本能的恐怖が心を襲ってきたが、戸田はしばらく、我慢していた。すると小波でも引くようにその恐怖は消え、自分でもふしぎなほど落ち着いてくる。

ニコチンやヤニなど、身体に有害なツケがたまっていくのは知っている。でも最終的にどれだけ莫大なツケを払わされるとしても、一服のその瞬間には、煙草は絶対に裏切らない。

炭酸の抜けたコーラのように落ち着く

傾きかかった気持ちにバランスが取れてくるのを感じる

人々が寝しずまってみると、憤怒（ふんぬ）の情はいつか消え果てて、いいようのない寂寞（せきばく）がそのあとに残った。

溜飲が下がる

一陣の風がすっと通り抜けた感じ

夕立の後のような清々しさ

私は爽快で、ひどく晴ればれとしていた。透明な、自分がからっぽになったような澄んだ気分のまま、私は、まるで一箇の荷物のようにバスの振動に揺られていた。

さわやかな風に吹かれているような感じ

なにか挑むような 嗤わら いを頰に作った。

芽がありそう

ほくそ笑む

胸の底から吐き出すように 溜息 を 洩らした。

四十一年間にわたって尾畑理恵が閉じ込められてきた闇から、彼女を明るい世界に解き放つことはできた