ある意味“渦中”のジョン・コクランが9/24に議会証言をした、というので、すわ、昨日紹介したコランダーへの反論か、と思ったら、さにあらず、金融危機に関する話だった(相手も下院金融サービス委員会)。
ただ、手頃な長さなので、以下に内容をざっと紹介してみる。
概観
- 我々は、より大きなリスクを取り、より大きな破綻と救済を招くというサイクルの中にいる。しかし、このサイクルをこれ以上継続することはできない。というのは
- 政府の財政が厳しくなってきている。
- 金融システムがモラルハザードのために脆くなっている。金融機関は政府が潰せないのを見越してますます大型化し、ますます金融システムを脆弱にしている。
- 金融機関が、利害関係者に損失をもたらしても金融システムに損害を与えない形で潰れることができるように、ウォール街のルールを書き直さなくてはならない。
政策
- 政策については2つの相異なる提案がある。
- 大手の総合金融機関は現状通り存続が許され、潰れないという暗黙もしくは明示的な保証を得る。ただし、資本規制と監督規制を強化することによりリスクを抑制し、破綻の芽を事前に摘む。
- まず、破綻が許されず保証されねばならない最小限のビジネスというものを明確化する。そして、残りのビジネスについては救済しないことを宣言する。それらのビジネスの破綻については、民間が自分で備えなくてはならない。彼らは、取引相手が破綻しないように、監視や規律付けを行なうことになる。また、規制当局者が懸念する事態が起きそうな点については、可能な限り破産法の改正を行なう。
- 強力な当局の存在は、事後の後片付けには役立つ。しかし、そうした存在そのものがシステムを脆弱にしてしまう。
- 大きすぎて潰せないものは、そもそも大きすぎて存在できないようにしなくてはならない*1。
破綻処理権限(Resolution authority)
- 噂の「破綻処理権限」*2についても一言いっておくか。その権限においては、対象企業を実際に破産させて裁判所に持ち込むことなく、株主、債権者に損失を負わせ、債権者は株主に転じてもらう。しかし
- そうした損失がまさに危機をもたらすので、実際に当局がその権限を行使できるかは疑問。
- もし当局が債権者に厳しいことが予め分かっていたら、彼らは、より短期の債権、いざと言うときにより取り付けしやすい債権を選好するようになる。そうすると金融システムはより不安定になる。
- FDICは「破綻処理権限」にとって良いモデル。FDICと同様、「破綻処理権限」は、その権限のみならず限界も予め明らかにしておくべき。具体的には:
- もし銀行持ち株会社しか対象にしないと決めたら、投資銀行、ヘッジファンド、保険会社、自動車会社は決して救済の対象にしてはならない。それはFDICが絶対に銀行しか対象にしないのと同様である。
- 預金保険の対象になると、ビジネスにも制約が生じる。FDICの対象銀行は、内部にヘッジ・ファンド機能を持ってはならない。同様に、「破綻処理権限」の対象となり、いざと言うときに政府の資源を使用することになる金融機関は、金融システムに関わるような活動について厳しく制限されなくてはならない。
- 預金保険とFDICによる処理は、明確に定義されたシステミックな問題に対応することになっている。しかし、現在政権が提案している「破綻処理権限」では、発動の法的な側面はしっかりしているものの、発動根拠は曖昧。財務長官と大統領が、「その銀行持ち株会社の破綻は米国の金融の安定や経済の状況に深刻な事態をもたらす」という声明を出すだけで発動できてしまう。
破産処理の改善
- 規制当局者は破産の金融システムへの影響を恐れるが、その正体を突き詰めていくと、意外に簡単に解決できる技術的な問題であることが多い。たとえば:
- 破産によって信用市場にもたらされる損失は、株式市場で金融システムが日々吸収している損失に比べれば小さなもの。いずれの場合も、正しい答えはシステム的に重要な活動の流れを守ることであり、見かけの支払い能力を保つために敗者を救済することではない。
- リーマン破綻があれほどの大問題になったのも、技術的ではなく心理的な問題だったというのが正解。
結論
- 昨秋の金融システムの問題は、短期債市場が冷え込んだことであった。我々はこの問題に集中しなくてはならない。金融機関は一つたりとも潰さないという漠然とした保証は回答にならない。