ジュブナイルポルノ

性描写を含む娯楽小説

ジュブナイルポルノJuvenile porno)は、アニメマンガ調のイラストをカバー・表紙・口絵・挿絵などに使用した、異性間もしくは同性間、さらには人外のものとの性描写を含む娯楽小説であり、官能小説の一ジャンルである[1]。しかし、後述するようにジュブナイルポルノと呼ばれることは稀である。また、ジュブナイルという言葉は、「子供向けの」という意味もある為、特に海外から児童向けポルノと誤解される懸念がある。

特徴・特色

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現状、このジャンルの特徴的な要素として、以下のような事柄が挙げられる。現在刊行されているものについて言えば、ライトノベルと共通の特徴が随所にあり、主な対象としている読者層の違いなどが、一般的な官能小説との差異を生み出す要因になっている。

様式・体裁
比較的平易な言葉で書かれた作品が多く、活字も大きめである。レーベル共通の装幀はライトノベルの様式を踏襲したデザインで、カラフルな色使いなものが多い。さらに通常の官能小説の多くは文庫で発売されるが、新書判や四六版で発売される作品の割合が多い。これは官能小説が駅売店やコンビニエンスストアなど、旧来の販売網を残しているのに対して、ジュブナイルポルノは漫画専門店を中心した書店売りルートがメインになっているためである。
また、近年はフランス書院eブックスオシリス文庫のように電子書籍専門のレーベルも現れている。
作品タイトル
官能小説と同じく、作品タイトルの命名法は、同時期のライトノベルで主流になっている傾向がストレート(出オチ的)に反映されることが多い。わかつきひかるが『AKUMAで少女』のあとがきで記しているところによれば、ジュブナイルポルノ業界では本の題名および章題は、一般的な官能小説と同様に、著者ではなく編集者が付けるものであるという。同様に、主人公以外の男性キャラをあまり登場させてはいけないという暗黙の了解があるという。
イラスト挿絵
一般的な官能小説ではあまり見られない、本文ページ中に挿し絵が多数存在する。ただし、挿し絵の多くは性的な描写で、アニメやマンガ調のイラストがライトノベルと同様に多用される[2]
イラストレーターの多くは成人向け漫画を手掛ける漫画家アダルトゲーム原画担当者などであり、同様のタイプのキャラクター、人物を中心としたイラストレーションだが、肉感的な劇画調の絵柄が基本である一般的な官能小説とは質的に大幅に異なる。挿し絵担当者にはライトノベルのイラストレーターとしても活動する者が多い。
キャラ設定・作品設定
一般的な官能小説ではセールス上の観点から禁忌とされるファンタジーSFなどの世界観が幅広く用いられ、読者に受容されている。
舞台設定の構築やキャラクター設定については、一般的な官能小説よりも作者に与えられる裁量が大きい。現代の学校が舞台であったり、時代劇的な要素が入っていることもある。登場人物がなんらかの特殊能力や超能力などを持っているという設定の場合もある。性交や性的興奮を通じて能力が発動する設定や、特殊能力を巡るアクシデントが性的な場面を引き起こすきっかけになるという展開がある。
人間以外の存在が登場する場合がある。例えば天使悪魔(特に淫魔)、アンドロイド(セクサロイド)、触手を持つモンスター妖怪など。登場人物の年齢設定は主人公・ヒロインのいずれもが10代である場合が多い。ただし、陵辱ものの作品を中心に脇役として中高年の男が登場する場合もある。
性的描写
ライトノベル調や萌え系のものなどを中心に、通常の官能小説よりも性的描写の占めるページ比率が低く、恋愛小説ラブコメ的な描写や萌え表現に多くのページが割かれる。ライトノベル調がさらに強調されると、性的な描写や挿絵こそあるもののいわゆる「前戯」段階までで終わってしまい、肝心の性交行為の描写が無いものさえある。なお、凌辱ものはこの限りではない。また、近年のネット小説の書籍化作品では性描写より『読み応えのある作品』を重視する傾向にある[3]
メディアミックス
後述

コミックやゲームとは異なり、発売元により成年指定が付けられることは基本的に無い。この点は通常の官能小説と同じである。ただし、2008年以降、新書判として発行される作品で成年向けとしてマークが付与されるものも増えている。また、書店においては非成年指定作品であっても18禁作品として扱うこともある一方、一般のライトノベルの棚に置かれていることもある。

しかし、作品の多くが表紙の見た目が一般のライトノベルと大差無く、成人指定されないことから内容がポルノであることを理解されないまま手にとられてしまう懸念があり、大手書店チェーンですら取り扱いを全く行っていない店舗もある。

アニメ・マンガ・同人誌を専門に扱う店で購入時に店舗特典をつけるなどのフェアを開催することもある。

2010年代中盤になると「小説家になろう」を始めとしたWEB小説が人気となり、そのうち「小説家になろう」グループの18禁サイト「ノクターンノベルズ」からの書籍化が増え、2015年2月にキルタイムコミュニケーション(KTC)が書籍化レーベルの「ビギニングノベルズ」の発行を開始して以来、それを機に各社が相次いで専門のレーベルを設立している[4]。これらの作品はメディアミックスを積極的に行っており、またコミカライズなどが非成人指定の漫画雑誌で連載されているなどの特徴がある。

ジュブナイルポルノと他メディア

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ジュブナイルポルノとアダルトアニメ

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ジュブナイルポルノとアダルトアニメの繋がりは古い。そもそもジュブナイルポルノというジャンル自体が、直接かつ単純に一般向けライトノベルの派生形として登場したものではなく、アダルトアニメノベライズとして出版された作品に最大の起源を持っている。

具体的には、1980年代中頃以降から1993年頃までの間、アダルトアニメ『くりいむレモン』シリーズなどのノベライズを中心に散発的に刊行された富士見書房の「富士見文庫(富士見美少女文庫)」がこのジャンルの駆け出しである[5]。この時点で既に、ファンタジーやSFに主題を求めた作品が数多く刊行され、漫画家やアニメーターによる表紙・挿絵が使用されるなど、一般的な官能小説とは大きく異なる体裁を持っていた。この富士見美少女文庫に端を発する様式が、後続各社の文庫レーベルのスタイルにも連綿と大きな影響を及ぼし、逆に富士見ファンタジア文庫角川スニーカー文庫の創刊にも繋がっている。

1990年代には、フランス書院の「ナポレオン文庫」など、成人向け漫画誌との連携により同時代のライトノベルへ近い形となったジュブナイルポルノレーベルが次々と創刊され[6]、これらを原作としたアダルトアニメが製作された時期もあった。一方でアダルトゲームを原作としたアダルトアニメが登場し、2000年頃にはこちらが販売・レンタルいずれも市場のほとんどを占めるようになったため、一時期、ジュブナイルポルノ原作のアダルトアニメ作品は廃れた。

しかし、ヒットしたアダルトゲームのアダルトアニメ化を巡る競合が激しくなり、また、プレイステーション2などのコンシューマゲーム機およびUHFアニメへの展開を目論んで、メーカーがアダルトアニメ化そのものを拒否するなど、人気アダルトゲーム原作のアダルトアニメ化は難しくなっていく。また、アダルトゲーム原作作品については視聴層からも『内容がソフト過ぎる』『Hシーンが少なすぎる』という不満が目立っていた。これらのことから、著作権使用料がゲームと比較して安価で、ゲームよりもハードな展開が多いジュブナイルポルノがアダルトアニメ化されるケースも、わずかではあるが再び見られるようになった。ただし、一般向けライトノベルのように、ジュブナイルポルノのレーベル運営と連動するメディアミックスは少なく、また、大きな影響力を持ったケースはない。

ジュブナイルポルノとアダルトゲーム

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ジュブナイルポルノではアダルトゲームノベライズ版が出版されることも多く、専門のレーベルも存在する[7]

1990年代後半以降、メディアの大容量化とビジュアルノベルの普及を背景に文章量やその質が官能小説などに比肩し、クリエイターにジャブナイルポルノの小説家や挿絵画家と変わらない能力が求められる様になったことで、主にフリーランスのクリエイターの数多くがアダルトゲーム業界からジュブナイルポルノの世界にも進出していった。これらゲーム原作のノベライズ作品はジュブナイルポルノとは区別すべきという考えもあるが、現在もこのジュブナイルポルノで活躍している作家や、表紙・挿絵を書くイラストレーターの多くは、成人向けゲームも活動範囲としている。これは主な購買層がかなり一致していることと、ゲームのノベライズの場合、作品や雰囲気に一貫性を持たせるため、ゲームのシナリオライター及びイラストレータがそのままノベライズ作品を担当したり、特に表紙・挿絵については原作ゲームに使用されたパッケージ・CGがそのまま流用されることが珍しくないためである。

なお、2010年以降はアダルトゲーム市場の衰退から、タイトル数は減少傾向にあり、2010年はオークスが「ELO NOVELS」を刊行するもわずか4ヶ月で終了し、キルタイムコミュニケーションが長年リリースしてきた「二次元ゲームノベルズ」も事実上撤退した。また、ハーヴェスト出版の「ハーヴェストノベルス」は2012年8月を最後に新規発行を停止し(晩年は特定のブランド作品に絞られていた)、2013年11月には15年以上に渡って発行されてきたパラダイムの「パラダイムノベルズ」も新規発行を取りやめるなど、現状は下火になっている。

実験的なケースだが、近年、アダルトアニメやアダルトゲームに代わる題材として、成人向け同人漫画やCG集のノベライズも行われている。

ジュブナイルポルノと他ジャンルの小説など

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雑破業ヤマグチノボル桑島由一本田透J・さいろーゆずはらとしゆき高橋徹など、ジュブナイルポルノはライトノベル新人賞を経由しなかったライトノベル作家がキャリア初期に執筆していたケースが多く見られる。

また、わかつきひかる三門鉄狼伊藤ヒロ、午後12時の男、みかづき紅月など、ライトノベルやアダルトゲームシナリオ、またはそれ以外のジャンルとの掛け持ちで執筆している作家も多く、後者ではペンネームを変えているケースも多かった。これはゾーニングでポルノと非ポルノを分けるためで、代表例は『エンドレス・ワルツ』などの純文学作品を執筆する以前に、倉田悠子の変名を用いて『くりいむレモン』『レモンエンジェル』などを執筆していた稲葉真弓が挙げられる。

しかし、90年代以降は共通のペンネームで執筆するケースも増え、こちらは『群像』、『すばる』といった大手文芸誌に作品を掲載し、純文学作家としても認知されている海猫沢めろん、ライトノベルを経て一般文芸作品を執筆するようになった清水マリコなどが挙げられる。また、そのような作家の作品がジュブナイルポルノ以外のレーベルで再出版されたケースもある。

もっとも、ジャンルの古典となった稲葉真弓を除くと、文学的要素の強い作品や文芸誌でも執筆する作家はジャンルプロパーの作家や読者から敬遠される傾向があり、『二次元ドリームマガジン』や後述の『SPA!』特集でも、そのような作品や作家への批判が行われていた。

類義語

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2000年代初頭にインターネットミームとして生まれた言葉で、2006年『SPA!』1/31号「超保存版・上級者のための[活字エロス]研究」で特集を組まれた[8][9]ことからジャンル名として使われていたが、近年はジュブナイルポルノと呼ばれることはあまりなく、以下のように呼ばれることが多い。

  • ライトポルノ
  • ライトHノベル
  • エロライトノベル
  • Hライトノベル
  • 官能ライトノベル
  • アダルトラノベ[3]

また、上の呼称の他に、それぞれ発売されているレーベルに由来すると推測される、

  • 美少女小説
  • 二次元小説

などと呼ばれていたこともある。

Amazonでは、一部のレーベルがライトアダルトノベルスとして分類されている。しかし、ライトノベル分類のみのレーベルも多い。作家の鏡裕之は、秋葉系文化の中心は美少女、すなわち思春期の男性にとっての恋と性の対象となる二次元ヒロインであり、ジュブナイルは美少女という言葉が使われる以前の古い用語であって、ジュブナイルポルノという言い方は適切ではないと批判している[10]

ジュブナイルポルノのレーベル・シリーズ

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現在も継続中のレーベル

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過去に販売していたレーベル

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脚注

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注釈

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  1. ^ 前身は2000年に創刊されたリーフ出版(雄飛)の同名レーベル「ハーヴェストノベルズ」。2001年5月はハーヴェスト出版による刊行開始時期。

出典

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  1. ^ 噂の眞相」2001年4月号116ページ参照
  2. ^ 石井ぜんじ 2022, p. 315.
  3. ^ a b アダルトラノベの雄・キルタイムコミュニケーション【編集長インタビュー】ダ・ヴィンチニュース、2017年6月29日閲覧
  4. ^ 石井ぜんじ 2022, p. 324 - 325.
  5. ^ 石井ぜんじ 2022, p. 35.
  6. ^ 石井ぜんじ 2022, p. 317 - 319.
  7. ^ 石井ぜんじ 2022, p. 327 - 328.
  8. ^ 下那伊三平のジュブナイルポルノな日記。”. 下那伊三平. 2020年5月15日閲覧。
  9. ^ 一日一歩~青橋由高の特別でない毎日~”. 青橋由高. 2020年5月15日閲覧。
  10. ^ 鏡裕之『揉ませてよオレの正義』あとがき(ぷちぱら文庫Creative、2012)
  11. ^ マサイ『伝説の俺1』一二三書房、2023年12月25日、324頁。ISBN 978-4824200839 
  12. ^ masaye7の2023年11月27日のツイート2024年5月13日閲覧。

参考文献

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  • 石井ぜんじ・太田祥暉・松浦恵介「ライトノベルの近似ジャンルについて」『ライトノベルの新潮流』(初版)スタンダーズ、2022年1月1日初版発行。ISBN 978-4866365367 

関連項目

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