デートの表現・描写

......たはずなのに。　歩道橋からは、さっきまでいた六本木のビル群がまっすぐに見えた。無数の窓が夕日を反射して金色に輝いている。無言で歩く先輩の背中に、俺は目を戻す。　ぴかぴかの髪も、おろしたてみたいに見える帽子も服も、すくなくとも今日だけは、俺に見せるためのものだったのかもしれない。そう考えると胸が詰まった。急に酸素が薄くなったみたいに、息が苦しくなる。海面に必死に手を伸ばすみたいにして、俺はなんとか言葉を探す。「あの、先輩」　奥寺先輩は振......

......京に向かう車の中でぐーぐー寝ているうちに百年の愛も覚めてはやくお風呂に入って寝たい、と思うようになるのが常だ。だから、帰国の日も迎えにいかなかった。　それでも、自分の恋人が同じ朝と夜、同じ時間の流れの中に同時にいると思うだけで、いつもの夕方も甘く見える。電話をしても、のびのびと話せる。　夜が静かで長く感じられる。　ふだん淋しいと思いたくなくて無理して麻痺させていた感覚が、ひとつひとつ開いていくのが目に見えるようだ。　季節の陽を受けた花のように、静かに、確実に。　それで私は彼の帰国の翌日、ホテルに会いにいった。　昔、子供の頃、父が海外出張して帰ってくるのが好きだった。外国から帰ってきた人はみんなどこか張り詰めていて、い......

......から、あなたのケースのようなことにならない……。そんなふうに考え、目の前にいる友達が、ひどく通俗的なことで苦しんでいるのを内心、本気で気の毒に思ったりもした。　次に野呂と会う時は、どんな服を着て行こうか、と考え、小さなクローゼットを開けて眺めている時の幸福感は、ほぼ絶頂に近いものだった。自由にできるお金が少なかったので、新しい服はなかなか買えなかったが、それでも『ユリイカ』のバイト代をやりくりして、セール商品の、とびきりセンスのいい服を見つけ出......

......の喉を滑って行く。何ごともなかったかのように、スムーズ。人生が映画を作るということをこんな瞬間にサユリは感じるのだった。　シンイチの感覚はとても洗練されていた。彼は会うたびにサユリを違う店に連れて行った。そして、その店はどれも美しく磨かれた宝石のような場所だった。客たちはその雰囲気に酔い酒にも酔っていた。けれど、サユリが客の間を腰から下だけを時計の振り子のように動かす美しい姿勢で歩いて行くと、彼らは店の内装の粋な感覚など......