羽目を外す・羽を伸ばすの表現・描写

......に神経病だとまで断言したくらいである。ところが主人の自信はえらいもので、おれが神経病じゃない、世の中の奴が神経病だと頑張（がんば）っている。近辺のものが主人を犬々と呼ぶと、主人は公平を維持するため必要だとか号して彼等を豚々（ぶたぶた）と呼ぶ。実際主人はどこまでも公平を維持するつもりらしい。困ったものだ。こう云う男だからこんな奇問を細君に対（むか）って呈出するのも、主人に取っては朝食前（あさめしまえ）の小事件かも知れないが、......

......道のはたの大きな鉄唖鈴（てつあれい）を子供達が靴で蹴っている。 　広場の中央と、遥か離れた町の片側とに出来ている音楽隊の屋台では却ってじゃん／＼激しい曲を吹奏し出した。其の前で踊っている連中も雨を結局よい刺戟にして空を仰いで馬鹿笑いしたり、ひょうきんに首を縮めたりして調子づいて揉み合っている。傘をさして落着いて踊っている一組に、通りかかりの人がまばらに拍手を送る。 　電車の軋（きし）る音、乱れ足で行き違う群集の影。たそがれの気を帯びて黒い一と塊りになりかけてい......

......がした。「やっぱりちょっとこげた。」　乙彦は笑い、そして言った。「このところ人と話してないせいもあるかな。」「火のせいかしら。」「この風のせいかもしれないね。」「海を前にすると人は心を開いちゃうっていうしね。」「どんなくだらないことでもいいことのようだよな。」「何をしゃべっても波が遠くにさらっていくねぇ。」「これが解放感ってやつだよ。」「そうよ、きっと。ワインぬるいけどおいしい。」「クーラーに入れとくか。」「１本入ってる。」「来てよかった。楽しいし。ありがたいよ。」「うん、私も助かったわ。こう......