日本の地方自治体では、長年にわたり独自の情報システムが開発・運用されてきました。しかし、各自治体が異なるシステムを利用することで、コストの増加や業務の非効率化が課題となっていました。

こうした状況を改善するため、政府は2021年に「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」を施行。これにより、すべての自治体は2026年3月末までに、住民基本台帳や税務などの基幹業務を標準化されたシステムへ移行することが求められています。

多くの自治体が対応に試行錯誤する中、兵庫県洲本市様はアイレットのサポートを活用し、デジタル庁が推進するガバメントクラウドへの移行をいち早く実現。自治体 DX の先行モデルとして注目されています。

今回は、洲本市 企画情報部 DX推進課の多畑 祐輝氏、アイレット Global Solutions事業部の山口 明彦、佐々木 崇雄に、プロジェクトの背景や課題、取組の成果についてインタビューを行ないました。

ガバメントクラウド移行に必要なノウハウ不足とコストが課題に

ー本日はよろしくお願いいたします。まず、洲本市様がガバメントクラウド移行や DX 推進に取り組む上での基本方針やビジョンについて教えてください。

多畑様:
洲本市では、2023年3月にパブリックコメントを経て「DX 推進計画」を策定しました。この計画は、国の DX 推進方針をベースにしつつ、洲本市として重点的に取り組むべき課題を肉付けしたものになっています。

ー計画を策定する際、特に意識された点はありますか?

多畑様:
国の方針を踏襲しつつも、DX は新たな取り組みが多いため、単に現実的な目標だけにとどまらず、将来の可能性も含めた“理想の未来”を描くことを意識しています。

ーなぜ洲本市様はいち早くガバメントクラウド移行に着手されたのでしょうか?

多畑様:
洲本市がガバメントクラウド移行を早期に進めた背景には、「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用して窓口 DX システムを構築する計画がありました。本プロジェクトでは、ガバメントクラウドの活用を前提としていたため、結果として移行を迅速に進めることにつながったのではないかと思います。

ーガバメントクラウド移行にあたり、どのような課題がありましたか?

多畑様:
一番の課題は、クラウド移行や接続に関する知見・ノウハウがなかったことです。加えて、デジタル庁が提供する「ガバメントクラウド接続サービス」はコストが高額で、私たちのような規模の自治体にとっては大きな懸念点となっていました。各方面に問い合わせをしても具体的な解決策は得られず、最終的に KDDI さんとアイレットさんに相談することになりました。

ー実際にアイレットと取り組もうと決めた理由について教えてください。

多畑様:
ガバメントクラウドの運用管理では、回線事業者やネットワーク運用管理者、ASP 事業者など、多くの関係者が関わります。そのため、問い合わせ対応や障害発生時の対応に時間がかかることを懸念していました。そこで、KDDI さんに回線を調達・管理していただき、技術力の高いアイレットさんにガバメントクラウド移行のサポートを担っていただくことで、できるだけ窓口を減らし、スムーズに対応できる環境を整えたいと考えたことが、アイレットさんと取り組む決め手になりました。

ガイドライン未整備の中、協力関係を築きながら最適解を導き出す

ー具体的にアイレットと取り組んだプロジェクト内容について教えてください。

多畑様:
インフラ環境の設計やネットワーク構築、運用管理を一気通貫でサポートいただきながら実施しました。ガバメントクラウド移行の部分に関しては、プロジェクト開始から約2ヶ月で移行が完了し、非常にスピーディに開発が進められたと感じています。

ープロジェクトを進める上で、大変だったことは何でしょうか?

多畑様:
ガバメントクラウドに関するガイドラインがまだ確立されていなかったので、何をするにも手探りで始めなければいけないところが大変でした。

佐々木:
洲本市様は IT リテラシーが非常に高く、全国の自治体に先駆けてガバメントクラウド移行を積極的に検討されていました。着手したのがあまりにも早かったので我々としても手探りの状態だったのですが、多畑様と一緒に協議しながらシステム要件を固めていくことで、結果的にスピーディにガバメントクラウド移行を実現できたと思います。

多畑様:
そうですね。技術的なサポートはもちろんのこと、ワンストップで対応していただいたことで契約後の調整が最小限で済んだことが、短期間で導入できた理由の一つだと感じています。

ー技術力に期待された部分について、実際にどのように感じていますか?

多畑様:
コストパフォーマンスと災害リスク対策の観点から、主回線と副回線の両方をアクティブに活用する構成を相談させていただき、無事に実現することができました。全国的に見てもこのような運用を行なっている自治体は少なく、私自身もこだわりを持っていた部分です。また、基幹系のみならず LGWAN 系にも接続できるような構成にしたいと考えていましたが、そのようなオーダーにも応えていただいたことは非常に満足しています。

ーアイレットとして注力したポイントを教えてください。

佐々木:
初めてガバメントクラウドに参画する洲本市様との取り組みは、私たちにとっても非常にチャレンジングな経験でした。多畑様をはじめとする職員の方々は技術的な分野に詳しい方が多いため、皆さまのご要望にしっかり応えられるよう試行錯誤しながら進めていたことを覚えています。また、移行完了後も ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)の追加や機能拡充など、継続的な改善に取り組むことができているので、とてもやりがいのあるプロジェクトだと感じています。

山口:
プロジェクト開始前に訪問した際、「ガバメントクラウドで試したいことがあれば、ぜひ一緒にチャレンジしましょう」と言っていただいたことがありました。このような柔軟で前向きな姿勢を示してくださったことは、我々としては非常に心強かったです。また、過去に阪神淡路大震災を経験されている淡路島という地理的な特性上、主回線・副回線が通信断になる可能性も考慮し KDDI の持つスターリンクを検討されるなど、非常に意識が高く、私たちも身が引き締まる思いで対応させていただきました。

クラウド環境は「導入して終わり」ではない。
リソースの可視化やコスト最適化など、さらなる進化を目指す

ー今回のガバメントクラウド移行によって、どのような効果が得られましたか?

多畑様:
基本的には、標準仕様書に沿ったシステムへの切り替えを進めたので、既存のシステムに合ったものは継続しつつ、新たに追加された機能によって利便性が向上している部分もあります。ただし、既存システムにあって新しいシステムに含まれなかった機能もあり、その点については業務担当と協力しながら BPR(業務改革)に取り組んでいます。結果的にガバメントクラウドへの移行が、事務の運用を標準化する大きなきっかけになったと感じています。また、業務担当の職員としても、帳票や画面構成が大きく変わらなかったため、違和感なく移行できたと思います。

ー今後のガバメントクラウド活用について、どのように進めていきたいとお考えですか?

多畑様:
現在、ASP の増加に伴い、ネットワークの接続などの課題に対応しています。ただ、クラウド環境は構築して終わりではなく、継続的な改善が重要になります。たとえば、AWS のリコメンドサービスを活用し、リソース使用の最適化を進めたいと考えています。各 ASP のリソース使用率をダッシュボード上で可視化し、自治体全体でコスト削減や効率化が一目で分かる仕組みを整えられると良いですね。

ーアイレットとしては、どのようなサポートを考えていますか?

山口:
アイレットの運用保守は、インシデント発生時など受け身の対応にとどまらず、能動的に最適化や改善策を提案する「プロアクティブ運用」を目指しています。多畑様がおっしゃったように、クラウド基盤は DX のスタートラインです。そこから、SaaS 系サービスとの連携や、新たな活用方法を模索することで、より便利な環境に進化していくことができると考えています。また、自治体としての予算をより有効に活用していただけるように、コスト最適化の提案にも積極的に取り組んでいきます。

ー最後に、今後アイレットに期待することを教えてください。

多畑様:
技術的に非常に信頼できるパートナーだと感じています。これまでの実績はもちろん、詳細なレポートの提供など、きめ細かなサポートを受けており、大変助かっています。今後も ASP が増える中での運用支援や、継続的な改善の部分でもご協力いただきたいと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。