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人間の脳細胞を使った「世界初の商用バイオコンピューター」が登場


オーストラリアのスタートアップであるCortical Labsが、世界初の商用バイオコンピューターとなるCL1を発表しました。培養した人の脳神経細胞をシリコンチップにつなぐことで、AIをはじめとするニューラルネットワークによる計算を行うことが期待されています。

Cortical - CL1
https://corticallabs.com/cl1.html

World's first "Synthetic Biological Intelligence" runs on living human cells
https://newatlas.com/brain/cortical-bioengineered-intelligence/

Melbourne start-up launches 'biological computer' made of human brain cells - ABC News
https://www.abc.net.au/news/science/2025-03-05/cortical-labs-neuron-brain-chip/104996484

Cortical Labsが取り組んでいるのは「Minimal Viable Brain(最小実行可能脳)」の開発です。これは、人の神経細胞を最小限使ってバイオエンジニアリングに応用するという考え方です。


Cortical Labsは2022年に人の神経細胞を使ってビデオゲーム「Pong」をプレイする「DishBrain」を開発したことで注目を集めました。

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CL1は商用としては世界初となる、人間の脳神経細胞を使用した合成生物学的知能(Synthetic Biological Intelligence、SBI)です。血液サンプルから作られた誘導多能性幹細胞(iPS細胞)から培養された神経細胞をシリコンチップ上に配置し、ニューラルネットワークを形成しているのが特徴で、外部コンピューターなしで動作する初めての生体ニューロンシステムとなります。

本体は靴箱よりやや大きい程度の箱形。1つのラックに30基単位でサーバーユニットを形成でき、消費電力はラック全体でも約850〜1000Wに抑えられるとのこと。価格は1ユニット当たり3万5000ドル(約520万円)からとなっています。


また、リモートでアクセス可能なWaaS(Wetware-as-a-Service)プラットフォームによるクラウド接続も可能で、2025年末までに4つのサーバースタックを商用クラウドシステムで稼働させる計画となっています。これにより、実際に物理的なデバイスを所有せずとも、クラウド経由で生物学的ニューラルネットワークにアクセスすることが可能になります。

フロントパネルには小型ディスプレイがあり、システムステータスや測定値を表示します。


ケースには透明なカバーがあり、内部のシステムを見ることができます。中にある「生命維持システム」は廃棄物のろ過や培地の貯蔵、環境を維持するためのポンプや温度制御装置で構成されています。


CL1のメインとなる神経細胞プラットフォームでは、培養された数十万個の神経細胞が金属とガラスで構成される電極の上に配置され、合計59基の電極を基盤にネットワークを形成します。Cortical Labsによれば、ニューロンネットワークの規模は「アリとゴキブリの脳の間」とのこと。


CL1はランダムあるいはパターン化された情報を、電極を通じて神経細胞に提供します。不正解の反応にはランダムな電気信号が、正解の反応にはパターン化された電気信号が送られることで、神経細胞は正しい応答を学習するという仕組みです。


神経細胞はエネルギー効率のいい、予測可能な結果を生み出すようにネットワークを適用させ、同時にランダムで無秩序な電気信号を生じるような行動は避けるようになります。


CL1が従来のAIシステムと大きく異なる点はそのエネルギー効率。また、従来のAIシステムは大量のデータから学習する必要がありますが、CL1のようなバイオコンピューティングシステムは少量のデータから複雑な判断を下す能力を持っているとのこと。これは、人やマウス、猫、鳥などが少量のデータから推論できる能力と類似しているとCortical Labsは説明しています。


Cortical Labsの最高科学責任者であるブレット・ケーガン博士は「我々はCL1を実際には動物や人間とは異なる一種の生命形態として見ており、知能への機械的・工学的アプローチだと考えています。知能の基盤である神経細胞を新しい方法で構築しているのです」とコメント。また、「小さな人間や猫、マウスを皿の上で作る必要はないのです。私たちは離散的な神経細胞システムを構築し、目的に応じて使用することができます。意識のような特性を持つことはなく、それをテストして評価することができ、そのようなリスクがあれば避けることができます」と述べています。

Cortical Labsのチョン・ホンウェンCEOは「私たちの長期的なミッションは、Minimal Viable Brainを民主化し、専門的なハードウェアやソフトウェアなしで研究者がアクセスできるようにすることでした。CL1はそのミッションの実現です。世界中の何百万人もの研究者やイノベーターが、CL1の持つ可能性で現実に衝撃を与えることができるでしょう」と語りました。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1i_yk

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