みらいII
みらいII(みらいツー・ARV MiraiⅡ)は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用を予定している、現在建造中の日本の北極域研究船(砕氷船)[1]。
概要
編集北極海での観測のほか、通常海域での観測や国際的な研究プラットフォームとしての活用も見込む大型の調査船[1]。現在は2026年11月頃の竣工・引き渡しを予定している[2]。
砕氷・耐氷性能基準のポーラークラスは4(多年氷が一部混在する厚い一年氷がある海域を通年航行可能)で、厚さ1.2メートルの平坦1年氷を3ノットの船速で連続砕氷可能。無人潜水機(ROV)や自律型無人潜水機等の無人探査機器の運用、ヘリコプターの運用機能を持つ。また、主機は砕氷研究船への搭載は世界初となるLNG・重油のデュアルフューエルディーゼル発電機を採用したディーゼル・エレクトリック方式で[3][4]、環境負荷軽減と低燃費化を図る[5]。豪雨等による自然災害発生時の被災地支援対応機能も備える[1][6]。
本船はJAMSTECで長年にわたり北極観測などを行ってきた海洋地球研究船・みらいの後継船として位置づけられており、船名もみらいから引き継ぐものとなっているほか[2]、本船のドップラー・レーダーについては現在みらいに搭載されているものを移設予定である[7]。
経緯
編集みらい以外に北極域の観測を行うことができる、新たな北極域砕氷船建造の必要性については2010年代から問われてきた[8][注 1]。みらいはむつ(原子力船)をもとに改装した船であることから調査船としてはかなり大型で[10]、またむつとしての建造当時(1960年代)の同規模船と比較して元々頑丈な設計であり、みらいに改装されて以降はポーラークラス7に相当する耐氷船である[11]。みらいは通常海域の海洋・気象等の各種調査に加え、1998年からほぼ毎年北極航海を行い、そのいずれでも成果を残してきた[12]。しかし砕氷構造でないことから北極海の観測は海氷のない期間・海域に限られ、また1969年進水の船であることから船体の老朽化も進行し、後継船の建造が望まれていた。日本の大型の砕氷船には海上自衛隊が保有するしらせ(砕氷艦・2代)があるが、南極観測船として運用されているため、しらせでの北極観測は年間の運用スケジュールからして難しい[13]。
これとは別に、1987年にソビエト連邦のミハイル・ゴルバチョフ書記長が北極海航路開放を宣言して以降[14]、シップ・アンド・オーシャン財団(現・笹川平和財団海洋政策研究所)が1995年にロシアの砕氷貨物船をチャーターして北極海航路実船航海実験を行うなど[15]、日本においても海運における北極海航路利用の検討が行われてきた。氷海由来の事故リスクや砕氷船のチャーター費等の問題もあり、初期の北極海航路利用に向けた動きは鈍かった。また北極海航路を利用しても海上輸送コストの削減はそれほど期待できず、また砕氷設計により船価も高くなることなどから総合的に見て割に合わないという意見もあるものの[16]、近年の地球温暖化による海氷減少によりさらに北極海が活用可能となる見込みであることから現在各国が北極海航路や北極海の資源に注目しており[17][18]、日本も北極評議会などの北極海に関する国際ルールづくりの議論の場において、日本の存在感を高めたいという狙いがある[19][20]。
本船の建造・運用計画は主にこれら2つの背景による日本の北極政策・海洋政策の一部であり[21][22]、本船は調査船であると同時に、研究プラットフォームとして各国との国際連携・協力に資する外交カード[23][24]、北極海航路利用に先駆けた技術実証・運航実証のための実験船として、また砕氷船の造船技術や運航技術向上・習熟のための足がかりとしての性質も持つといえる[25][注 2]。建造にあたるジャパン マリンユナイテッドは、ユニバーサル造船が建造したしらせ (砕氷艦・2代)などでの実証とその後の研究を生かし[27]、本船を必要な砕氷・耐氷性能と通常海域を含む航行性能を両立する設計とする。運行事業者である商船三井は、2014年からロシアのヤマルLNGプロジェクトに参画、北極海航路の砕氷LNGタンカーの運航を行うなど、北極海航路輸送に力を入れてきた[28][29][30]。この北極海航路運航・LNG燃料取扱等のノウハウや人材を活用し[31]、本船建造期間中は建造管理および艤装員の派遣、竣工後は運行を行う[32][33]。
年表
編集- 2010年 シップ・アンド・オーシャン財団が日本北極海会議[注 3]を発足[34]。2012年3月までに「日本北極海会議報告書」と政策提言「北極海の持続可能な利用に向け日本がただちに行うべき施策」をとりまとめる[35][36]。北極海調査・研究の充実が要望されたが、この時点では砕氷艦しらせを両極域観測船とすべきとしていた。
- 2013年 シップ・アンド・オーシャン財団が国際共同研究用北極観測船に関する調査研究事業を開始[37]。翌2014年まで実施され、報告書がまとめられた[38][39]。
- 2014年5月30日 北極海航路に係る産学官連携協議会が設置される[42]。
- 2015年
- 2016年10月7日 文部科学省が北極域研究船検討会を設置[45]。翌2017年1月24日まで計3回開催された[46]。
- 2017年
- 2018年
- 2019年2月4日 北極環境研究コンソーシアムが文部科学省に対して北極域研究に関する報告と要望を提出[54]。この中で砕氷研究船が要望された[55][56]。
- 2020年
- 2021年
- 8月21日 ジャパン マリンユナイテッドが北極域研究船の建造を受注[62]。建造費約335億円[63]。
- 2022年
- 2023年
- 2024年
設計
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関連項目
編集- みらい (海洋地球研究船)
- しらせ(砕氷艦・2代)
- アラオン - 韓国の砕氷調査船
- 雪竜、雪龍2 - 中国の砕氷調査船
- アカデミク・トレシニコフ、アカデミク・フョードロフ - ロシアの砕氷北極調査船
- クロンプリンス・ホーコン - ノルウェーの砕氷調査船
- サー・デビッド・アッテンボロー (極地調査船) - イギリスの砕氷調査船
- ポーラーシュテルン - ドイツの砕氷船
- ポーラスター(砕氷船)、 ヒーリー(砕氷船) - アメリカの砕氷船
- マーサ・L・ブラック級砕氷船 - カナダの砕氷船
脚注
編集注釈
編集- ^ それ以前の1990年代には、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)が原子力船むつの研究開発により得られた知見に基づき、改良舶用炉MRXを搭載した原子力砕氷船の概念設計を行ったが、この改良型舶用原子炉は現在まで実現せず、原子力砕氷船も実現しなかった[9]。
- ^ 北極域研究船の利活用方策・費用対効果等に関する有識者検討会の報告書では、「韓国の造船会社は近年、砕氷能力を有した商船を建造し、諸外国に輸出していることから、『Araon』建造が砕氷船建造技術を高度化するきっかけになったとみられる」と分析しており、みらいII建造は受注面で遅れを取る日本の造船業振興を図る狙いがあると考えられる[26]。
- ^ 専修大学・東京大学教員、JAMSTEC、日本郵船、ウェザーニューズ、日本海事協会、シップ・アンド・オーシャン財団の各職員や役員等からなり、このほか特別顧問に日本財団会長の笹川陽平を置く。
- ^ 発起人は河村建夫、北村誠吾、高村正彦、左藤章、鈴木俊一、武見敬三、 福井照、宮沢洋一、森英介、 山本公一、上川陽子。
- ^ 日本財団、政策研究大学院大学、笹川平和財団海洋政策研究所の3団体が事務局。
- ^ 北海道大学北極域研究センター、国立極地研究所国際北極研究センター、海洋研究開発機構北極環境変動総合研究センターからなる組織。
出典
編集- ^ a b c “北極域研究船概要”. 海洋研究開発機構. 2024年3月3日閲覧。
- ^ a b “北極域研究船の船名決定について”. 海洋研究開発機構. 2024年2月26日閲覧。
- ^ 赤根英介 (2022). “2022A-OS2-1 北極域研究船の概要と氷工学への貢献”. 日本船舶海洋工学会講演会論文集 35 .
- ^ “北極域研究船「みらいⅡ」の概要と特徴”. 東京大学. 2024年5月6日閲覧。
- ^ a b “砕氷機能を有する北極域研究船の新規建造決定”. 北極域研究加速プロジェクト. 2024年2月26日閲覧。
- ^ “【独自】北極域研究船、災害時には「動く病院」に…26年度完成へ”. 読売新聞. 2024年3月3日閲覧。
- ^ “【特集】世界最大級の研究船「みらい」運用終了へ 日本初の原子力船として建造、数奇な航跡を辿る”. 青森放送. 2024年3月23日閲覧。
- ^ “Ocean Newsletter 第283号(2012.05.20発行) 新たな北極域砕氷船建造の必要性”. 笹川平和財団. 2024年3月3日閲覧。
- ^ “改良舶用炉MRXの工学設計 Engineering design of advanced marine reactor MRX”. 日本原子力研究開発機構. 2024年3月5日閲覧。
- ^ 『船の科学 1997年11月号』船舶技術協会、1997年11月10日、43頁。
- ^ “北極域研究船の建造”. 文部科学省. 2024年3月3日閲覧。
- ^ “海洋地球研究船「みらい」”. 海洋研究開発機構. 2024年3月3日閲覧。
- ^ “北極域研究船検討会(第2回) 議事録”. 文部科学省. 2024年3月3日閲覧。
- ^ “Ocean Newsletter 第177号(2007.12.20発行) 北極海航路時代到来か”. 笹川平和財団. 2024年3月3日閲覧。
- ^ 『北極海航路 東アジアとヨーロッパを結ぶ最短の海の道』シップ・アンド・オーシャン財団、2000年3月、135-146頁 。
- ^ “「北極海航路」の研究投資は予算の無駄遣いだ コストも安定性も多様性も期待できない”. 東洋経済. 2024年3月3日閲覧。
- ^ “地球を回して解説 北極海航路で変わる世界の大動脈”. 日経新聞. 2024年3月3日閲覧。
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- ^ a b “北極海航路参画へ国家プロジェクト 初の観測船32年にも就航 少ない海賊リスク・距離短縮”. 産経新聞. 2024年2月27日閲覧。
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- ^ “新たなみらいが見据える未来 初の北極域研究船で巻き返し―逆風乗り越え、建造決定・第2部「蒼い北極」(3)・〔66°33′N 北極が教えるみらい〕”. 時事通信社. 2024年10月2日閲覧。
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- ^ “「北極域研究船の建造状況 Ⅱ」”. 海洋研究開発機構. 2024年2月26日閲覧。
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- ^ “海洋研究開発機構 報告会「JAMSTEC2024」”. YouTube. 海洋研究開発機構. 2024年10月8日閲覧。
- ^ “北極域研究船の船名決定について”. 海洋研究開発機構. 2024年2月26日閲覧。
- ^ “北極域研究船「みらいⅡ」、母港は関根浜に 26年11月完成目指す”. デーリー東北. 2024年6月30日閲覧。
外部リンク
編集- 北極域研究船プロジェクト - 海洋研究開発機構