緊急通報用電話番号
緊急通報用電話番号(きんきゅうつうほうようでんわばんごう、英: Emergency telephone number)とは、犯罪事案発生時や災害発生などの緊急時に、当地の警察や消防などの緊急対応機関に通報するための電話番号である。国によって番号は異なる。
概要
[編集]多くの場合、緊急通報用電話番号は緊急時のみに使用されるものである。緊急通報用電話番号に目的外通話やイタズラ電話をかけること(スワッティングも参照)は、受信業務に支障を生じるために、犯罪(日本では偽計業務妨害罪)とされることもある。事態の切迫度に応じて、異なる電話番号を用いるケースもある。例えば、イングランドとウェールズでは、緊急時には999(警察・消防・救急)を用い、救急でない医療事案に対しては、0845-46-47を用いている。アメリカ合衆国やカナダの多くの地域においても、緊急時には911を用い、緊急時以外警察などに連絡する際は311若しくは地元の相談センター用番号(フィラデルフィアでは231-3131)を用いる。
日本では電気通信番号計画第4で、110番を警察機関(→日本の警察)、118番を海上保安機関(→海上保安庁)、119番を消防機関(→日本の消防)への「緊急通報番号」(電話番号)だと定められている[3]。
歴史
[編集]電話の交換業務が手動で行われていた時代にあっては、電話交換手が緊急事態に対する一部の受信業務をこなしていた。その後、電話交換業務が電話交換機に取って代わられると、発信者は警察や消防などを呼ぶ際には関係機関の長い電話番号をダイヤルしなくてはならなくなった。そのため米国やカナダや英国では、 0 にダイヤルすると緊急通報専門の電話交換手につながり、煩わしいダイヤル操作をせずに緊急通報ができるような体制をとっていた。北アメリカの多くの国においては、この体制は1970年代まで続いた。
1926年1月20日、東京中央電話局の京橋分局で自動交換機が導入され、同局に収容されている加入者の電話機がダイヤル式に変わった。この時に火災報知用電話の電話番号として 112 が定められた。しかし自動交換システムの仕様上で誤接続が多発したため、1927年10月1日より 119 に改められた。また1936年1月20日、警視庁消防部に新設された救急隊でも 119 を使い始めた。
1937年6月30日にロンドンで使用開始された緊急通報システムは、 999 の電話番号が掛けられると同時にブザーが鳴り、赤ランプが点灯し、交換手の注意を引くというものであった。このシステムは次第にイギリス全土に広がったが、すべての電話交換設備がこのシステムに対応するようになったのは1970年代後半のことであった。
北アメリカにおける最初の緊急通報用電話番号は 911で、1959年よりカナダのマニトバ州ウィニペグなど、一部の都市で使用されるようになった。この911緊急通報システムは、1968年にアラバマ州で米国において初めて使用開始され、1972年にはカナダもそれに変更した。ただし、緊急通報用電話番号の911への変更は秩序だったものではなく、北米電話番号計画に参加している国や地域のほとんどにおいて、911の使用が一般化したのは1980年代のことであった。
パリでは1928年に、電話交換業務時間外に掛ってくる緊急通報も電話交換手が接続をしなければならないことがあり、1929年には1万人未満というごく限られたパリ市民に対してのみ、自動接続システムを導入することで 18 を緊急通報用電話番号とした消防隊への緊急通報を常時可能にするサービスを提供できるようになった。このサービスがフランス全土に普及したのは1970年代のことだった。
極東アジア地域では、初めて本格的な電話網の整備を開始したのが日本であり、その日本の統治下にあった台湾、南樺太、朝鮮半島、関東州、南洋諸島も日本の手によって電話網が整備された。この為 119 はこれらの地域でも使われていた。
日本では電話交換網の整備途上で自動交換が導入され、それと同時に緊急通報電話番号も制定されたため、北米やヨーロッパと違い返って緊急通報電話番号のシステムは一般加入回線(逓信省→電気通信省→電々公社→NTTの交換網)の開通とともにほとんど混乱なく導入された。唯一、米軍統治時代に電話網の復旧・拡大と自動交換化が進められた沖縄県の一部のみ119の導入が遅れた。詳細は119番#ワンクッションコールを参照。
大戦後、南洋諸島は米軍統治下に置かれたため、北米共通の911に変更された。台湾と朝鮮半島では引き続き119が使われたが、朝鮮戦争後の朝鮮民主主義人民共和国では復興に際して旧COMECON加盟国で採用していた 消防01・救急02・警察03 に変更された。日本において警察への緊急通報番号(110)を定めたのは終戦後の1948年だったため台湾や大韓民国では採用されていなかった。韓国は 112 を採用し、台湾では日本に倣って110を採用した。
ヨーロッパでは、1972年にCEPTが緊急通報用電話番号として 112 の使用を推奨し、1991年7月29日にはEUもそれを採用した。このため、ヨーロッパでは従来の自国・地域の緊急通報用電話番号に加えて欧州共通の112を併用している国や地域も多い。
2008年1月には、IETFがIPネットワークにおける緊急通報に関するRFCを公表した。
各国の緊急通報用電話番号
[編集]アジア
[編集]国 | 警察 | 救急 | 消防 | 備考 | 脚注 |
---|---|---|---|---|---|
アラブ首長国連邦 | 999, 112 | 998, 999 | 997 | ||
イスラエル | 100 | 101 | 102 | 携帯電話から:112 | |
イラン | 110 | 115 | 125 | 携帯電話から:112 | |
インド | 100 | 102 | 101 | 交通警察:103、携帯電話から:112 | |
インドネシア | 110 | 118, 119 | 113 | 捜索および救助:115、自然災害:129、電気:123、携帯電話および衛星電話から:112 | |
オマーン | 9999 | ||||
カタール | 999 | ||||
韓国 | 112 | 119 | 非緊急:110、韓国、その他の電話番号一覧 | [4] | |
北朝鮮 | 市内番号のみ | [5] | |||
キプロス | 112, 199 | ||||
クウェート | 777 | ||||
サウジアラビア | 999 | 997 | 998 | 交通警察:993、救助:911, 112, 08 | |
シンガポール | 999 | 995 | 携帯電話から:112, 911、SMSによる警察への通報:71999 | SMS 71999]”. Singapore Police Force. 2024年4月8日閲覧。 | |
スリランカ | 119 | 110 | 111 | 事故:11-2691111 | |
タイ | 191 | 1669 | 199 | バンコクEMS指令センター(バンコク都内のみ):1646、観光警察:1155 | |
中国 | 110 | 120 | 119 | 交通事故:122、SMSによる通報(一部地域):12110 | |
トルコ | 155 | 112 | 110 | ジャンダルマ: 156、沿岸警備隊:158 | |
台湾 | 110 | 119 | 女性と子供の保護:113 海上での事故・事件 (海巡署):118 |
[警 1] | |
日本 | 110 | 119 | 海上での事故・事件 (海上保安庁):118 児童虐待(児童相談所):189 警察 (緊急を要しない場合): #9110[6] 道路緊急ダイヤル (道路の異状を発見した場合): #9910[6] ロードサービス業者の一例(JAF):#8139[6] |
[警 2][警 3][救 1][消 1] | |
ネパール | 100, 103 | 101 | |||
パキスタン | 15, 1122 | 115 | 16 | 携帯電話から:112 | |
フィリピン | 117 | 携帯電話から:112, 911、ロードサービス:136、児童虐待:163 | |||
ベトナム | 113 | 115 | 114 | ||
香港 | 999 | FAXおよび身体障害を持つ電話加入者からのSMS:992、携帯電話から:112 | [警 4] | ||
マカオ特別行政区 | 999 | ||||
マレーシア | 999 | 民間防衛:991、消防:999, 994、携帯電話から:112 | |||
ミャンマー | 199 | ||||
モンゴル | 102 | 103 | 101 | ||
レバノン | 112 | 140 | 175 |
アフリカ
[編集]国 | 警察 | 救急 | 消防 | 備考 | 脚注 |
---|---|---|---|---|---|
ウガンダ | 999 | ||||
エジプト | 122 | 123 | 180 | 観光警察:126、交通警察:128、電気:121、天然ガス:129 | |
ガーナ | 191,999 | 193, 999 | 192, 999 | ||
ザンビア | 999 | 991 | 993 | 携帯電話から:112 | |
ジブチ | 17 | 18 | |||
ジンバブエ | 995, 999 | 994, 999 | 993, 999 | ||
チャド | 17 | 18 | |||
チュニジア | 197 | 190 | 198 | 国家警備隊:193 | |
マリ | 17 | 15 | 18 | ||
南アフリカ共和国 | 10111 | 10177 | 10111 | 携帯電話から:112 | |
モロッコ | 都市部:19 地方:177 |
15 | 15 | ||
ルワンダ | 112 |
ヨーロッパ
[編集]国 | 警察 | 救急 | 消防 | 備考 | 脚注 |
---|---|---|---|---|---|
アイスランド | 112 | レイキャビク警察(緊急を要しない場合):4441000 | |||
アイルランド | 112, 999 | ||||
アルバニア | 19 | 17 | 18 | ||
イギリス | 999, 112 | 2006年より緊急を要しない場合の警察への通報先として、イングランドとウェールズの一部地域で 101 が供用開始された。ガス漏れ:0800 111 999、NHSダイレクト(医療相談):08 45 46 47 | |||
イタリア | 112, 113 | 112, 118 | 112, 115, 1515 | カラビニエリ(国家憲兵):112、国家警察:113、財務警察:117、森林警備隊(山火事):1515、救急・山岳救助:118 | |
ウクライナ | 02, 102, 112 | 03, 103, 112 | 01, 101, 112 | ガス漏れ:04, 104, 112 | |
エストニア | 112, 110 | ||||
オーストリア | 112, 133 | 112, 144 | 112, 122 | 山岳救助:140、児童相談:147 | |
オランダ | 112 | 警察(緊急を要しない場合):0900-8844 | |||
ギリシャ | 100, 112 | 166, 112 | 199, 112 | 森林火災:191、沿岸警備隊:108、麻薬対策:109 | |
クロアチア | 92 | 94,112 | 93, 112 | ロードサービス:987 | |
コソボ | 911 | ||||
スイス | 117, 112 | 144, 112 | 118, 112 | 毒:145、ロードサービス:140、心理相談(無料・匿名):143、子ども心理相談(無料・匿名):147、航空救助隊(REGA):1414 または 超短波無線 161.300 MHz、航空救助隊(Air Glaciers):1415 (ヴァレー州のみ) | |
スウェーデン | 112 | 警察(緊急を要しない場合):11414 | |||
スペイン | 国家警察 091, 112 地方警察 092, 112 |
061, 112 | 080, 085, 112 | グアディア・シビル(軍警察):062、カタルーニャ警察:088 | |
スロバキア | 158, 112 | 155, 112 | 150, 112 | ||
スロベニア | 113 | 112 | |||
セルビア | 92, 112 | 94, 112 | 93, 112 | ||
チェコ | 112, 158 | 112, 155 | 112, 150 | 地方警察:156 | |
デンマーク | 112 | 最寄りの警察署(緊急を要しない場合):114 | |||
ドイツ | 110, 112 | 112 | |||
ノルウェー | 112 | 113 | 110 | 警察(緊急を要しない場合):02800 | |
ハンガリー | 107, 112 | 104, 112 | 105, 112 | ||
フィンランド | 112 | 112 | |||
フランス | 17, 112 | 重傷 15, 112 軽傷 18, 112 |
18, 112 | 112番通報は通報者の居場所により、15 もしくは 18 どちらかのオペレーターが応答する。ホームレス:115 | |
ブルガリア | 166, 112 | 150, 112 | 160, 112 | 2008年現在、ブルガリアでは 112 の導入が進められている。 | |
ベラルーシ | 102 | 103 | 101 | ガス漏れ:104 | |
ベルギー | 101, 112 | 100 または 112 | 迷子:110、心理相談・自殺防止:106 | ||
ポーランド | 997, 112 | 999, 112 | 998, 112 | 地方監視員:986、天然ガス・LPガス:992 | |
ボスニア・ヘルツェゴビナ | 122 | 124 | 123 | 携帯電話から:112 または 911、地方の緊急通報全般:08 | |
ポルトガル | 112 | 森林火災:117 | |||
北マケドニア | 192, 112 | 194, 112 | 193, 112 | ||
マルタ | 112 | ||||
モルドバ | 902 | 903 | 901 | 2010年までに 112 の導入が完了する予定。 | |
ラトビア | 02, 112 | 03, 112 | 01, 112 | ガス漏れ:04 | |
リトアニア | 02, 102, 022, 112 | 03, 103, 033, 112 | 01, 101, 011, 112 | 112 以外の番号は地域ごとに異なるために、112 が共通の緊急通報用番号として使用されている。 | |
ルーマニア | 112 | ||||
ルクセンブルク | 112, 113 | 112 | |||
ロシア | 02 | 03 | 01 | ガス漏れ:04(旧COMECON参加国の共通番号でもある) すべての緊急通報:112(EUに合わせるかたちで2008年に導入された。旧番号は2012年頃までに廃止するとされていたが、現在も運用されている。日本の外務省では渡航者に対して旧番号を推奨している) |
オセアニア
[編集]国 | 警察 | 救急 | 消防 | 備考 | 脚注 |
---|---|---|---|---|---|
オーストラリア | 000 | 携帯電話から:112、000 または 08、テキストフォン・TTY(テレタイプライター)から:106(National Relay Service) | |||
ニュージーランド | 111 | 携帯電話から:112 または 911 または 08、すべての緊急通報(FAX):0800 161610 | |||
バヌアツ | 112 | ||||
フィジー | 911 | 9170 |
北アメリカ
[編集]国 | 警察 | 救急 | 消防 | 備考 | 脚注 |
---|---|---|---|---|---|
アメリカ | 911 | 緊急を要しない場合(一部地域):311、携帯電話から:112 地方の一部では911サービスが不十分な地域も存在する。 | |||
カナダ | 911 | 緊急を要しない場合(一部地域):311 地方の一部では911サービスが不十分な地域も存在する。 | |||
サンピエール島・ミクロン島 | 17 | 15 | 18 | ||
メキシコ | 066, 060, 080 | 一部の地域では 911 は適当な番号に転送される。 |
中央アメリカ
[編集]国 | 警察 | 救急 | 消防 | 備考 | 脚注 |
---|---|---|---|---|---|
エルサルバドル | 911 | ||||
ケイマン諸島 | 911 | ||||
コスタリカ | 911 | ||||
ジャマイカ | 119 | 110 | |||
ドミニカ共和国 | 911 | ||||
トリニダード・トバゴ | 999 | 990 | |||
パナマ | 911 | ||||
バルバドス | 211 | 511 | 311 |
南アメリカ
[編集]国 | 警察 | 救急 | 消防 | 備考 | 脚注 |
---|---|---|---|---|---|
アルゼンチン | 101 | 107 | 100 | ブエノスアイレス市およびブエノスアイレス州のみ:911 | |
ウルグアイ | 911 | ||||
ガイアナ | 911 | 913 | 912 | ||
コロンビア | 123(衛星電話は除く) | 交通事故:127、警察GAULA(誘拐対策):165、陸軍GAULA(誘拐対策):147 | |||
112 | 132 | 119 | |||
スリナム | 115 | ||||
チリ | 133 | 131 | 132 | ||
パラグアイ | 911 | ||||
ブラジル | 190 | 192 | 193 | 連邦高速道路警察:191、連邦警察:194、市民警察:197、州高速道路警察:198、民間防衛:199、人権:100、MERCOSUR地域向け緊急通報用番号:128、携帯電話からの 112 は 190 に転送される。 911 も 190 へ転送される。 | |
ベネズエラ | 171 | ||||
ペルー | 105 | 117 | 116 | ||
ボリビア | 110 | 118 |
脚注
[編集]- 出典
- ^ 「緊急通報用電話番号」 。
- ^ “911 and 112 are the world's standard emergency numbers, ITU decides”. The Verge 2018年7月26日閲覧。
- ^ “電気通信番号計画”. 総務省. 2023年8月29日閲覧。
- ^ 전국연결번호 - 나무위키
- ^ emergency "911" - Department of State Travel
- ^ a b c ダイヤル回線契約や、ダイヤル式電話機を除く。
- 警察
- ^ “110報案”. 内政部警政署. 2012年5月24日閲覧。
- ^ “警察の情報通信 - 4 通信指令システム”. 警察庁. 2012年5月24日閲覧。
- ^ “海の「もしも」は118番”. 海上保安庁. 2012年5月24日閲覧。
- ^ “聯絡我們 - 警察熱線”. 香港警務処. 2012年5月24日閲覧。
- 救急
- ^ “119番の正しいかけ方”. 総務省消防庁. 2012年5月24日閲覧。
- 消防
- ^ “救急車利用マニュアル A guide for ambulance services”. 総務省消防庁. 2021年1月29日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 緊急通報の機能 - 総務省
- National Emergency Number Association (NENA) - アメリカ合衆国の緊急通報用電話番号に関する業界団体
- European Emergency Number Association (EENA) - 欧州の緊急通報用電話番号に関するNGO団体