『器楽的幻覚』(きがくてきげんかく)は、梶井基次郎の短編小説。名ピアニストの奏でる演奏曲の音と、鍵盤を弾く演奏者の動作との遊離の幻覚体験を綴った作品。聴覚と視覚の分離の錯覚により孤高の幻想状態に導かれ、人間存在の不条理性に思い至る過程が魅惑的な趣で精緻に描かれている。執筆の約2年前に連日聴きに行った(Henri Gil-Marchex)の来日ピアノ演奏会の体験を題材にした短編で、執筆当時に伊豆湯ヶ島で見た浄瑠璃義太夫の会での体感が創作契機となっている作品である。