老化は病気だった! 諸悪の根源は「酸化ストレス」 その正体は
第1回 活性酸素を消す力を高めれば、老化や病気を遠ざけられる
田中美香=医療ジャーナリスト
金属が酸素と反応して茶色くサビることを「酸化」と呼ぶ。同様の現象は体内でも起こり、細胞が傷ついて機能が衰え、老化に関連するあらゆる病気の火種となる。そのため、酸化の元凶である「活性酸素」が増え過ぎないように制御することが重要だ。本特集では、酸化ストレスの研究者、同志社大学大学院生命医科学研究科教授の市川寛氏への取材を基に、活性酸素とうまく付き合い、老化を遠ざけるコツを解説していく。
『体がサビない食事と生活』 特集の内容
- 第1回老化は病気だった! 諸悪の根源は「酸化ストレス」 その正体は←今回
- 第2回体のサビを防ぐ栄養素と食事とは お酒は酸化が進む?
- 第3回体のサビを増やす運動、減らす運動 森林浴や温泉も老化予防に
老化は病気だった!
年を取ることで進む「加齢」という自然現象には誰も逆らうことができない。だが、加齢に伴って体の機能が低下する「老化」にあらがうことはできるのではないか――。こうした考えから、近年、「老化は病気」として扱われるようになってきた。世界保健機関(WHO)でも、「加齢関連」という病気の枠組みが作られ、老化を病気とする考えはグローバルスタンダードとなっている(*1)。
老化が病気の一種なら、先手で予防したり、治療したりすることも可能となる。これは朗報ではないだろうか。
老化に伴うあらゆる病気の上流に、「酸化ストレス」がある
老化は、食生活の乱れや運動不足など、さまざまな要因が絡み合って進行する。本特集でフォーカスするのは、その中でも特に重要な「酸化」という現象だ。
酸化はいわゆる「サビ」のことで、酸素が物質と結合する化学反応を指す。金属や、古くなった野菜・果物が茶色く変色するのと同じように、酸化は私たちの体の中でも起こる。例えば、紫外線を浴び続けた皮膚の細胞がダメージを受け、シミやシワができるのも酸化の仕業だ。このように、酸化によって細胞が傷つき、有害な作用が生じることを「酸化ストレス」と呼ぶ。酸化ストレスは、細胞や組織の機能を低下させ、老化を進行させる。
実は、酸化ストレスは、皮膚のような見た目の変化だけでなく、老化に関連するあらゆる病気とも深く関わっている。酸化ストレスに詳しい、同志社大学大学院生命医科学研究科教授の市川寛氏は、「認知症をはじめ、がんやサルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少、詳しくは後述)、生活習慣病など、老化に伴うすべての病気の上流に酸化ストレスがあると言っても過言ではありません」と話す。
老化に伴う多くの病気を防ぐため、酸化ストレスから体を守ることが不可欠だ。
体をサビつかせる犯人は「活性酸素」
酸素を使って生きる以上、私たちは酸化と一生付き合っていかなければならない。生きていくために必要なエネルギーは酸素を材料にして作られていて、その過程で発生する「活性酸素」という物質が酸化のもとになるからだ。活性酸素には他の物質を酸化させる強い力があるため、過剰になると細胞にダメージを与え、さまざまな病気の引き金となってしまう。
ただし幸いなことに、人間には活性酸素を除去する力、「抗酸化能」も備わっている。活性酸素は生命維持に必須の物質でもあるため(詳しくは後述)、極端に減ることなく、なおかつ増え過ぎないように制御しなければならない。抗酸化能を高めてこのバランスを維持できれば、細胞を活性酸素から守り、老化に伴う病気を予防・改善することにつながる(図1)。
本特集では、活性酸素の特性を良い面・悪い面の両方から解説しつつ、抗酸化対策のポイントをまとめていく。食事や運動など、日常生活の工夫に加えて、川のせせらぎなどの自然の音が抗酸化能に及ぼす意外な効果についても、市川氏に解説してもらおう。