonnet Theoremと呼んで区別するもの[109]がある。
  17. ^ αは偶数次(2次)なので、0になるとはかぎらない。例えばなら
  18. ^ テンソルの反変成分の階数を一つ上げる微分演算を反変微分(contravariant derivative)と呼ぶ。矢野(1971) pp.30-31
    ただし、上記参考文献によれば、その定義は現代におけるテンソルの反変成分の共変微分に添字の昇階を施して反変成分にしたものとなっている。
    これは、紹介されている論文において現代におけるテンソルの混合成分という概念に言及せずに論を組み立てるためと考えられる。
    従って、テンソルの混合成分という概念を用いることの出来る現代においては用いられることは少ない。

関連項目

文献

参考文献


その他