TRAPPIST-1b
TRAPPIST-1b は地球から見てみずがめ座の方向に約40光年離れた位置にある赤色矮星 TRAPPIST-1 を公転している太陽系外惑星である。2016年にTRAPPIST望遠鏡によるトランジット法での観測から発見された[8][9]。
TRAPPIST-1b | ||
---|---|---|
TRAPPIST-1bの想像図
(2023年3月時点の観測データに基づいたもの) | ||
星座 | みずがめ座 | |
分類 | 太陽系外惑星 地球型惑星 | |
発見 | ||
発見年 | 2016年[1] | |
発見者 | Michaël Gillon et al. (TRAPPIST) | |
発見方法 | トランジット法[1] | |
現況 | 確認 | |
軌道要素と性質 | ||
軌道長半径 (a) | 0.01154775 ± 0.000000057 au[2] (1,727,543 ± 9 km) | |
離心率 (e) | 0.00622 ± 0.00304[2] | |
公転周期 (P) | 1.51087637 ± 0.00000039 日[3] | |
軌道傾斜角 (i) | 89.728 ± 0.165°[4] | |
近点引数 (ω) | 336.86 ± 34.24°[2] | |
昇交点黄経 (Ω) | 203.12 ± 34.34°[2] | |
TRAPPIST-1[1]の惑星 | ||
位置 元期:J2000.0[5] | ||
赤経 (RA, α) | 23h 06m 29.3684052886s[5] | |
赤緯 (Dec, δ) | −05° 02′ 29.031690445″[5] | |
固有運動 (μ) | 赤経: 930.879 ミリ秒/年[5] 赤緯: -479.403 ミリ秒/年[5] | |
年周視差 (π) | 80.4512 ± 0.1211ミリ秒[5] (誤差0.2%) | |
距離 | 40.54 ± 0.06 光年[注 1] (12.43 ± 0.02 パーセク[注 1]) | |
物理的性質 | ||
直径 | 14,235.7 km | |
半径 | 1.116+0.014 −0.012 R⊕[4] | |
表面積 | 6.353×108 km2 | |
体積 | 1.506×1012 km3 | |
質量 | 1.374 ± 0.069 M⊕[4] | |
平均密度 | 0.987+0.048 −0.050 ρ⊕[4] (5.425+0.265 −0.272 g/cm3[4]) | |
放射束 | 4.153+0.161 −0.159 S⊕[4] | |
表面重力 | 1.102 ± 0.052 g⊕[4] (10.80 ± 0.51 m/s2[4]) | |
脱出速度 | 12.400 ± 0.292 km/s[4] | |
表面温度 | 503 K(230 ℃)[6] | |
平衡温度 (Teq) | 391.8 ± 5.5 K(118.7 ± 5.5 ℃)[3] | |
年齢 | 76 ± 22 億年[7] | |
大気圧 | 有意な大気は検出されず[6] | |
他のカタログでの名称 | ||
K2-112b 2MASS J23062928-0502285 b |
||
■Template (■ノート ■解説) ■Project |
発見と特徴
編集地球 | TRAPPIST-1b |
---|---|
TRAPPIST-1b は、その外側を公転する TRAPPIST-1c と TRAPPIST-1d と同時に、チリのラ・シヤ天文台にある望遠鏡TRAPPISTによるトランジット法の観測から発見された[8]。トランジット法では、惑星が主星の手前を周期的に通過(トランジット)することで発生する主星のわずかな減光を検出することで惑星を発見する。この研究結果は、科学雑誌ネイチャーの2016年5月号に掲載された[8]。
主星からの距離は地球から月までの距離の約4倍しかない約 0.0115 au(約173万 km)で、わずか1日半で公転しており、TRAPPIST-1系で発見されている7個の惑星のうち、最も内側を公転している。主星 TRAPPIST-1 が木星クラスという非常に小型な超低温矮星のため[8]、大気の存在などを考慮しない平衡温度は約 392 K(約 119 ℃)とされていた[3]。後述の2017年から2018年に行われたスピッツァー宇宙望遠鏡の観測結果を用いた複数の研究では、暴走温室効果により TRAPPIST-1b の大気中の温度が数百℃から千数百℃にもなる可能性が示されたが[2]、2023年のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果を受けて表面温度は 503 K(230 ℃)と算出された[6]。
TRAPPIST-1b の物理的パラメーターは発見後に幾度となく行われてきた観測で改良が続けられ、2021年に発表された研究では半径が地球の1.116倍、質量が地球の1.374倍である岩石質の地球型惑星とされている[4]。質量については当初、地球の1.38倍[10]や、0.85倍[11]などとも推定されていた。2018年に公表された研究では、惑星の密度が火星よりやや大きい程度しかない 3.98 g/cm3 と計算されたことから、最大で質量の 5% が揮発性物質で構成されている可能性が考慮された。主星から受けるエネルギー量が地球よりもかなり多いことから、この密度を説明するために金星のような分厚い大気を持つ可能性が示されたが[2]、2021年の研究で密度は地球よりやや小さい程度の 5.425 g/cm3 に上方修正された[4]。
大気
編集2016年5月4日、TRAPPIST-1b はその外側を公転する TRAPPIST-1c と共に同時に主星の手前を通過した。その様子はハッブル宇宙望遠鏡によって観測され、大気成分の分析が行われた。その結果、詳細な大気成分は判明しなかったが、少なくとも巨大ガス惑星で見られるような水素などで満たされた膨張された大気は持っていないと判明した[13][14]。表面の平衡温度が 750 - 1000 K(477 - 727 ℃)であると仮定して、2018年2月に発表されたスピッツァー宇宙望遠鏡による観測結果により、TRAPPIST-1b に大気圧が 101 - 104 bar にもなる厚い水蒸気の大気があれば、当時算出された TRAPPIST-1b の密度が地球よりもやや小さいことを説明できると推測された。この研究ではTRAPPIST-1系で唯一、TRAPPIST-1b が揮発性物質で満たされた大気による暴走温室効果が起こりうる可能性が排除されない惑星であるとされた[2]。
2023年2月、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されている「中赤外線観測装置 (MIRI)」による TRAPPIST-1b の観測結果が公表された[6]。この観測は TRAPPIST-1b が主星の後ろに隠れる直前と出現した直後に起きる主星の光の変化を観測する二次食測光 (Secondary eclipse photometry) と呼ばれる手法で行われ、小型で岩石質の太陽系外惑星から放出される光を赤外線として検出することに成功した初めての事例であると報告された[15]。この研究では TRAPPIST-1b は可視光で明るく見えるほどではないが、赤外線では以前の予想よりもはるかに明るく見えており、従来算出されていた平衡温度よりも約 100 K 高い 503 K(230 ℃)にまで表面が加熱されていると判明した[6][15]。表面がこれほど高温であると光を散乱させることができるほどの厚い大気は持つことができないと考えられている[16][17]。他の二次食測光の観測データを分析した結果でも、TRAPPIST-1b はほぼ黒体のような天体で、熱循環を生じさせるような大気は存在しないと結論付けられた[6][15]。TRAPPIST-1b に大気が存在しない理由としては、まだ主星が今よりも明るかったと考えられる形成直後に失われたか、または主星からの強力なフレアによって大気が消失されていったという可能性が最も高いとされている[17]。しかし、研究チームを率いた Thomas Greene は、熱循環にほとんど関与しないような非常に薄い大気が TRAPPIST-1b に存在している可能性はまだ残されているとしている[16]。
画像
編集-
TRAPPIST-1系の惑星と太陽系の岩石惑星を比較した図
-
厚い大気を持つ可能性があるという2018年時点の研究結果を反映して描かれた想像図[19]
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c Jean Schneider. “Planet TRAPPIST-1 b”. The Extrasolar Planet Encycloapedia. Paris Observatory. 2018年3月7日閲覧。
- ^ a b c d e f g Grimm, Simon L.; Demory, Brice-Olivier; Gillon, Michael et al. (2018). “The nature of the TRAPPIST-1 exoplanets”. Astronomy and Astrophysics 613 (A68): 21. arXiv:1802.01377. Bibcode: 2018A&A...613A..68G. doi:10.1051/0004-6361/201732233.
- ^ a b c Delrez, Laetitia; Gillon, Michael; H.M.J, Amaury; Brice-Oliver Demory, Triaud; de Wit, Julien; Ingalls, James; Agol, Eric; Bolmont, Emeline; Burdanov, Artem; Burgasser, Adam J.; Carey, Sean J.; Jehin, Emmanuel; Leconte, Jeremy; Lederer, Susan; Queloz, Didier; Selsis, Franck; Grootel, Valerie Van (9 January 2018). "Early 2017 observations of TRAPPIST-1 with Spitzer". arXiv:1801.02554v1 [astro-ph.EP]。
- ^ a b c d e f g h i j k Agol, Eric; Dorn, Caroline; Grimm, Simon L. et al. (2021). “Refining the transit timing and photometric analysis of TRAPPIST-1: Masses, radii, densities, dynamics, and ephemerides”. The Planetary Science Journal 2 (1): 38. arXiv:2010.01074. Bibcode: 2021PSJ.....2....1A. doi:10.3847/PSJ/abd022. 1.
- ^ a b c d e f “Result for TRAPPIST-1b”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2018年3月7日閲覧。
- ^ a b c d e f Greene, Thomas P.; Bell, Taylor J.; Ducrot, Elsa; Dyrek, Achrène; Lagage, Pierre-Olivier; Fortney, Jonathan J. (2023). “Thermal Emission from the Earth-sized Exoplanet TRAPPIST-1 b using JWST”. Nature. arXiv:2303.14849. doi:10.1038/s41586-023-05951-7.
- ^ Burgasser, Adam J.; Mamajek, Eric E. (2017). “On the Age of the TRAPPIST-1 System”. The Astrophysical Journal 845 (2): 110. arXiv:1706.02018. Bibcode: 2017ApJ...845..110B. doi:10.3847/1538-4357/aa7fea. ISSN 1538-4357.
- ^ a b c d Gillon, Michaël; Jehin, Emmanuël; Lederer, Susan M. et al. (2016). “Temperate Earth-sized planets transiting a nearby ultracool dwarf star” (PDF). Nature 533 (7602): 221-224. arXiv:1605.07211. doi:10.1038/nature17448. ISSN 0028-0836 .
- ^ “超低温の矮星の周りに、生命が存在しうる地球サイズの惑星3つを発見”. AstroArts (2016年5月9日). 2018年3月7日閲覧。
- ^ Janna K. Barstow; Patrick G. J. Irwin (7 June 2016). "Habitable worlds with JWST: transit spectroscopy of the TRAPPIST-1 system?". arXiv:1605.07352v2 [astro-ph.EP]。
- ^ Gillon, Michaël; Triaud, Amaury H. M. J.; Demory, Brice-Olivier et al. (2017). “Seven temperate terrestrial planets around the nearby ultracool dwarf star TRAPPIST-1” (PDF). Nature 542 (7642): 456-460. doi:10.1038/nature21360. ISSN 0028-0836 .
- ^ “Artist's view of planets transiting red dwarf star in TRAPPIST-1 system Artist's view of planets transiting red dwarf star in TRAPPIST-1 system”. Spacetelescope. 2018年3月7日閲覧。
- ^ “地球サイズの系外惑星の大気を初観測”. AstroArts (2016年7月25日). 2018年3月7日閲覧。
- ^ de Wit, Julien; Wakeford, Hannah R.; Gillon, Michaël; Lewis, Nikole K.; Valenti, Jeff A.; Demory, Brice-Olivier; Burgasser, Adam J.; Burdanov, Artem et al. (2016). “A combined transmission spectrum of the Earth-sized exoplanets TRAPPIST-1 b and c”. Nature 537 (7618): 69-72. doi:10.1038/nature18641. ISSN 0028-0836.
- ^ a b c “NASA's Webb Measures the Temperature of a Rocky Exoplanet”. Webb Spacw Telescope. STScI (2023年3月27日). 2023年4月6日閲覧。
- ^ a b Tereza Pultarova (2023年3月27日). “James Webb Space Telescope finds no atmosphere on Earth-like TRAPPIST-1 exoplanet”. Space.com. 2023年4月6日閲覧。
- ^ a b Leah Crane (2023年3月27日). “JWST finds the planet TRAPPIST-1b may not have an atmosphere”. New Scientist. 2023年4月6日閲覧。
- ^ “This Weird Planetary System Seems Like Something From Science Fiction”. NBC News. 2018年3月7日閲覧。
- ^ “PIA22093: TRAPPIST-1 Planet Lineup - Updated Feb. 2018”. PhotoJournal. Jet Propulsion Laboratory/NASA (2018年2月5日). 2023年4月6日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- TRAPPIST-1b - NASA Exoplanet Archive
- TRAPPIST-1 b - Exoplanet DataExplorer
- TRAPPIST-1 b - Exokyoto
- TRAPPIST-1 b, c, d, e, f, g, h - Exokyoto