腎臓学
腎臓学(じんぞうがく、英語: nephrology)は、腎臓・尿路系の疾患を中心に診療・研究する内科学から発展していった医学の一分野。
腎臓の疾患は、一般的には「腎臓内科」(じんぞうないか)という腎臓に特化した専門医が診察・治療する。
歴史
編集18世紀までの西洋伝統医学にも腎臓病の名称はあったが、腎臓の疾患とは限らなかった。
19世紀初め頃からの病理解剖学の進歩によって、腎臓の病変による腎臓病が発見された。19世紀後半の顕微鏡を用いた組織学と実験的な生理学の進歩により、腎臓の構造と機能が明らかになった。19世紀後半から腎臓疾患の病理組織学的な診断が可能になった。
症候
編集- 血尿 - 尿に血液が混じる症状。
- 無尿または乏尿 - 尿が出ない症状または尿量が極端に少ない症状。
- 多尿 - 尿量が多い症状。頻尿とは違う概念。
- 頻尿 - 高齢者に多い症状。特に高齢者に多く起こり夜間に尿の回数が多くなる症状。
- 夜間尿(やかんにょう)は、夜間に出る尿。排尿のために夜間に頻繁に起きる。失禁とは独立した概念。
- タンパク尿
- 生理的タンパク尿 - 生理的タンパク尿は病的でない健常者に見られるタンパク尿。
- 病的タンパク尿 - 病的タンパク尿は何らかの病気によって見られるタンパク尿。
- 腎不全
治療
編集検査
編集腎臓針生体検査
編集腎生検(じんせいけん、腎臓針生検、腎針生検)は、腎臓に中空の針を刺して組織を抜き取り、顕微鏡で調べる病理学検査。
- 方法
- 肋骨椎体角部(Costo-Vertebral Angle:以下CVA)に腎生検用の針を刺す。まずCVAを皮膚消毒する。次に無菌のビニール袋を被せた超音波検査装置のプローブで腎臓の位置を調べる。プローブのソケットに針ガイドがついていて、局所麻酔を注射する。麻酔針と腎生検用針をとりかえて、超音波ガイド下に生検針を腎臓付近まで進める。腎臓付近まで生検針を進めたら、引き金を引いて検体採取用の針を発射し、針を抜いて圧迫止血する。これを3~6回繰り替えす。
- 痛み
- 麻酔針を刺すときに多少の痛みがあるが、それ以外の痛みは殆どない。むしろ検査後、長時間にわたる安静臥床によって起こる腰痛が苦しい。
- 合併症
- 腎被膜下血腫
- 腎被膜下血腫は、腎臓の皮膜の内側に血液が溜まる事。圧迫止血が充分でないと起こる。皮膜が伸展されると痛い。出血がコントロールできず、後腹膜血腫に至る場合がある。検査後の輸血等の処置が必要となる可能性は1人/1000人前後。検査による死亡は1人/15000人と言われている。
- 腎被膜下血腫
糸球体濾過量
編集糸球体濾過量(しきゅうたいろかりょう、GFR)は、糸球体が濾過した原尿の量。基準値は100~120ml/分。糸球体濾過量を測定の指標物質には、人体に無害であり、体内にトラップされることなく糸球体で濾過され、濾過後は尿細管で何ら分泌再吸収されない、等の性質が求められる。糸球体濾過量を測定する検査には以下の物がある。
- イヌリンクリアランス
- イヌリンは、人体に無害であり、体内にトラップされることなく糸球体で濾過され、濾過後は尿細管で何ら分泌再吸収されない。この性質の為に、糸球体濾過量を測定するのに都合がよい。しかし生体内に存在しない物質なので、静脈注射とその後の体内への均等な分配を待つ必要があり、検査として不便。
- クレアチニンクリアランス(Ccr、CLcr)
- シスタチンC (CysC, Cys-C)
腎血流量
編集腎臓の血流量を腎血流量(RBF)と言う。腎血流量を調べる検査として以下のものがあげられる。
糸球体病変
編集糸球体病変では血尿の場合、尿沈さ鏡検で、赤血球に破壊、変形が見られる。
主にネフローゼを示す糸球体病変
編集- ネフローゼ症候群
- 微小変化群(MC)
- 巣状糸球体硬化症(FGS)(ICD-10: N05.1)
- 膜性腎症(MN)
- 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)
- 原因
- 四日熱マラリア、等。
- 検査
- 血清免疫学検査
- 血清補体価低値
- 腎臓針生体検査
- 光学顕微鏡
- メサンギウム領域の基質・細胞増殖と、糸球体基底膜の二重化(メサンギウム細胞の嵌入による)が見られる。蛍光抗体法では、基底膜・メサンギウム領域にC3、IgM、IgGの沈着が見られる。
- 光学顕微鏡
- 血清免疫学検査
- 治療
- 薬物療法としてステロイドを投与する。
- 原因
- 糖尿病性腎症 - 糖尿病で血糖値の高い状態が10年以上続くと、動脈硬化症が進行して、腎臓に疾患が及ぶとタンパク尿やネフローゼ症候群などを経て慢性腎不全に至る。
糸球体腎炎
編集- 感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)
- 原因
- A群β溶連菌感染。感染後約2週間後に腎症が発症するため、この感染の事を先行感染と言う。
- 症状
- 検査
- 血清免疫学検査
- 急性期には血清補体価は低値を示す。
- 血清免疫学検査
- 溶連菌感染によって血清ASO高値を示す。また、病態に応じて血清補体価の低下が見られる。
- 腎生検
- 蛍光C3抗体染色
- 糸球体係蹄に沿って沈着が見られる。この半円状の沈着をlinear patternと言う。
- 蛍光C3抗体染色
- 血清免疫学検査
- 診断
- 病期は乏尿期、利尿期、回復期と言う経過を取る。
- 治療
- 乏尿期には安静臥床とする。
- 食事療法
- 水分
- 水分は「前日の尿量+不感蒸泄」とする。
- 塩分
- 浮腫の増悪予防のために、3~5g/日とする。
- 水分
- 薬物療法
- 薬物療法は対症療法的に用いる。
- 食事療法
- 乏尿期には安静臥床とする。
- 原因
- 急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
- 慢性糸球体腎炎
- IgA腎症
- 低形成腎
間質性病変
編集尿細管病変
編集- 黄疸出血性レプトスピラ症
- タンパク尿を呈する。
- 尿細管性アシドーシス(RTA)
- バーター症候群
- リドル症候群
嚢胞性病変
編集- 常染色体性優性多発性嚢胞腎(成人型)
- 常染色体性劣性多発性嚢胞腎(小児型)
- 髄質海綿腎
- 結節性硬化症
- フォン・ヒッペル・リンドウ病
全身の病変
編集- 透析アミロイドーシス
- 原因
- 長期にわたり透析を受けている末期腎不全患者において透析では十分には除去できないβ2ミクログロブリンなどのタンパク質からアミロイドが形成され、軟部組織などに沈着することで起こる。
- 症状
- 手根管症候群など多彩な症状を呈する
- 治療と対策
- 注意
- 原因
- 溶血性尿毒症症候群(HUS)
- 原因
- 病原性大腸菌(O157など)の感染による。
- 症状
- 三大徴候は、急性腎不全、溶血性貧血、血小板減少。
- 原因
透析骨症
編集血管の病変
編集悪性腫瘍
編集治療
編集人工透析
編集腎移植
編集iPS細胞による腎臓の再生および患者への移植に向けての始動
編集2018年8月、東京慈恵会医科大学、熊本大学、明治大学は共同で、iPS細胞を用いた腎臓の再生治療についての臨床研究の実施を文部科学省に申請した。これはiPS細胞から腎臓の元となるネフロン前駆細胞を作成し腎臓へと育て、人工透析患者に移植することを目指すものである[1][2]。これまで動物実験段階では腎臓の再生および移植は実現していたが、臨床への応用は嚆矢である[3][4][5][6]。
脚注
編集- ^ 「メディア掲載『iPS細胞での腎臓再生 慈恵医大など、世界初の臨床研究申請へ」東京慈恵会医科大学付属病院腎臓・高血圧内科
- ^ 「iPS細胞で腎臓再生 慈恵医大など、世界初の臨床研究申請へ」『日刊工業新聞』2018-8-23
- ^ Saito, Yatsumu & Takashi Yokote, 2020 "Functional kidney regeneration using pluripotent stem cells", Nephrology 12(4):418-25
- ^ Saito, Yatsumu & Shuichiro Yamanaka. 2019 ”Progress of de novo whole kidney regeneration : a review.” Journal of Japanese Society for Clinical Renal Transplantation 7(1):76-83
- ^ 兩坂誠, 長船健二2016「iPS細胞を用いた腎臓再生と腎疾患治療への応用 (特集 腎移植update : 腎臓病学・免疫学・再生医学からの新知見)」『腎臓内科・泌尿器科』3(2):153-9
- ^ 「ヒトiPS細胞から別個に分化させた複数の腎前駆細胞から腎組織を再生する」『京都大学iPS細胞研究所CiRA』2020-4-8